三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第参拾話「謁見・壱」

 毛利元就の第二子にして長女である吉川元春は村上武吉率いる村上水軍の護衛の元無事に三好の勢力圏である淡路周辺にたどり着いていた。もともと瀬戸内海は村上水軍の領域であり、彼らを害するような勢力はこれまでに存在していなかった。

 

「吉川の嬢ちゃん。そろそろ淡路水軍が出てきてもおかしくないぜ」

 

 そんな村上水軍と同等の規模を誇るのが三好家の淡路水軍だ。かつては安宅冬康の下で規模を拡大し、瀬戸内海東部の制海権を維持できるようになっていた。冬康の死後、淡い字水軍は規模を縮小したがそれでも讃岐以東では絶大な力を持っていた。

 

「ほら、あれが淡路水軍だ」

 

 そんな話をしていたためか、武吉が顎で指すほうに安宅船や小早川船で構成され、三好家の旗を掲げた淡路水軍が向かってきていた。数は村上水軍とほぼ同数であり、安宅船があるいじょう戦闘では相手が有利になっているだろう。もっとも、村上水軍に戦う意思はないためにその推測は無意味に終わるだろう。

 

「自分が出る。船を一隻だけ前に出してくれ」

「本当にいいんだな? 直接戦ったことはねぇがそれでも警戒はされるはずだぞ」

「かまわない。隆景のことを頼む」

 

 元春はそれだけ言うと近くの小早川船に飛び乗り、淡路水軍のほうへと向かっていく。

 

「三好家家臣! 森村春である! 貴様らは何者か!」

「安芸国毛利家一門! 吉川元春じゃ! 三好家の当主義継……殿に話があって来た! 目通りを頼みたい!」

「毛利家? ……」

 

 淡路水軍の先頭に位置した安宅船から一人の少女が声を上げたがそれに対して元春は恐れを見せずに宣言した。少女、森村春は毛利家のことを知らないのか付近の兵士に何かを訪ねている。兵士は村春に対して何かを話し、やがて納得したようにうなずくと村春は元春に顔を向けた。

 

「毛利家の者だということは理解した。目通りに関しては御館様に聞かないとわからない。それでもかまわないな?」

「もちろんじゃけぇ!」

「……ちなみに、後ろの彼らも毛利家の人間ですか?」

「彼らは毛利家の同盟相手で家臣じゃないけぇ。ただ、ここまで送ってくれただけじゃ」

「ならば毛利家の者にはこちらの船に移ってもらい、彼らには引いてもらいましょう。それが受け入れる条件です」

「かまわん。もともとそのつもりじゃ!」

 

 元春はなんとか三好家との交渉を終えるといったん村上水軍のほうへと戻り、内容を話す。そしてそれは村上水軍との別れを意味していた。

 

「すまねぇな。俺としても嬢ちゃんたちの面倒を最後まで見てやりてぇが俺にも守るべき家臣がいるからな」

「かまわん。最初からこれ以上のことは望んでおらんけぇ」

「そうか……。すまなかったな。いずれ縄張りを安定させたら様子を見に来てやるさ」

「ふん! その前に安芸を取り戻してやるけぇ!」

 

 元春は勝気な様子で言い、いまだ落ち込んだままの隆景を連れて淡路水軍の船に乗り移ると淡路島へと向かっていく。淡路島は安宅冬康の後を継いだ安宅信康が当主となっている安宅家の領地となっている。その領地は安宅家が三好水軍を担当していることもあり船が大量にあり、造船所も多数存在していた。

 

「ほう、これだけの船があるなんて凄いけぇ」

「……」

 

 元春は信康のいる居城である由良城につくまでに見える景色に感心しているが隣にいる隆景はそれに反応することはなかった。双子であるために同い年であるが姉である元春はそんな隆景を心配そうに見ながらも空元気でもいいから笑顔になれるようにといろいろと話を振るが隆景はそれに小さく相槌を打つことしかしなかった。

 

「……」

 

 そんな二人の様子を村春は複雑な表情で眺める。彼女にとって毛利家とは名前すら知らなかった相手だ。ゆえに恨みつらみもなければ好意もない。つまり、無関心に近かった。だが、彼女たちの近況は同情するほどのものだった。

 

「(家臣はおらず、両親もいない。確か当主は厳島で討ち死にしたのだったな。家臣もついてきていないということは見捨てられたのか? いや、村上水軍がいる以上それはない。つまり、ついてこれる家臣が残っていなかったというわけか)」

 

 まさに着の身着のままでここまでやって来た二人に村春は何かしてやりたいという気持ちに駆られるが彼女たちに何かをしてあげられる権力はない。所詮は三好家の分家の家臣でしかないのだから。

 だから、彼女はせめて気持ちが少しでも晴れるようにと海の幸を使った豪華な食事をふるまおうと決意を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たな。私は安宅信康。安宅家の当主だ」

 

 由良城にて二人を出迎えたのは同年代の少女だった。少女は安宅信康と名乗り、安宅家の当主であると言った。安宅冬康の唐突の死によって急遽当主を継いだ彼女は森親子の力を借りながら立派に当主の務めを果たしていた。

 

「お初にお目にかかるけぇ……かかります。吉川元春じゃ……です」

「……小早川隆景です」

「武の吉川、智の小早川の異名を持ち、毛利両川と呼ばれる二人に会えたことうれしく思う。御館様……義継様は運がいいことに堺にいらっしゃるとのことで今はこちらに向かってきておるところだ」

「わざわざ来てくれることに感謝する……します」

 

 敬語が使い慣れていない元春は安芸弁を抑えようと試みるもうまくいかないが信康としては別に気にすることでもなく、かといって指摘することでもないとスルーして話を続けた。

 

「それで、具体的な目通り理由は本人に話してもらうがその前に大まかに理由を聞いておきたい。これは任意であり、強制ではないために答えづらいのであれば答えてもらわなくてかまわない」

「自分たちは三好家に支援してもらい、安芸国を取り戻したいと思って来た……きました」

「ふむ……」

 

 元春の言葉は信康にとって予想できた事であり、どうするべきかと悩む。ここまでの件で義継に目通りさせても問題ないと判断しているが義継の性格的に彼女たちを欲するのではないかと考えていた。彼女たち、とくに姉の元春の武勇があれば丹波の赤鬼こと赤井直正を正面から倒すこともできるのではないか。そのような期待感があり、信康としては相手の心象を悪くしない程度に三好家に好印象を持ってもらい、家臣にする方向で決めた。

 

「分かった。あなた達の目的に関しては御館様に話し、可否の材料にしてもらう。それと、御館様もすぐには到着しない。早くとも明後日になるだろうからそれまではこの由良城でゆっくりと疲れを癒すといい」

「感謝する……します」

「……感謝します」

 

 元春は最初と最後以外で一切しゃべらなかった隆景に代わり、最後まで話し続けた。信康はその様子に家が滅びるということがどういうことになるのかを理解できてしまった。

 

「(御館様は将軍になり、六角すら滅ぼして勢力を拡大している。その反動によって御館様が……いや、三好家が滅びるようなことにならないといいが……)」

 

 信康は元春と隆景の様を自分に重ね合わせ、将来のことに不安を感じるのだった。

 

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