三好義継の野望・改訂版   作:鈴木颯手

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第玖話「堺」

 唐突だが俺は今堺にいる。長慶の葬儀を終え、時間に余裕が出てきたため一度堺の商人たちに顔を売っておこうと思ったわけだ。

 堺の現状は三好家の保護下にあるがその実態は三好家の統治を受けない独立自由都市といった具合の場所だ。しかし、そのような状態であるがために日ノ本中、いや中華や南蛮からも様々な商人や商品が集まり、それを目当てに人が集まり大繁栄を築いていたのだ。

 更に長慶の時代には手綱を緩めたことと南蛮との交易が始まったことから賑わいは加速。今では堺の商人というだけで一目置かれる場所にまでなっていた。

 そんな場所であるがゆえに三好家の権威はここでは通用しないしするつもりもない。堺はこのままでいい。敵対勢力に対して物資を送って金儲けをする輩もいるだろうがそういったものは別で対処をすればいい。それに、態々武士が支配する必要はないのだ。武士の家臣は武士しかいてはならない、なんて理由はないのだからな。

 

「よう来てくれはりましたね。天王寺屋の津田宗久と申します」

「政康から話は聞いているな? 三好家当主三好義重だ」

 

 俺は堺にあるとある豪商の屋敷にいる。その豪商、津田宗久は天王寺屋という堺でも屈指の人物だ。後に織田信長に協力して堺で権力を手にし、千利休の弟子となり、茶人としても有名になる人物だ。

 そして意外な事に政康はその天王寺屋との交流が深かった。まぁ、軍事物資を買うために使っていた商人が津田宗久だっただけだがな。とはいえ政康の仲介のもと津田宗久とコンタクトを取ることができたんだ。縁というのは意外なところにつながっているもんだと感心するべきだ。

 

「それで? この度はわたくし目になんの御用でしょうか?」

「単刀直入に言わせてもらおう。三好家専門の商人になるつもりはないか?」

「三好家の……。それは響きだけなら素晴らしいですなぁ」

 

 提案を言った瞬間から津田宗久の瞳に遠慮や容赦といったものが消える。相手は商人。一歩間違えれば全て持っていかれる。俺は余裕の笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「響きだけではない。きちんとした利もあるぞ」

「それはそれは……。ではまずはわたくしが応じることで得られる利益についてお教え願いますかな?」

「一つ目。今後購入する物資を天王寺屋に絞る。三好家で扱う物資だ。膨大な量になるのは分かるな?」

「そうですな。恐らくお釣りがくるレベルでわたくしも稼げるでしょう。ですが三好家が倒れない保証はないでしょう?」

「その通りだ。とはいえそうならないように購入する物資なんだ。ここは信じてくれとしか言いようがないな」

「ほう? 確証もない信用してくれという言葉ほど信用がないものはありませんよ?」

「それはそうだ。まぁ、この話は即座に決めてくれというわけでもない。今後の三好家の動きを見て決めてくれていい。ただし、この話は天王寺屋以外にもするつもりだ」

「つまり早い物勝ちって事ですな? そしてわたくしは三好家と交流があった為に最初に話を聞くことができたと」

「その通りだ。とはいえここで商人をしている連中は全員一筋縄ではいかない者達ばかり。今回は全員に断られる前提で話をしている」

「つまり長期的に見た提案という事ですな。そして恐らくですが近々大きな事を起こすつもりだと」

「そうだ。具体的なことは言えないがな」

 

 さすがは堺の豪商。言いたいこと、考えている事を先回りしてくる。この調子だと永禄の変についても勘づいてしまいそうだな。

 

「いいでしょう。とりあえずは前向きに検討させてもらいますわ。ですが貴方様の動きを見てからになりますがね」

「それでいいさ。俺としてもその方がありがたい。ああ、それと今回の件とは別にいつも通り政康のもとに物資を送ってくれ。値段は前回の同じでいいか?」

「それについてですが一部物資が手に入りづらくなっていましてね。2割ほど値上がりをさせてもらいますよ」

「2割? 高すぎるのではないか? それなら……」

 

 とりあえず話すべきことは終えた。あとは政康の求める物資を購入し、ほかの豪商に声をかけるだけだ。

 

「こら! 吉! 待ちなさい!」

 

 ふと、後ろから声が聞こえたと思ったら後ろに何かがぶつかる感触がした。

 

「きゃっ!?」

 

 振り返ってみれば可愛い悲鳴を上げて尻もちをつく少女がいた。見ただけでわかる美少女と呼ぶにふさわしい容姿をしており、年としては11、2歳くらいだろう。

 

「申し訳ございません! 吉! あれほど前を見ないとだめだと……!」

「父上! いいでしょ! 堺は初めてなんだから!」

 

 ふむ、この美少女。中々に強気な性格をしているようだ。将来は他者を引っ張る強い女性になりそうだな。だが、この親子はどこかの商人なのか? 着ている服も上等とまではいかないがそれなりにいい物だ。

 

「私の方は大丈夫ですよ。お嬢ちゃん、お父上の言うとおりに前を向いていないと危ないぞ」

「うるさい! おじさんは黙ってて!」

「……」

 

 ……。どうやら強気な性格ではなかったようだ。ただの生意気なクソガキだな。だが、生まれた時から三好家一門の一人だった俺にとっては久しく見ていなかった態度だ。怒る気にはなれないがこの娘の成長の為にも叱る必要はあるだろう。何より俺はおじさんと言われるような歳ではない。そう、まだまだおじさんではないのだ!

 

「……お兄さんだろ? おじさんと言われる程俺は老けてはいないぞ」

「おじさんはおじさんでしょ! あなたには関係ないわ!」

「こ、こら吉!」

「いいんですよ。私はそこまで気にしていませんので。ではお嬢ちゃん。そんな態度をとっていては誰からも好かれる事はないぞ」

「いいわよ! 私を理解できない人なんていらないわ! 私は、私を理解してくれる人と一緒に世界を見て回りたいのよ!」

 

 実に子供らしい、無邪気な夢だ。いささかわがままがすぎるがな。しかし、世界を見て回るか……。そう言い切れる人物が果たしてこの日ノ本にどれだけいるのやら。もし、この娘が大人になり、その夢を持ち続けているのならその時は家臣に欲しい人材だ。

 

「面白い夢だな。……っと、悪いがこの後用事があるんだ。ここらで失礼させてもらうよ。ゆえに最後に一つだけ。もし、その夢を大人になっても持ち続ける事が出来たのならその時は誰でもいい。誰でもいいから信頼し、自分のすべてを預けられる人物を作るんだ。そうすればその人が倒れそうなときに支えてくれる。痛みを分かち合ってくれる」

「……よく、わからないわ」

「ま、すぐには無理だろうさ。だがいずれわかることだ。……ではお二人とも、日ノ本が誇る黄金の自由都市堺をぜひ満喫していってくれ。この地を統治する者として歓迎しよう」

「っ! まさかそなたは……!?」

 

 親の方が何かに気づきそうだった俺は返事も聞かずにその場を後にする。もし、大人になったときに再会できれば俺が信頼し、背中を預けられる存在となってくれるだろうその娘を考えながら。

 




原作だと信奈が堺を訪れたのは10年前とありますがこの作品では6年前にしました。なのでこの少しした後に信秀が死にます
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