再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ 作:さすらいの旅人
西暦2095年8月6日
「やれやれ、何でこうなったんだか……」
隆誠がいるのは自宅より遥かに離れた『富士演習場南東エリア』で、日本魔法協会主催で行われる競技――九校戦を行う会場である。
本来であれば夏休みの期間中、隆誠は一週間以上泊りがけの遠出をしている。勿論両親からの許可付きで。遠出の目的は前世の実力を取り戻すと同時に、神の
しかし、今回その予定が大きく狂う事になってしまった。数日前に電話してきた四葉真夜の所為で。
☆
自宅の電話で再会の挨拶をした後、真夜は早速本題に入って用件を言った。
「九校戦の会場に行って欲しいって……何故俺が?」
『達也さんと深雪さんの活躍を直接見届けて欲しいのです。腹違いとは言え、兄である貴方には見届ける権利がありますからね』
隆誠からの問いに真夜は理由を答えた。家族なのだから是非とも観に行くべきだと至極尤もな感じで。
だが彼は言葉通り受け取る事はしないどころか、確実に何か裏があると踏んでいる。
「真夜さん、生憎俺は貴女の言葉の真意を即座に察せるほどの頭はありません。なので、本音を言っていただけませんか?」
『ふふふ……本当に隆誠さんは遠慮がないわね』
爪弾きされてるとはいえ四葉家の関係者である隆誠の発言は、四葉家当主の真夜に対する無礼極まりないものだった。彼女の背後に控えている執事、
『実を言いますと、貴方に達也さんを監視していただきたいの』
「監視?」
見届けるのではなく監視と言い直した真夜に、隆誠は怪訝な表情になっていく。
裏があるのは分かっていたとは言え、身内を監視するなんて普通じゃ考えられない。
深夜の実子である達也は四葉直系の生まれであり、彼女の妹である真夜との血縁上は血の繋がった甥になる。加えて四葉家は身内を大事にするから、それを知る隆誠から見て異常な行動としか言いようがないのだ。
「でしたら『黒羽家』の方々が適任だと思いますが」
隆誠は四葉家の内情はある程度知っていた。その中で諜報部門を統括している『黒羽家』は真夜からしても最も信頼のおける分家で、そこなら問題無いだろうと提案する。
『それがそうもいかなくて。当主の
「……随分と極端な方々ですね」
黒羽家の存在は知ってても、当主とその子供達の達也に対する評価が正反対なのは寝耳に水だった。中立を求める真夜としては、黒羽家に頼もうとしないのは当然である。
「では、他の方は? 例えば……青木さんなら俺の父の補佐に寄越せるくらい本家ではお暇でしょう?」
青木執事は四葉の序列第四位に属する執事。四葉では確か財政面を担当する縁の下の力持ち。FLTで偶に龍郎のサポートに来ていた為に、隆誠も(一応)顔を覚えていた。もっとも、彼は親の龍郎含めて露骨に見下す姿勢を取っていたが故、隆誠からしてもあまり印象は良くなかったが。彼は深雪に敬意を払う一方で、達也に対しては彼女のボディーガードと下に見ている事もより拍車をかけた。ぶっちゃけ、達也にあまり好意的でないという点だけならば黒羽家当主の貢と似たり寄ったりだが、それでも本家からの命令とあらば私情を挟まずに監視を行うだろう。
隆誠が言った途端、真夜は急に歯切れが悪くなった。
『それが、ねえ……』
『私共も、当初は青木にその役目を任せるつもりだったのですが、少々問題が生じまして』
空かさず葉山が助け舟を出すように経緯を話した。
聞くところによると、FLTで飛行魔法を実現させたあの日、達也と深雪は青木執事とばったり遭遇したらしい。その時に青木執事は深雪に挨拶をしたが、達也にはしなかったようだ。自分の役割を理解している達也からすればどうでもいい事だっただろうが、深雪からすれば、それすらも耐え難い事実だったのであろう。彼女の忸怩たる思いを汲んだ達也が青木に喰ってかかった結果、どんどんエスカレートして、最終的には青木執事が達也を『人間もどきの似非魔法師』と仕える者として、直系に対してあるまじき侮蔑の言葉をぶつけたという。その結果、怒りを露わにした深雪がブリザードを発生することになるという思考に至らないまま。
「何やってるんですか、あの人は……」
深雪の前で達也を侮辱すればどうなるか分かるだろうに、と呆れて物も言えない。
一通りの話を聞いた隆誠は露骨にモチベーションを下げていた。要は青木執事の失態の尻拭いなのだと。
しかし、そういう事であれば青木執事を行かせるのは逆効果であるのは事実。万が一に監視がバレれば、逆に達也や深雪のパフォーマンスに大きく影響を及ぼす可能性がある。
「そちらの家に口出しする気はありませんが、今一度人事の方を見直された方が良いのでは? 四葉に所縁の無い俺はともかく、直系にそのような態度を取る執事が序列第四位に居るというのはいかがなモノかと」
『いやはや、返す言葉もありませんな』
隆誠からの苦言に、葉山は恭しくお辞儀をして謝罪した。
執事の彼は侮蔑した態度を一切見せていない。他の執事であれば愛人の息子である隆誠を汚らわしい存在と見下しているのに、葉山は何故か敬意を示していた。それが却って隆誠には不気味に見えるが、画面越しであっても嘘を吐いてる様子は見受けられず素直に受け止めている。
「だからと言っていまいち分かりませんね。腹違いの兄だからって、四葉家の汚点である俺を行かせれば却って不都合なんじゃないですか?」
『まあ、汚点だなんて。一体何処のどなたが隆誠さんにそんな失礼な事を言ってるのかしら?』
「四葉家の殆どがそう認識してますよ」
白々しく初めて知ったように口にする真夜を見た隆誠は皮肉を込めて言い返した。
「それで真夜さん。折角ですが監視の件は断らせてもらいます。魔法師ですらない俺が、達也の監視なんて猶更無理な話ですからね」
『………………』
四葉家当主からの頼みをハッキリと断る隆誠。強く拒否された事で流石の真夜も目が点になると同時に口を閉ざす。
何度も言うように、隆誠のやってる事は無礼極まりない背信行為である。場合によっては四葉真夜に対する反逆と見なされてもおかしくない。
『ふふふふふ………あははははは!!』
すると真夜が突然大笑いした事に隆誠だけでなく、彼女の背後にいる葉山ですらも驚愕していた。電話中にそんな行為をすれば誰だって驚くが、普段優雅に振舞っている四葉家当主の真夜がやれば猶更に。
そして彼女の笑いはある程度収まったが、まだ堪えれないのか口元を手で押さえようとする。
『ここまで正直に断られたのは生まれて初めてですわ』
「そうですか。だとすれば俺は名誉ある第一号になりますね」
『奥様、隆誠殿、お戯れはそこまでにされた方が宜しいかと』
絶えず軽口を叩く隆誠に、これ以上は不味いと判断した葉山が止めに入ろうと口を挟んだ。執事が会話中に口出しをするのはマナー違反だが、こんな状況をいつまでも続けるわけには行かないと無礼を覚悟で割り込んだのだ。
『そうね、葉山さんの言う通りだわ。此処からは真面目な話に戻りましょう』
葉山に嗜められた真夜は、先程までとは打って変わるように違う笑みに変わって行く。
『隆誠さん、これは四葉家当主としての命令です。拒否は許しません』
「………せめて俺が監視をしなければならない明確な理由を教えて頂きたいのですが」
おふざけの時間は本当に終わりだと悟った隆誠は内心舌打ちをしながらも、抵抗の意味も含めて理由を求めた。いくら四葉家当主の命令とは言え、即座に従う性格をしていないから。
『貴方は魔法が無くても、それ以外の才能が大変ずば抜けているのは知っています。例えば去年、明らかに偽名と思われる中高生らしき少年が、「千葉の麒麟児」と名高い千葉修次と互角の勝負を繰り広げたとか』
「!」
理由を語るだけでなく過去の出来事を語ろうとする真夜に、隆誠は予想外と言わんばかりに目を見開く。
『二年前には九重寺に出向き、とある少年が九重八雲さんと手合わせして達也さん以上の体術を披露していたとか』
「っ……」
『そして三年前の夏、当時姉さんが達也さんと深雪さんを連れて沖縄にある恩納瀬良垣の別荘へ行ってる際、その間に隆誠さんは夏休みを利用して佐渡へ行ってましたね。不幸にも新ソ連からの侵攻で巻き添えを喰らっている最中、十師族でない無名の少年が多くの敵兵をあっと言う間に薙ぎ倒したらしいですね』
「………………」
『これらは全部貴方なんでしょう、隆誠さん?』
真夜が一体どんな方法で調べたのかは知らないが、全て当たっていると隆誠は内心舌打ちをする。
四葉家は汚らわしい存在と称してる隆誠の動向を歯牙にもかけず完全放置していたが、真夜だけ唯一違っていた。彼女はあらゆる伝手を使って調べた他、とある情報収集システムで隆誠の動向を探っていたのだ。
そして調べれば調べるほど信じられない情報を目にした真夜は、隆誠を初めて見た時から興味が湧いていた理由が何となく分かった気がした。まだ確証は持てないが、もしかしたら隆誠は達也と同じく自分の
けれど未だ決定的な証拠が無いから、真夜は隆誠を試す意味合いも兼ねて、達也の監視と言う命令を下した。こんな事で尻尾を掴めるなんて微塵も思っていないが、それでも何かしらの判断材料が得られるかもしれないと彼女の直感が告げている。例え今回やったことが無駄であったとしても。
『龍郎さん達には秘密にしておきますから、是非ともやって頂けるかしら?』
「………はぁっ、分かりましたよ」
隆誠は両親に迷惑を被らないよう今までの出来事は全て黙っていた。けれど真夜から脅しの材料として使われてしまった為、今回は従うしかないと諦めることにした。
「言っておきますが真夜さん、今回
『今回
まるで同じ手は二度と通用しないと暗に警告する隆誠に、真夜は気付きながらも頷いた。
端から聞けば負け惜しみな台詞にしか思えないが、彼女は同じ手段で脅す事はしないと密かに決意している。何故か分からないが、隆誠を完全に怒らせてしまったら不味い事になると、頭の中で今も警鐘がずっと鳴り響いているから。
「それで、俺が達也を監視する日数はどのくらいですか?」
決して一日だけで終わらない事を隆誠は察していた。
『達也さんが技術者として参加する競技は主に新人戦ですから、大体五日といったところね。けれど万が一の事も踏まえて、九校戦が終わる約一週間は滞在して頂きます』
「一週間ですか……」
隆誠は前々から九校戦に興味が無い為、スケジュールに関して隆誠は全く知らない。新人戦が開始される予定は8月6日からで、本戦も含めて九校戦が終了となるのは8月12日の約一週間となる。
初めて強制的にやらせる監視期間が意外と長い事に、隆誠は物凄く嫌そうな顔をした。
会場に一般客用として泊まれるホテルは一応あるが、今から予約したところで絶対間に合わない。九校戦は日本で大人気イベントの一つである為、もう既に満室の筈だから。
ホテルが無理ならテントを使っての野宿になりそうだと考えてる隆誠に、真夜は彼の表情を見た途端にこう言った。
『安心なさい。
「いいんですか? 分家に睨まれませんかね?」
『そこは気にする必要は無いわ。貢さん達が私に堂々と反対出来る度胸があれば話は別ですが』
例え今回の件を知って猛反対してきたところで真夜は有無を言わさずに封殺するかもしれないが、それでも食い下がってきた場合、今まで隆誠が秘密にしていた功績を公表するつもりでいる。愛人の息子など監視する価値無しと断じていた筈の爪弾き者が、実はとんでもない事をやらかしていたと知れば確実に絶叫するだろう。加えて自分達の見る目が無かった、もしくは無能の烙印を押されてしまうほどの大失態を晒してしまう事になる。貢達を一瞬で黙らせる材料を手にしてるから、真夜はこうして隆誠に命じているのだ。
「ならばお任せします。ですが俺の両親の方は――」
『分かってますわ。一切口外しないと約束します』
隆誠は分家よりも両親が一番の気掛かりだったが、真夜が空かさず誓った。
もし今回の件がバレたら龍郎はともかく、小百合が絶対黙っていない。長い年月を経て漸く夫と結ばれたとは言え、今度は自分が産んだ大事な息子までも利用してると分かれば抗議するのが目に見えている。そんな愚を犯すほどの度胸は本来無いのだが、今の彼女は母性を得て精神的に強くなったから、息子を守る為なら命を
その後に真夜は九校戦へ向かう日時を教えた後、移動手段の車も用意すると言っていたがそこは断る事にした。隆誠は毎年夏休みを利用して日本各地を回ってるだけでなく、場所さえ分かれば自力で行けるので、滞在場所さえ用意してくれれば充分だったから。
☆
と、そう言う経緯があって会場へ来たと言う訳である。
既に九校戦が開催されて途中からの観戦参加となっているが、隆誠は気にせず会場の出入り口で貰ったパンフレットを広げた。
(えっと、今日予定してるスピード・シューティング用の会場は……あそこか)
パンフレットに表記されてる地図と目の前にある建物を見合わせた後、目的地が判明した隆誠はすぐに向かおうとする。
今日の予定にはバトル・ボードもあるが、それには達也が技術スタッフとして参加してないのは既に把握していた。真夜との電話が終わった後、執事の葉山より達也が技術スタッフとして参加する競技の情報をデータで転送されたから。一体どうやって一高の情報を入手出来たのかは不明だが、そこは敢えてスルーしている。
「ねぇ見た? 昨日の事故」
「ああ、女子バトル・ボードで一高の渡辺選手が壁に激突したアレだろ」
(事故?)
他の観客達と一緒に会場へ向かってる最中、あちこちと話し声が聞こえていた。その中に少々気になる内容があった為、隆誠は向こうに気付かれないよう耳を傾けようとする。
九校戦は魔法を利用してのスポーツ競技だから、事故が起きる可能性は普通の競技以上に高い。それでも今まで大きな事故と思わしきニュースは無かったから、観客達が口に出すほどの話題となれば、寝耳に水である隆誠が聞きたがるのは当然のことだった。
「残念だったよなぁ。確か聞いた話じゃ骨折するほどの怪我だったとか」
「ええ。それで本戦ミラージ・バットも棄権になったみたいよ。その所為で一高側は代理として一年生を出したわ」
「あ、それ知ってる。その一年って『司波深雪』ってすっごい可愛い子だろ」
「チョッと、何いきなり鼻の下伸ばしてるのよ!」
(深雪が本戦ミラージ・バットに出場だと?)
観客達から聞いた予想外の情報に隆誠は内心少し驚いていた。
彼は深雪が出場する競技も当然知っている。その種目は新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクと新人戦ミラージ・バットの二つ。ルール上として選手が出場できる競技は二つだけだが、恐らく新人戦から本戦へ変更したのだろう。
会場へ来て早々に真夜の想定していた万が一の可能性が起きるなど、隆誠は予想出来なかった。言い出した本人ですら、まさか本当に起きていたとは全くの予想外だったと少々驚いているに違いない。
(まぁどちらにしろ俺のやる事は変わらないが、な)
どの道九校戦が終了するまで滞在する予定になっている為、何が起きようとも真夜からの指令を実行しなければならない。
隆誠はそう考えながら痴話喧嘩に発展しそうな二人の会話を聞かない事にして、一般客に混じろうと会場へ向かう事にした。その途中で一高の制服を着た赤毛の少女が途中ですれ違うも、隆誠は全く気にしてない。
「今の人、どこかで会ったような……」
見覚えのある高校生と思わしき男とすれ違った瞬間、赤毛の少女――千葉エリカは思わず足を止めて目で追おうとするも、その人物は既にいなくなっていた。
「? どうしたの、エリカちゃん」
「おいエリカ、急に突っ立ってどうしたんだ?」
「エリカ、早く行かないと席が埋まっちゃうよ」
友人である美月、レオ、幹比古の三人が声を掛けても、彼女は聞いてないかのように佇んでいた。
本編と違って、此方のリューセーは四葉真夜から色々な意味で気に入られています。
感想お待ちしています。