ソードアート・オンライン・アゲイン ∼今度こそ君を……∼ 作:八鍵 嘯
現在地、トールバーナ東部の小さな牧草地にある農家。その二階。つまり、俺が借りている部屋だ。
「見た通り、あそこが風呂場だ」
「え……あ、うん」
そして俺の隣には、何故かアスナが……
実は先日、アスナのレイピアを選ぶために彼女が借りてる宿に行ったときのこと。「せめてお風呂くらいあってもいいと思わない?」と愚痴ってきたアスナに、俺はうっかり自分の借りている部屋に風呂があることを漏らしてしまったのだ。
「あ、そうそう。液体はナーヴギアの苦手分野だから、あんまり期待しすぎるなよ」
「……お湯がたくさんあれば、それ以上なにも望まないわ」
そう言って【Bathroom】とプレートが下がった扉の奥へと消えるアスナを横目に、俺は居間に置かれたソファーに深く座った。
「ちょっと、馴れ馴れしくなってないかな……?」
そう。俺にとってアスナは一度は告白してSAO内とはいえ結婚までした最愛の女性であるが、現在のアスナから見れば俺は一昨日出会ったばかりの
「ま、その時はその時だ。取り敢えずは、そうならないように努力ってことで。それよりも、気になるのが……大切断だな」
大切断。
それは現実世界において、俺たちSAOに囚われた全ての人を病院へと移す際にゲーム内部で起こる一時的回線切断現象が多発した時期のことで、個人差はあれど必ず全てのプレイヤーが経験する筈の出来事である。
だが、今回のSAOにおいては未だその現象が起こったという話を聞かない。現に俺もまだディスコネクション警告を見ていないのだ。そこで、俺はある人に依頼をした。
──コン、コココン
噂をすれば、だ。
俺は廊下へと面したドアを開ける。
そこに立っていたのは、防具はを布と革のみで、武器には小型のクローと投げ針の、メーキャップアイテムで描かれた三本ヒゲも相まって齧歯類のような風貌をもつ少女(?)。
「こんばんわ。やっと何か分かったのか」
「そうだナ。今回の依頼はとにかく実例が出てこないとどうしようもなかったから、オレっちに文句を言われても困るゾ」
勿論、情報屋・鼠のアルゴである。
「そりゃそうだ。俺だってそんなことで文句を言う程馬鹿じゃないさ。まあ、まずは入って」
アルゴを居間へと通した俺は、部屋の隅に置かれたワゴンで二つのグラスにミルクを注ぎ、片方をアルゴに手渡した。
「キー坊にしては気が利くナ。ひょっとして、眠り毒入りカ?」
「……ありゃあシステム的にプレイヤーには無効だろ。第一、圏内で眠らせたところで何ができるっていうんだ」
そうだナ、と答えるアルゴには秘密だが、俺は眠っている相手の指を使って対戦を挑むことで圏内PKが可能になることを、前回のSAOで知っている。だが、未だ彼らが表に出ていない段階で俺がソレを口にすることは出来ない。
「それで? 実例は現れたんだな」
話を戻した俺に、アルゴも真剣な顔つきになる。
「そういうことだナ。一件目は今日の昼過ぎ、十三時十一分。そこから大体三時間の間にオレっちが確認しただけでも、二百二十三人ものプレイヤーの回線の一時切断が判明したンダ」
「……そう、か」
その報告を聞いて俺は低く唸る。
「どうしたキー坊。なにか問題でもあったのカ?」
ソファーに深く座り、腕を組んで顔を顰めた俺の表情は、よほど深刻そうに見えたようだ。アルゴはいつもの飄々とした態度を崩し、俺の顔を心配そうにのぞき込んできた。
「ああ……いや、そこまで深刻な話ではないんだけどな。依頼前にも説明したが、恐らく現実世界では国が主導してこのSAO事件の対策をしている。この回線切断はその対策の一環で現実世界で俺たちの体を病院や施設に移すためのものだ。いつ現実世界に戻るか分からない俺たちの体を維持するためにはそれしか方法はないからな」
そこで一旦止め、ちらりとアルゴの表情を確認すると、続けナ、とでもいうかのように軽くうなずいてくる。
「でだ。このプレイヤーの体の移動は一斉に行われているだろうから、俺やアルゴも数日以内に回線切断が起こるだろう。そこで問題になるのが……」
「圏外で活動中だった場合、特に明日のボス攻略だナ」
聡いアルゴは俺が何を危惧しているのか気が付いたようだ。
俺は、そのまま一気に話を進めた。
「そ、そうなんだ。もしも、ボス戦中に回線切断なんて起こったら大変なことになるのは目に見てる。そうなると、出来れば攻略参加プレイヤー全員の回線切断が確認できるまで攻略は延期にしたい。すまんが明日のボス攻略前、アルゴのその情報と俺の仮説をディアベルに説明するのについてきてはくれないか?」
「それくらいなら、お安い御用サ」
アルゴはあっさりと了承してくれた。
その後、アルゴと俺は数分話し、何事もなく別れ──られなかった。
帰り際にアルゴが、夜装備に着替えたいから隣の部屋借りるよ、と言ってきたのを何も考えずに了承した俺は馬鹿だ。先ほどは馬鹿を否定したが、俺はやっぱり馬鹿だったらしい。
「きゃあああああああああ!!」
夜のアインクラッドに、アスナの悲鳴が響き渡った。
次回は、早ければ9月14日。遅くても来週中には投稿したいです。