三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第弐拾捌話「厳島の戦い後の姿」

「……これでいいんですね?」

「ええ、これで大内家は救われますよ」

 

 大内家、高嶺城にいた大内義長は目の前の女性に怯えを含んだ表情をしながら問いかけた。それに対する女性は温和な笑みを浮かべながら答えているが、周りの雰囲気を見ればそれがいかにおかしい事かが分かる。なぜなら周囲に控える義長の家臣たちも女性に対して恐怖心を抱き、化け物を見るような目で見ているのだから。

 大内義長は北九州に勢力を持つ大友宗麟の弟で、大内家との、正確には大内家を事実上乗っ取った陶家によって大内家の当主になる事を提案されて大内家に来たという経緯を持っていた。しかし、義長が大内家に来た際に見た光景に思わず絶句してしまった。

 

『藤孝! 藤孝藤孝藤孝藤孝藤孝藤孝藤孝!!!!』

『ああぁん。晴賢様。そのように慌てないでください。私は逃げたりませんよ』

 

 まるで獣になってしまったのではないかと思わせる理性を失った様子の陶晴賢とそれに押し倒されつつも主導権は一切渡さない様子の女性の姿だったからだ。その女性はまさに妖艶という言葉がぴったりな人物であり、女性の武器を正しく、それでいて容赦なく使う人物に義長は思えた。それは身近な女性である姉の宗麟とはまるで真逆と言える人物であり、吐き気がこみ上げてくるほど義長には受け入れられない女性だった。

 それゆえに、義長は当主になったはずなのに実権は与えられず、それどころか城からも一切出してもらえないありさまだった。既に場内、というより大内家は彼女の思うがままの状態になっていたのだ。かろうじて女性の毒牙にかかっていなかった人物によってそれが僅か一年のうちに起こったことだと聞かされた時には驚きをあらわにしていた。

 そして、陶晴賢が厳島の戦いで討ち死にすると義長を使って陶家一党を追放し、義長に権力を集中させた。……表向きは。実際は裏で大内家を牛耳る女性が掌握していたのだ。陶晴賢は用済みとなったために殺されたのだ。

 

「では義長さま。くれぐれも変な気は起こさないでくださいね? ()()()()()()()()()いちいち交換するのは面倒なのですから」

「っ! わかって、いる……」

 

 言外にいう事を聞かなければ殺すと言われ、義長は震え上がる。まだ10歳にも満たない彼では目の前の女性の気に対抗することなどできなかった。しかし、その態度は女性をを満足させるには十分だったらしく、それ以上彼に圧力をかける事はなかった。

 

「ふふ。そうです。おとなしくしている限り貴方様を害することはありません。長生きしたいのであれば余計な事をしないように」

「……一つだけ、よろしいでしょうか?」

「ええ。いいですよ」

「あなたは大内家を乗っ取り、何がしたいのですか? ()()()()()()()()()()()()()()()殿」

「……簡単な話ですよ。私は取り戻してあげたいのです。彼女たちが夢見る足利家の復興を。そのために西()()()()()()()()()のが私の役目。そして選ばれたのが大内家と()()()というわけですよ」

「……そう、ですか」

 

 かつては足利家の要請に応じ、畿内に出兵した大内家だが今はそんな力など残されていない。しかし、自分たちと双璧を為す尼子家と協力するのなら? 十分に可能だ。そして、両家の和解をさせるために毛利家は犠牲になったのだろうと義長は予測した。同時に、そんな事を考えても仕方ないというあきらめを感じながら。

 

「尼子家には私の可愛い部下たちが入り込んでいます。既に新宮党を始め尼子一門衆は篭絡しています。いずれ尼子家の掌握は終わり、その時には大内家と一緒に京に出兵してもらいます。そのころには()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……足利家はとても恐ろしい幕臣をそろえていたのですね」

「ふふ。今更気づいたのですか?」

 

 義長はあまりにも広範囲で活動する幕臣たちの様子に全身が冷や水につかるような陥り、思わずそう言ったがそれに対し、女性、一色藤孝は温和な笑みをやめて妖艶な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「隆景! しっかりするけぇ!」

「あ、姉じゃ……」

 

 毛利家を一代で大きくした元就の娘である毛利両川、吉川元春と小早川隆景は厳島の戦いを前に協力関係を築き上げた村上水軍とともに瀬戸内海を航行していた。村上水軍以外に彼女たちについてきた兵はいない。しかし、それは見捨てられたからではない。吉田郡山城にて囮も兼ねて籠城する隆元のもとに集っているからだ。彼女たちは着の身着のままの状態で安芸国から脱出したのだ。

 厳島の戦いにて勝てるはずだった毛利家は陶晴賢の異常な粘りを前に持ち直した彼らの逆襲を受け、元就は討ち死に。毛利家は有力家臣の多くを失い大敗を喫する事になったのだ。

 更に、尼子家による襲撃も合わさり、毛利家は領土の防衛すらままならない状況になった。結果、毛利家は滅びると思った隆元は毛利家を絶やさないために毛利両川を逃がすに至ったのだ。本来であれば隆元の娘である輝元も一緒に逃げるはずであった。しかし、逃げる際に落ち武者狩りの手によって殺されていた。それも隆景の目の前で。

 村上水軍を味方に引き入れる際に隆元という男を見直した彼女にとってその娘を目の前で殺されるのは発狂するには十分すぎる衝撃だった。もし、元春がいなければ今頃隆景も同様に殺されていただろう。

 

「隆景! 輝元は残念じゃがここでお前までいなくなったら毛利家はどうなるけぇ!」

「で、でも……」

「吉川の嬢ちゃんのいうとおりだ。ここまで来た以上腹をくくるしかないぞ」

 

 元春の言葉に村上水軍の棟梁たる村上武吉も同意する。彼女たちのほかにもいた毛利家一門はそのすべてが厳島の戦いでか尼子の侵攻で死んでいる。毛利家は吉川家と小早川家の家紋を継いだ二人以外に残されていないのだ。そこへ、隆景さえ失う結果となれば毛利家の未来は更に暗闇に閉ざされる事となるだろう。

 

「……すまない。でも、私は……」

「隆景……。わかった! なら今は落ち込んでいてもいいけぇ! 自分が隆景の分まで頑張るけぇ!」

「それは分かるが、吉川の嬢ちゃんよ。これからどうするつもりなんだ? 俺としても匿ってやりたいがいずれ俺の縄張りにも尼子や大内の連中がやってくるだろうし長居はさせてやれねぇぜ?」

「そんなことは百も承知じゃけぇ! だから自分たちはもっと遠く離れた場所に行く!」

「離れた場所? そりゃ一体どこだ?」

 

 武吉の言葉に元春は勝気な笑みを浮かべて言った。

 

「今最も日ノ本を騒がせている場所。天下を収める三好家じゃ!」

 

 

 

 

 種は芽吹き、周囲から栄養を奪い取る。そして、それから逃れたたった二つの土は、大輪の花を咲かせる巨大な木にたどり着く。

 




広島弁ってこんな感じでいいのだろうか……
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