再び転生した元神は魔法科高校へ IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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タイトル通り、単なる日常話です。


一条家の日常

 隆誠が一条家次期当主から降ろされて二年が経った。剛毅が魔法協会に通知した事で、一条家を蹴落とそうと躍起になっていた魔法師の各家系は、才能溢れる魔法師として称賛されている将輝が次期当主になった事で漸く収まる。『一条家は次期当主を出来の悪い長男から優秀な次男に挿げ替えた』と嘲笑した事に、どこまでも口さがない低俗な連中だと隆誠は果てしなく呆れた程だ。

 

 十師族直系でありながらも、一般人としての生活を送る隆誠は、その平穏な日々を凄く楽しんでいる。それを見ていた剛毅や美登里は少々疑問を抱くも、『まぁ隆誠がそう望んでいるなら』と余り気にしない事にした。弟妹の将輝と茜と瑠璃も、兄が次期当主から降ろされても関係無いと言わんばかりに普通に接している。

 

 因みに将輝だけは違う視点で兄の隆誠をこう見ていた。『確かに兄貴は魔法を使えないけど、自分達とは比べ物にならない何か凄い力を持っていそうな気がする』と。尤も、それはあくまで彼の個人的推測に過ぎない為、結局分からず仕舞いになっているが。

 

 一条家は十師族と言えど、家では普通の家族と何ら変わりない。平和な休日の最中、ある事が再び起きようとしていた。

 

 

 

 2092年6月

 

 

「母さん、今日は休んで良いよ」

 

「その必要は無いわ」

 

 日曜日の夕方。家でのんびりと過ごしている一条家だったが、台所でとある戦いが始まろうとしている。

 

「良いじゃないか。久しぶりに料理を作りたいんだからさ」

 

「前にお母さん言ったでしょ? 私が風邪を引いた時に頼むって」

 

 笑顔を浮かべながら台所の奥に進もうとする息子の隆誠に、ニコニコしながらこの先を通すまいと阻止する母の美登里。

 

 この親子は一体何をやっているのかと疑問を抱かれるかもしれないが、当然理由がある。

 

(あ、また始まった)

 

 リビングに向かおうとしていた将輝が、その途中で隆誠と美登里のやり取りを見て即座に察した。巻き込まれたくないのか、彼は敢えてスルーしながら去って行く。

 

「親父、兄貴と母さんが台所でアレやってたよ」

 

「何!?」

 

 会社が休みなので剛毅はリビングで過ごしていたが、将輝からの報告に思わず緊張してしまう。

 

「もう。こういう時だけはお母さんを困らせるんだから」

 

「でも、隆誠お兄ちゃんの料理なら私食べたい」

 

 偶々リビングに居合わせていた茜と瑠璃は、剛毅とは違う反応をしている。

 

 疲れ気味な表情をする将輝。緊張状態になる剛毅。兄の行動に少々憤慨する茜。楽しみだと笑みを浮かべる瑠璃。

 

 この親子が何故それぞれ異なる反応を示す事の発端は、今から約一年前に遡る。

 

 

 

 

 

 2091年某月。

 

 

 

「どうしたんだ、美登里。夕飯を作っているのではなかったか?」

 

「あ、剛毅さん」

 

 剛毅は一息入れようとリビングに来たのだが、そこには妻の美登里がいた事に疑問を抱く。

 

 今の時間帯は夕方になっており、いつもの彼女であれば夕飯の支度に取り掛かっている。けれど、それを全くせずリビングでそわそわしながら待っている様子だったから、剛毅が気になって訊ねるのは当然と言えよう。

 

「それが、今日の夕飯は隆誠が作るって急に言いだして」

 

「何?」

 

 美登里から予想外の発言をした事で、剛毅は少しばかり目を見開く。

 

 二人はこれまで、隆誠が料理をしたと言う記憶が一切無い。それは弟妹の将輝達も同様に。

 

 一条家の中で家事を行うのは美登里、茜、瑠璃となっている。娘二人がやっているのは、「その位出来ないと恥ずかしくてお嫁に出せない」と言う美登里の放心の下、炊事・洗濯・掃除を日替わりローテーションでやらせているから。補足として男性陣の剛毅や将輝、そして隆誠は殆ど関わっていない。

 

 美登里がいつものように夕飯を作ろうとしたところ、隆誠が『今日は俺が作るよ』と言いだして彼女は当然驚きを示す。気持ちだけ貰っておくと丁重に断ろうとするも、結局は上手く言い包められて息子に調理を任せるのであった。

 

「隆誠が料理を、か。珍しいな」

 

 長男は魔法の才能に恵まれなかったが、それでも優秀と言うべき点がある。

 

 物心付いた時から子供とは思えないほどに落ち着いた性格でありながら、何事も真面目に取り組んで学ぶ姿勢を見せている。更には弟達が何か分からない事があれば分かり易く教えるなど、指導に関する才能が大変優れているのだ。あらゆる知識を持つ兄の指導が良い事もあって、将輝達は何かあれば訊いてくる事がある。時折父親の自分より頼られているんじゃないかと思う程に。

 

 そんな隆誠が、今日は自分から料理を作ろうとしている。普段は美登里の料理を楽しみにしているのに、一体どう言う風の吹き回しなのかと疑問を抱いてしまう。

 

「一人でやるって言ってたけど、やっぱり私も見た方が……」

 

「まぁ、良いではないか」

 

 未だに不安がっている美登里が台所へ行こうとするのを剛毅がやんわりと止めた。

 

「ここは一つ、息子がどんな料理を作るのかを待つとしよう」

 

「剛毅さんがそう言うのでしたら……」

 

 夫の言葉に、美登里は取り敢えずと言った感じで押し留まる。

 

 そして夕飯の時刻が近くなると、隆誠は作った料理を食卓へ運ぶ。

 

 食卓にはご飯と(油揚げとワカメ入りの)みそ汁、主菜は『肉じゃが』、副菜は『ほうれん草のゴマ和え』。日本の家庭料理として定番の和食だった。

 

(こ、これが本当に隆誠一人で作ったのか!?)

 

(嘘でしょ!?)

 

 初めて作ったとは思えないほど見事な出来栄えに、剛毅と美登里は目を見開いていた。

 

 隆誠が人数分の料理を運んだ後、タイミング良く将輝達が現れて料理を食べ始める。

 

「あれ? 母さん、今日の料理は一段と美味しい」

 

「本当。この肉じゃが、前より美味しくなってる」

 

「おかわりしちゃいそう」

 

 今日の夕飯を作ったのが隆誠だと知らないのか、将輝達はいつもより美味しくなってる料理に称賛の言葉を述べていた。作った当の本人は苦笑するも、敢えて指摘せずに黙って食べている。

 

(確かに美味い!)

 

(本当に初めて作ったとは思えないほど美味しいじゃない!)

 

 剛毅と美登里も揃って肉じゃがを口にするも、将輝達の高評価に納得する程の美味しさだった。二人の反応を見た隆誠は、口に合って何よりだと内心安堵している。

 

「りゅ、隆誠。お前一体どうやって、こんなに美味しく作れたんだ?」

 

「「「え?」」」

 

「父さん、出来ればネタ晴らしをしないで欲しかったんだけど」

 

 剛毅の発言に、美味しく食べている将輝達の箸が途端に止まった。

 

 改めて今日の夕飯は隆誠が作ったモノだと教えると、三人は――

 

「こ、これ全部兄貴が作ったのか!?」

 

「チョッと隆誠兄さん、一体どう言う事なの!?」

 

「お兄ちゃんの料理だったんだね。凄く美味しいよ」

 

 将輝と茜は驚きの声を上げており、瑠璃は事実を受け入れるようにモグモグと食べていた。

 

 極めつけには――

 

「隆誠お兄ちゃんはお母さんより料理上手なんだね」

 

「うぐぅっ!」

 

「お、おい美登里!?」

 

 一条家の末娘である瑠璃の一言によって。母の美登里は大変ショックを受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 と言う事があり、美登里はあれ以降から隆誠に料理を作らせようとしなかった。やるとしても『自分が風邪を引いた時にだけ作っても良い』と言う条件で。

 

 だがそれでも、隆誠は時々自分がやるからと言って、事あるごとに台所前で美登里と軽い衝突をして今に至る。

 

「なぁ親父、そろそろ兄貴と母さんを如何にかしてくれないか?」

 

「……悪いがそれは無理だ」

 

 本来であれば剛毅が一家の大黒柱として二人を宥めるべきなのだが、料理に関しては口出し出来る立場じゃないと言い訳染みた理由で敢えて見守っているだけだ。

 

 もし下手に関わってしまえば――

 

「なぁ父さん、今日の夕飯は俺が作ろうと思ってるんだけど、どうかな?」

 

「あなた、隆誠に言ってくれませんか? 料理を作るのは母親の役目だって」

 

「ッ!?」

 

 こうしてどっちの料理が食べたいのかと選択権を委ねられてしまうのだが、今回は口出しせずに隆誠と美登里の方から尋ねられるのであった。

 

「あ、いや、それは……」

 

 大事な息子と妻からの頼みに、剛毅はどうにか平和的解決を図ろうと考えるが、すぐには思い浮かぶ事が出来ず、しどろもどろになっている。

 

 思わず別の方へ視線を向けるも、将輝達は巻き込まれたくないと言わんばかりに、父親からの視線を咄嗟に逸らした。

 

 十師族に連なる者とは思えないほど、ありふれた平穏な日常を送ってる一条家。

 

 今から二ヶ月後にその平和を脅かす事件が起きる事を、この時誰も想像しなかった。




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