播磨国に入った征伐軍は大した妨害を受けることなく別所家の居城である三木城にたどり着き、包囲した。しかし、三木城は播磨国最大の城であり、現状の兵で囲むのも城攻めをするのも兵が足りなかった。そのために、城門周りを厳重に包囲し、さらに外からの攻撃に備えるような陣形を取っていた。
「別所家は予想通り籠城をするつもりのようだ。大方、三木城の堅牢さを生かして籠城でこちらをくぎ付けにして別所家に従う豪族に背後から攻撃させる、といったところだろう」
本陣にて軍議を開いた官兵衛は別所家の行動指針を正確に見抜いて見せた。とはいえ三木城の堅牢さと両家の力の差を考えれば妥当ともいえる行動ではあったが。
「三木城には5千には届かない兵がいる。最低でも4千はいるはずだ。そこに加えて背後を取ってきそうな豪族達の総兵力も5千が限界だ」
「合計1万……。こちらよりも数は少ないわけね」
「だが攻城戦なり包囲するなりする以上割ける兵は限られている。こちらが優勢と考えるのは危険じゃ」
東播磨にて勢力を築き上げた別所家が相手である以上楽になるとは考えていない。むろん、それも義継が用意した策があれば別であったが。
「別所家は近年当主が長治という年若い人物に代替わりしたばかりで叔父と叔母に当たる吉親と重宗が後見人となっているらしい。そしてこの両者は驚くほどに仲が悪い!」
「吉親はあくまで独立勢力として別所家を残したいと考えている。一方の重宗は大勢力の配下に入り別所家を残したいと考えている、だよね?」
「シム! つまり、後見人が対立している別所家にはつけ入る隙があるわけだ! 実際、義継様はそこをついて前々より重宗の引き抜き工作をしていたみたいだからね。そして今回の征伐を受けて城内でこちらに従う意思のある者を連れて城門を開ける手はずになっている」
「三木城は播磨一の堅牢さで知られているがそれも内と外から攻められてはどうしようもないわけか。成功する可能性は高いのか?」
義継がいずれ行われる播磨征伐に向けて播磨の豪族たちに対して調略を行っていた。その一つの成果が別所重宗の寝返りであった。彼女には征伐軍を助けるように通達が言っており、三木城攻めが始まるとともに城門を開く手はずとなっていた。
「可能性は高い! 重宗に同調しているのは最終確認時点で三分の一は確実だった! 多少失敗しても十分に補填はできる数だ!」
「ふむ、確かにそれだけいれば十分ね。それじゃ早速攻めましょうか。あまりもたもたしていては外から救援に現れて余計な損害を出しかねないからね」
「シメオンもそれでいいと思っている」
官兵衛の話を聞き、信顕は早期に決着をつけることを選んだ。ほぼ価値が決まっている以上下手に時間をかける必要はない。むしろさっさと落とすことによって兵糧の消費を抑えつつ電撃的に攻め入ることが出来ると判断したからだ。これにはほかの諸将も賛成し、明日にでも城攻めが行われることとなった。
とはいえそれに対して毛利両川などの一部の将はこの動きに不安を覚えていた。総大将としては経験不足な信顕とどこか策としてみるには欠点が多い官兵衛の二人が兵を引っ張っているがまるで一気に下り坂を駆け下りているかのような勢い任せな部分があった。毛利両川はその結果躓き、大きく転倒するような事態にならないことを祈りつつ明日の城攻めに備えるのだった。
宇喜多を挟み撃ちにするべく西播磨に侵入した山中鹿之助は最低限の城を落としながら南下を続けていた。あくまで播磨は宇喜多の逃げ道をふさぐための侵攻であり、領土拡大ではないためそれが果たせる城を抑えることに注力を注ぐことにしたのだ。
そして、その一つである赤松家が領有する上月城を視野に入れた鹿之助は即座に城攻めを開始した。城攻めの準備さえ出来ていない、そして上月城も籠城の準備が出来ていない、お互いにとって予想外の攻城戦が突如として始まったのである。
「兵たちよ! 上月城はまだ籠城の準備が出来ていない! 城門は開き、守る兵すら不足している状況だ! 今こそ城を奪い取る好機! 私に続け!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
鹿之助は突然のことに混乱し、まともに抵抗すらできない守備兵たちを薙ぎ払いながら開ききった城門を潜り、上月城に入城した。そんな彼女に続き5千の尼子兵が続き、城を守らんと動き出した兵士たちを討ち取っていく。
「抵抗しない者は殺すな! 捕らえる者は武将に留めよ! 下手に捕虜を増やす必要はない! 足軽は逃がせ!」
鹿之助の迅速な行動と指揮によって上月城は一刻も持たずに落城した。城主を務めていた赤松家家臣は捕らえられ城内の牢獄に幽閉される形となった。
「赤松家は西播磨に影響力を持つ大名家だ。すぐにでも軍勢が城を取り返しに来るぞ! 迎え撃つ準備をせよ!」
鹿之助は上月城を播磨における拠点として定め、同地の守りを固めながら赤松家の動きに注意を払ったが鹿之助が危惧した軍勢が現れることはついになかった。代わりに、上月城にとある男が姿を見せ鹿之助に謁見を求めることとなった。
そして、この男の動きが後に播磨征伐軍の命運を決めることとなるがそのことをまだ誰も理解している者はいないのであった。