三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第参拾弐話「謁見・参」

 大広間へと入った俺が見たのは頭を下げて俺が入ってくるのを待つ双子の少女だった。緑髪の二人は見た目だけで言えば10代前後と思われる。

 

「表を上げよ」

 

 上座にある俺の席に座り、双子に顔を上げるように指示を出す。……なるほど、双子というのは本当らしいな。二人はほぼ一緒の顔立ちをしている。だが、片方の勝気そうな少女の方は“毛利上等”と不良のごとき鉢巻をつけているからわかりやすくはある。そして、事前の情報を加味すれば鉢巻の方が吉川元春。もう片方の、今にも死に絶えそうなほどに憔悴している方が小早川隆景ということだろう。

 

「三好左京大夫義継だ。お前たち二人が毛利両川で相違ないな?」

「はっ! 吉川元春とい……申します」

「……小早川隆景、です」

「信康より話は伺っている。当家の力を借り、安芸を奪還。毛利家を再興したいとのことだが……」

「その通りじ……です! どうか、自分たちに力を貸してほし、ください!」

 

 元春が必死にしゃべる。この辺も話に聞いていた通りだな。では少しつついてみるか。

 

「ふむ、ではお前たちを支援したとして。当家にどのような利点があるのだ? ただで交流もない家を助けることはできない。それも、君たちの父である毛利元就の悪名を知っている身としてはな」

「っ! それ、は……」

 

 言葉に詰まる、か……。毛利元就は勢力を拡大させる過程で様々な悪名を欲しいがままにした。そして、そんな悪名は畿内にまで広がるほどだ。実際のところ毛利元就がそんな悪名通りの人物であったかはわからない。死んだ上に安芸は大内家と尼子家いよって分割されて統治されている。毛利家は賊軍の定めである印象操作をされて真実などなかなか知ることはできなくなるだろう。

 

「……だが、そんな毛利元就は死んだと聞いている。それどころかほぼすべての毛利家一門衆が討ち取られたとも聞いている。故に存在しないやつの悪名などどうでもいいことだ。改めて聞こう。毛利両川は我が三好家に一体何をもたらしてくれるのかな?」

「……」

 

 言葉が出てこなかったのだろう元春は再び沈黙する。だが、仕方のないことだろう。こちらとしても二人を手放すのは惜しい。こちらから助け舟を出してみるか。それが彼女たちにとって完璧な救いとは限らないがな。

 

「ではこちらから提案しよう。安芸国を取り戻しお前たちにくれてやろう。()()()()()()

「……家臣になれというわけですか?」

「それがお互いにとって最善だと思うがな。俺はお前らを家臣として取り入れ、その褒美として安芸国を与える。俺としてもせっかく手に入れた領地を家臣じゃない相手に与えるのは抵抗があるからな。その点家臣になら一国くらいなら褒美として与えることも可能というわけだ」

「……」

 

 ふむ、抵抗はないが本当にそれでいいのかわからないといったところか? 武の吉川と言われるくらいだ。知略に関しては小早川に任せっきりだった可能性がある。それだけにこの状況での最適解が判断できないといったところか。ならば今が攻め時だろう。別に難しいことを言っているわけではないのだ。家臣になってくれ。そして手柄を立ててくれ。そうすれば安芸国を取り戻し、くれてやると言っているだけなのだから。

 

「もし、家臣になりたくないというのならこの話はなしだ。我らも六角家を始めとする周辺の豪族たちと争ったばかりでな。こうして時間を無駄に使うわけにはいかないのだ」

「それは……」

「別に構わないだろう? お前は姉として背負い込みすぎている。我慢せずに俺たちにお前が背負っているものを少しでもいいから負担させてくれ」

 

 俺は努めて優しく、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。前世の俺は平凡な顔立ちだったが三好義継としての俺の顔は美形だ。こういった表情をすれば貴公子と呼ぶにふさわしいことになる。

 

「……。左京大夫殿、いや。()()()。どうか、自分たちに力を貸して、ください」

「もちろんだ。()()。家臣の願いを聞き届けることくらい簡単さ。必ず約束を果たそう」

 

 覚悟を決めた様子で首を垂れた元春に俺は心の中で口角を上げながら表面上は努めて冷静にそう返した。こうして、俺は戦国時代において最大級の武将と言える毛利両川を手に入れたのだ。それも、戦わずにな。

 

 

 

 

 

 

 

「大内家は順調に成長しているわ」

「本当? 途中で尼子に寄ったけど随分と精強になっていたじゃない」

「ふふ。新宮党を再建させたからね。今だ粛清時までには復活していないけど数年のうちに元の精強さを取り戻すわ」

「今でも十分だ。尼子・大内合わせて5万は確実に出せる。いや、尼子に至っては大内以外に周辺に主要な敵はいない。限界まで出させれば7万は確実に行けるぞ」

「尼子はそうね。だけど大内家はそうでもないのよ」

「? 傾国を実行できてしまう貴方でも虜にできない人物がいるの?」

「違うわ。大友家よ」

「ああ……。確かにあそこは厄介だな。大友義鎮は聡明との噂だしそれを支える家臣たちもつわものがそろっている。厳島の戦いでは弟を養子に出す一方で毛利と同盟を結び北九州の領地を奪い取ったそうだな。中々に強かな人物のようだな」

「ええ。だから今は大内家は北九州の争奪戦を繰り広げているわ。この前は秋月家を支配下に置いて勢力を少しずつ拡大させているところよ」

「……またお得意の色気か」

「これは私の武器よ。安心して頂戴。私は幕臣。私のすべては足利家のためにあるのよ。そのためならどんな汚い事だってするわ」

「僕はそんな藤長の覚悟大好きだよ。それに、僕たち幕臣団はあの日に誓ってから外道に落ちる覚悟はできているからね。僕だってこれから東に向かう予定なんだよ」

「! では東国の方もいよいよ?」

「ああ。東国には中々強い勢力がそろっているがその中で二つ、俺たちが選んだ勢力がある」

「一つは僕たちに従ってくれる可能性が高いけどまだまだ発展途上」

「もう一つは野心が強いがその分勢力としての力は見てきた中で一番だ。うまく扱えば、それこそ三好家と共倒れにさせればいいからな」

「そう……。ならあなた達が仕込みを終えるまでには北九州を取って大内家を安定させておくわ。気を付けてね」

「もちろん! 僕も藤英もこんなところで死ぬわけにはいかないからね!」

「ああ。すべては古き良き足利幕府再興のために」

 

 

 

 

 

 

 芽は成長し、太陽から光を吸収しようと大きな葉を開かせる。大輪の花を咲かせるために。

 

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