神様と僕   作:べろりん

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お散歩

 

 蝉がうるさく鳴く夏の真っ最中。僕こと薫(かおる)は家に引きこもっていた。

 といっても今は夏休み。そして、この田舎に引っ越してきたばかりで友達もいないため、仕方のないことだ。

 そのおかげでずっとゲームをしていても親からは何も言われず、朝に寝て昼に起きるといった自堕落な生活もやり放題!

 

 

 …だった。昨日までは。さすがに見かねた親が、僕のゲームを没収しどこかに隠してしまった。

 まあ10歳の子供がそんな生活をしていたらこうするのは当たり前だ。

 

 

 宿題もなく、やることがない僕は本を読もうとしたが、小説は好きじゃなく、漫画はすべて読み終わっている。

 テレビもつまらないものしかやっていない。そういうことで僕は散歩をすることにした。

 別に僕は外に出るのが嫌いなわけではない。ただそれ以上にゲームが楽しかったせいだ。

 最近のゲームはやりこみ要素が多く、いくら時間があっても足りない。

 そう、つまり僕があんな生活をしていたのは僕ではなくゲームのせいだ!

 

 

 そんなことを考えながら外に出るための準備をする。服はそのままでいいだろう。

 ショルダーバックに携帯、財布、ハンカチなどを入れて、キャップをかぶり、玄関に向かう。

 母に「外に行くの!?」と驚かれたが、そもそもそうせざるを得なくなったのは母のせいだろうと思った。

 適当に返事をし、靴を履く。いざ外に出ようとしたとき、母が「ちょっと待って!」と小走りでやってくる。

 

 

 何事かと思ったが、「これでジュースでも買いなさい。」と千円札をくれた。

 いくら何でも多すぎではなかろうかと思いつつ、もらえるものはもらっておこうと「ありがとう。」と言って財布にしまう。

 ちらりと母を見ると、ハンカチで目をぬぐっていた。どうやらマジ泣きしているらしい。

 なんだ、そんなに僕が家を出るのは珍しいことなのか。なんか少し悔しい。

 そして、今度こそ行ってきますといい、外に出た。

 

 

 くそ暑い。家を出てから十分で後悔した。スマホで気温を見ると、三十三度と表示されていた。

 家に帰ろうかと一瞬思ったが、千円もらった手前さすがにそれはどうなのかと思い、帰るのはやめた。

 最初はぶらぶら歩いて探検でもしようかと思っていたが、今はとにかく涼しいところで休みたい。

 そもそもなぜこんな暑いときに限って風が吹かないのか。冬はいらないくらいに吹くのに。ぶつぶつ言いながらあぜ道を歩く。

 ふと見渡すと視界が畑で満ちる。本当に田舎だ。家がまばらにあるだけであり、店らしきものは一つもない。

 畑には旬の夏野菜が育っていて、とてもおいしそうだ。

 そんなド田舎に都合よく休める場所などあるはずもなく、途方に暮れていた。

 

 

「ん?あそこ…。」

 

 

 山とつながっている森がある。よし、行ってみよう。僕の勝手な偏見だが、森の中は涼しいイメージがある。少し遠いが問題ない。どうせあれ以外に行きたいと思う場所はない。

 引きこもっていたせいかもうすでに重い足を引きずり、森のほうへ向かう。タオルで汗を拭うが、汗は次々と溢れる。そのせいか喉が渇き、水を飲む。

 残りが少なくなってきたため、途中で見つけた自動販売機で何か買うことにした。一応、二本買っておこう。そう思い、スポドリと麦茶を買う。

 山の麓はもうすぐそこまで来ており、「やっとだ。」と安堵した。

 

 

 森の中は涼しく、自然のにおいがする。先ほどよりも蝉の鳴き声がうるさくなったが、そんなことはどうでいい。やっとあの暑さから解放された。帽子を外してバックにしまう。

 今どれくらいたったのだろうと携帯を見ると、森に向かい始めてから三十分がたっていた。

 周りを見るとカブトムシやクワガタがたくさんいた。こんなことなら虫かごとか持ってくればよかった。

 整備されていない道は、ここに人が来ないことを示しているかのように見え、秘密基地を見つけたかのようにわくわくさせてくれる。

 

 

 森にはロマンがある。この広い中、何かあるのではと思ってしまう。勘に従って進みながら、汗を拭く。

 長く育った雑草が鬱陶しい。長ズボンでも持ってくればよかった。

 腕を蚊に食われ、ぼりぼりと掻く。虫よけスプレーは持参していたが、塗るのを忘れていた。

 今からでも遅くはないと腕や足、首と顔にも吹き付ける。そうすると蚊は寄らなくなり、最初から塗っておけばよかったと少し後悔した。

 

 

 途中で川を見つけた。とても透き通っていて綺麗だ。ここまでの道のりで、足に疲労が溜まっていたので、少し休むことにした。

 靴下を脱ぎ、岩に座って足を川につける。ひんやりとした感触が心地いい。どんどん疲労が取れていく。

 水筒を取り出し、水を飲もうとするが、無くなっていた。少し残念に思いながらお茶を取り出す。蓋を開け、ごくごくと飲む。

 のどの渇きが癒され、生き返るような幸せに包まれた。四分の一ほど飲んだところで飲み口から口を離し、ぷはっと息を吐く。

 ゲームの回復魔法みたいな気分だ。いや、どちらかというとセーブポイントか?まあどっちでもいいか。

 疲れが取れ、どっと眠くなってしまう。しかし、こんなところで眠ってしまうのはいけないと思い、川から足を出す。靴下と靴を履き、バックをもって出発した。

 

 

 蜂の羽音がブンブンと聞こえる。どうやら近くにいるようだ。せめてスズメバチではないようにと祈る。

 しかし、真正面にそれは現れる。幸いミツバチのようだが、蜂には変わりない。

 昔、蜂に刺されたことがあり、それが若干トラウマになっているため、別の道を行こうか迷ったが、自分の勘はこっちに神社があると言っている。

 細心の注意を払い、そっと歩く。

 目の前に蜂が来て、ひやりとしたが、刺激しないようにすれば大丈夫だ。

 ミツバチは温厚なので、怒らせなければ刺されない。もう二度と刺されないためにしっかりと調べたのだ。

 いったん止まり、蜂が通り過ぎるのを待つ。怖くて少し息が荒くなったが、蜂は巣に戻っていった。

 ほっと息をつき、再び行く当てもなく適当に歩く。

 

 

 疲れてしまい、もう帰ろうと思ったが、帰り道が分からないことに気づいた。どうやら迷ってしまったようだ。

 だんだん焦りはじめ、額に汗が浮かぶ。しかし家を早く出たおかげか、まだ日は高い。今ならなんとかなるだろう。

 はぁとため息をつき、思わずがっくりとうなだれてしまう。すると、足元に石畳のようなものが見えた。 

 なぜ整備されていない森にこんなものがあるのかと気になり、その上を歩いていく。

 少し歩くと、石畳が右に曲がっていた。視界の端に何かが見える。何だろうと思い右を向くと、そこには石造りの鳥居が立っていた。

 

 

「まじか…。」

 

 

 口を大きく開けて驚愕する。そして、なんでこんなところにあるんだろうと疑問に思った。

 鳥居をくぐる。すると、古ぼけた神社があった。

 小さいながらも荘厳で、神秘的な雰囲気に思わず息をのんでしまう。木造の社殿は、汚れてはいるが腐ってはいないようだ。

 右には屋根付きの井戸のようなものがある。石の井戸は、苔がびっしり生えている。屋根は壊れ、倒れているが、身を乗り出して耳を澄ますと水の音が聞こえる。井戸はまだ使えそうだ。

 社殿の裏には立派な大樹がそびえたっている。縄が巻かれているのを見るに、どうやら御神木のようだ。

 とても太く、苔が全体に生えている。樹齢百年はあるのではないだろうか。そっと触れてみると、何か力を感じる気がする。いや、気のせいだ。

 社殿はいつから掃除されていないのか、黒くすすけている。賽銭箱らしきものが扉の前に置いてある。こちらも黒くすすけており、のぞいてみると、中も同様に汚れていた。

 社殿の手前には狛犬が二体並んでいる。これには全体に苔が生えていた。

 

 

 全体的に汚い。長年掃除されていないのだろう。ここに来たのも何かの縁だ、せっかくなので掃除をしよう。自分でもよくわからないが、たまに変なやる気が起こることがある。つまり気まぐれだ。なにか道具はないかと探してみると、井戸の近くで竹ぼうきを見つけた。

 布類はなかったので、持参したタオルを使おう。汗が染み込んでいるが、どうせ今ある物だけでは完璧に綺麗にすることはできないのだ。また道具を持ってきて次来るときにしっかりやることにしよう。

 まあここに来れたのは偶然なのでまた来るかはわからないが。

 

 

 早速掃除をしよう。まずは社殿だ。社殿は水拭きすれば十分落ちるだろう。そう思い、井戸に向かう。しかし、先ほど見た通り井戸も汚れている。どうせ井戸もいずれ掃除するつもりだったので、先に井戸からやることにした。井戸から水を汲み、タオルを浸ける。タオルをぎゅっと絞り、水を出す。四つ折りにして、苔の生えているところをごしごしと拭っていく。大体の汚れは取れ、ひとまずこれで十分だろうと立ち上がり、次は何をやろうと考える。

 

 

 次は狛犬を掃除することにした。苔を拭う感触が気持ち悪かったので、先に終わらせてしまいたいからだ。

 狛犬に生えている苔をタオルで拭う。ぬめっとした感触がタオル越しに伝わって気持ち悪い。井戸で何度も触ったが、まだ慣れない。拭ったところを見ると、表面の苔は取れているが、根っこまでは除去できていない。これは仕方がないことだ。井戸と同じくとりあえず表面だけでも綺麗にしよう。背伸びをしながら、拭っていく。タオルはあとでまた必要なので井戸を掃除した時に使用した範囲を使うようにする。少し時間がかかったが、台座まで拭き終わった。ふぅと息をつき、満足げな表情をする。

 

 

 鳥居もやっておこう。鳥居にも苔が生えている。さすがに上は届かないが、支柱ならできる。濡らしたタオルで拭う。範囲が狭く、形もやりやすかったのですぐ終わったが、上と下の拭っていない部分と拭った部分で色が見事に分かれてしまい、これはやらないほうがよかったのではないかと思った。

 

 

 ついに社殿の掃除だ。ここまでで結構時間がたってしまっている。まだ明るいが、暗くなってしまうと帰れなくなるから早めに終わらせたい。だが手を抜く気は一切ない。これだけ時間をかけて最後に適当というのはもやもやする。

 まず壁の部分を拭いた。少し拭いただけでタオルが真っ黒になった。井戸で汲んだ水ですすぎ、汚れを落とす。それを繰り返し、縁側や階段、賽銭箱まで終わらせた。しかし、いくら小さい社殿といっても僕の身長じゃ届かない場所もある。当然屋根もできていない。

 諦めて終わりにするかと思った時、縁側の手すりにはしごが立てかけられているのを見つけた。

 さっきその場所を掃除したときはなかったので軽く恐怖する。誰かいるのかと周りをきょろきょろと見渡すが、誰もいない。掃除に集中していたせいかもしれないが物音も一切聞こえなかった。

 絶対にありえないが見逃していたのだと自分に言い聞かせ、無理やり納得した。

 

 

 はしごを見つけ、上のほうも掃除できるようになった。怖い出来事があったがそれはそれだ。早速設置して掃除を再開する。壁の上の方をタオルでごしごし拭き、手が届く範囲が終わったらいったん降りてはしごを移動させる。

 はしご見つけてラッキーとか思っていたが、正直かなり面倒くさい。家に帰ってゲーム出来たらどれだけ幸せなことか。しかも無理に遠くを拭こうとするとはしごが倒れそうになるため時間がかかる。ぼけーっとそんなことを考えていたら壁の掃除はいつの間にか終わっていた。

 

 

 お茶を飲んで一息つくが、まだ面倒なのが残っている。屋根だ。はしごを使えば届きはするが、老朽化しているため屋根の上に乗れるかは微妙だ。乗れたら楽になるが、乗れなかったらまたいちいちはしごを移動させないといけない。

 はしごを設置してのぼり、恐る恐る片足を屋根にのせる。少し力を入れてみるが、崩れない。いけると判断し、一部分を拭いて足場を作り、そこに乗った。ぎしぎしと言っているが、崩れはしなさそうだ。念のため、慎重に移動しながら掃除する。タオルが汚れてきたので、降りて水ですすぐ。それを三往復したら屋根は綺麗になった。

 ついでに鳥居の上もはしごを使って綺麗にして、最後に社殿に続く石畳をほうきで履いて完了だ。

 

 

 やっと掃除が終わった。鳥居から綺麗になった神社を一望し、満足する。腕時計を見ると神社についてから二時間以上が経過していた。夕焼けが辺りを鮮やかなオレンジ色に染めている。

 さすがにもう帰ろうと振り返ったが、ぴたりと歩みを止めた。さっきから一つ気になっていたことがあるのだ。社殿の中はどうなっているのだろうと。

 多分検索すればわかるのだろうが、実物を見てみたい。今までは管理している人がいたから確かめられなかったが、まさかここにはいないだろう。いたとしても今は自分一人しかいない。見たところでばれることはないはずだ。

 罰当たりだとも考えたが、こんなに綺麗にしたんだ。神様だって許してくれるさ。そう思い、開けることにした。

 ゆっくりと社殿に近づき、階段を上って引き戸の前に立つ。今更緊張してきた。祟られたらどうしようと思ってしまう。しかしもう止まれない。好奇心は最高潮に達していた。堂々と開けよう。中に何があっても、堂々と。意を決して、引き戸を開けた。

 

 

 するとそこには紺色の甚平を着た、同い年くらいの子供が正座で座っていた。肌は透き通るほど白く綺麗で、顔は見たことがないくらい整っている。少しくせ毛で、後ろで一つ結びにされた白髪は床につくまで伸びていた。

 少年とも少女とも取れない美しいその子供は、手を広げ、笑顔でこう言った。

 

 

「ようこそ!」

 

 

 パァン!と引き戸を勢いよく閉める。神棚があるかなくらいに思っていたのに、まさか人がいるなんて誰が想像できるだろうか。見なかったことにしてとっとと帰ろう。

 そう思い振り返ったが、辺りの光景が何やらおかしかった。空と大地が赤黒い。一面に生えていた木も同様に赤黒く染まっている。まるで地獄のようだ。引き戸を開ける前までは空も、大地も、自然も確かに鮮やかな色合いだった。一体何が起こったんだ?

 脳を限界まで稼働し、あらゆる可能性を模索する。

 

 

「いきなり閉めるなんてひどいよ、もう。」

 

 

 不可解な出来事について考えていると、さっきの子供ががらりと引き戸を開け、真後ろに立っていた。いきなりだったため驚いてしまい、ひゃっと情けない声をあげて、前に跳んだ。跳んだ先が階段だったため、躓いてしまったが、なんとか転ばずに地面まで降りることができた。

 体制を整え、子供の方を向き、相対する。

 さっきは驚きのあまり考えていなかったが、なんなんだ、この子は。自分も言えたことではないが何故こんなところにいる?しかもおそらく僕よりも先にいたのだ。集中していたとはいえ、誰かが来たらさすがに物音で気づくはずだ。

 多すぎる情報を処理できず、混乱していたとき、その子供が口を開いた。

 

 

「改めて地獄へようこそ!歓迎するよ!僕は君たちがいう神様ってやつさ。よろしくね!」

 

 

「はぁ?」

 

 

 あまりにも意味不明で、突拍子のないことを言われ、僕はさらに混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 社殿は神社境内の主要な建物のことです。
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