再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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思わず更新しました。


母からの頼み

 黒羽の双子が訪問してから一ヵ月以上経ち、隆誠は今まで通り平穏な生活を送っている。

 

 しかし、奇妙な事が起きていた。正確に言えば10月に入ってから。

 

 それが一番に反応を示しているのは、神造精霊獣のフェンだ。このところ周囲から嫌な感じがする物体が主を見ていると、主の隆誠に念話で伝えていた。

 

 その警告を聞いた隆誠も当然気付いているが、一先ずは放置している。消す事は造作も無いのだが、そんな事をすれば余計怪しまれて何を仕出かすか分からない為、敢えて何も気付かないフリをしてやり過ごしていた。

 

 フェンが言た嫌な物体とは、魔法師が造り出した化成体の事を指している。その物体が鳥に化けて隆誠を尾行しており、目的は一切不明だった。自宅や学校の付近に留まっているだけでなく、休日には隆誠が両親の会社へ行ったり、友人と遊びに行く時も必ずと言っていいほど張り付いてるから流石に鬱陶しくなっていた。

 

 やはりフェンに頼んで密かに化成体の始末をさせようかと考えてる中、母親の小百合から隆誠にある事を頼んだ。トーラス・シルバーこと弟の達也にあるモノを渡して欲しいと。

 

 

 

 西暦2095年10月10日

 

 

 

「悪かったな。帰ってきたばかりなのに、いきなり押し掛けて来て」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 隆誠が突如自宅へ訪問した事に、達也は顔に出さずとも緊張が走っていた。約二ヵ月前に絶対的な実力差を教えられただけでなく、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』を強制封印されると言う耐え難い経験をさせられたから。

 

 更には自分が最も大事な存在である深雪を(殺してはいないが)手に掛けたと言う許されない事をした。本来であれば相手が腹違いの兄であろうと絶対許さずに処断するが、それはもう水に流している。と言うより、流させざるを得なかった。今の自分では全く敵わないだけでなく、『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』をいつでも封印可能な状態にされている。今まで恐れていた筈の四葉真夜が可愛く見えてしまうほどに。

 

 隆誠に生殺与奪権を握られている事で、達也はもう以前みたいに反抗的な態度を取る事が出来ない。下手に逆らってしまえば自分だけでなく、深雪にも被害が及んでしまう。だからそうならないよう、当面は膝を屈するしかないと苦渋の選択をするしかなかった。

 

 尤も、神の能力(ちから)で心を読む事が出来る隆誠は、達也の考えを見抜いていながらも敢えて放置している。もし自分を殺してしまえば、それがトリガーとなって隆誠が達也と深雪に前以て施した加護が発動する仕組みになっているのだ。あらゆる魔法や異能の力を使えなくなってしまう『封印の加護』、今までの記憶を全て失う『忘却の加護』が。一切教えないまま目的が達成すれば余計に悲惨な結果を招くなど、元神の隆誠らしくない陰湿なやり方だと本人も自覚している。『俺を敵に回したら(ただ)では済むと思うな』と、兄としての遺言(メッセージ)がどうしても必要だと考えた為に。

 

「今日は一体どのような御用件でしょうか?」

 

 逆らえない相手とは言っても何か理由があって訪ねてきたのだから、達也はいつも通りの感じで本題に入ろうとする。隆誠としても達也(おとうと)深雪(いもうと)にあのような事をした以上、今更仲良くなろうとは思っていない。

 

 因みに今リビングにいるのは隆誠と達也だけしかいない。先程まで達也と一緒に帰宅した深雪は、隆誠の顔を見て早々に恐怖するも、一通りの挨拶だけを済ませて部屋に戻っている。

 

「母さんから、このサンプルの解析をして欲しいって言われてな」

 

 そう言って隆誠は、普段所持しない鞄から母の小百合より渡された大きめの宝石箱を取り出し、何の遠慮もなく蓋を開けた。

 

 箱の中には赤みを帯びた半透明の玉が一つだけ。

 

「これは……瓊勾玉(にのまがたま)聖遺物(レリック)ですね」

 

「やはり知っているか」

 

 隆誠は余り興味が無い為、最低限の知識しか持っていない。あくまで魔法的な性質を持つオーパーツを意味する他、軍が機密にするほどの重要物質である程度の知識しか。

 

 一般の高校生が聖遺物(レリック)を持つのは普通にあり得ないが、隆誠はあくまで小百合から達也に渡すよう頼まれたのだ。本来であれば彼女が来て依頼する予定だったが、以前に達也が謝罪の意味も兼ねてFLT本社で業務サポートしていた際、色々無茶な要求をしてしまった経緯がある。それでも達也は嫌な顔をせず引き受け、結果的に彼女が所属する管理部門は救われた形となっているが。

 

 あの件から二ヵ月経って既に落ち着いてる状態であり、もう小百合が達也に無茶な要求を出来る立場ではない。けれど今回はどうしても達也の力が必要だから、隆誠に説得してもらうよう頼むしかなかった。無関係な息子にこんな恥知らずな頼みをしてはいけないと本人も重々承知してるが、依頼元である国防軍に逆らう訳にはいかないから、隆誠に頼むしかなかった。もし自分が達也に要求すれば、きっと感情的になって口論になるどころか、却って隆誠の立場を悪くしてしまう恐れがあると危惧したから。

 

 隆誠としても気が乗らなかったが、小百合が達也達を嫌ってる事で口論になったら不味いと危惧し、敢えて引き受ける事にした。同時に聖遺物(レリック)を持ち歩けば、最近自分を尾行してる連中がそろそろ動き出すかもしれないと思いながら。

 

「もしや、国防軍絡みの依頼ですか?」

 

「みたいだぞ」

 

 FLTは軍関係の仕事を受諾する事も多い事を隆誠は知っている。だから聖遺物(レリック)も恐らく軍絡みだろうと既に見当はついていた。

 

「解析と仰いましたが、まさか小百合さんは瓊勾玉(にのまがたま)の複製なんて請け負ったりしているのでは?」

 

「それは知らないが、多分お前の想像通りだと思うぞ」

 

「何て無謀な事を……。現代技術で人工的に合成する事が難しいから『レリック』と呼ばれているのに」

 

 達也は深々と溜息を吐いた。それは隆誠ではなく、依頼を請け負った小百合に対してだ。

 

「国防軍からの強い要請で、断る事が出来ないんだと」

 

「先程も言ったように、国防軍とてレリックが人工的な合成がほぼ不可能ということくらい分かっている筈です。なのに小百合さんは何故そんな無茶な要求を?」

 

「あくまで俺の個人的な推測に過ぎないが、お前が原因だと思うぞ」

 

「俺が? 一体どういう事ですか?」

 

 全く身に覚えがないと言わんばかりの表情をする達也に、隆誠はこう言った。

 

「トーラス・シルバーは加重系魔法の技術的三大難問の一つ『汎用的飛行魔法』を実現させた。多分軍はその実績を鑑みて、もしかしたら実現出来るかもしれないと、FLTに依頼したんだろうな。加えて何処かの誰かさん達が今年の九校戦で安全性を充分に披露できたから猶更に、な」

 

「っ……。仮にそれが正解であっても、管理部門の小百合さんに依頼する時点で間違ってると思いますが」

 

「今も厳重に秘匿されてる存在がFLTにいると言う情報しか分からない以上、母さんや他の社員に依頼するしかないだろう」

 

 ここでミラージ・バットの件について触れられると思わなかったのか、達也は大変苦々しい表情になっている。

 

 隆誠の推測はあくまで可能性の一つに過ぎないが、充分にあり得るかもしれないと達也は内心考えていた。九校戦を行っていた会場は元々軍が管理してる施設で、飛行魔法の情報を他の企業よりも早く入手している。もしかすればレリックの合成が実現出来るのではないかと、国防軍が自分に淡い期待を抱くのは分からなくもない。

 

「……分かりました、解析の依頼は引き受けます。ですが確実に出来る保証はありませんから、『余り期待はしないで欲しい』と小百合さんに伝えてください」

 

「ああ、そうするよ」

 

 達也としては火中の栗を拾う事をしたくはないのだが、依頼する原因を作ったのが自分であると隆誠に指摘された以上断れなかった。開発第三課を除くFLT社員達から怒りを買ってしまった事実を多少は受け止めているから、罪滅ぼしでないにしろ、自身に責任があると言う姿勢を見せなければならない。それが表面上なモノであっても。

 

「言い忘れてたが、何でもその瓊勾玉(にのまがたま)には魔法式を保存する機能があるらしいぞ」

 

 付け加えたように教えた瞬間、達也の表情が崩れているのを隆誠は見逃さなかった。

 

「それは実証された事実ですか?」

 

 達也は胡散臭そうに言うも、先程まで気乗りしない様子から一変するように、強く興味を抱いているのは丸分かりだった。

 

「さぁな。そこまでは俺も知らないから、母さんがいる管理部門に確認してくれ」

 

「分かりました」

 

 小百合と話せば絶対面倒事が起きるだろうから、敢えて会社に問い合わせるようにした。達也もそれを理解してるみたいで、一切疑問を抱かずに頷いているのが何よりの証拠だ。

 

義兄(にい)さん。一応言っておきますが、瓊勾玉(にのまがたま)を解析するのには――」

 

「分かってるって。依頼中に封印なんかしないから、そこは安心してくれ」

 

 隆誠が割って入るように言い出した。達也の異能である精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封印しない事を約束された事で、達也は一先ずと言った感じで安堵する。

 

「ではこのサンプルを開発第三課へ回しても良いですか? あそこならば俺としても都合がいいので」

 

「別に良いけど、依頼主である母さんの顔を潰すような事はするなよ。そうなれば……分かってるよな?」

 

「勿論です」

 

 達也に釘を刺すにはちょっとした理由があった。FLTの開発第三課は現在多くの功績を挙げており、そこに所属する達也はかなりの発言力を持っている。九校戦でやらかした飛行魔法の無断流出で信用を失っても、その償いをした結果、達也のシンパは健在どころか若干増加傾向になっていた。隆誠としては非常に如何でも良いのだが、小百合から以前みたいに調子に乗らないよう釘を刺して欲しいと頼まれた為、こうして脅すように言った訳である。

 

 話は終わったので、隆誠は帰り支度に移ろうとして――

 

「そうだ達也、ここ最近お前の周囲に怪しい視線とか感じなかったか?」

 

「特にありません。それが何か?」

 

「……いや、無いなら良い」

 

 玄関で遠回しに化成体の視線について達也に訊ねてみるも、問題無さそうだったので、さっさと退散する事にした。

 

 

 

(達也に化成体の監視を付けてないのは間違いないな)

 

 大型電動二輪(バイク)を使って自宅へ戻っている隆誠は、運転中に達也との会話内容を確認するように考えている。

 

 因みに彼が利用してる乗り物は、父親の龍郎が去年に高校の入学祝いに買ってくれた。その時は豪華なプレゼントで困惑していた隆誠だが、今はお出かけ用の愛車として大事に扱っている。フェンはバイクを見る度に何故かライバル視してるが、隆誠は全く気付いていないフリをしていた。そこを指摘すれば絶対面倒になると思っているから。

 

 ――ワンワンッ!

 

 すると、影に潜んでるフェンからの念話が送られた。自分を後を追ってる黒い自走車が急にスピードを上げた事を報せる為に。

 

 それは隆誠も気付いている。異常に交通量が少ないだけでなく、先程からあの車だけが自分の後ろにぴったり張り付くように走っているから、今まで化成体を使って自分を監視していた連中の仲間かもしれないと。

 

(フェン、透明化したまま車のタイヤを……いや、待て)

 

 指示を出そうとする隆誠だったが一旦止めた。黒い自走車の更に後ろから、隆誠とは異なるタイプの大型電動二輪(バイク)が高速で追いかけてきている為に。

 

 アレに乗って運転してるのは、先程まで会話していた達也だ。弟の想子(サイオン)は既に覚えてるから間違いないと隆誠は確信している。

 

(まぁ良い。来た以上は利用させてもらおう)

 

 黒い自走車に乗ってる連中を片付ける事は造作も無いが、後始末を行うのは非常に面倒だった。都内に設置されてる街路カメラをどうにかしてもらおうと、後ほど真夜に頼むつもりだったのだが、達也が来た事でその手間が省ける事になった。

 

 独立魔装大隊には高度なハッキングスキルを持った優秀な隊員がいる。恐らく達也は一度そこへ連絡して、自身の身元がバレないよう上司に頼む筈だと隆誠は予想していた。今の達也が自分に逆らう事はしないだろうから、自分の事も上手く隠してくれるように頼めば了承するだろうと。




本当ならこの話は書く気無かったんですが、小百合が襲われたと知った家族思いの隆誠が何もしないのはおかしいから、急遽内容を追加する事にしました。

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