三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第肆拾参話「丹波侵攻・陸」

「これは、まずいかも」

 

 赤井直正は士気高い三好軍を前に眉をひそめながらそうつぶやいた。そう呟きながらも槍で雨のごとく素早い突きを放っており、三好家の足軽たちが一方的に討ち取られていた。しかし、それでも直正に殺到する足軽たちにキリがないと言わざるを得ない状況だった。連れてきた5百の兵は半数近くが地に伏せ、生き残った者たちも傷だらけで肩で息をするありさまだった。そして周りにはその倍以上の三好家の兵が倒れているがもともとの兵力差故にあまり意味はなかった。

 

「敵将、来ない……」

 

 直正の前に三好家の将は一人も現れなかった。それは赤井直正が奇襲を仕掛けた部隊である三好政康や、その後方にいた畿内衆に至るまで。直正を警戒しているのが明白だったが彼女は戦場で槍を振るう以外に方法がなかった。

 

「……逃げる、べき?」

 

 政康は正面から出てきた丹波軍を迎撃に出ており、離れている。政康を討ち取り、敵部隊を瓦解させることができない以上このまま戦っても意味はないだろう。直正が撤退を考え始めていると隣で戦っている波多野軍の伝令兵がやってくる。

 

「直正殿に報告します! 波多野家家臣、籾井教業様討ち死に! 殿は撤退を決断されました!」

「……ん。了解した。私が殿を務めるからさっさと逃げて」

「はっ!」

 

 丹波の青鬼と恐れられた人物の討ち死には波多野軍を大きく混乱させる原因となっているだろう。ならば無事に撤退させるには自分が戦場に残った方がいい。そう判断した直正は一層槍を振るう力を強めていく。自分に敵の視線をすべてひきつけるように。

 

「は、ふ」

 

 軽く息を吐きながら槍を放てば三好家の足軽が死んでいく。近づけば近づくほど、殺そうとすればするほど死んでいく。まさに剛勇無双という言葉がふさわしい活躍だった。

 

「くっ! 何をしている! 敵は逃げているのだ! 追いかけて殺せ!」

 

 畿内衆の一人、三宅国村がそう叫んで足軽を鼓舞するが次の瞬間、直正が近くに落ちていた槍を投擲し、国村の頭部を貫いた。一瞬のことで国村も何が起こったのかわからないまま死んでいき、周りの兵たちも数秒遅れて事態を把握。指揮官の死亡に混乱し、一気に浮き出す事態となった。

 

「今のうちに逃げる」

 

 直正はそのすきを突く形で撤退を開始する。直正はまだ知らないが波多野軍以外で無事に撤退できた丹波軍はいなかった。波多野・赤井軍の奇襲に気づいた本隊が左右に分かれて攻撃したがもともと兵力差があったために松永久秀が率いる右翼側は返り討ちにして叩き潰し、左翼に攻撃を仕掛けてきた部隊も政康自らが先頭に立って攻撃を始めたためにあっけなく瓦解しており、部隊として残っているのは赤井直正が率いる2百程度の兵のみだった。

 

「っ! 追え! 赤井直正を討ち取るのだ!」

「三宅殿の仇を盗るのだ!」

 

 当然ながら直正の撤退を静観するほど三好家は甘くはない。畿内衆を中心にすぐに追撃が始まった。前線にいた三宅兵が混乱から立ち直れずに邪魔となっているがそれが気にならないように左右からも兵があふれて赤井軍を攻撃する。

 

「ん」

「がっ!」

 

 直正はそんな中で兵の後ろに立ち、背中から迫ってくる畿内衆を次々と返り討ちにしていく。劣勢の中にあって直正だけは足軽相手に優勢を保っていた。そして、それを覆す力を三好家は保有していなかった。

 

「おのれ……! 赤鬼を逃すとは……! 追え! 絶対に逃がすな!」

 

 畿内衆を中心に三好家は追撃の姿勢をとるが途中、直正のゲリラ戦を受けて撤退を余儀なくされることになる。この戦いにおいて三好家は内藤某を始め多くの丹波の将を討ち取り、丹波の外周部を領有するに至った。そして、三好家は兵の損失こそ多いものの将の討ち死にはなかった。三好家は長慶の代より苦しめられてきた丹波に対して確かな一撃を与えることに成功したのである。

 

「今後丹波の攻略は松永久秀に任せるものとする。久秀ならば丹波の地理に詳しいからな」

 

 そして、馬堀城に入城した義継は今後の丹波攻略を松永久秀に任せた。松永久秀が丹波の攻略をしていた時期には劣勢でこそあったが丹波相手に戦えていたからだ。現在の三好家はかつてよりも力を増し、使える人員も兵も物資も増えている。さらに丹波の青鬼こと籾井教業他、幾人もの武将を討ち取る事に成功し、丹波の力を削ぐことに成功している。ここまで揃っていれば近いうちに丹波を攻略することが出来るだろう。

 

「さて、播磨はどうなっているのやら……」

「申し上げます! 播磨方面より伝令です!」

「丁度いいころ合いだったな。それで? 状況はどうなっている?」

「はっ! それが……」

 

 そして、伝令兵がもたらした播磨戦線の様子に義継は驚きで目を見開く。それは周りにいる家臣たちも同じであり、だれもが予想していなかったことが起こっていた。

 

-播磨征伐軍が播磨中東部を占領するも赤松家の奇襲を受け敗走。

-黒田官兵衛及び武田信顕以下数名の武将が捕縛される。

-隣国の宇喜多家が赤松家を奇襲。官兵衛等を救出する。

 

 花を芽吹かせるのに必要ない枝は剪定される。全ては大輪の花を開かせるために。

 

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