ソードアート・オンライン・アゲイン ∼今度こそ君を……∼ 作:八鍵 嘯
「わいはキバオウってもんや。こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや。これまでに死んでった千六百人に!」
瞬間、辺りの聴衆四十数人のざわめきがぴたりとやんだ。
「キバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり、元ベータテスターたちのこと、かな」
「決まっとるやろ。ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に始まりの街から消えよった。右も左も判らんビギナーらを見捨てて、自分らだけぽんぽん強うなってその後もずーっと知らんぷりや。こん中にもおるはずやで。そいつらに土下座さして、こん作戦のために溜め込んだ金やアイテムを軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれん!」
「発言、いいか」
そこに現れたのは《エギル》。バリトン声のスキンヘッドで、背中に
「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたが言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償をしろ、ということだな?」
「そ……そうや」
一瞬気圧されながらも、その爛々と光る小さな眼でエギルを睨み付ける。
「そうは言うがな、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」
そういって取り出したのは羊皮紙でできた簡易的な本。表紙には丸い耳とその特徴的なおヒゲが描かれた《鼠マーク》。そう、情報屋である鼠のアルゴ謹製の攻略本だ。
「このガイドブック。あんただって貰っただろう。ホルンカとかメダイの道具屋で無料配布しているんだからな」
「貰たで。それが何や」
それがなんなんだ、と言わんばかりに叫ぶキバオウ。
「このガイド、オレが新しい村や町に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだっただろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのか?」
「早かったから何やっちゅうんや!」
「こいつに載ってるデータを情報屋に提供したのは元ベータテスター以外に有り得ないってことだ」
途端、自体を見ていたプレイヤー達が一斉にざわめく。キバオウは押し黙り、その後ろのディアベルはなるほどと頷いていた。そしてよく見れば、集まったプレイヤーの内の幾人かに、ほかの人とは違う反応の人が見えた。
「いいか、情報はあった。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。オレはその理由は、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだと考えている。彼らはこれまでのタイトルと同じでこのSAOを計り、引くべきポイントを見誤ったんだ。そして同じ理由で、これまでの死者の中で、元ベータテスターは大きな割合を占めていると思われる」
ん? と、俺は少し頭をひねる。
既に体感時間では数年も前の事だったが、前回のこの攻略会議の事はよく覚えている。キバオウが元テスターを糾弾し、それをエギルが止めるというこの状況は限りなく前回と同じと言っていいだろう。しかし、あの時エギルはベータテスターの死亡率についてまで何か言っていただろうか?
いや、それはない。あの時、俺は直前にアルゴに頼んだ元ベータテスターの死亡者数の予測値の結果、一か月で約300人という結果を知っており、それを叫びたい衝動を抑えて、結局会議では元テスターの死亡率の話は出てこなかった記憶がある。
つまり、今のエギルの発言は前回のSAOとは異なる、俺の知らない事象。
「今はそんなことを追及している場合じゃないだろ。オレはこの会議の行方によって、俺たち自身が今後彼らのようになるかどうかが決まると思っているんだがな」
彼らの話は既に収束へと向かっているようだ。
だが、俺の思考は別な方向へと向かっていた。
「キバオウさん。君の言いたいことは分かる。だけど、そこのエギルさんが言うように、今は前を見る時だろ? 元テスターという戦力は、ボス攻略のために必要不可欠なんだ。彼らを排除して失敗したら、それこそ何の意味もないじゃないか」
ディアベルが話を纏めるため、キバオウに語り掛ける中、俺は自身の思考にのめりこんで行く。
俺の知らないSAO。前回とは違う世界。
俺はこの二度目のSAOで、全てがやり直せる、みんな上手くやればもっと多くの人が助けられると思っていた。でも、もしこの世界が前回とは違うものだとしたら、俺の持つアドバンテージは消える。俺が前回の記憶と知識で行動していたら、どこかで致命的な間違いを起こすかもしれない。
「……ここではあんさんに従うたる。その代り、ボス戦終わったら、キッチリ白黒つけさせてもらうで」
辺りでは、事態が収束して攻略会議が再開される中、俺はそんな未知への恐怖を覚えた。
第五目標:ボス攻略会議でのキバオウの一件の収拾(必要不可)
作者は今月末に入試がありますので、次回の投稿は九月になると思われます。