ホロライブ・オルタナティブ〜holox of the eden〜 作:天翼project
「ラプ〜、あったよ!東に12km!」
「お!やっとか!いい加減げんなりしてたとこだ」
1人旅をしている所に襲撃してきた女…鷹嶺ルイを下し仲間に引き入れたラプラスは、あれから数週間歩いてその報告を聞き溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
その様子は確かに無邪気な子供そのもの。
しかし、彼女の仲間…或いは部下として共に旅をすることになった鷹嶺ルイは、ラプラスが内に秘める野望とカリスマ性をよく知っていた。
勿論あの無邪気さも素であることに違いないというのは、この数週間の関わりで分かっていたことだが。
「なあルイ。もう歩くの面倒だから吾輩おぶって街まで飛べないか?」
「出来なくは無いけど…魔族抱えた獣人が猛スピードで飛んでくるとかそれなんてホラー?」
「…人間の街だったか?」
「えぇ…」
「そっか〜…」
さてここで1つちょっとした世界観のお話。
この世界には多種多様な種族が存在するが、その中で魔族が魔界と言われる異界に暮らしているのは1話で話した通り。
そして現世には魔族は非常に珍しく、そして忌み嫌われる存在として知られていた。
それは古い歴史の話になるが、かつて魔族も現世に暮らしていた時期があったが、現世を支配するために魔族達が他種族の侵略を行い、大陸全土にわたる大戦争となったことがあった。
最終的に戦争は多種族連合の勝利、敗北した魔族達は5人の賢者によって天界の裏側の世界、魔界へと封じ込められてしまった。
そんな魔族達も何かの拍子に現世に現れることがあるが、そういった魔族たちは尽く疎まれ突っぱねられるのが今の世だ。
ただ、長い時が経ったことによって敵対意識が薄れ、過激な攻撃を行う者が少数派なのは救いか。
故に現世でも細々と生きている魔族は少なからず存在していた。
そんな魔族が疎まれる世界ではあるが、時の流れ、情勢の変化、様々な要因が絡み付き、他種族同士での仲も険悪になってきたこのご時世。
大陸で双璧を成す大国である”黄金国”と”獣王国”は苛烈な戦争を行い、日夜多くの犠牲者が出ている。
そんな種族間で諍いが起きているこの世の中、人間の街に魔族と獣人が乗り込んだらいい顔をされないのは明白だった。
「私はまあ、フード被って翼も畳んでマントで隠せば行けるけど…ラプはねぇ…」
「おう吾輩誇りの角に文句があるなら言ってみろ」
苦笑いしながら角を見てくるルイにラプラスが睨み返す。
当然ながら大きく立派なラプラスの角はフードを被るくらいじゃ隠せるはずもなし、街に入るのは困難だろう。
ルイだけが街に入るのもありだが、せっかく数週間ぶりに見つけた文明圏。
ラプラスもそこを観光…視察してみたいという気持ちでいっぱいだった。
「…よし、ルイ。街行って出来るだけデカイ帽子買ってこい」
「…え?」
「ヨシ!」
「何がヨシ!なのよ…」
マッシュルームのように膨れ上がった特徴的な帽子は確かにラプラスの目立つ角を隠せてはいるが、これがいかにも屈強な大男ならばともかく、明らかに体格小さな子供があまりにもバランスの悪い帽子を被っている様はなんとも不釣り合いで逆に悪目立ちしていた。
ルイは自分が選んで買ってきたとはいえ、改めてラプラスが被っているところを見るとそのあまりのシュールさにげんなりとする。
カラスはそんなふかふかとした帽子の上にちょこんと座っていて、それが余計に周囲の注目を集めている気がしないでも無い。
「多少変な目で見られても差別的なものよりかはマシだろ。さっさと用を済ませるぞー」
「はぁ…ええと、地図と食料と日用品と…着替えも買えれば良いかな。私はそんなに持ち合わせが無いけど、ラプはお金持ってるの?」
「過去に魔族が魔界に押し込められた時、連中は何も身一つだった訳じゃない。当時現世で使われてた通貨はその後魔界でも使われて、発行もされてたんだ。そしてこの通貨の歴史は古く、今も使われてる…つまり魔界で稼いでおけばそのままこっちでも使えるってわけさ。幸い硬貨の製造方法は昔と…そして魔界のと変わってないみたいだし、精査も甘いし偽造だとか言われることは無いだろうな」
「へぇ…そうなんだ。どうやって稼いだの?」
「世の中にはな…知らなくて良いこともあるんだぜ…?」
「何それ怖…」
ジャラジャラと音のするパンパンに詰まった皮袋を手の上で跳ねさせ悪い顔をするラプラスに、ルイは余計な詮索はしないことを決意した。
「とはいえ持ち出せる分にも限りがあったし、そのお金関係の工面もしないとだな。宝探しでもしてみるか?」
「普通に働いてみるのはどう?もしくはいっその事強盗とか」
「お、人の荷物狙って襲いかかってきた奴の言うことは違うな」
「照れるじゃない」
「褒めてねぇよ」
悪戯っぽく微笑むルイにラプラスがツッコミを入れると、帽子の上のカラスも一緒になって『カァ』と鳴いた。
特に話題も無くなった二人は、店を探しては目的の物を買い揃え、ラプラスの大きなリュックに詰め込んでいく。
大きな帽子にリュックまで膨らんでくると、もう訳の分からない不審者の出来上がりだが必要なものを全て揃えた二人は街の中にある丘の上で一息着くことにした。
「え〜と…あ、この辺黄金国の国境付近なんだ」
「っていうかお前結構長く旅してそうなのに土地勘ないんだな?」
「まあ、普段人の街には寄らないしね。獣王国じゃあ、こっち側の地図は中々手に入らないの」
「ほぉ、やっぱりあそこの出身か。黄金国とは長年戦争が続いて大変だったろう。旅に出たのはそれが関係してんのか?」
「いや、単に私の趣味…と言えば良いのかは分からないけど、情勢がどうなろうとこうして放浪してただろうことは間違いないかな」
「ふ〜ん?何でも良いが…方針でも決めるとするかぁ」
ルイが持っていた地図を横から掠め取ったラプラスは適当に座ると、コンパスと地図を照らし合わせ地図に何かを書き込みながら何かをブツブツと呟いていた。
その様子が気になったルイは後ろから地図を覗き込む。
「…それは?」
「土地の詳細だ。この前まで吾輩達が歩いてきた道のな。あと、見える限りの高低図、地域の植生、生息してる動物、虫、等々…」
「…随分旅慣れしてるのね?」
「こっち来る前は魔界でさんざん練習してきたからな。世界征服は地道な努力の積み重ねからだ。吾輩だってそこまで馬鹿じゃない」
「だからといって地味であることに変わりは無いけど…それにあんまり意味あるかも分からないし」
「そりゃそうだが…そういうお前はどうなんだ?それなりに旅してきたなら知識とか身に付くもんだろ」
「まあ多少のサバイバル知識は…でも薬学とか医療方面は得意じゃないから道中体調崩したら大変だよ?」
「同じく。まあ吾輩は風邪なんて引かねぇからなぁ。健康優良児だ」
「そりゃラプは風邪は引かないでしょうね」
「ハハハッ…おいどういう意味で言ったコラ」
「冗談冗談」
「ったく…けど、やっぱ専門知識とかある頭の良い奴どっか居ないもんかね。吾輩は天才だし想像力は豊だが、やっぱ世界征服ってのは作戦立案したりメカニックやら怪しい薬やらの悪の科学者!組織の参謀、頭脳担当が必要だと思うんだ!」
「そんな人材が都合良く転がってたらとっくにどこかしらの組織に引き込まれてるでしょうけどね」
「だよなぁ…」
最終的な目標は決まっているとはいえ、そこまでの過程をどうするかで揃って首を傾げる二人。
と、そこに風に乗って丁度よく飛んできた新聞紙がラプラスの顔を直撃した。
「…」
「あら思ったよりリアクション薄いね」
『カァ』
「おいカラス馬鹿にしたな?流石に分かるぞ…ったく、捨てたのか間違って飛ばされたのか知らんが気を付けろよ…ん?」
「どうしたの?」
「…ちょっと見てみろ」
「?」
顔から引き剥がした新聞紙に目を落としたラプラスは、暫く読み進めてピタリと止まる。
疑問に思ったルイが促されるままに新聞を受け取り読むと、ラプラスが何に反応したのかに気が付いた。
「『指名手配欄』…『濃霧の月夜の
「なんなら全員良さげだ。新聞は最近の、つまりまだ捕まってないんだろう。黄金国で出回ってる新聞だから、全員この国に潜伏してるはずだ。良いな…騎士団より先回りして見つけに行くか?」
「態々指名手配されてるってことは相当な危険人物でしょ?大丈夫なの?」
「初対面での危険度ならお前も負けてないから安心しろ」
「まあそうか」
さもありなん、と納得するルイを他所に、ラプラスは早速支度を始めた。
新聞から細かい情報を読み取り、各自が潜伏していそうな場所、或いは目撃情報が上がっていた場所を地図に書き込み、追跡の準備をする。
「どうせ吾輩達は悪党だ。この先やること考えたらその内指名手配される側になるんだろうし、犯罪者だろうが引き入れても変わんないさ」
「追われることになるのは大分面倒だとは思うけどね」
「上等!全部返り討ちにしてやらぁ!」
悪党を追い詰める正義が現れるのは、世界征服の醍醐味だとラプラスは思う。
あらゆる障害、困難に阻まれながらも、それらを打ち砕いてこそ世界を手に入れた時の達成感は膨れ上がるというもの。
邪魔も妨害も望むところのなのだ。
「さて、足取りが掴めそうなのは…都合良く存在が知れたマッドサイエンティスト!頭脳担当捕まえに行くぞ!」
「え〜、ラプの推測だとここから北西に210kmくらい…工業都市の近くに潜んでると。普通に歩くと数週間かかるかな?」
「馬車でも捕まえられりゃあ良いんだがな。工業都市に一旦着いたら少し休んで、その後直ぐに足取りを追うとしよう。しかし工業都市か、空気悪そうだな」
「獣王国の工業地帯とか空気が終わってるからそっちに比べればマシだと思うけど。あの侵略国家は戦争のことしか考えないから武器ばっか作って…」
「ハハッ、そう思うと魔界がどれだけ平和だったか…平和…だったかなぁ…」
「自分で言って自分で疑問持たないでよ」
「ちょいちょい火柱が上がったり魔法災害が起きたりパンデミックが起きるくらいだから」
「それなんて世紀末?」
そんなこんなで目的の人物が遠くに移動する前に近付くため、早々に街を出た二人。
出る前に買った焼き鳥をつまむラプラスがカラスに突っつかれたり、同じく焼き鳥を食べるルイに「えぇ…」といった視線をラプラスが向けたりとしたことがあったがここは割愛。
幸い種族的にも体力のある二人は一日中歩き続けることは苦ではなく、かなりのペースで移動が進み早2週間ほど。
水の補給の為湖で取れた水を煮沸しながら休憩していた時のこと。
「…ん?」
「…気付いたか?」
「えぇ、いるわね」
焚き火を囲みのんびりしている所に、何かの気配を察知した二人はそれぞれ槍と鞭を構えた。
ラプラスの頭の上で寝ていたカラスも異変を察知するとパタパタとどこかへ飛び去り身を隠す。
「こんなこと前にもあったな…お前の時か」
「いつまで擦るのその話。もう良いでしょ…」
「別に恨んじゃねぇしむしろ良い思い出話さ。思い出くらい語らせてくれ」
「水に流しときなさい。後ろの湖にでも放り込んどいて」
軽口を叩き合うが、その最中も警戒を切らすことはせず。
やがて近くに居た”何か”の気配が離れていくのを感じると、やっと二人は気を緩めた。
「なんだったんだ?」
「生き物っぽい気配では無さそうだったね。絡繰の類かな?」
「新聞でもそれっぽい目撃情報が上がってたが、絡繰…つまりロボットか?となると…ハハッ、さっきの奴の足跡でも追ってみるか。もしあれが遠隔操作されてるロボットだとして、動かしてた奴はまだ遠そうだが探査範囲は中々広そうだ。最悪近づこうとしたら攻撃されるかもな」
「じゃあ、どうするの?」
「決まってんだろ…強行突破だ!」
「あれ…魔族、だったよね?一緒にいたのは多分有翼の獣人…同郷だったりするのかな?」
薄暗い部屋の一角で、壁掛けの大量の液晶、その一つに目を向ける桃色髪の少女が一人。
その頭部には特徴的な耳が揺れ、彼女が唯の人間でないことを示していた。
「旅人っぽかったけど…騎士団じゃないなら問題ないかな?はぁ驚いた…なんか私のロボット見られてたみたいだし。騎士団が当たりをつけて捜索に来る前に移動しようかな?せっかく大きく作った基地なのに、放棄するのは惜しいなぁ…籠城出来るかなぁ…」
独り言を続けながらも少女が手元の機械を操作すると、複数の液晶が映す画面が同時に動き、それぞれが独立したように移動を始める。
少女は画面を監視しながら湯気の立つコーヒーを一啜りすると、グッと伸びをして大きく息を吐いた。
「にしても…1人は好きだけど、暇だなぁ…なんか面白いことでも起きないかなぁ…」
設定資料:世界観
様々な文明が1つの大陸に散らばる歪な世界。
木造建築が主な和風の里があれば、機械工業が栄える近代都市、剣と弓を掲げる中世風の街、森林の中にひっそりと佇む隠れた村落、空に浮かび魔法的な技術が発展した神秘の島など、文明レベルは多種多様。
種族も同じく様々だが、他種族同士では仲がよろしくなく、特に魔族等は魔界と呼ばれる異世界に押し込められている。
ちなみに大陸では黄金国、獣王国と呼ばれる二つの大国が双璧と呼ばれる一大勢力を築いており、覇権を争って戦争していたりする。