三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第肆拾弐話「丹波侵攻・伍」

 十河存保。彼は三好義継の従弟であり、三好宗家に養子に入った義継に代わり、十河家を継いだ人物だった。まだ15歳の若者だがその体躯は熊のように大きく、二回りも年が上にさえ思わせる容姿をしていた。

 そんな巨漢が持つ獲物、それもまた大きな物だった。それは鬼が使っていそうな太い金砕棒であり、存保が持つ姿は赤井直正や籾井教業よりも鬼らしかった。

 

「ったく漸く手に入れられると思っていたのにお預けなんてひでぇじゃねぇか!」

「誰がうちの大将を獲らせるかってんだ!」

 

 お互いの獲物がぶつかり合う。重い金属がぶつかる音が周囲に響き、持ち手の二人には重く、鈍い振動が伝わっていく。常人ならぶつけ合うことも出来ず、出来たとしても腕の骨を粉砕されていたであろう一撃を二人はなんともなさげに受け切って見せた。

 

「……へぇ? 意外とやるじゃねぇか」

「そっちこそな。それにその武器、大将から聞いていた丹波の青鬼ってやつか」

 

 今回が初陣であった存保は籾井教業の顔を知らなかった。ただ、波多野家が本陣を強襲してきたと聞き、連れてきた兵を持ち場に残して一人やってきた彼は本陣に襲い掛かろうとしていた籾井教業を吹き飛ばしただけだったのだ。だが、そのおかげでこうして義継を守ることができていた為に判断は間違っていないと考えていた。

 

「こりゃ思わぬ大物に出会えたな。初陣で三好家を苦しめてきた丹波の青鬼を討ち取れれば俺の名声も轟くってもんだ」

「ふぅん? 俺を討ち取るなんてこと出来ると思ってんの、か!」

「もちろんだ!」

 

 再び斬馬刀と金砕棒がぶつかる。常人の耳なら一瞬で聴覚を奪い取ってしまいそうな重い音が響き渡る。両者はそこからさらに二度三度と打ち込みを続けていく。二つの武器がぶつかるごとに武器が欠け、周囲に破片をまき散らす。互いの体に破片が刺さり、体を血で染めていく。

 

「アッハハハハ!! いいねぇ! 意外とお前いいよぉ。義継じゃなくてお前を持ち帰りたいもんだ」

「あ? 何わけわかんねぇこと言ってやがる。俺の首を獲らせるわけねぇだろ。お前は俺がここで倒すんだからな」

「……まだガキってところだな」

 

 それとも戦バカか? 存保は教業の言葉を討ち取る事だと勘違いしていた。尤も、戦場において持ち帰りなどという教業の方がおかしいのではあるが。

 

「それにしても力は互角。早さも互角。体格で有利な俺だが相手の方が気力はうえで五分五分。このままじゃダメだな」

 

 戦が始まりかなりの時間が経過した。すでに波多野・赤井両軍の奇襲による混乱はなくなりつつあり、三好軍は丹波軍に対して冷静に迎撃が可能な状態となっていた。教業が足止めを食らっているために義継を討ち取る事も難しくなっており、このままいけば丹波軍の負けは確定だった。存保としてはその前に目の前の強敵との決着をつけたいと考えていた。このままでは取り逃がす可能性が高いからだ。

 

「……仕方ねぇ! 負傷覚悟で行くしかねぇな!」

「っ!」

 

 存保は覚悟を決めると一気に教業に向かって吶喊する。それを見て教業は不敵な笑みを浮かべると斬馬刀を天高く振り上げると存保の吶喊に合わせて振り下ろした。

 

「っ! なめるなぁ!」

「なっ!?」

 

 しかし、存保はそれを僅かに右にそれることで斬馬刀の振り下ろしを紙一重で回避する。地面にぶつかった斬馬刀による衝撃波を至近距離で浴びつつ金砕棒を背中に持っていくと右から左へ薙ぎ払った。

 

「ぎっ! いぃぃっ!?」

「うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 金砕棒は教業の頭部に当たり、左側半分を叩き潰して見せた。しかし、にも関わらず教業はまるで最後の力を振り絞らんとばかりに斬馬刀を手放し、両腕で存保の首を絞め始める。

 

「が、ああぁぁぁぁっ!!!」

「っ! しつこい奴だ、な!」

 

 教業の最後のあがきと言わんばかりに剛力で締め上げられ、激痛が走る中存保は意識を集中させて金砕棒を振り上げると一気に教業の頭部に振り下ろした。

 

「これでも、食らってろぉぉっ!!!」

「っ!!!!!」

 

 存保の渾身の一撃は教業の頭を完全につぶし、彼女を絶命させる。首を失った肉体から力が抜けつつもピクピクと肉体を振るわせてその場に崩れ落ちる。

 

「の、教業さまが……!」

「っ! 十河様が敵将を討ち取ったぞ!」

「鬼退治だ! 存保さまが丹波の青鬼を討ち取ったぞ!」

「勝利だ! 俺たちの勝利だ!」

 

 教業が討ち取られる様を見ていた足軽たちが一斉に声を上げる。同時に波多野軍の足軽はこの世の終わりともとれる絶望の表情を浮かべていた。そこを突くように三好家の攻撃が激しくなっていき、戦況は一気に三好家有利に傾きつつあった。しかし、それと同時に首に後が残るほどの力で締め付けられた存保も荒く息を吐きながらその場に膝をつく。彼も戦闘に加われるだけの力が残されていなかったのだ。

 

「くそ……。首もそうだが足もいてぇ……」

 

 斬馬刀の衝撃波を諸に浴びる形となった左足は罅でも入ったのか動かせば激痛が走る。これ以上の戦闘どころか行軍さえ難しいほどの怪我であった。しかし、その代償として初陣ながら一番の手柄を上げたといっても過言ではなかった。

 

「存保さま! ご無事ですか!」

 

 ようやく、戦闘が収まり近くに駆け寄ることが出来た足軽たちが存保の元に駆け寄っていく。教業が討ち取られたことで波多野軍の士気は下がっているようで形勢は完全に三好家に有利な状況となっていた。

 それを攻め時と見た義継が声を張り上げながら攻めるように命令を出している。傷一つ負っていない叔父とも義理の兄ともいえる自らの当主に安堵の息を吐くと足軽たちの方に向き直った。

 

「戦闘はできそうにないが大事はない。だが、少し肩を貸してくれ」

「わかりました」

 

 二人の足軽に支えられながら存保は自軍の様子を見る。教業という最大級の敵がいなくなったことで士気は最高潮に達しており、このままいけば順当に勝てるだろう状況となっていた。

 

「それを成したのが俺か。……ハハ、ここまで気持ちいいものなんだな」

 

 存保は敵将を討ち取ったという事実をかみしめながら戦場から離脱するのだった。

 

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