マフィンとアプリコットジャムのおまじない   作:すかすかのタキ

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第3話

アルミタの良いところは、真面目で面倒見が良くて、視野が広くて気が利いて、大抵の事はそつなくさらっとこなせてしまうくらいに器用なとこだ。

けど今は、その長所が悪い方に働いて───

 

つまり、生真面目なあまり物事を色んな方向に深く考えすぎて。

なまじ器用で視野が広いもんだから、自分は見当違いの間違いを犯してるんじゃないか、他にもっといいやり方があるんじゃないかってあれこれ検討しすぎてどんどんネガティブになっていって、遂には自縄自縛に陥ってしまう。

最終決戦ってヤツを前にして、そんなダメな方のアルミタが、今もろに出ちゃっていた。

 

何となく嫌な予感はしてたからこまめに様子は伺ってたんだけど、これは多分過去一でメンタルがマズい事になってるね。あたしの勘は当たってほしくない時に限って絶対当たっちゃうんだよなー、何でだろ?

廊下の窓越しにこっそりと。花壇で土いじりを続けるアルミタを見守りながら、しかめっ面でこめかみを掻く。

 

とにかく2番島へ出立を前にして、あの状態はよろしくない。ならばあたしがやるべき事は決まってる。

アルミタの葛藤なんてなーんも気付いてないおバカな振りしてバーンと庭まで出ていって、その場の思いつきっぽいテキトーなワガママやイタズラをアルミタにバシーッとぶつけて『もー、これだからユーディアはー!』とぷりぷり怒り出すまで振り回しまくって強制的にテンションを前向きな方向に上げてやるのだ。つまりあたしがちょっと痛い目見れば済むだけの簡単なお仕事ってヤツ。

 

やれやれ、めんどーくさい親友を持つと大変だよな。

 

さて、どんな方法でどよどよに沈んだアルミタに怒りの炎を着火してやるか。

かがみ込んで身を隠し、得意の悪知恵をあれやこれやと働かせる。

 

───よし決めた。今夜のイタズラはこういう方針で行こう。

あたしのやる事に余計な迷いは必要ない。おおまかな道筋を考えたなら即実行あるのみだ。

 

…ああ、だけどその前に。

アルミタが今どうなってるか。ちょっと目を離した隙に、さっきよりも迷いが深刻な方へ悪化してはいないだろうかと心配になった。

 

かがみ込んでいた腰を上げる。実行前に念の為と、窓からそっと顔を出し彼女の様子を確認しようとして───

 

小さい頃、遊戯室に行ったらお気に入りのおもちゃを先取りされていて、地団駄を踏んで悔しがった記憶。

何故か今、唐突に。

それにそっくりな熱い激情が、お腹の底から湧き上がっていた。

 

 

え、ちょっと待ってよパニバル先輩、勝手に何やってんの!?

先輩が神出鬼没で妖怪みたいに突然湧いて出てくるのは昔からだけど、どうしてあたしより先にアルミタに話しかけちゃってるのさ!?元気のないアルミタをからかったり励ましたり元気づけたりするのはあたしの役割って決まってるし、あたし以上の適任なんていないんだけど!?真面目で優しいアルミタが怒鳴ったりべちべち叩いてきたり締め付けてきたり、そんな風にうがーって遠慮なく感情的に振る舞えるヤツがあたし以外にいるか?いないだろ!?あたし以上にアルミタを理解してるヤツなんて、この世にいる筈ないだろう!?

妖精倉庫をしばらく離れてたから分かんないのはしょうがないかもしれないけどさ、それでもあたしの断りなくアルミタを横取りするようなマネはしないでくれる!?

もおー!!もおおー!!これだから始末が悪いんだよスーパーマイペース妖精はー!!

パニバル先輩の■■■■■■■!!■■■■■■■■■■■■!!■■■■■■■■■■■して■■■■■■した挙げ句■■■すればいいんだよこの■■■■■■■■■■■■■■ー!!

 

 

覗き見してるのがバレないように。思わず叫んでしまわないように口を手でぎゅっと押さえてはいるけれど、頭の中は濁流みたいに激しくて汚い言葉が流れ続けている。

あーやばい。ナイグラートの前でこんなん口に出したら『美しい公用語のテキスト一時間朗読の刑』を鬼の笑顔で課されそうだなー、あはははははは。

 

冗談めかして思ってみても、心はぐらぐらと茹だったままでちっとも冷めてくれそうにない。

いちいち玄関から回ってなんかいられない。今すぐこの感情のまま直接窓を飛び越えて二人の元に乗り込んでやりたいんだけど──

 

何故だか、それをするのはとんでもなく恥ずかしい。

 

あたしの役目を。アルミタを取られるのは嫌だけど、それを理由に暴れ回るあたしを見られるのは、それ以上にしたくないって感じてる。

 

ああもうちっとも自分が分からない!さっきから何なんだようこの感情は!

アルミタを怒らせて前向きにしてあげる筈だったのに、どうしてあたしがこんな意味分かんない怒りでぐじぐじするハメになっちゃってるのさ!むかつくむかつくパニバル先輩むかつく!

 

ちくしょう。とにかく今は二人が何を話しているのかだけでも確かめておきたい。音を立てないように、最深の注意を払ってそーっとそーっとほんの少しだけ窓を開き───

 

 

───パニバル先輩、今のあたしの聞き間違いじゃないよね?

本気でそれやっちゃうつもりなの?

ごめんなさい、怒りはすっぱり収めました。だからあたしもそいつにご相反させてもらってもよろしいでしょうか?

成功するか、失敗するか!?そのイベント、どっちに転んでもあまりに楽しくて美味しすぎるよ!!

 

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