再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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慶春会②

(アレが神霊だと!?)

 

 深雪を守りながらも、隆誠が出現させた怪鳥に達也は最大限に警戒していた。

 

 去年に見た狼犬と同様、精霊の眼(エレメンタル・サイト)で見ても実体が無い。達也が以前に交戦したパラサイトを思い出すも、悪性な霊子(プシオン)と違って、目の前にいるのは全く真逆で大変澄み切っている霊子(プシオン)の塊だった。

 

 先ほど隆誠があの怪鳥を『氷の神霊』と言っていたから、あの狼犬も神霊に間違いないと改めて認識する。同時にあの時は無知だったとは言え、精霊の眼(エレメンタル・サイト)に頼り過ぎて司波隆誠を見誤っていた己の馬鹿さ加減に辟易しそうだと。

 

「グワッ!?」

 

「ッ!」

 

 精霊の眼(エレメンタル・サイト)で自分を視られていると気付いたのか、怪鳥は突然達也の方へと視線を向けながら威嚇の声を上げる。まるで不愉快だと言わんばかりに睨み付けているようだ。

 

 ただ睨まれているだけなのに、達也は身体が凍り付きそうな感覚だった。口を開こうとする怪鳥に、達也は懐に手を入れて――

 

「やめろ、グラース」

 

「クワッ!」

 

 隆誠が聞き覚えの無い名前を口にした直後、怪鳥は途端に大人しくなるのであった。

 

 まるで嘘のように殺気と睨みが突然無くなった事で、達也は思わず呆然となってしまう。

 

「達也、いきなりアレで『視る』のはやめろ」

 

「……申し訳ありませんでした」

 

 隆誠の言うアレとは間違いなく精霊の眼(エレメンタル・サイト)の事を指していた。

 

 確かに思わず発動させて調べようとしたところ、グラースと言う怪鳥は大変不快そうな表情で達也を睨んでいた。内部構成が全く不明だったとは言え、無遠慮に自分を視られた事が相当不快だったのだろう。

 

 もし隆誠が止めなかったら、あの怪鳥は確実に自分を敵と見なしていただろう。『分解』が通用しない相手に開発した『新しい魔法』で迎撃する事も考えていたが、それで隆誠の怒りを買う事になって再び精霊の眼(エレメンタル・サイト)を強制封印されてしまう結果になるので、どの道無駄な努力になってしまう。

 

 達也は謝罪した後、再び深雪から離れて見守る姿勢となる。

 

「さて、思わぬ横槍が入ってしまいましたが紹介しましょう」

 

 下がった達也を見た隆誠が、未だに驚愕の表情が張り付いたままの分家一同に向かって、召喚した神霊を紹介しようとする。

 

「コイツは氷の神霊『グラース』と言います。その名の通り、『氷』に関する力を持った神霊です」

 

「クワァァァァ……」

 

 隆誠の隣に着地するグラースは、口から冷気が漏れ出ている。

 

 

「アレが神霊だと……?」

 

「何かの間違いじゃないのか……?」

 

「単に奴の虚仮威しだろう」

 

 

 分家の中には未だに信じられないのがいるみたいで、馬鹿にしたような小声が聞こえた。

 

 グラースは当然耳にしており、主を愚弄する愚か者に狙いを定めようとするが、『やめろ』と念話が来た為に大人しくせざるを得なかった。

 

 隆誠も先程の小声も聞こえているが、奴等が簡単に信じられないのは既に察している。今まで達也以上の出来損ないと蔑んでいた彼等が、いきなり『次期当主の補佐』と敬う事は難しい。今でも言葉と行動の端々に隆誠を軽んじる態度が滲み出ている。

 

 少しばかりグラースの恐ろしさを教える必要がありそうだと判断した隆誠は、真夜にある事を提案しようとした。

 

「ご当主様、すいませんがグラースの力の一部を見せて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「まぁ、大丈夫ですの? 確か神霊を召喚するだけでも、相当な想子(サイオン)を消耗する筈では?」

 

「御心配には及びません。今日召喚した時点で、暫くの間は出せません(・・・・・・・・・・)から」

 

 神霊召喚の欠点を自分からバラしている隆誠の発言に、やはり所詮は素人だと分家達は内心嘲笑っていた。

 

 魔法師は、自身が扱う魔法の欠点を簡単に明かしてはいけない。そんな基礎的なマナーを知らないから、彼等は隆誠を素人だと判断したのだ。

 

「隆誠さんがそう言うのでしたら、是非とも見せて頂きましょう」

 

 真夜から許可を貰った事により、隆誠はグラースを連れて席を外そうとした。

 

 

 

 隆誠は羽織袴姿のまま、会場に面した庭へ足を運んだ。

 

 彼の向かい側には、猪が入れられた檻が置かれている。

 

 隆誠の近くで飛んでいるグラースは、アレが今回の標的だと認識しているようにジッと見ていた。

 

「今からお見せするのは、深雪が得意とする冷却魔法『ニブルヘイム』と似たようなモノとだけ言っておきます」

 

 深雪の魔法と聞いた瞬間、達也がピクリと反応するのは当然だった。

 

 如何に神霊とはいえ、深雪の『ニブルヘイム』を披露するのは流石に無理があるのではないかと疑ってしまう。それでもあの怪鳥の口から発している冷気を鑑みれば、猪を凍らせるのは間違いないと思っているが。

 

 分家や使用人達も単なる誇張ではないかと見守っている中、隆誠はグラースに指示を出していた。

 

「グワァァァァァァ!!」

 

 そして、グラースは口を大きく開けた瞬間――凍てつく冷気が雪崩のように檻に入ってる猪を覆うのであった。

 

 それに覆われた猪は全身どころか、檻ごと凍らせていた。

 

(確かにかなりの威力だが、それでも深雪ほどでは……何!?)

 

 一瞬で猪を凍らせる事に驚く達也だったが、それでも深雪の『ニブルヘイム』と全く変わらないと判断した。

 

 だが数秒後、檻と猪を覆う氷に突然罅が入り、まるで脆いガラスのように細かく砕け散っていく。

 

 

「な、何だ!?」

 

「突然砕けたぞ!?」

 

「しかもあんなに細かく……!」

 

 

 驚いたように声を上げる観客達とは別に、凍っていた猪は檻ごと砕けてしまうどころか、砂状となって消えていくのであった。

 

「とまあ、こんなところです」

 

 隆誠がそのように言った後、グラースは途端に霧散していく。役目を終え、消えたと言ったところだろう。

 

「待って下さい」

 

 戻ろうとする隆誠を引き留める声が上がった。

 

「何でしょうか」

 

 隆誠を引き留めたのは、意外にも勝成だった。

 

 勝成が草履を履いて庭に降りる。検証するつもりなのか、猪がいた檻へと近付こうとする。

 

「今はまだ近付かない方が良いですよ。下手に踏んだら足が低温火傷しますから」

 

「ッ!」

 

 素直に警告を受け取った勝成は、その場で足を止めようとする。

 

 隆誠の近くにいるだけで、相当な冷たさを感じ取った。間近でグラースが発した凍てつく冷気の余波を受ければタダでは済まないと言うのに、何故こうも無傷でいられるのかが不思議でならない。

 

「隆誠殿、先ほど『ニブルヘイム』と似たようなモノと仰っていたが、今のは明らかにそれ以上の威力だったと私はそう見解しました」

 

「まぁ、そうですね。グラースが放った冷気は、軽く触れただけでも簡単に壊死するほどの威力がありますから」

 

 聞いた勝成だけでなく、観客達からも再度驚愕の声を上げていた。

 

 それと同時に青褪めるように恐怖した。もしも先程に隆誠を小馬鹿にした声が聞こえていたら、自分達は間違いなくあの猪と同じ運命を辿る事になっていただろうと。

 

 本人が暫くの間は出せないと言っても、万が一に再び現れて自分達に襲い掛かると考えただけで凄まじい程の悪寒が走ってしまいそうになる程だった。

 

「制限があるとは言え、高度な存在である筈の神霊を意のままに操れるとは恐れ入りました。隆誠さん、お見事です!」

 

 深雪以上の力を示す神霊に満足したのか、真夜は隆誠を絶賛していた。

 

 それを聞いた隆誠は、彼女に向かって頭を下げる。

 

 上体を起こすと、勝成が他の人間に聞こえない声で囁いた。

 

「あの神霊を使えば、私達を一蹴する事が出来たのではありませんか?」

 

 勝成からの問いに隆誠は苦笑しながらこう言った。

 

「神霊魔法は一種の切り札です。余程の強敵が現れない限り使う機会はありません」

 

「ッ!」

 

 勝成は鋭い視線を向けた。「貴方達は神霊魔法を使うに値しない有象無象だ」と言う言外のメッセージを正確に理解したから。

 

 だが、それはすぐに収まる。自分では彼の相手にならない事を、昨日の決闘で嫌というほど理解されたのだ。例えここで暴れたところで、彼の持つ出鱈目な身体能力で無様に倒される事も含めて。無念だと分かっていながらも、彼は必死に心の奥に押し込めながら、席に戻っていった。

 

 これで正式に司波隆誠が当主補佐として就くには問題無いと、分家達は取り敢えずと言った形で納得するしかないのであった。あくまで表面上は、だったが。




活動報告では氷の神霊は『フリード』でしたが、改めて『グラース』に変更しました。

次回は皆さんお待ちかねの展開、かは分かりませんが、隆誠が何者かに襲撃されます。

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