三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第参拾玖話「丹波侵攻・弐」

「全軍、出陣!」

 

 評定より一月後、俺は5万の兵を率いて山城国から丹波に侵攻を開始した。今頃東部および北部の国境からも計5万の兵が侵攻を始めているころだ。つまり、丹波は3方向から10万の軍勢に攻撃を受けていることになる。考えただけでも震え上がる情報だろう。

 そして、少し遅れて官兵衛たちも出陣する予定だ。総大将は武田信顕。軍師に黒田官兵衛。副将として毛利両川たる吉川元春と小早川隆景が固めている。仕官当時は廃人同然だった小早川隆景は時が少しずつ癒してくれたようで今では普通にしゃべれるだけに回復していた。しかし、いまだに元春意外と好んで喋ろうとはしない。会話をしても無表情で硬く冷たい口調で批判するかのごとき喋り方となってしまっている。

 

「北は政勝と康長、東は浅井等の近江衆が侵攻している。彼らに負けない働きを我らもしないといけないぞ」

「クス、心配はありませんわ。武将だけ見てもこちらは三好家ほぼすべての譜代の将がそろっておりますから」

「……それもそうだな」

 

 俺の言葉に返したのは松永久秀だ。俺が当主となってから初めて出兵している。筒井家を始めとする大和衆を連れての堂々の参戦だ。とはいえ筒井家を始めとする大和四家と呼ばれる豪族たちの影響力はいまだに強く、三好家の力が及ばない部分が多く存在する。それを今は松永久秀の采配で何とか三好家の配下に置いている状態らしく、あまり無茶をできないために連れてきている兵は総数で6千程度となっている。

 

「それに殿は秘策がおありと言っておりましたからね。期待していますよ」

「久秀にとっては切り取れなかった土地だからな。思い入れは強いか?」

「そうでもありませんわ。丹波はそれだけ異質だったというだけの事。それも今日で終わりでしょう」

 

 まるで失敗するとは思っていないかのような久秀の発言は俺を信頼しての事か、それとも久秀も別に策を用意しているのか……。妖艶という言葉がぴったりな久秀から本音を見分けるのは難しい。どれも怪しく見えてしまうからな。そうならないように気を付けてもいつの間にか警戒しているのはもうどうしようもないな。せめてこちらから不義理を働かないようにしないとな。

 

「それで? 殿は播磨を平定出来ると思いますか?」

「難しいだろう」

「あら? 意外ですね。あの少女、黒田官兵衛に期待を寄せているように見えましたのに」

「軍師としての能力は間違いないだろう。だが、だからと言って兵がついてきて来るかは別の話だ」

 

 どこの世界に入ったばかり、それも無名のやつの指示にしたが者がいるのか。それが自分たちの命を預ける兵権ならなおさらだ。

 

「それでしたら失敗するでしょうね」

「ああ、だが。指揮官と連携が出来れば別だ。総大将は武田信顕だが彼女も新米。実質兵を率いるのは毛利両川と副将になれはしなかったが兵を率いている逸見昌経や粟屋勝久、武藤友益たちだ。彼らを黒田官兵衛が本当の意味で指揮下に入れることができれば1万5千だけで行けるはずだ」

 

 ようはコミュニケーションが取れるか否かだ。三好家は残念ながら古い慣習が多く存在する武家だ。農民から成り上がった羽柴秀吉のように最初から重宝することはできない。なればこそ三好家で生き残るには確かな能力と譜代の家臣に憎まれないようにするための話術、コミュニケーションが重要となるわけだ。

 武田信顕は問題ないだろう。甲斐武田家の人間だけありその辺の能力は問題なくありそうだが黒田官兵衛は別だ。第一印象だと自分の能力に自信を持っているようだが一方で他人との付き合いが苦手そうに見えた。官兵衛には是非とも今回の出兵で自分の苦手を少しでも克服してほしいと願っている。

 

「それに、失敗しても問題はない。讃岐には万が一に備えて2万の四国衆が待機している。播磨征伐が不可能と判断した場合、即座に上陸して平定してもらうつもりだ」

「なるほど。本当に播磨征伐は新人たちのための戦なのですね」

 

 本当はその中に安芸国虎も入れたかったが長宗我部家が本山家を降し、土佐西部に領土を持つ一条家を狙う様子を見せており、ここで動かすのは危険と判断して連れて行くのは断念したし、万が一に備えて阿波と土佐の国境部に5千から8千ほどの兵を待機させている。安芸国虎の兵と合わせれば長宗我部家の侵攻を食い止めることはできるだろう。

 

「ふふ、官兵衛殿は災難ですね。こんな悪い殿に仕官したばかりに無理難題を押し付けられたのですから」

「無理難題になるかは本人次第だ。それよりも、既に丹波に入っているのだ。いつせめて来てもおかしくはないぞ」

 

 気づけば山城国を超えて丹波に入っていた。先頭を行く三好三人衆は戦場と変わらない緊張感を持っているだろう。

 

「……来たか」

 

 隣から突如として気配を感じ、そちらを見れば当方の忍びが平伏していた。だが、丹波側の歓迎を受けたのだろう。その忍びは体中から出血していた。

 

「報告します。波多野・赤井を中核とする丹波連合軍5千がこちらに向けて侵攻中。明日には接敵します」

「予想通りだな。その傷は相手の忍びにやられたのか?」

「はい。中々の手練れですでに20人が討ち取られています。数を動員し、何とか情報を得られている状況です」

 

 厄介だな。丹波の忍びが優秀なことは理解していたつもりだったがそれでも甘かったようだ。それに、ここは相手にとっては庭のような場所だ。伊賀の忍びといえどこうなると敵の情報収集を諦めるか犠牲を覚悟で集め続けるかの二択になる。前者は忍びの犠牲者をこれ以上なくすことができる。こちらの防諜に専念すれば相手もうかつには手を出せないだろう。一方で後者なら相手の動きを事細かに知ることができるが時間がたてば経つほど忍びの犠牲者が増えていくことになる。

 となると残念だがここは防諜に専念した方がいいな。貴重な情報収集が出来る人材を無駄にすり減らす必要はない。

 

「分かった。これ以降犠牲者を出さないように動いてくれ。こちらの情報を持ち帰らせないことを最優先とし、時点に敵の大まかな動きの把握だ。相手がこちらに来ている以上よほどのことがない限り正面から戦うことになるだろうからな」

「了解しました。そのように里長に伝えます」

 

 忍びを下がらせ、改めて前方を見る。ここは亡き長慶も支配下に置くことはできなかった丹波の地。どのようなことが起こってもおかしくはない。そのような心持ちで行かないと手に入れいることも、征伐の目的を果たすことも出来ないだろう。

 

「絶対に勝つぞ。久秀、さっそく秘策の一つを使う。用意を手伝え」

「! ……ええ、勿論ですわ」

 

 俺の言葉に久秀は一瞬驚きつつもすぐに何時もの微笑を浮かべて返事をするのだった。

 

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