再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ 作:さすらいの旅人
(やはりそうきたか)
不意を突いて来ることを隆誠は予想していた。新発田勝成が決闘の最中に割り込んでくることを。
堤姉弟との決闘中、彼は既にCADを手にしていただけでなく、何時でも魔法を放てるよう待機状態にもしていた。
自身のガーディアンが完全に不利だと悟った瞬間、必ずどこかで邪魔するだろうと思っていた。案の定と言うべきか、勝成から
複数の圧縮空気弾は命中するも、対象の隆誠は全く効いてないのか、倒れる事無く微動だにしなかった。
「……一体何の真似ですか?」
「!?」
心外だと言わんばかりに抗議する隆誠に、魔法を放った張本人である勝成は目を見開いていた。直撃した筈なのに何故通用しないのかと。
「あり得ないわ! 何で魔法を受けても平気でいられるのよ!?」
これは夕歌も同様で、勝成と違って大きな声を出していた。
「み、深雪様、達也様、あの方は一体……?」
「「……………」」
非魔法師の隆誠が調整対魔法師『楽師シリーズ』である堤姉弟を圧倒してる時点で、水波の頭もパンク寸前だった。思わず深雪や達也に訊ねるも、当の二人は一切答えようとせず無言を貫いている。
そんな中、勝成は隆誠の問いに答えず、再び圧縮空気弾を作り出していく。
動作に一切無駄が無く、あっと言う間に魔法が発動するのは、新発田勝成が得意とする『密度操作』だから。
『密度操作』は個体、液体、気体に関わらず物質の密度を操作するので、それを圧縮空気弾で使うには絶好の魔法の一つ。普通の魔法を使うのに優れている勝成だからこそ出来る芸当である。
先程放った複数の圧縮空気弾は手加減していたが、今度は一つだけで威力があるモノだった。
勝成は非魔法師の隆誠がどう言う原理で防いだのかは分からなくとも、今まで以上の爆風を受ければ倒れるだろうと思って威力を上げる事にした。
(良い事を思い付いた)
再び襲い掛かってくる魔法に、隆誠は名案だと思いながら、片足にオーラを纏わせながら身構えようとする。
奏太が放ったフォノンメーザーを片手で簡単に弾き、圧縮空気弾を受けても平気でいられたのは、身体に防御膜のオーラを纏っていたからだ。いくら元神の彼でもオーラ無しで生身で受ければ、確実に大怪我を負う。如何に身体を鍛えているとは言っても、異形の力を生身で、と言うより脆弱な人間の身だけで防ぐのには無理があると、
身構える隆誠を見た勝成は察した。圧縮空気弾もフォノンメーザーのように弾き飛ばすつもりなのだと。
だが、それは無理だと確信している。触れた瞬間に巨大な爆風が発生するよう、気体の密度を操作しているのだ。
今の勝成は隆誠を非魔法師でなく、厄介な強敵だと認識している。自身の大事なガーディアンである奏太を虫の息状態になる程の重傷を負わせた挙句、琴鳴を動けなくした状態で止めを刺そうとしていた。決闘とは言え、愛する女性が恐怖に怯えながらも手に掛けようとする光景は見ていられなかったから、それを阻止する意味合いも含めて、自身に意識を向けさせることにしたのだ。
すると、その隆誠は突然軽く跳躍した。勝成が放った圧縮空気弾に向かって蹴り飛ばすような仕草をしながら。
誰もが血迷ったかのような行動だと思っている中、隆誠の脚が圧縮空気弾に触れて爆発――しないどころか、そのまま術者である勝成の方へ向かっていくのだった。
『ッ!?』
勝成は勿論のこと、達也達ですら言葉を失っていた。
彼が放った収束系魔法は高密度に生成されて、並みの魔法師以上の威力がある。同時に触れた瞬間爆発するように操作しているのだが、そうならず蹴り返されたのには当然理由があった。
隆誠が魔法に触れた瞬間、片足に纏わせてるオーラを送り込んでいた。それによって圧縮空気弾は術者である勝成の操作を強制遮断されてしまった事で爆発せず、まるで隆誠に魔法式を操られているように跳ね返すと言う、普通の魔法師では考えられない荒技をやったのだ。
勝成は困惑しながらも、自身に向かって来る圧縮空気弾を防ぐ為、対物反射と真空被膜の二重障壁を張る。威力を調節しているとは言っても、隆誠と違って何もせず受ける気は無いみたいだ。
直後、圧縮空気弾は障壁を張った勝成に命中し、彼を中心に爆発した。その間、既に着地していた隆誠は次の行動に移ろうとする。
爆発が収まると、勝成はすぐに障壁を解除して琴鳴がいる方へ視線を向けるも、そこには何故か隆誠がいなかった。
「俺なら此処ですよ」
「!」
声がしたので振り向くと、距離があった筈の隆誠がいつの間にか自身の背後にいた。
その直後、隆誠は彼に向かって回し蹴りを仕掛ける。
「ぐっ!」
咄嗟に両腕で防御する勝成だったが、想像以上の威力と衝撃により、地面に付いてる両足が浮くほど吹っ飛ばされた。
だがそれだけで終わらず、隆誠は一瞬で吹っ飛んでいる勝成に追いつくだけでなく、再び背後に立ち――そのまま彼の背中を思いっきり蹴り上げた。
先程両腕で防御した回し蹴りと違って、勝成は背中に受けた激痛で声を上げてしまいそうだった。相当な威力である事を証明するように、今の彼は真上に吹っ飛んでいる。
次に隆誠も一気に跳躍し、またしても勝成に追いつき、既に真上に上げてる片足を一気に振り下ろす踵落としの要領で、彼の腹部に命中する。
「がはっ!」
身体がくの字になる勝成は口から血を吐きながら、今度は急速に真下へと落下し、そして地面に激突する。
受け身が取れなかったようで、彼は起き上がる事が出来ず、奏太と同様にピクピクと虫の息状態だった。
「よっと」
『……………………』
上手く地面に着地する隆誠とは別に、深雪達は完全に言葉を失っていた。先程まで無傷であった筈の勝成が、数秒も経たない内に重傷の姿となっている為に。尤も、達也からすればまだ優しい方だと思っているが。
「か、勝成、さん……」
自身のマスターが無残な姿になってる事で、琴鳴は弱々しい声で名前を口にしていた。しかし、当の本人には聞こえていない。
それとは別に、彼女の声を耳にした隆誠は振り向く。
「……さて、待たせましたね」
意識を失ってる勝成を確認した隆誠は、琴鳴に向かってそう言った。
「今度こそ止めを刺すとしましょう」
「っ……!」
隆誠が笑みを浮かべながら言う為、琴鳴は今までとは違う恐怖が襲い掛かっていた。
奏太だけでなく、自身の愛する勝成が無惨な姿になる光景を目にした事で、今の彼女は改めて非常に後悔していた。司波達也と違って、非魔法師の司波隆誠なら間違いなく勝てると思い上がっていた自分の愚かさを。
既に戦意喪失しているだけでなく、恐怖によって両眼から涙を流している琴鳴だが、隆誠からすれば知った事ではない。決闘を受けた以上は最後まで付き合って貰わなければいけないと。
すると、泣いている彼女の前に夕歌が立ち塞がる。
「貴女も俺の邪魔をする気ですか?」
「もう勝負は付いたわ。これ以上続ける必要は無い筈よ」
夕歌には言いたい事があった。隆誠がとんでもない事をやらかしてしまった為に。
「隆誠さん、自分が何をやったのか分かっているの?」
「新発田勝成さんを再起不能にした事は、勿論理解していますよ」
夕歌からの問いに隆誠はアッサリと答えた。
「ですが彼は、決闘の最中に騙し討ちをしてきました。此方が訊いても、向こうは問答無用で魔法を使ってきたのですから、迎撃するしかないでしょう。それくらいは夕歌さんもご理解されていると思いますが?」
「……それは勿論分かっているわ」
隆誠の言い分は夕歌も当然理解している。
彼女としては新発田家の跡取りである勝成が、再起不能になる程の重傷を負わせたことが一番の懸念事項だった。
もし今回の件が新発田家現当主の耳に入れば絶対黙っていないどころか、他の分家当主達も何かしらの行動をするだろう。
「だけど、勝成さんに対してはやり過ぎよ」
「それを言うなら、魔法師じゃない俺に魔法を撃ってきたこの方達が一番の問題ではありませんか?」
決闘開始直後から動けなくなった琴鳴とは別に、奏太は殺傷性が高いフォノンメーザーを撃ってきた。隆誠に片手で弾き飛ばされたとは言っても、あの魔法を直撃したら致命傷は免れない威力を持つ。
その次に騙し討ちをしてきた勝成は、威力を加減したと言っても圧縮空気弾を放った。いくら脅威の相手であっても、非魔法師に使っていいモノではない。
「彼のご当主殿に報告したければ、どうぞご自由に。尤も、そんな事をすれば勝成さん達の立場は余計悪くなりますが、ね」
夕歌は即座に理解した。新発田家の跡取りとガーディアン二人が、非魔法師である筈の隆誠と戦って無様に敗北した事が四葉家に知れ渡れば、彼等は今後惨めな人生を送る事になると。
「それとも貴女が琴鳴さんの代わりとして、俺の相手をしますか?」
「っ……」
少しばかり殺気立つ隆誠に、夕歌は思わず後ずさった。
彼女は勝成やガーディアンの堤姉弟と違って戦闘向きの魔法師ではない。もしこの場で魔法を放とうとしても、先程まで見せられた隆誠の出鱈目な身体能力の前では何の意味も持たず、虫の息状態になっている二人と同じ運命を辿るのが目に見えている。
自分に恐怖していると分かったのか、隆誠は途端に殺気を霧散させる。
「冗談ですよ。だからそんなに怖がらないで下さい。でもまぁ……」
隆誠は琴鳴の方へ再び視線を向けるも、限界が訪れたのか、もう既に意識を失っていた。因みに『芯の一方』は既に解除されており、動けなくなっていた身体は地面に向かって倒れている。
「
「ッ!」
彼は決闘でなく、『弱い者いじめ』と言い切った。それは即ち、新発田勝成と堤姉弟を弱者としか見ていない事になる。
それを聞いた夕歌は思わず言葉に出しそうになったが、何とか堪えていた。下手な事を言えば、自分もその中に加わってしまう為に。
すると隆誠は、今も無言になっている達也へ視線を向ける。
「達也、勝成さんと奏太さんに『再成』を」
「分かりました」
隆誠の指示に、達也は何一つ反対の意思を示す事なく、自身のCADを取り出す準備に掛かろうとする。
「深雪、君は隣の彼女と一緒に琴鳴さんの介抱を」
「はい。水波ちゃん、いくわよ」
「え? あ、はい。畏まりました」
次に隆誠は、倒れてる琴鳴を同じ女性である深雪(+水波)に任せようと新たな指示を出した。
(どう言う事なの? 達也さんだけでなく、あの深雪さんまで大人しく彼に従うなんて……)
普通なら敬愛する兄を顎で使う隆誠を見た瞬間、深雪が激昂してもおかしくない。だがしかし、そんな様子を微塵も見せていないから夕歌は疑問を抱く。
取り敢えず新発田勝成と堤姉弟は隆誠にKOされました。
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