再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ 作:さすらいの旅人
九島と別れた隆誠は、向こうに勘付かれないよう転移術を使って達也がいる部屋へ移動した。そこにある一つのベッドには何故か深雪が眠っていた事に少々疑問を抱くも、密かに捜す手間が省けたから気にしない事にして、未だに意識を失ってる達也をもう一つあるベッドで寝かせた。二人が途中で起きたら面倒なので、決まった時間に目覚めさせる為の処置を施した後、隆誠は一旦休む為に再び転移術を使って拠点用の部屋へと戻る。
「戻ってたか」
「ワンッ!」
言いつけ通り守っていたフェンは、主が戻って来た事で近づいてくる。
いつもであれば自分の頭を撫でてくれるのだが、隆誠はそれをやろうとしない。それどころか少々怒ったような表情になっていた。
「ところで、俺の影から無断で飛び出した件だけど……やってくれたな、フェン」
「!」
フェンは途端にシュンとしながら身が縮んでしまい、更には振っていた尻尾も下げてしまう。
ホテルの屋上で、達也が飛行魔法を使って急接近で戻りながら隆誠に『分解』を当てた事で激昂し、勢いのまま影から飛び出していた。その事で隆誠は怒っているのだ。
今まで秘匿していた筈の
記憶を消す手段は当然あるのだが、それは却って不都合になってしまうから無理だった。達也は精神改造されている身である為、下手に記憶を弄ってしまうと何かしらの障害が起きてしまう可能性がある。仮に無かったとしても達也の性格から考えて、自分の身に何か異常が起きたと気付いた瞬間、徹底的に調べようとするだろう。そして記憶が失ってると判明したら、それをやったと思われる
「全く、お前が勝手な真似をしなければ……」
「クゥン…………」
隆誠が考えていた懸念は、
ついさっきまで達也を殺そうと威嚇していた巨大狼犬が、今はもう完全に怯えた子犬のようになってしまっている。
今回は殴られて当然の大失態である為、フェンは抵抗する事無く甘んじて受け入れる。主に多大な迷惑を掛けてしまった以上、失望されてしまうどころか、下手をすれば自分の存在ごと
そう覚悟しているのだが、隆誠がスッと右手を伸ばすのを見た事でビクッと再び身体が震えてしまう。分かってはいても、主から折檻されるのは普通の痛み以上に辛いから。
完全に怯え切ってる狼犬に隆誠の右手は――
「ま、次からは気を付けろよ。良いな」
「?」
ポンポンと軽くフェンの頭を軽く叩き、念を押しながら優しく撫でるのであった。
罰にしては軽すぎると思ったのか、フェンは不思議そうに顔を上げている。
「今夜は俺の抱き枕になれ。拒否は許さん」
そう言いながら笑みを浮かべながら罰を下す隆誠。
彼はフェンを最初から折檻する気など無かった。勝手な真似をしたとは言え、隆誠を守ろうとする為に飛び出したのだ。これで折檻しようものなら、自分は恩知らずな不届き者になってしまうと考えている。
神造精霊獣は今も忠実な姿勢を見せており、馬鹿な真似をした腹違いの愚弟や愚妹と違う。隆誠にとってフェンは自身の大事な子供同然だから、失態を犯したところでキツく当たったりしない。
それに加えて、フェンの存在はどの道バレてしまうと踏んでいる。隆誠が四葉の分家である『司波家』にいる以上、遅かれ早かれ真夜達に知られてしまうだろうと。だから今回はバレる予定が早まっただけに過ぎないから、そこまで怒る必要など無いのだ。
「……クゥゥゥン」
与えられた罰に逆らう気が無いのか、フェンは再び甘えるように身体をすり寄せてきた。
(さて、寝る前に報告するか)
普通の動物と違う柔らかさを持つフェンの被毛をモフモフした後、隆誠は真夜への報告を行う事にした。
西暦2095年8月12日
「達也、一体何があった?」
「……昨夜は勝手な事をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
独立魔装大隊隊長の風間からの問いに、達也は返答に困るようにしながらも謝罪を口にする。
二人がいるのは風間の部屋。他にも真田と柳、そして昨夜の事後処理に奔走していた藤林もいる。特に一番大変だった藤林が一番に文句を言いたかったが、風間が問い質している為に少々睨むだけで留まらせている。
「私が聞きたいのは謝罪の言葉ではない。それくらいは理解している筈だ」
「達也君、ちゃんと説明してくれるよね?」
「何か深い事情があったとしても、俺達が聞く権利くらいはあるだろう」
風間だけでなく、真田と柳からも追求してきた。
狙撃による長距離魔法の実戦データの収集、『
「深雪の身に危険が迫った為、ああして戻らざるを得ませんでした」
「あの子が無傷のまま眠っていたという事は、屋上で何かあったんだな?」
柳は昨夜、風間からの命令で達也を探している最中、屋上で眠っている深雪を発見した。状況が全く分からなかったが、それでも放置する訳にはいかなかったから、学生の目に付かないよう達也の部屋へ運んだ。その後に再び達也を捜すも、結局見付からず仕舞いになったが。
「ええ。そこで深雪と
「義兄とは、司波隆誠の事か?」
確認するように問う風間に、達也はすぐに頷いた。
独立魔装大隊は当然調べ上げている。司波隆誠は四葉家から爪弾き扱いされている達也の腹違いの兄であり、魔法の素質を一切持っていない一般人である事を。更には愛人の息子と言う理由で、妹の深雪から相当嫌われているとか。
余りにも不憫な人生を送っているのを知った風間は、何だか他人に思えない気がした。立場や境遇は全く違うが、自分も軍から長期に渡る冷遇を味わっているから。勿論思ってても部下達、特に達也の前では口に出す事は決してしないが。
「自分は
偶々と言う達也だが、それは嘘だった。実際は常に深雪を視ていたから、すぐに異常が起きたと分かって急いで戻ったのだ。
しかし、風間達に教えている内容は決して嘘じゃない。隆誠が深雪に手を出した事は事実である為に。
「喧嘩、か。しかし、彼女は達也と同じく師匠に鍛えられてるから、達也が焦ってまで帰投するとは思えないのだが」
「どうやら義兄は密かに鍛えていたみたいです。純粋な体術だけで言えば、恐らく柳大尉以上の実力者かと」
「ほう」
達也が体術だけで隆誠に圧倒されていたのは確かだった。草原ステージで成す術もなくコテンパンにされて、何度も『再成』を使う破目になったのだから。
自分以上の実力者と言われた事で柳は大変興味深そうな表情になっていく。数年前、特務兵になったばかりである達也の天狗の鼻をへし折った事があるから。
彼だけでなく、風間も似たような反応を示すが、それは一旦後回しにしようと再度訊ねる。
「司波隆誠がその体術だけで深雪嬢を圧倒したから、達也は命令違反を覚悟の上で飛行魔法を使って帰投した。と思っていいんだな?」
「はい、仰る通りです」
風間は達也が深雪のガーディアンで、もし危険が迫れば周囲の制止を振り切って急いで戻ろうとするのは前々から知っていた。彼を軍属として迎える際、四葉家当主の真夜よりそう聞かされている。
本来なら軍法会議に掛けられてもおかしくない程の重大な命令違反なのだが、表立って達也を裁く事は出来ない。風間としては個人的に文句を言いたいが、色々な諸事情があって責めれない他、国防軍の貴重な戦力を失わせる訳にはいかなく、追求はここまでにしておくことにした。達也がホテルへ戻ったその後の話も聞くべきであっても、そこから先は身内同士、益してや四葉家に大きく関わる問題になるので、下手に関わる訳にはいかない。
「……分かった。今後は気を付けてくれよ」
「ええ、肝に銘じます」
念を押してくる風間の警告に、達也は一切反論する事無く頭を下げた。
ここで追求が終わりだと分かった事で、真田達は一先ず安堵の息を漏らす。藤林だけは未だに納得していないが、上官が決めた以上、そこは諦めてもらうしかない。
「だがそれでも事情聴取する必要がある。達也、悪いが九校戦が終わった翌日に出頭してもらうぞ」
「申し訳ありませんが、それは無理です」
「何故だ?」
出頭命令を拒む達也に風間だけでなく、真田達も訝っていた。如何に彼が四葉家であっても、上官の命令を拒否出来る立場まで持ち合わせていない。
「実は――」
達也は話した。九校戦が終わった後、残った夏休みはFLT本社で過ごさなければいけない理由を。
それらを一通り聞いた風間達は、今更ながらも達也と深雪が相当不味いことを仕出かしていたと改めて理解する。先月に発表したばかりの飛行魔法を、製品化する前に情報流出したのは重大な違反行為だと。
(達也くんって、こんな素直に応じる性格だったかしら?)
藤林だけが疑問を抱いた。義兄の司波隆誠に諭された程度で、あの達也がFLT本社へ行ってまで謝罪しに行くのが腑に落ちないから。
彼女が考えてる通り、達也も最初は応じる気など無かったのだが、そうせざるを得ない理由があった。
風間達と話す前の今朝方、隆誠はこう言った。『要請に応じなければ「
次回で一先ず区切りを付ける為に終了する予定です。
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