三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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戦闘描写は難しい


第肆拾話「丹波侵攻・参」

 丹波衆は今回の侵攻においてそれほど危機感を感じてはいなかった。確かに3方向からの同時侵攻で数は10万を超えている。それに対する丹波衆は精々1万ほどであり、圧倒的に数が違いすぎた。

 しかし、それは丹波衆にとってはいつものことである。かつて、松永久秀が侵攻してきた時には3万から5万の兵がいたがそれらを3千程度の兵で打ち負かすのが何時ものように起こっていた。加えて、撤退途中だったとはいえ三好義継に当主が変わっても互角以上の戦いを見せていた為に正直に言って丹波衆は慢心していたのだ。

 

「ここで三好家を完膚なきまでに打倒し、我らの恐ろしさを天下に知らしめるのだ!」

 

 丹波守護代の地位に就く内藤某を総大将に5千の丹波連合軍は北上する三好義継軍5万を迎え撃つべく進んでいた。その足取りは軽く、この後に起こる戦を勝てるという余裕が表れていた。

 

「……守護代殿はのんきなものだな」

 

 そんな内藤某を冷ややかな目で見ているのは丹波において内藤家を上回る影響力を持つ波多野家の当主、波多野秀治だった。彼は若年の身ではあるが丹波最大の豪族の当主を務めるだけの器量を持った彼はこの戦がこれまでとは違うことをなんとなくだが理解していた。

 義継は確実にこちらをつぶせる策を用意している。無策で突っ込むのは危険だと。それを示すように侵攻開始とともに丹波には忍びの数が急激に増えた。それらは波多野家が囲う石川家と呼ばれる忍び達により次々と切り伏せられているがあまりにも数が多すぎてすべてに対処することができなかった。そして、それらすべてが義継が囲う忍びであり、犠牲を増やしたくないと考えたのか現在は義継軍付近を守ることに専念していた。

 

「かと言って相手がどのような策を用いてきたのかわからないうちでは行動も難しい」

 

 波多野家が囲う忍び達により丹波連合軍の情報はほとんど得られなくなっているがそれでもこちら側の動きは遠めからでも確認できる、と秀治は思考する。このままではいけないと思いつつもではどうすればいいのか? それがわからないのだ。

 

「……」

「? 直正殿、いかがなされた?」

 

 ふと、隣で軍勢を走らせている赤井直正があらぬ方向を見て止まった。

 

「……。このままでは危険」

「え? いやちょっと……」

 

 直正はそれだけ言うと軍勢を連れて道をそれ始めたのだ。幸いにも直正と秀治は列の一番後ろにいたために直正の行動に気づく者はいなかった。今回、直正が率いていた兵も500程だった事が幸いした。

 

「~!!! くそ!」

 

 直正の突然の奇行に、秀治は迷った末に彼女についていくことを決め自らが率いる500の兵を直正の後に続けさせた。当然ながら波多野家が運用する忍び達も彼らについていくために本体の防諜は疎かになったが不幸にも三好側の忍びはこの異変に気付くことはなく、一定数の距離をあけたまま偵察を続けることになる。これが三好義継の人生において上位に入るほどの危機を迎えることになるがそのことに気づく者は誰もいなかったのだった。

 

 そして、4000になったことに両者気づかないまま接敵した。場所は丹波南東部に位置する馬堀城付近の平地だ。南西に向かってVの字で狭くなっているこの地形は丹波では数少ない平地の一つで大軍が展開するには持ってこいの場所であった。

 それゆえに、内藤某は接敵した場所が不利だと感じとった。何しろお互いの兵力差ははっきりとしているのだ。丹波の赤鬼青鬼を有しているとは言え数の差は如何ともしがたく、いざとなれば豪族どもが逃げてしまうと思っていた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 これからどうするかと悩む内藤某はさらに三好家の陣形を見て固まった。三好家は完全開ける前の、若干狭い場所を端から端まで展開し、柵や堀、さらには土台を作り待ち構えていたのだ。それはさながらちょっとした砦のようであり、攻める側に大きな損害が出ることを覚悟しないといけない様子だった。

 さらに中央には不自然にあけられた空間がある。まるで入ってこいと言わんばかりに口を開けるそこには三好家の当主三好義継がいることを教える旗が堂々と翻っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うむむ……」

 

 この予想外の陣形を見て内藤某は撤退するべきか悩む。三好家は明らかに攻城戦の如き戦になるように誘導している。自分たちに攻撃させて三好家は防衛に回る。そうなれば攻め手の自分たちが大きな損害を余儀なくされてしまうだろうと。

 

「(どうせ我らを倒さない限り丹波を手に入れることなど不可能。このままにらみ合いを続けるか? いや、それではほかの豪族どもが帰りかねん。戦うか逃げるか。そのどちらかだ)」

 

 そんな疑問を持った彼を後押しするように開けた空間に一人の男が現れた。若いその男は遠く離れた内藤某にも感じる覇気を溢れさせていた。間違いなく三好義継だった。顔を知らないとはいえあれほどの覇気を出せる存在が本人以外ありえないと。

 

「……ふ」

「っ!」

 

 そして、その男は嘲笑の如き笑みを浮かべると手を振る。来いよ、という挑発だった。ピクリ、と内藤某は怒りを感じる。決して辛抱強い方ではない彼だがそれを押さえつけられる理性も多少は持っており、息を整える。

 

「(安い挑発だ。それだけ向こうはせめてきてほしいという事だ。向こうの思う通りになど……)」

 

 しかし、そんな内藤某を挑発するように義継は次の行動に出た。何とその場に床几を置くと座り、おにぎりらしき食べ物を食べ始めたのだ。どうせ攻めてくる勇気なんてないんだろう? と言わんばかりのリラックス具合だった。完全にくつろぎ詰まんなそうに内藤某たち丹波の軍勢を見る彼に内藤某の理性は吹き飛んだ。

 

「あ、あのクソガキぃ! 我らを前にあのような……! 許さん! 全軍進め! あのクソガキを討ち取るのだ!」

「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 義継の舐めた行動に怒りを覚えていたのは内藤某だけではなかった。ほかの丹波の国人衆たちも同じだった。そもそも、一度は撤退したとはいえ三好軍を良いようにほんろうしたことがあるのだ。そんな自分たちを舐め腐っている義継の態度を許せるはずがなかったのだ。

 

「進め進め! あやつの首を取るのだ!」

 

 内藤某は自ら自軍の兵の前に立ち義継めがけて突っ込んでいく。そんな丹波軍を見た義継はやれやれと立ち上がると本陣へとゆっくり戻っていく。それすら相手にする価値もないと語るかのような挑発性を含んだ動きであり、さらに燃料を投下する結果となった。

 

「まもなく敵の罠があるらしき場所に到達する! 全軍気を引き締めろ!」

 

 しかし、それでも内藤某は武将であった。怒りで我を忘れそうになりながらも冷静な部分を残して指示を出していた。そして、その冷静な部分で彼は先ほどから感じる()()に疑問を持つ。

 

「これは……、油か? 何故酒の匂いなど……」

 

 その匂いは敵陣地に近づけば近づくほど強くなる。西に向かって風が吹いていることからその匂いは三好軍からだがなぜこれほどの匂いがするのか内藤某にはわからなかった。

 やがて内藤某も謎の空間へと足を踏み入れるがその際に気づく。地面が若干ぬかるんでいると。

 

「っ! まさか……!」

 

 その匂いの意味に気づいたときには遅かった。上空を見れば無数の火矢が降ってきており、それが地面に触れた瞬間、内藤某の視界は真っ赤に染めあがった。

 

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