再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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圧倒的勝利(ワンサイドゲーム)

「あ、あ……!」

 

「姉さん!」

 

 琴鳴が苦しそうな声を上げているのを隣にいる奏太は心配そうに見た。蛇に睨まれた蛙のようにその場に立ち竦んでいる彼女の異変に、後方から見ている勝成も気付いている。

 

 それは隆誠の後方にいる深雪達も同様であり、その中で達也だけはすぐに精霊の眼(エレメンタル・サイト)で琴鳴を視た。今の彼女の全身が委縮して動けない状態になっており、一体どんな手段で動けなくしたのかと気になっている。

 

「テメエ、姉さんに――ッ!」

 

 奏太は異変の元凶と思われる相手に再度視線を移すも、隆誠はいつの間にか彼の懐に入っていた。魔法らしきモノを一切使わずに一瞬で。

 

 完全に隙を晒してる為、接近している隆誠は一撃を当てようとボディーブローが命中する。

 

「がぁっ!」

 

「奏太!」

 

 衝撃が強いのか、ボディーブローを受けた奏太が軽く吹っ飛んでいた。受け身を取る事も出来ずにゴロゴロと倒れてしまった事で、勝成は心配の声を上げている。

 

「う、嘘でしょ!?」

 

 信じられないと言わんばかりに夕歌は驚愕の声を出していた。魔法の才能を一切持ち合わせていない一般人の隆誠が、ガーディアンとしての実力を持つ堤姉弟を圧倒するなんて思いもしなかったのだ。

 

 彼女とは別に、達也と深雪も驚いているが意外そうに見ていない。二人は去年の夏に異母兄の実力を知っただけでなく、身を以て経験しているから、あの程度はまだ序の口に過ぎないと思っている。

 

「う、ぐ……ごふっ……ば、バカな……!」

 

 攻撃特化の奏太はガーディアンとして身体を鍛えているから、多少隙を突かれて強い攻撃を受けても耐えきれる自信はあった。しかし腹部に受けた一撃は重く、すぐに起き上がる事が出来ない。少しでも気を抜いてしまえば意識が飛びそうになるのを必死に我慢するも、胃から何かがこみ上げて思わず吐いてしまう。口から出てきたのが血だと理解した瞬間、奏太は痛みに耐えながらも目を見開いている。

 

 一撃を当てた隆誠は藻掻く彼を確認した後、一旦視線を外して琴鳴の方を見て近付き始める。

 

「か、奏太……」

 

 琴鳴は隆誠に接近されても動こうとする気配を見せていない。

 

 そうなるのは当然と言えよう。戦闘が始まった直後、隆誠は彼女に『芯の一方』を使って動けなくしていた。

 

 呂剛虎は身体に気合いを入れて凌いでいたが、琴鳴は一切ソレをやらずに立ち竦んでいる。どうして自分の身体が動けないのかと頭の中で必死に考えている為に。

 

 近づいてくる隆誠に魔法で迎撃しようにも、今も身体が全く動けない。加えて彼の殺気が余りにも強烈だった所為で、頭の中で展開させようとしてる魔法の演算処理が途中で遮られてしまっている。

 

(もう少し加減すれば良かったか……)

 

 動けない琴鳴を見ながら、隆誠は内心失望していた。分家とは言え、四葉家のガーディアンが余りにも弱過ぎる。

 

 以前に相手をした達也は『再成』と言う少々反則染みた復元魔法があっても、戦意を喪失する事はなかった。

 

 しかし、目の前のガーディアン姉弟は全く話にならない。まだ達也と相手をしていた方がマシと思ってしまいそうになっている。

 

 つい先程まで、必ず勝ってみせると意気込んでいた琴鳴は完全に怯えている。それだけ隆誠に当てられた殺気が強烈だったのかもしれないが、ガーディアンとしてどうなのかと隆誠は呆れてしまう。

 

 こんな詰まらない相手に手を下す必要は無いのだが、自ら達也の代わりに相手をすると言った以上、最後までやらなければいけない。そう考えた隆誠は動けない琴鳴に――

 

「姉さんから離れろ!」

 

 手刀で意識を失わせようとするも、藻掻いていた奏太が痛みを堪えながらも立ち上がって叫んだ。

 

 その直後、路上に落ちた短銃身の特化型CADを素早く拾い、彼は隆誠に向けて振動系魔法――フォノンメーザーを放つ。

 

 フォノンメーザーは超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法。並みの魔法師では簡単に扱う事が出来ないが、調整体魔法師『楽師シリーズ』の第二世代で、音に関する魔法に高い適正を持っている彼だからこそ使える。

 

 高ランクの魔法師なら障壁魔法で防げるかもしれないが、障壁が間に合わずに当たってしまえば、非魔法師である隆誠は確実に致命傷を与えるどころか殺してしまう。

 

 彼の近くに琴鳴がいても、『楽師シリーズ』の彼女は音に関する魔法は通じない。それでも熱線で火傷をする可能性はあるが、隆誠を引き離すにはコレしかないと奏太はそう判断した。

 

「不味い!」

 

 大事な姉を助ける為に使ったとは言え、奏太のやった事は確実に問題視される。いくら隆誠が四葉家の汚点と称される忌み子であっても、真夜からの命令で四葉本家に来る前に殺されたとなれば、新発田家の立場も悪くなる可能性がある。

 

 勝成はすぐに阻止しようと魔法を放とうとするが、それはもう手遅れで、熱線があと少しで隆誠に直撃しようとする。

 

「ふんっ」

 

 その寸前、隆誠は琴鳴に当てようとしていた手刀を軽く横に振った。

 

 熱線は隆誠の片手に当たるも、それは放物線を描くように弾き飛んでいく。

 

『!?』

 

 フォノンメーザーの熱線を弾いた片手をプラプラと軽く振っている隆誠とは別に、この場にいる誰もが目を疑っていた。

 

 魔法師でない筈の彼が、障壁魔法や情報強化を一切展開せずに素手だけで弾き飛ばした。その事実を撃った本人である奏太だけでなく、勝成達も簡単に受け入れる事が出来ない状態だった。

 

(やはり通じないか……)

 

(あんな魔法で殺せていたら今頃は……)

 

 例外があるとすれば、達也と深雪だった。以前二人は隆誠を殺そうと『分解』や『コキュートス』を使っても全く通用しなかった事実がある為、何となく予想していたのだ。

 

「何故だっ!?」

 

 自分の得意魔法が非魔法師の隆誠に片手で弾き飛ばされてしまったことが信じられずに、奏太は再びフォノンメーザーを発動し直す。

 

 二度、三度、四度と撃つが、悉く隆誠がまるで虫を振り払うように片手で弾き飛ばす。

 

 何度も同じ事をされて鬱陶しく思ったのか、隆誠は琴鳴の動きを封じる為に使った『芯の一方』を使おうと、彼を強く睨んだ。

 

「か、身体が……!」

 

(やっと大人しくなったか)

 

 奏太が動けなくなったのを見て、隆誠はまるで暴れる子供を抑えたかのように嘆息していた。

 

 それと同時に安心していた。自身の影に潜んでいる巨大狼犬型の神造精霊獣フェンが以前みたく無断で飛び出さなかった事に。

 

 だがフェンは良くても、他の神造精霊獣が黙っていないかもしれない。そう考えた隆誠は――

 

「がっ!」

 

「貴方はもう少し痛い目に遭わせる必要がありますね」

 

 距離が数メートル以上空いているにも拘わらず、一瞬で奏太に接近して片手で首を掴みながら持ち上げていた。

 

「は、放しやがれ、無能の、分際で……!」

 

 奏太は抵抗しようとするも、隆誠の『芯の一方』で身体がまともに動かす事が出来ず、唯一動かせる口で虚勢を張るしかなかった。

 

 それを全く聞いてないように、隆誠はもう片方の手で彼の腹部に手を当てて――

 

「その無能にやられる貴方は、最早それ以下ですよ」

 

「ごっ!」

 

 皮肉を込めて言った直後、内臓に響く衝撃を与えた事で奏太は吐血した。

 

 意識が失っているのか、先程まで口汚く罵っていた彼は突如無言となり、今はピクピクと虫の息状態になっている。

 

「っ……」

 

 無残な姿となる奏太に、深雪は目を逸らしながら自身の身体を抱きしめようとする。隆誠に首根っこを掴まれ、その後に自身の腹部に強烈な一撃を与えた恐ろしき記憶がフラッシュバックとなって蘇っていた。

 

(あれで深雪は危うく……!)

 

 深雪が悲鳴を上げなかったのは、達也が傍にいたからだった。

 

 あの忌まわしき出来事は達也も当然知っている。任務中に精霊の眼(エレメンタル・サイト)を通じて視た時、自身の感情が爆発して本気で隆誠を殺そうと考えた程だった。尤も、それが叶わないどころか、絶対的な力の差を教えられてしまう結果となってしまったが。

 

 あれから一年経った今でも、彼は隆誠に絶対勝てないと理解している。どんなに腕を磨いたところで、八雲とは比べ物にならない体術があるだけでなく、自身でも反応しきれない剣術奥義、極めつけには精霊の眼(エレメンタル・サイト)を封じる手段も持っているのだ。例え不意を突いたところで、神霊と思わしき化成体の獣が今も潜んでいる筈だから、どの道無理だと殆ど諦めかけている。

 

 深雪と達也の心情とは別に、止めを一撃を放った隆誠は、持ち上げている奏太を道路へ放り投げていた。

 

「か、奏太……」

 

 虫の息状態になって倒れている弟の姿に、未だに動けない琴鳴は言葉を失いかけている。

 

「次は貴女がこうなる番です、堤琴鳴さん」

 

「!」

 

 隆誠がそう言いながら、ゆっくりと彼女の方へ向かって歩き始める。その気になれば一瞬で接近出来るのだが、彼は敢えてやらなかった。

 

「い、いや、来ないで……!」

 

 まるで死神のように隆誠を見ている琴鳴は、もう既に心が折れていた。それどころか目に涙を浮かべて来るなと訴えている。

 

「今更後悔しても遅いですよ」

 

 隆誠としては戦意喪失してる相手を甚振る趣味は無いのだが、勝負を受けたケジメを付けようとしている。もしこれで琴鳴に何もせず勝利を宣言すれば、堤琴鳴は今後ガーディアンとして失格の烙印を受けてしまう。なので攻撃を受けて意識を失った事にすれば言い訳が立つから、彼女に止めを刺そうとしているのだ。軽い一撃を与えて気絶させるだけだが、それでも倒したと言う事実になるのだから。

 

 あと少しで辿り着こうとする瞬間、突如隆誠の背後から複数の圧縮空気弾が襲い掛かろうとしていた。




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