三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第参話「十河重存」

 父が死んだ。それも本来なら死ぬはずのない両細川の乱にて。歴史が押し固められるようにいくつかの流れが統合されている為にあり得ないわけではなかったがまさかこれほど早く死ぬとは思っていなかった。

 

「……」

「熊王丸さま……」

「もんだいない。いずれはとおるみちだったのだ。それがよそうがいにもはやくおとずれただけだ」

 

 一存の妻はいない。俺を産んだ際に死んだという。つまり、俺は5歳にして父と母を失う事となったのだ。これが現代であれば施設に送られていただろう。現代の親戚は余程の人物でもない限り育てようとは思わない。せいぜいがたらいまわしにされておしまいだ。

 だが、この戦国の世は違う。俺は急遽元服を余儀なくされ、十河熊王丸から十河重存(しげまさ)となった。ちなみに、元服とは現代でいう成人を迎えることだ。大体20歳までに行われるものでここで幼名を捨てて新たな名を持つことになる。つまり、今後俺の名前は重存という事になったわけだ。早く呼ばれる事になれないといけないな。

 

「くm……、重存様、我ら家臣一同貴方様に忠誠を誓いまする」

「うむ」

 

 元服が終われば十河家の家臣団が頭を下げてくる。もともと俺は一存の後継者として指名されていたのだ。家臣たちに表面上は不満に思う者はいないようだった。流石に心理学に関しては素人ゆえに彼らの内面を探ることはできないが当主が幼すぎるという事を除けば特に問題はないようだった。

 

「ほっほっほ、なかなかどうして将来が楽しみな童ですな」

「こら之景、口を慎め」

 

 ふと、30代くらいの男性がそのような声を上げているのが分かった。そちらを見てみれば一見温和そうな雰囲気をまとってはいるが俺でもわかるほどの闘気をあふれ出している人物だった。

 

「……なにものか?」

「おっと、これは失礼しました。讃岐守護代香川之景にございます」

「なるほどそなたが……。わがちちかずまさがぐんせいりょうほうにおいてたすけられたときいている」

「ほっほっほ、何。某は大したことなどしておりませぬよ」

 

 香川之景。史実においては豊臣秀吉に改易にされるがそれまではうまく勝ち組につき家を存続させていった人物だ。流石に名前は知っていても詳細までは把握できていないから何とも言えないが三好を裏切るような人物ではなかったはずだ。

 

「それにしても重存様は随分と理知的ですな。それくらいの年齢なら遊びたい盛りでしょうに」

「じゅうにんといろ、ということばがそんざいする。わたしのようなわらべがいてもなにもふしぎではあるまい」

「ほっほっほ、その返答がますます童の物ではありませんな!」

「いい加減にした前! 之景! 重存様になんという態度を……!」

「よい。ゆるす」

「しかし……!」

「かわりにゆきかげよ。わたしのほさをまかせる。みごとそごうけのかじとりをこなしてみせよ」

「ほう? 某でよいのですかな? 家を乗っ取る可能性とてありましょうぞ」

「之景ぇ!」

 

 之景の言葉についにキレたらしい隣に座る若武者が之景の胸倉をつかみながら立ちあがる。突然の事態に誰もが驚き固まる中で之景だけは冷静であった。

 

「なんなのだその態度は! 今貴様が話しているのは我らが新しき当主、十河重存様だぞ!」

「ほっほっほ、だから?」

「っ!?」

 

 之景は鋭い眼光で男を見据える。それだけで男は怒りが消えうせたようで尻から倒れこんだ。

 

「正直に言いましょう。某は重存様を十河家当主として認めているわけではござらん。何しろまだ幼く、本人の能力もわからないのですから。ああ、会話が理知的だからと言って必ずしも優秀であるとは限りませんよ」

「だからこそそのたいどをみせていかりをあらわにするかをみにきたと? このていどでいかりくるうようならとうしゅにふさわしくはないというために」

「おや、理解しておられましたか。どうやら某が思っている以上に重存様は優秀なようですね」

「だが、わたしひとりではできることなどたかがしれている。ゆえにゆきかげにせいむいっさいをまかせよう。これはばつでもある。わたしをためすようなおこないをしたことへのな。みごとかちゅうからのしっとをかわし、そごうけをわたしがひっぱっていけるようになるまでみちびいてみせよ」

「……本当に、重存様は優秀であられますな」

 

 之景は俺の言葉を聞くとその場で座り深々と頭を下げた。そこに先ほどまで感じたふてぶてしい態度はない。

 

「十河重存様。改めてこの香川之景、御身に忠誠を誓いましょう。そして重存様の初の命令、しかと承りました。今度は某が試される番というわけですな」

「たのしみにしている。すうねんご、わたしがこのばでとうしゅとしているか、それともしかばねをさらしているか。それはゆきかげしだいであるぞ」

「ほっほっほ、本当に責任重大ですな!」

 

 之景は新しい自分の主君が現時点でも十分すぎる逸材であると感じつつ、今後十河家の当主としてかじ取りができるようになる約10年の間、自分が守るという確かな使命を感じつついつも通りに笑って見せた。

 

「みなのものもそれでよろしいな?」

「昼寝城主寒川元政にございます。某も娘も重存様の決定に異論はございません」

「父に同じく、私も同じです」

「勝賀城主香西元載です。私も異論はござらん」

 

 等などの讃岐の有力武将たちが追従してくる。流石にすべてを把握することは出来ないし、大半が知らない武将で人物を知ることは出来ない。だが、少なくとも今のところは問題ないだろう。何かあっても之景がまとめてくれるだろう。だめならその時は本家に逃げ延びよう。そもそも齢5歳の人間に当主を任せる方がおかしいのだ。逃げ延びる事になっても受け入れてくれるだろう。

 

 しかし、そのように考えていたせいだろうか? 葬儀からしばらくして三好宗家より連絡が入る。それは俺の養育を宗家が責任を持ってみるという事だった。どうやら父上の死に宗家も少なからず悪いとは思っていたようだな。

 そんなわけで俺のもとに幾人かの教育係が派遣される事になったが俺はその面々を見て驚いた。想像だにしない豪華なメンバーだったがゆえに。

 

「お初にお目にかかるぞ。某は三好義賢、そなたに政略、戦略両方を教える事となった。よろしく頼むぞ」

「安宅冬康だ。水練を専門に行う。いずれは水軍同士の戦い方も教えていこうと思う。死ぬなよ?」

「野口冬長だよ。これからよろしくね☆」

 

 まさかの父上の兄弟たち、いわゆる三好四兄弟が目の前に並んでいる光景に俺は茫然としてしまう。まさかの人物たちだがそれともう一人、俺はその人物に驚愕と恐怖、警戒を抱かずにはいられなかった。

 その人物は美濃の蝮、備前の梟雄と並び称される乱世の奸雄と評される戦国三大梟雄の一角。三好家没落の原因となり、織田信長に二度逆らい最後は自爆して見せた人物。

 

「うふふ、松永久秀と申します。短い間ですが色々と教えていきたいと思います」

 

 姫武将、松永久秀はそう言って妖艶に微笑み、俺は謎の悪寒に襲われるのだった。

 





【挿絵表示】

恒例の地図です。
おおよそ原作一巻の17年前です。なので信奈は誕生する前後で大半のキャラが若いか生まれていません。
美濃に関しては道三が義龍を元主君の遺児として何たらという描写があったのでこの時点では斎藤家の勢力と考えています。
武田家に関しては当然ながら信虎が当主の時代です。だから甲斐のみが勢力となっています。
三河に関してはミスでこの時期はまだ松平家の領土だったと想定しています。まぁ、この直後あたりに滅ぼされると考えていますが。
六角家は普通に近江全土を領有しています
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