三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第肆章【謀略】
第弐拾玖話「堺再び」


「義継はん久しぶりやな。元気にしとりましたかな?」

「ああ。一時期は危険だったが今ではこの通りだ。そちらも前と変わらず元気そうだな。津田宗及」

 

 おおよそ一年ぶりだろうか? 堺を訪れた俺は前と同じように津田宗及の元を訪れていた。前に来た時と同じように津田宗及は儲けているらしく、かなり裕福に見える。

 それだけに彼がどんな返答をするのか楽しみでもあり、不安でもある。三好家専門の商人になってくれるのか。今回はその返答を聞きに来たのだから。

 

「それで? 今回は返事が聞けるものと思っていいんだな?」

「もちろんです。この一年、義継はんのご活躍を見させてもらいましたが随分と大暴れをしているようで」

「俺が目指す未来にはまだまだ程遠いがな」

「ほうほう。ここまでの動きは下準備に過ぎないわけですか」

「そうだな」

 

 正確に言えばその下準備の下準備だが似たようなものだし変わりはないだろう。

 

「結論から言わせてもらえれば受けたいと考えています。少なくとも義継はんなら三好家を大きくできるでしょうし物資が今より必要なくなるなんて事にはならないでしょうから」

「本当か? それはありがたい」

 

 今回は断られる可能性も視野に入れて訪れたが今回はうまくいったようだ。堺の代表である会合衆の一人をこちら側に引き込めたのはデカい。その分宗及に対して今まで以上の利を与える必要が出てきたがな。

 

「さて、さっそくで悪いが頼みたいことがある」

「? 何でしょうか?」

「種子島を集めてほしい。できるなら100挺単位が望ましい」

「100挺ですか……。それはまた膨大な数ですな」

 

 この時代に登場した武器。種子島とは火縄銃の一種であり、種子島にて発見・生産された事からこの名前が付けられている。今後、軍隊における主兵器となる銃の最初の銃といえる。

 だが、この種子島は明確な欠点を持っている。それは命中精度だ。理由は単純。球が球形で空気抵抗を受けやすいこと。ライフリングが刻まれていないことだ。どちらも命中精度に大きくかかわるものだ。そのためにこの時代の火縄銃は数をそろえて一斉に発射するのが基本だ。そうしないと当たらないのだから。

 ゆえに、どうしても火縄銃を購入する際には数をそろえて買うことになる。そのくせ火縄銃は高い。そして必要な弾薬はさらに高い。何しろこの時代、木炭・硫黄はともかく硝石が取れない。とる方法もあるが日本には伝達していないのだがそこは俺が知っているから現在は10か所で硝石丘の建設を試みているところだ。さすがに分量や細かい作業まではわからないからいくつか方法を変えてやっているところだ。その中で硝石が出来た物を正式なものとして領内にいくつもの硝石丘を建設する。ほかにも培養法などを試してみたいがそちらに関しては全く分からないからな。加賀藩で使われていた程度しか覚えていないのが悔しいな。

 

「確か三好家でも100近く保有していたはずですが……」

「将来的には1000挺は最低でも揃えたい。だが、今はそのくらいが必要なのだ」

 

 別にこの100挺は使用するためではない。そもそも、俺はしばらくの間火縄銃を運用するつもりはない。弾薬が効果であり、自前で揃えられないうちは金をただひたすらに消費するだけだ。ならば硝石が採取できるようになるまで運用しないほうがいい。そして、その間に火縄銃を自前で生産する。

 幸いなことに俺は近江を全土手に入れることができたのだ。つまり、国友村が支配下にはいったわけだ。ここは今のところ三好家の配下に入ることに同意している。とはいえ火縄銃の販売に関しては今後も行うつもりのようだからそこは交渉する必要があるだろう。

 

「できるか? 期限は数年と考えてもらえればいい」

「ではすぐに使うわけではないというわけですか。……わかりました。伝手をいくつか当たってみましょう」

「頼んだぞ」

「専門の商人となったのです。このくらいできなければ失格でしょう」

 

 俺は宗及の言葉に俺は満足して席を立つ。宗及の返事を聞き、要求も言えた以上ここにいる意味はない。堺は三好領だが自由都市としての側面が強く、三好家の権威があまり通用しないからな。

 

「……御館様」

「なんだ?」

 

 宗及の屋敷を出てしばらく歩き、茶屋で休憩していると俺を呼ぶ声が聞こえた。最近ではようやく慣れてきた忍びによる報告だ。俺の視界にはいないがおそらく茶屋の側面、陰になっている場所に潜んでいるのだろう。声もそこから聞こえてくるからな。

 

「甲賀の山中氏が伊賀との交渉に成功したと報告がありました。伊賀忍軍も御館様の話が本当であれば従うと申しております。しかし、もしだますような場合は……」

「分かっている。従ってくれるのであればきちんと報酬を渡すと伝えてくれ」

 

 どうやらうまくいったらしいな。近江全土を手に入れたことで六角氏が運用していた甲賀忍者を手中に収めたわけだが彼らにも長には侍大将の地位を与え、きちんとした報酬と領地を与えている。やはりこの世界における忍びの地位は低いらしく涙を流して喜んでいた。そこで彼らには伊賀の交渉をお願いした。結果、それが無事に済んだというわけだ。

 伊賀に関してはここからだがこれで伊賀と甲賀の忍びを抱え込むことに成功したわけだ。時間がかかってしまったがこれで諸大名に対して工作が行える。

 まずは織田家だろう。次に武田、上杉、尼子、大内の順に工作や偵察を行う予定だ。織田家に関しては特に集中して行う。まずは桶狭間の戦いを変えよう。あれが織田家飛躍の原因だ。だが、直前で工作しても意味がない。事前に、浸透させるように行う必要がある。

 

「それと、淡路島に安芸国の毛利家の一族と名乗る姫武将が訪れています」

「毛利家? 確か厳島の戦いで滅びたんだったな」

 

 意外なことにこの世界では厳島の戦いで毛利が負けた。正確には陶晴賢と相打ちで倒れ、大内と尼子につぶされた形だ。一体何があったのか? その辺の情報も忍びを使って集められればいいんだが……。

 何だろうな? なぜか言い知れぬ不安があの両家を考えると感じてくる。こう、腹の下から黒い瘴気が昇ってくるような感じだ。一種の勘であろうか? どちらにしろ後回しにも無視し手もいいようには感じない。偵察は入念に行わせよう。

 ただの勘、されど勘だ。こういう時の勘は重要だ。きっとだがな。まぁ、何もなかったとしてもあの両家は大国。情報は多くて困ることはないからな。

 

「そいつらの目的は?」

「御館様に目通りを願っているようです。おそらくですが毛利家再興のために支援をしてほしいのだと思います」

「なるほどな。まぁ、話しても問題はないからな。会おう。俺が淡路島に向かう。そのように伝えてくれ」

「かしこまりました」

「……そういえば、そいつの名前は何というのだ?」

「吉川元春と名乗っております」

 

 吉川! これは予想外の大物が来たな。これは支援してもいいかもしれないな。

 俺は思わぬ偉人の名に口角を挙げながらそう考えるのだった。

 

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