再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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6/2 前半の内容部分が欠けていましたので、改めて更新しました。


深雪の末路

 深雪が振り向くと、直立している氷の彫像はビキビキと音を立てながら罅が入っていき、そしてガラガラと崩れていく。

 

 凍られていた筈の隆誠は一切の傷を負っていないどころか、平気な顔をしながら、身体に纏わり付いてる残りの氷を手で払っている。

 

「あ~冷たかった。全く、本当に容赦がないな。これじゃ青木さんも命が幾らあっても足らないだろうな」

 

「そ、そんな、どうして……!」

 

 隆誠が全く無傷である為、深雪は狼狽するばかりだった。

 

 今まで『ニブルヘイム』で全身を凍らされた人間(たいしょう)は確実に意識を失い、自力で解く事は絶対に不可能だった。唯一の例外は『分解』や『再成』を使う事が自慢の兄である達也のみだが、魔法師ですらない一般人の隆誠がそれをやるなど誰が予想出来ただろうか。

 

 どんなに有り得ないと否定したところで、目の前にいる存在が実行した以上は認めるしかない。しかし深雪はまだ現実を受け入れるだけの余裕がない状態である為、達也と違って即座に思考を切り替える事が出来ないようだ。

 

 纏わり付いてる氷を一通り振り払い終えたのか、隆誠は深雪の方へ視線を移す。

 

「さて深雪、俺に魔法を使って凍らせたんだ。当然覚悟は出来てるよな?」

 

「ッ!」

 

 ポキポキと指の骨を慣らしながら宣告する隆誠に、深雪は恐怖の余りに後ずさってしまう。

 

「お前には反省をさせる前に、少しばかり教える必要がありそうだ。『痛み』ってヤツを、な」

 

「こ、来ないで下さい!」

 

 足を動かして移動する隆誠を見た深雪は、手にしているCADを起動させようとする。

 

「それ以上近付くと、今度は本気で――なっ!」

 

「本気で、なんだって?」

 

 二人の距離が十メートル近くあって警告した筈なのに、隆誠がいつの間にか接近したどころか、深雪が手にしてるCADを叩き落としていた。

 

 突然の事に深雪はもう既に頭の処理が追い付かない状態に陥っていた。魔法師じゃない筈の男が、どうしてこんな一瞬で自分に接近したのかが全く分からない。

 

 彼が達也と同じく体術を嗜んでいるにしても、自身も九重八雲から武術の手解きを受けてるから、相手がどう動くかをある程度予測出来る筈だった。しかし、向こうの動作が余りにも速過ぎた為、接近された事に気付かれる事なく、こうして手首を掴まれている。

 

 驚愕と同時に硬直している深雪を余所に、隆誠は次の行動に移っていた。彼女の右手首を掴んでいる左手とは別に、空いている右手は握り拳になるよう見せている。

 

「や、止めて……!」

 

「今更遅いんだ、よ!」

 

 殴られると危惧した深雪が恐怖の余りに止めるよう懇願したが、隆誠は聞き入れないどころか彼女の右手首を放した瞬間、顔面目掛けてパンチを繰り出した。

 

 隆誠のパンチは見事に深雪の頬のクリーンヒットして、それを喰らった彼女は軽く吹っ飛び転がっていく。因みに本気でやれば確実に死ぬので、かなり手加減して殴っているのは言うまでもない。

 

 もしこの場に事情を全く知らない第三者が目撃していたら、間違いなく隆誠を非難していただろう。女の子の顔を思いっきり殴った極悪非道な男だと。

 

 加えて、深雪の顔を殴るなど絶対許されない。神秘的な美貌の持ち主である彼女を殴るのは、この世界の人間からすれば、神をも恐れぬ所業だと断言出来る。殴った本人からすれば『それがどうした?』と言い返すだろうが。

 

 だが生憎、隆誠は元々この世界の人間じゃないどころか、別の世界で神として君臨し、人間に転生した異質な存在である。深雪みたいに端整な顔立ちをした美少女など前世(むかし)から見慣れており、殴る事に何の躊躇いもない。嘗て自分に熱烈な求愛と求婚をしてきた絶世の美女と呼ばれる某サキュバスから、苛烈とも言える格闘戦(ころしあい)をした経験が何度もある為に。

 

 彼とて女性、益してや腹違いの妹を殴る事に抵抗はあった。しかし、深雪が逆切れした挙句に平然と魔法で凍らせた為、それが隆誠を殴る決心をさせてしまった。コレは謂わば愚かな行為を犯した深雪の自業自得である。

 

「あ、あああ……! お、お兄様にも、殴られたこと、無かったのに……!」

 

 倒れている深雪は勿論痛みを味わっているが、それを気にしている余裕は無かった。

 

 知っての通り彼女は四葉深夜の娘で、類まれ稀なき美貌と魔法力を持っているだけでなく、次期四葉家当主の最有力候補と謳われている。そんな彼女に暴力を振るう愚か者がいれば、四葉家や分家が真っ先に処刑してもおかしくない。

 

 しかし、深雪はそんな些細な事よりも、この後に帰ってくる達也の事で頭が一杯だった。殴られた頬が腫れあがっている所為で酷い顔になっているのを分かっている。だからこんな状態を敬愛している達也に見られたと考えるだけで、彼女からすれば非常に耐えられない。こんな醜い姿を見せてしまえば失望されてしまうと。

 

「殴られた事も無い、か。達也(あいつ)もつくづく教育が甘いな」

 

「……くっ!」

 

 隆誠の台詞が癇に障ったのか、深雪は途端に起き上がった。殴られた頬が腫れ上がって変形した訳ではないが、今の彼女は般若の如き形相をしていた。同時に途轍もない殺気が籠った目で睨んでおり、達也が見たら目を見開くこと間違いないと断言出来る程だ。

 

「貴方だけは、貴方だけは絶対許さない……!」

 

「許さない、か」

 

 深雪が激怒しているのを見ただけで充分に分かる。

 

 けれど、それは彼女だけじゃない。隆誠は冷静な表情だが、内心としては完全に怒っている。

 

 深雪と達也がこれまでの九校戦で派手にやり過ぎた事で頭を痛めただけでなく、ミラージ・バットで飛行魔法を無断使用した所為で、FLT本社にいる両親や社員達に多大な迷惑を被る結果となった。それで隆誠が頭に来ない訳がないのは明白である。

 

「お兄様に醜態を晒そうとするその罪、万死に値します!」

 

「どの口が言ってるんだ……」

 

 ブーメラン発言をしている深雪に隆誠が突っ込むも、当の本人は全く聞いておらず、全身から凄まじい冷気の想子(サイオン)を放出させている。

 

 今度はCADを持っていないにも拘わらず、右手を前に差し出そうとする。

 

(成程、あの魔法を使う気だな)

 

 彼女がCADを使わずに魔法を発動させる仕草を見た事で隆誠は気付いた。系統外・精神干渉魔法『コキュートス』を使う事に。その魔法を受けた者は、精神が凍結され肉体に死を命じることも出来ずに停止・硬直してしまう。

 

 四葉家からすれば機密同然の扱いをされている魔法で、分家の中で爪弾き扱いされている隆誠は当然知らないのだが、当主の真夜より教えられていた。

 

 何故そんな重要な情報を教えたのかと疑問を抱きながら真夜に訊ねたが、当の本人は――

 

『血は繋がらずとも身内なのですから、隆誠さんが知るのは至極当然でしょう』

 

 ――などと心に思ってない回答をされて、結局のところ真実は未だに闇の中である。

 

「最早貴方は、生かしてはおけません! 此処で死んでもらいます!」

 

「面白い、どうせなら全力でやってみろ。ラストチャンスかもしれないぞ」

 

 笑みを浮かべながら挑発する隆誠に、深雪は言われるまでもなくやろうとする。

 

「死になさい!」

 

 差し出した右手から『コキュートス』を発動し、『ニブルヘイム』とは全く異なる冷気が隆誠に襲い掛かる。

 

 その冷気を受けたら最後、隆誠は最早生きていられない。先ほどは身体が凍結していたが、今度は精神(こころ)が凍り付く魔法だから。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 『コキュートス』を使った反動の所為か、深雪はかなり消耗して息が上がっていた。

 

 彼女はとある事情によって能力(ちから)を封印してる状態だが、決して使えない訳ではない。一人の人間に使うだけなら今のままでも充分発動出来るが、隆誠の挑発によって全ての魔法力を使ってしまった為、こうして肩で息をしているのだ。

 

 殆ど全力に近い『コキュートス』である為、冷気に直撃した隆誠は精神が一瞬で凍り付き、直立した姿勢のまま彫像と化している。

 

 そうなったら最後、彼はもう達也がいても助からない。『再成』は死者を蘇らせることはできないのだ。仮にやっても傷の無い死体が出来上がるだけで、死者が生き返ったりしないから。

 

 深雪としても本気で彼を殺す気は最初から無かった。自力で『ニブルヘイム』を解くと言う不測の事態だけでは収まらず、更には自分の顔を殴られて逆上した結果、カッとなって『コキュートス』を使わざるを得なかった。

 

「……後でお兄様に、事情を説明しないと……」

 

 隆誠が死んだ事で、彼の両親は絶対黙っていないかもしれないが、それは深雪の知った事ではなかった。今の彼女はこの後に戻ってくる達也と会う前に、殴られた顔をすぐに戻さなければいけないと考えている為に。

 

「痛っ……貴方が悪いんですよ、隆誠さん。わたしを、こんな目に遭わせたのですから……!」

 

 途端に痛みが走る頬に触れながら、彫像となってる隆誠に向かってそう言った。

 

 冷気が未だに晴れずとも、もう既に死んでいると確信している彼女は――

 

「この(くだり)、さっきもやっただろ?」

 

「!?」

 

「学習しろよ、まったく…」

 

 この場から去ろうとしたのだが、またしても予想外の声を聞いてしまった事に動きを止めた。

 

 漸く覆われていた冷気が晴れると、そこには彫像になっていない無傷の隆誠が呆れるように深雪を見ている。

 

「そ、んな……どうし、て……?」

 

 確実に死んだと思っていた筈の隆誠が生きている事に、深雪は混乱の極みに陥っていた。

 

 『コキュートス』は『ニブルヘイム』と違って精神(こころ)が凍り付いて死に至る筈なのに、受けた本人は生きているどころか何とも無さそうに喋っている。そんな状態である事が有り得ない為、彼女は今まで以上に不可解となっているのだ。

 

 無論、隆誠はこれまで何もせず受けた訳ではない。神の能力(ちから)を使った不可視の膜を全身に纏わせた事で、深雪が放った『ニブルヘイム』や『コキュートス』を防いでいた。この世界の魔法は聖書の神からすれば全く脅威でない為、全力で避けるに値しなかっただけに過ぎない。

 

 それでも万が一の場合を考えた隆誠は防御用として全身に纏わせた膜を、並みの神器(セイクリッド・ギア)を簡単に防ぐほどの出力まで上げていた。他の神々が見れば『用心深すぎるだろう』と呆れられるかもしれないが、元神の隆誠は人間である為に『何かあれば不味いから、用心に越したことはない』と考えている。

 

「さて、と。今まで喧嘩なんてしなかったんだ。ここいらで『兄妹喧嘩』も悪くない、と思ったんだが」

 

「っ!」

 

 またしてもいつの間にか接近した隆誠は、先程と違って右手で深雪の首根っこを掴み、彼女の両足が地面から離れるほど持ち上げていた。

 

 深雪はすぐに抵抗するも、『コキュートス』を使った事で身体が疲弊しているどころか、隆誠から途轍もない殺気を放たれてる事で身が竦んでいる。

 

「あ、あ……」

 

「『殺し合い』となれば話は別だ。尤も、お前にそんな覚悟は微塵も無いだろうが、な」

 

「そんな、ことは……!」

 

 そんな事は無いと深雪は否定したかったが、隆誠の殺気によって最後まで言い切る事が出来なかった。

 

 彼女は三年前、沖縄海戦にて瀕死の重傷を負っていた。その時点で既に助からない状態であったが、達也が『再成』を使った事で一命を取り留めている。

 

 本来だったら深雪は今頃この世にいなかった。だから彼女はある意味一度死んで、再び生を実感する事が出来た為、自分を救ってくれた達也に敬愛と忠誠を誓っているのだ。重度が過ぎたブラザーコンプレックスを患う結果になってしまったが、そこは隆誠が知る由もない。

 

「まぁどちらにしろ、お前が死ぬことに変わりはない」

 

「……………」

 

 隆誠の殺気が更に膨れ上がった事で、深雪は最早言葉が出なくなっていた。それどころか恐怖の余りに両眼から涙が流れている。

 

「深雪、達也に何か言い残す事があるなら聞いておくぞ」

 

 隆誠は勿論深雪の涙を目にしてるが、全く気にしないようにそう言い放った。

 

 その台詞を聞いた瞬間に深雪は悟った。此処で隆誠に殺されてしまうのだと。

 

「お兄様……申し、訳……ありません……」

 

 深雪は以前から達也にこう警告されていた。『決して義兄さんに手を出さないように』と。

 

 それを聞いて全く不可解に思いながら敢えて了承していたが、それが今になって漸く理解した。目の前にいる男は達也が一番に警戒している危険な存在であったことに。

 

 だが、今更気付いたところでもう遅い。自分はこの男の手によって殺されてしまい、その屍を達也の前で晒す事になってしまうのだから。

 

 そして隆誠が――

 

「じゃあな」

 

「ッ!!!!」

 

 別れの言葉を告げた直後、深雪は突然腹部を何かに貫かれたような強烈な激痛が襲い掛かった事で意識を失ってしまった。




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