再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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戻ってきた達也

(あれは化成体……いや、違う。その程度の存在じゃない)

 

 フェンによって片腕を噛み千切られたにも拘わらず、達也は冷静に分析していた。普通なら予想外の襲撃を受けて恐怖してもおかしくないのだが、彼は全く正反対の反応を示している。

 

 否、寧ろこのお陰で冷静に戻れたと言った方が正しいだろう。先程までの達也は頭に血が上っていて、隆誠を殺す事しか考えていなかったから。

 

 深雪が辛うじて生きている事が分かっていても、大事な妹を手に掛けた時点で隆誠を抹殺しようと決意している。そして『分解』が命中する射程距離に届いてすぐに『トライデント』で狙いを定めて撃ったが、何故か防がれていた。普段の達也であれば、情報強化の防壁以外の何かで防がれたと分かった時点で動きを止めている筈なのだ。同時に警戒もするのだが、怒りと殺意による感情を優先してしまった所為で、隆誠の影から出現した巨大狼犬型の神造精霊獣フェンに片腕を噛み千切られてしまう結果になった。それによって達也は急速に感情が冷めていき、迂闊な行動をしていた事に漸く気付いたのだ。尤も、隆誠に対する怒りと殺意は完全に消えてはいないが。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 主に仇なす敵の片腕を噛み千切ったフェンは一旦距離を取り、浮いたまま(・・・・・)対峙する形となっていた。達也はそれを見た時点で、あの獣は化成体と思わしき存在と認識している。

 

 化成体とは、霊的エネルギーを可視化させたもの。想子(サイオン)の塊を土台に幻影魔法で姿を作り、物質に干渉する加重、加速、移動魔法などで肉体を持っているかのように見せる古式魔法の一種でもある。

 

(一体どういう事だ? 義兄さんに魔法の素質は一切無かったはず……)

 

 片腕を失ってる達也は激痛に耐えながらも、一切表情(かお)に出さずフェンを注視している。

 

 自分と対峙してる狼犬が義兄の影から出現した時点で、下にいる司波隆誠は魔法師だと決定付ける何より証拠となる。のだが、それでも達也の疑問は拭えない。それどころか、何故彼があの化成体らしき狼犬を使役させているのかが全く分からないから。

 

 以前より精霊の眼(エレメンタル・サイト)を使って調べた際、義兄(あに)には想子(サイオン)を大して保有してないどころか、魔法因子が何一つ存在しない一般人と判明していた。しかし、それはもう既に捨て去って『自分(たつや)と深雪を害する危険な存在』となっている。

 

(だが、今はそんな事よりも……!)

 

 達也としては深雪の安否が最優先だった。今も仰向けになって倒れている彼女の元へ向かいたいのだが、目の前にいる狼犬が今も唸り声で威嚇している。下手に動こうとすれば再度襲い掛かってくるだろうし、アレが口に咥えてる自分の片腕には拳銃型CAD『トライデント』が握られ実質奪われている状態だった。

 

 エイドスの変更履歴を最大で24時間遡り、外的な要因により損傷を受ける前のエイドスをフルコピー出来る『再成』を使えば、狼犬に咥えられている片腕と『トライデント』を取り戻す事が可能だ。けれど武器が自分の手元に戻ってきたところで、不利な状況である事に変わりはない。目の前にいる狼犬に『分解』が通用しないから。

 

 達也の扱う『分解』は他の魔法師と異なっている。物体を持つモノに作用する魔法だけでなく、精霊の眼(エレメンタル・サイト)で情報を認識できなければ充分に使うことはできない。

 

 フェンは神造精霊獣で異世界による神の能力(ちから)で作られた存在である為、そんな情報が一切無い達也が認識出来ないのは無理もないと言えよう。尤も、例え知ったところで今の達也に対処する術は持たないが。

 

 他にも動けない理由として、倒れている深雪の近くに隆誠がいる。フェンに襲われるのを覚悟で片腕と『トライデント』を取り戻しても、彼に分解魔法が通用しないから。今もどうやって防いだのかは分からなく、飛行魔法を維持したまま硬直しており、目の前にいるフェンと下にいる隆誠の出方を伺うしかなかった。

 

「フェン、今すぐ降りてこい」

 

「!」

 

 すると、下にいる隆誠が低い声でそう言った。名指しされたフェンは先ほど自分を威嚇していたのとは一変し、途端に怯えるどころか、言われたまま真下へゆっくり降りていく。

 

 予想外の流れに達也が思わず指示を出した彼へ視線を向けるも、当の本人は全く気にせず降りるフェンの方へと向かっていく。

 

 自分を油断させる為の作戦なのかと疑問を抱くも、向こうが深雪から離れたのであれば此方が動かない理由は無い。達也はそう結論しながらも、隆誠とフェンの警戒を緩める事無く妹の方へ向かおうとする。

 

「深雪、大丈夫か?」

 

「う、あ……」

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)で死んでいないと既に確認済みの達也だが、それでも彼女の声が聞きたかった。自分の望んだ返答ではなかったが、命に別状が無いと改めて認識する。

 

 だがそれでも彼女が重傷である事に変わりない。頬が酷く腫れており、腹部の他に内蔵も損傷している。

 

 一通りの傷を確認した達也は深雪を元の状態に戻そうと、左手で予備として持っているもう一つの『トライデント』を取り出し、そして銃口を彼女に向けて『再成』を発動させた。

 

 その直後、酷く腫れていた筈の頬だけでなく、腹部や損傷してる内臓が元に戻って行く。まるで先ほど受けた傷が無かったかのように。同時に辛そうな表情をしていた彼女は途端に痛みが消えた事で、まるで健やかに眠ってるような表情となっていく。

 

 すぐに深雪を自分が使っている部屋のベッドで眠らせたい達也だが、生憎それは無理だった。彼女に『再成』を使っている最中、隆誠が自分の方へ視線を向けている為に。

 

 フェンも同様だが、先程まで咥えていた自分の片腕が無かった。隆誠に捨てるよう命じられたのか、今は地面に放置されてる。

 

「自分の怪我よりも妹を優先するとは」

 

「ガーディアンとして当然の事です」

 

 『分解』で隆誠を殺そうとしていた達也、(予想外だが)フェンを嗾けて殺そうとした隆誠。つい先程まで殺し合いのやり取りをしていた筈の二人なのに、まるでそれが無かったかのように話していた。

 

「ところで達也。今もホテルで寝てる筈のお前が、何で此処に来たんだ?」

 

 隆誠は彼が『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』を殲滅しようと密かに横浜へ向かっていたのは知ってるが、態々それを口にする必要が無い。だから敢えて深雪から聞いた嘘を利用し、少々咎めるように訊ねている。

 

「しかも今度は街中で飛行魔法を使うとは……自分が何をしてるか分かってるのか?」

 

「その状況を作ったのは貴方だ」

 

 達也がそう返しながら、『トライデント』の銃口を隆誠に向けていた。

 

 フェンに噛み千切られた筈の、右腕で。

 

「ほう、もう戻していたのか」

 

「ウゥゥゥゥゥ……!」

 

 隆誠は密かに『再成』を使って自分の腕を復元してる事に気付いていた。地面にあった筈の達也の片腕が消えていたを見た時点で。

 

 またしても自分の主に銃口を向けてるのを見たフェンは前に出ようとするも、隆誠が余計な真似をするなと言わんばかりに睨まれてしまい、大人しくせざるを得なかった。

 

 それを見た達也は、あの獣は間違いなく隆誠が使役してる存在だと内心察した。魔法因子が無いにも拘わらず、どんな方法で魔法を使っているのかは分からないが、これは四葉家当主の真夜に報告しなければならない案件になっている。

 

 深雪の『ニブルヘイム』や『コキュートス』を簡単に防ぐ実力があるだけでなく、自分の片腕を瞬時に噛み千切れる攻撃力を持つ化成体擬きの狼犬も持っている。今まで周囲から『愛人の息子』と蔑まされていた爪弾き者が、今までその力を隠していたのが判明したので、達也が真夜に報告するのは当然の流れであった。

 

「一応いいか? お前がそこまで怒っている理由は?」

 

「貴方が深雪を手に掛けたからだ」

 

 訊ねる隆誠に達也はすぐに答えた。

 

 たった一言の返答を聞いた事に、隆誠は途端に苦笑する。

 

「人聞きが悪いな。俺は別に殺していないし、先に手を出したのは深雪だぞ? むしろ責は彼女の方にあると思わないか?」

 

「どちらでも俺には関係ない。そしてどのような理由であれ、貴方が俺の逆鱗に触れたことに変わりない」

 

「ならば俺は大人しく深雪に殺されるべきだったと言いたいのか。随分と身勝手な言い分だな」

 

「…………」

 

 何も言い返そうとしない達也だが、これは肯定しているも同然だった。もし隆誠が深雪によって氷漬けにされれば激怒する事は無かったから。

 

 それを理解した隆誠は、途端に嘆息する。

 

「つくづく愚かだな、お前たち兄妹は。人を散々振り回しておいて、その責任を自分で負わない。まるで暴君じゃないか」

 

「……言いたい事は、それだけですか?」

 

 深雪を侮辱された事で『分解』を撃ちたい衝動に駆られる達也だが、通用しないのが分かっている為に踏み止まっていた。

 

 後ろに控えている狼犬もいて、今は大人しくしてても、隆誠の命令一つで即座に動いて襲い掛かって来るだろう。加えて情報を認識出来ないアレに『分解』が発動出来ない。

 

 今の状況からして、達也が非常に不利だ。『分解』が効かない隆誠とフェンを同時に相手をするのは、達也にとって余りにも想定外な事態だった為に。

 

 それでも、深雪に手を出した隆誠を許す訳にはいかない。このまま放置すれば、またしても自分が離れている間に(未遂とは言え)手に掛ける光景を見せられた事を考えるだけで、今まで以上に自分が怒り狂って制御出来なくなってしまう。下手をすれば、質量をエネルギーに分解する究極の分解魔法『質量爆散(マテリアル・バースト)』を発動する恐れがある。そうなれば深雪がいる世界が滅んでしまうから、達也としても非常に望ましくない展開なのだ。

 

(せめて『分解』が通じる手掛かりがあれば……)

 

 今も必死に精霊の眼(エレメンタル・サイト)を使ってる達也だが、今までと全く同じく魔法に関する情報が無かった。『分解』を防いだのは何かしらの魔法的な要因がある筈だと徹底的に調べているが、何一つ見当たらなくて内心歯軋りしている。

 

 すると、隆誠は突然こう言った。

 

「ここでは少々やり辛いな。フェン、やれ」

 

「ワォォォンッ!」

 

「!」

 

 隆誠が命じた瞬間、フェンは了承したかのように吠えた。

 

 直後に地面から巨大な魔法陣が出現し、隆誠とフェン、そして達也はホテルの屋上から姿を消すのであった。未だに意識を失っている深雪を除いて。




今回は達也と戦う前の話です。

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