再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ 作:さすらいの旅人
(どうやら達也も完全に予想外だったみたいだな)
次期当主である深雪を補佐する役割を与えたのが隆誠であった事に、達也ですらも文弥達と一緒に驚くほど表情が変わっていた。
実のところ、隆誠も少しばかり予想外だった。自分を達也と深雪を縛り付ける為に相応の地位を与えると予想していたが、それがまさか次期当主補佐だとは思いもよらなかった。
今はまだ肩書きに過ぎないが、これで深雪が何の問題無く当主になれば、当主補佐となった隆誠は四葉家の中で二番目の権力を持つ事になる。大雑把に言ってしまえば、使用人達は勿論のこと、今まで隆誠を見下していた各分家を思いのまま命令権を行使する立場を得られるのだ。
隆誠としては、そのような地位や権力など微塵も欲していない。四葉家や魔法師などの関わりが全く、一般市民として平穏な毎日を過ごしたいと今でも願っている程だ。
しかし、それはもう既に無理だった。真夜がずっと前から目に付けていたとは別に、隆誠が四葉家の最高傑作とも言える深雪や達也を圧倒する実力を持っていると判明した時点で、もう平穏な時間を過ごす事は出来ないと覚悟していたから。
真夜から当主補佐と言う四葉家の重鎮である地位を与えられた以上、当主となった深雪は勿論のこと、ガーディアンの達也もちゃんと見なければならない義務がある。それが異母兄である自分の役目だと、隆誠は改めて誓う事にした。だがその前に、これから起きようとする問題を解決しなければいけないが。
「ご、ご当主様。再度発言をお許し頂けますでしょうか」
「あら、文弥さん。今度は何かしら?」
真夜の決定に異を唱えようと、達也ではなく文弥が先陣を切った。
「申し上げます。先ほど、司波隆誠さんに補佐をすると仰っていましたが、私の聞き間違いでしょうか? 隆誠さんは我々と同じ分家でも、魔法の素質が一切無い事はご当主様もご存知の筈ですが」
文弥はすぐに立ち上がった直後、焦りの色を隠しきれないまま真夜に問う。
こうなる事を予想していたかのように、真夜は今も余裕の笑顔を見せながら答えようとする。
「そうですね。確かに隆誠さんは私達と違って魔法師ではありませんが、彼を補佐にしたのは相応の理由がありますから、どうか落ち着いて聞いて下さい」
まるで小さな子供をあやすように言われた事で、文弥は自分の心情を見抜かれたように頬を赤らめた後、申し訳なさそうに再び席に着く。
本来なら隣に座っている亜夜子が指摘してもおかしくないのだが、今の彼女も真夜の言葉を待つように黙っている。夕歌に勝成、そして深雪と達也も同様に。
「実を言いますと、私も少し前まで隆誠さんを皆さんと同じように単なる非魔法師と見ていました」
まるでつい最近知ったかのような口振りの真夜に、隆誠は『嘘吐け!』と内心思いっきり突っ込んだ。
隆誠の心情を余所に、真夜は自ら調査した結果を開示しようとする。
四年前に起きた『佐渡侵攻事件』で新ソ連の兵達を撃退した正体不明の少年について。
三年前に九重寺の住職『九重八雲』も絶賛する程に凄まじい実力を持った無名の少年について。
二年前に『千葉の麒麟児』と名高い千葉修次と互角の勝負を繰り広げた少年について。
一年前の秋に横浜事変が起きた際、横浜ベイヒルズタワーを襲撃した大亜連合の『人食い虎』こと呂剛虎を倒した正体不明の人物について。
この四年間に起きた当事者が司波隆誠だと真夜が口にした直後、この場にいる者達の誰もが驚愕していた。
「そ、その情報は、本当に、真実なのですか?」
余りの内容に文弥は事実であっても、受け入れる余裕が全く無いように、無礼だと分かっていながらも再度問う。
「ええ、本人も認めています。ですよね、隆誠さん?」
「黒羽家以上の諜報能力を持っているご当主様に問い詰められたら、白状せざるを得ませんからね」
「「!」」
隆誠の返答内容は文弥と亜夜子に対する、と言うより黒羽家に対する皮肉だった。
四葉の諜報部門を統括している黒羽家は、あらゆる手段で情報を集めるプロフェッショナルと呼ばれている。
だと言うのに、今まで隆誠が秘匿していた情報が真夜によって暴かれる事になった。本来であれば黒羽家が調べなければならない案件なのだが、彼等は敢えてやらなかった。愛人の息子で、魔法の素質も一切無い一般人について調べる価値など無いと。
全く知らなかった事実に文弥と亜夜子は内心歯軋りするも、真夜の前で無様な姿を晒す訳にはいかない為、傷付いたプライドを顔に出さないよう必死に抑えている。
「まぁ、いくら私が調べたとは言え、皆さんからすれば実感が湧かないのは理解出来ます。因みに達也さんは、先程の話を聞いてどう思いましたか?」
すると、真夜は突然達也に話を振った。
彼女は既に知っている。教えた情報とは別に、隆誠が化成体以上の存在である狼犬を手懐けており、絶対的な実力差を教えられただけでなく、
それを分かっていながら真夜が問いかけた真意を、達也は瞬時に理解した。自分が四葉家、もとい隆誠に対して反逆の有無を確認する為だと。
「今まで全く存じなかったとは言え、自分の
「良いぞ。機会があれば、な」
一先ず反逆の意思を見せないよう、達也は異母兄に称賛の言葉を贈ることにした。ここで下手に逆らえば深雪に何らかの被害が及ぶ恐れがある為、真夜や隆誠に対して服従の姿勢を見せている。
隆誠は当然気付いていながらも、敢えて何も言わず話を合わせている。どちらを選んだところで、達也と深雪はもう既に詰んでいる状態なのだから。
その深雪も、服従を見せる達也の姿勢に何一つ言おうとしなかった。隆誠が当主補佐になる事に全く反論しないどころか、ずっと顔を俯かせたまま青褪めている。
深雪は恐怖していた。もし自分が当主になって何かしらの失態を犯したら最後、当主補佐になった隆誠に殺されてしまうかもしれないと。
去年の夏、九校戦が終わる前日に彼女は隆誠に殺されかけた。自分が死ぬ寸前に達也が『再成』を使ってくれたお陰で助かったが、隆誠から『お前にもう次は無い』と言われた。それが今も深雪のトラウマであり、心の枷にもなっている。まだ先の話とは言え、失態を犯してしまった時の事を考えただけで、徐々に深雪の心が蝕み始めていく。
「深雪、大丈夫か?」
妹の異変に気付いている達也だったが、真夜や文弥達がいる手前敢えて何も言わなかった。
「あら、深雪さん、大丈夫? ご気分が悪いのかしら」
「いえ……大丈夫です」
真夜からの問いに深雪は気丈な返事をしても、誰が見ても大丈夫ではなかった。
「達也さん。明日の慶春会に備えて、深雪さんをすぐに部屋で休ませてください」
「分かりました」
まだ食事会は終わっていないが、深雪が急な体調不良を起こしたのであれば、すぐに休ませるのは当然だった。
真夜の指示に達也はすぐに頷いた後、すぐに深雪を連れて食堂を後にした。
食事会が始まる前まで普通だった筈の深雪が、あそこまで急変するのは異常だった。そうなる原因を作ったのは間違いなく隆誠だと、文弥と亜夜子だけでなく、夕歌と勝成もすぐに察した。
「申し訳ありません、皆さん。まだ食事会の最中ですけど、主役の深雪さんが急な体調不良となってしまった以上続ける訳にはいきませんので、勝手ながらお開きにさせて頂きます」
真夜が食事会を中断する事に、誰も異論は無かった。
その後、真夜は隆誠に訊きたい事があるからと、この場に残るよう命じた。
補佐役を任命された隆誠に、次期当主の深雪が急な体調不良を起こしてしまいました。
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