再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

20 / 64
達也の末路②

 ここで時間は少々遡る。達也が飛行魔法を使いホテルへ戻っている最中の頃。

 

 

 

「達也が急に飛行魔法を使って帰投しているだと?」

 

『は、はい、帰投する直前に……!』

 

 独立魔装大隊の隊長、風間玄信は予定外の来客である九島烈と一通り話し終えた後、予想外と言うべき報告が入ってきた。時間外勤務(?)をさせている藤林より、達也が突如焦ったように飛行魔法を使ってホテルへ戻っている事を。

 

 いきなりの事に一体何の冗談だと訝る風間だが、部下が大慌てで報告してくるのだから、決して冗談ではないのは分かっている。同時に普段から冷静な達也が、何故そんな奇行に走るような事をするのかに疑問を抱いていた。

 

 街中で飛行魔法を使用するなど、普通に考えて問題ある行動だ。魔法を探知するセンサーやカメラで確実に引っ掛かり、夜中とは言え街中を歩いている人の眼もある。これでもし司波達也だと判明されたら色々大問題になってしまう。

 

 風間は報告をしている藤林に情報記録の改竄を命じたが、それはもう既に行っている最中との事だった。対処が早い部下の行動に内心安堵しながらも、彼は次の確認に移ろうとする。

 

「一体何が起きたんだ?」

 

『詳しい事はまだ分かりませんが、恐らく彼女の身に何かあったかと……』

 

 どんな不足な事態が起きても慌てる様子を微塵も見せない達也が、あそこまで大慌てで戻ったとなれば一つしかなかった。彼に残っている唯一の感情が深雪(いもうと)の愛情だから、彼にとって非常に不味い事態が起きた為に飛行魔法を使って戻ったのだろうと。

 

「分かった。後は此方で対処する」

 

 一先ず状況を理解した風間は藤林に引き続き『無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)』の後始末以外に、達也の奇行に関しての情報記録改竄を行うよう命じた。

 

 そしてすぐにホテルで待機してる柳も含めた部下達を集めて、戻ってくる達也の出迎え(・・・)、並びに深雪の安否を確認するよう密かに動き始める。

 

 しかし、どう言う訳か見付からなかった。二人が屋上にいる事を判明するも、風間達が辿り着いたそこには倒れている深雪しかいなかった為に。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって草原ステージ。

 

 風間達が今も達也を捜索している最中、此処ではカメラや警備員に気付かれる事なく戦闘が行われている。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

「本当にしぶといな、お前」

 

 必死な表情になって息が上がっている達也、未だに息一つ乱していない隆誠。戦い始めてまだ数分程度しか経ってないが、見ただけでどちらが有利なのか分かり切っている光景だった。

 

 隆誠が超スピードで接近して以降、一方的な攻撃を繰り広げていた。反応に遅れた達也はどうにか防御しようにも、余りにも速過ぎて何度も直撃している。ただ速いだけでなく、一撃受けただけで骨がクッキーやビスケットみたく罅が入るどころか、簡単に折れてしまう。それによって先程から『自己修復術式』が発動し、何度も何度も何度も身体を復元する破目に陥っていた。

 

 達也は普段から身体を鍛える他、八雲より体術の指導も受けて並外れた身体能力を持っている。だと言うのに、今戦っている隆誠の前では何の意味も為さないように、全く手も足も出ない状態だった。

 

 向こうが接近戦を仕掛け、一瞬で自分の懐に迫るスピードで来る為、達也は未だに一度も反撃出来ていない。『トライデント』を使うのを諦め、手刀で人体を切断する『分解』の応用で試みるも、全く当たらずに隆誠の攻撃を一方的に受け続ける始末。つい先程まるでふざけてるように自分をボールみたいに投げ飛ばし、バレーボールのスパイクと似たような強烈な一撃を腹部に喰らい、背中が地面に激突した事で内臓と背骨に大きな損傷を受けたが、『再成』によってどうにか元に戻っている。

 

(まさか、ここまでとは……!)

 

 負傷して『再成』が発動する度に一旦動きを止め、完全に復元したら隆誠が動き出す流れになっている。もし自分であれば弱っているところを確実に仕留めるが、向こうはそれをしようとする気配を一切見せていない。

 

 何度もやられ続けている事に達也は察した。隆誠は自分を全く脅威と見なしていないどころか、完全に赤子扱いされている事を。もっと悪く言えば、サンドバックのように扱われているも同然だった。

 

 普通ならここで完全に心が折れてもおかしくないのだが、深雪に対する感情以外を消された事で未だ諦めた様子を見せていない。どうすれば化け物染みた義兄を倒せるのかと必死に考えている。

 

 自身の体術は勿論、『分解』も全く意味を為さない。自身の最大手段と言える武器が通用しない時点で詰んでいた。

 

(――止むを得ない)

 

 だが、まだ完全に手段が無い訳では無かった。まだ二つ残っており、その一つを使おうとする。

 

 達也は上着のポケットから片手に収まるサイズの円筒形の缶を取り出し、それを軽く、上へ放り投げる。

 

 今までと違う行動を見せた事に隆誠が、思わず彼の投げた『缶』の方へ視線を向ける。

 

 その正体は、小型の投擲(とうてき)(りゅう)散弾(さんだん)。簡単に言えば散弾を撒き散らす手榴弾であり、それを使おうと放り投げた。

 

 当然そんな事をすれば、隆誠だけでなく達也もタダでは済まされない。けれど、『自己修復術式』がある自分に対し、魔法とは別に物理的な防御手段を一切持っていない隆誠では流石にダメージを受ける筈だと思って使う事にした。

 

 爆発した瞬間、上から射程範囲内にいる者達に散弾が降り注いでいく。

 

 達也は咄嗟に領域魔法をフラッシュ・キャストで発動させるも、完全に無力化する事は出来なかった。あくまで物体の運動速度を一定割合で減速するだけに過ぎないのだ。その結果、半身になって片膝をついた肩に、脇腹、太腿、頭部を庇った腕に、細かな散弾が襲い掛かる。

 

 

【自己修復術式/オートスタート】

 

 

 だが、自動的に作動している自己修復によるお陰で、達也はこうして重傷から逃れていた。

 

 対して隆誠は護身用として持っていたのか、いつの間にか特殊警棒らしきモノを片手に持ち………それで降り注いでくる散弾を悉く弾き飛ばしていた。しかも立った状態のままで。

 

(何だと!?)

 

 散弾を何とか凌いでいる達也は信じられないように見ている。いかに隆誠が出鱈目な実力を持っているとは言っても、大量の散弾をああも簡単に防ぐとは想定していなかった。と言うより、特殊警棒一本だけで全て防ぐこと自体あり得ないのだ。

 

「危ないな。子供のオモチャにしては随分と物騒なシロモノじゃないか」

 

「……………」

 

 そして散弾の雨が止んだ後、少々驚いたように言う隆誠に対し、達也は無言になっていた。あそこまで人間離れした芸当を見せられれば、四葉によって感情を失っている彼でもそうなるのは無理もない。

 

「ならこっちもお返しだ」

 

「!」

 

 すると、そう言った隆誠が手にしてる特殊警棒を抜刀術みたいに構えたかと思いきや、突如姿を消した。先程からずっと自分の眼で捉えきれないスピードを出しているので、今の達也は防御に専念せざるを得ない。

 

 その直感が当たったかのように、目の前に隆誠が現れ、左足で踏み込みながら鞘を抜いたかの如く抜刀する。

 

(間に合わない!)

 

 辛うじて姿を捉える達也だったが、相手の動きが早くて回避は不可能。その為、右腕を犠牲しようと咄嗟に身構える。

 

「がはっ!」

 

 特殊警棒は右腕に当たらず、達也の上半身の肋骨部分に見事命中した。威力と衝撃が凄まじいのか、達也が身に纏っている上着がビリビリに破けながら上空へ吹っ飛んでいく。

 

 隆誠が使ったのは、『(あま)(かける)(りゅうの)(きば)』と呼ばれる神速の抜刀術。前世で見ていた漫画やアニメの中に、『放浪する剣信(けんしん)』と言う創作物があり、その主人公が使う最強の技を再現させただけに過ぎない。本人曰く、この技は『九頭(くず)(りゅう)(げき)』以上に難しかったと語っている。

 

 命中した達也は10メートル以上吹っ飛んでおり、今まで以上の激痛が襲い掛かっていた。『自己修復術式』が発動しているとは言え、重傷となった身体は復元されても、激痛が未だに残っている為に意識が朦朧としたまま落下し、地面に激突する。

 

「ちっ……。踏み込みが少々甘かったか」

 

 神速の抜刀術を放った隆誠は、余り満足しない表情であった。寧ろ失敗したと嘆いている。

 

 前世(むかし)の頃は完璧に再現していたが、この世界に転生して久しぶりに使った所為もあって、少しばかり感覚のズレが生じていた。

 

 『(あま)(かける)(りゅうの)(きば)』は他の技と違って難易度が非常に高い為、僅かでも踏み込みが遅ければ本来の威力とは大きく異なってしまう。もし完璧に出来ていれば神速ではなく超神速となっており、達也は一切認識出来ないまま遥か上空へ吹っ飛ばされ、確実に意識を失う筈だったのだ。

 

 もう一度練習する必要がありそうだと思いながら振り返ると、フラフラとしながらも立ち上がろうとする達也がいる。

 

「う、ぐっ……!」

 

「大した奴だ。根性だけは褒めてやるよ」

 

 一方的にサンドバックの如くコテンパンにされた挙句、失敗とは言え隆誠の『(あま)(かける)(りゅうの)(きば)』を直撃しても、達也の精神(こころ)は未だに折れていなかった。あらゆる感情を失っている故に諦めず立つ、と言うべきだろう。

 

(もうここまでにするか)

 

 実を言うと、隆誠は達也に対する不満と怒りが既に収まっていた。先程までソレをぶつけるように思いっきり痛めつけていたから、もうすっかり鬱憤が晴れているのだ。

 

 しかし、それはあくまで彼の個人的な感情に過ぎない。FLT本社にいる両親や社員達は未だに晴れていない為に。

 

 ここまで力の差を教えれば、流石の達也も自分に従わざるを得ないだろう。隆誠はそう考え、彼に向かって言った。

 

「達也、そろそろやめにしないか?」

 

「………………」

 

 特殊警棒を仕舞いながら提案する隆誠に、達也は何も言い返そうとしない。

 

 だがそれでも話は続く。

 

「九校戦の後、大人しく本社へ行って父さん達に謝罪するのであれば、俺は全て水に流そうと思っている」

 

「遠回しに『降参しろ』と言っているようにしか聞こえませんが」

 

 捻くれた返しをする達也に隆誠は内心可愛げの無い奴と思いながらも、敢えて気にしない事にした。

 

「まあそうだな。それで、どうする?」

 

(最早手段は選んでいられない。だが、アレを使うとなれば……!)

 

 再び無言になる達也は必死に考えていた。

 

 確かにこの状況では降参するしかない。彼の言う通りにすれば恐らく本当に許してくれるだろう。

 

 だけど、すぐに頷く事が出来ないのも事実だった。目の前にいる男は深雪を手に掛けたから、達也としては絶対に許せないのだ。そんな奴に屈服すると言う事は、即ち深雪のガーディアンとして失格の烙印を押されてしまう。そうなれば当然、自分は彼女から遠ざけられてしまうと言う耐えがたい日々を送られる事になる。

 

 故に達也は悩んでいた。先程の投擲榴散弾が通用しないのであれば、もう一つの手段でこの男を倒すしかないと。

 

 しかし、それは危険だった。彼としても出来れば使いたくないと今も躊躇っている。今も想子(サイオン)が制限されて小規模な威力になるとは言え、こんな場所であの魔法(・・・・)を使えば非常に不味いと。

 

「……俺は深雪をあんな目に遭わせた貴方を許す事など出来ない」

 

「そこは目を瞑れ。元はと言えばアイツが先に手を出したのが悪い」

 

 深雪は『ニブルヘイム』で氷漬けにしたり、挙句の果てには『コキュートス』で殺そうとした。隆誠が話し合いで解決しようとしているところ、魔法を使用して脅迫や殺人行為をしたのだから、彼女に非があるのは確かと言えよう。

 

「ふざけるな!」

 

 けれど、隆誠の言い分に達也は真っ向から否定した。

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)で視ていた筈の達也は当然知っているが、彼女以外の人間がどのような理不尽な目にあっても知った事ではない。これでもし万が一に隆誠が殺されても、少々面倒な事になった程度の認識しかしないだろう。

 

「これ以上、深雪に手を出させる訳にはいかない。義兄さん、いや、司波隆誠! 俺と共に此処で死ね!」

 

「何だと?」

 

 いきなりの発言にキョトンとする隆誠だが、向こうはお構いなしの様子だった。

 

 激昂した達也はもう躊躇いが無くなったかのように、『トライデント』を取り出して銃口を隆誠に向ける。本来やらなければいけない手順を完全に飛ばし、無理矢理にでも発動させようとした。司波達也が操る戦略級魔法かつ究極の分解魔法、『質量爆散(マテリアル・バースト)』を。

 

 攻撃対象が目の前にいる為、その情報に『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』でアクセスしようと――

 

「交渉決裂だな、仕方ない」

 

「ッ!?」

 

 していたが、隆誠がパチンッと指を鳴らした事によって、『視て』いた筈の情報が突如遮断されてしまった。深雪の姿も一緒に。




本当はこれで終わりの予定でしたが、もうちょっと続きます。

感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。