再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ 作:さすらいの旅人
隆誠が寝室に現れる少し前に遡る。
『隆誠さん、深雪さんの仕事ぶりは如何ですか?』
「四葉家当主として恥じないよう毎日励んでいますよ。他には――」
本日の仕事を終えた深雪が執務室を去ってから、当主補佐の隆誠は確認作業を終えて、部屋でまったりと寛いでいた。
その際に携帯端末から連絡が入り、テレビ通話をONにすると四葉真夜が映っており、当主として就任された深雪の評価を彼に聞いていた。
当主を退いた真夜は現在四葉本家におらず、数年前に産んだ息子の子育てに専念したいという理由で少し離れた別邸に移り住んでいる。彼女一人だけで家事を行うのは無理である為、執事長の葉山を筆頭に数人のメイドもいる事も補足しておく。
因みに葉山も四葉家の仕事から遠ざかっており、真夜とその息子の専属執事として専念している。分家から何かしらの要請があっても、『そのようなお話は隆誠様にご相談を』と言って断る程だ。
「――とまあ、こんなところです」
『それは何よりですわ。ところで……』
隆誠から一通り話を聞いた真夜は、途端に話題を変えてきた。その表情は四葉の前当主としてではない。
『一誠が貴方に会いたがっていますから、一度
「そうしたいのは山々ですが、結婚式の準備だけでなく、一条家との打ち合わせもありますから」
一週間後に四葉家当主の深雪は、十師族の一条将輝と結婚する予定になっている。
将来有望である一条家長男の次期当主が結婚するとなれば、深雪が一条家に嫁入りすると思われるかもしれないが、実際は逆で、将輝が四葉家に婿入りすることになるのだ。
現当主の一条剛毅は親として願いを叶えようと、氏族会議の際、四葉家に差し上げる覚悟で息子を深雪と婚約して欲しいと願い出た。当時の四葉家当主である真夜は突然の申し出に面食らうも、『深雪を大切にして下さるのであれば構わない』とあっさり承諾している。
余りにも早く承諾された事で思わず目が点になってしまう一条家当主だが、例え何か裏があるにしても婚約を認めてくれるのであれば、息子に嬉しい報告が出来ると思いながら感謝の意を述べて話を終わらせた。
実際、真夜が裏で考えてることなど一切無い。既に深雪と達也を結婚させる計画が破綻していた為、姪が誰と結婚しようが如何でも良いのだ。今の彼女は一色家の長女が隆誠に婚約を申し出た事が一番の懸念事項であった為に。
「ああ、そう言えば結婚式に一色家も来るそうですよ」
『……まさかとは思いますが、あの生意気な小娘も来るのですか?』
「生意気な小娘って……」
真夜が言う生意気な小娘とは、一色家の令嬢――愛梨の事を指している。
数年経っても彼女は隆誠に助けられた恩を今でも大切にしており、接触する機会があれば必ず会おうとするから、それで真夜が毎回苛立つのがお決まりのパターンとなっていた。
隆誠が当主補佐となった事で会う機会はめっきり減っているのだが、それでも愛梨は諦めていない。一色家当主の父から他の相手の婚約を勧めても、全く興味無いと一蹴されてしまう始末。真夜としてはいい加減諦めろと直接言いたいのだが、そうなれば彼との関係を疑われてしまう為に今も歯痒い状況が続いている。
「そう嫌そうな顔をしないで下さいよ。俺は彼女と結婚する気はありませんから」
『その台詞は何度も聞きましたわ……』
真夜は彼が愛梨に恋愛感情を抱いていないのは理解しても、一人の女として見過ごす事がどうしても出来なかった。出来れば自分や息子と一緒に過ごして欲しいと何度も願っている為に。
二人が四葉家の雰囲気から大きくかけ離れた会話を終えた直後、急な報せが入った。
――ワンワンッ。
(達也が深雪の寝室に入っただと?)
頭に突然の念話をしてきたのは、風の神霊こと神造精霊獣の巨大狼犬『フェン』だった。
神造精霊獣達は普段から隆誠の影に潜ませているが、当主補佐となった主の警護をしようと、透明化したまま屋敷の周囲を見張っている。本人は必要無いと断ってるのだが、
そうして見張っている際、深雪のガーディアンを務める達也が深雪の寝室へ向かったのをフェンが偶然目撃した。
彼女は深雪と達也の事を心底嫌っている。二人が既に従順な姿勢を取っているとは言っても、数年前に何の躊躇いもなく主を殺そうとしたから気を許す気など一切ないのだ。
だからこんな寝静まった時間に会おうとしてるのは、あの愚かな兄妹がまた何か良からぬ事を仕出かすのではないのかと思い、主の隆誠に報告した。
(確かに不謹慎かもしれないが、あの二人が今更俺に反逆する気なんか……ん? いや、待てよ)
隆誠はふと思い出した。深雪が今日の仕事を終えて去った際、何か決心したような目になっていたのを。
その時は一条将輝との結婚に漸く腹を決めたようだなと思っていたが、フェンの報告を聞いた事で考えが一気に変わる。もしかしたらそれとは全く別の覚悟を決めたのではないかと。
(まさか今でも達也の事を……)
深雪は嘗て実の兄である達也に結婚願望を抱くほどの恋愛感情を抱いていた。しかし、一条将輝との婚約が確定した事で二度と叶う事はなくなり、四葉家当主としての務めを果たそうとしている。
将輝との婚約が決まって既に数年経っているにも拘わらず、未だにその想いを諦めていない。
そんな彼女が決心して真夜中に達也を寝室に呼び出したとなれば――
(あの愚妹め、この期に及んで馬鹿な真似を……!)
将輝と結婚する前に、今夜だけは兄と一夜限りの夫婦として過ごすつもりだろうと言う結論に至る。
正常な判断を失うほど追い詰められたのかもしれないが、いくら達也と結ばれたいと言っても、実の兄妹で近親相姦するなど以ての外だ。加えてもし一条家に知られたら婚約解消どころか、周囲から汚点として見られる事になってしまう。
四葉家の当主補佐になった以上、当主の愚かな行動を何としても阻止しなければならない。そう考えた隆誠は、深雪の寝室へ向かおうと転移術を使うのであった。
次回で番外が終わる予定です。
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