ホロライブ・オルタナティブ〜holox of the eden〜 作:天翼project
地下深くの巨大施設。
いつどうやって建設されたかも分からないその巨大構造物の中で、ラプラスは襲い来る無数の犬のような四足歩行の警備ロボを迎え撃っていた。
丁度今槍で串刺しにした機体を放り捨て、しかし臆することなく襲いかかってくる連中にいい加減辟易としていた。
「チッ…キリが無いな。体感100はもう壊してんだろ!」
最初にラプラスが見た時、警備ロボットの数は30体程だった。
しかしどれだけ破壊を続けても一向に攻めては緩まず、数もまるで減っている気がしない。
流石におかしいと思って戦闘中に破壊した機体の様子を見ていると、何体かの警備ロボットが壊された機体の残骸を回収し、どこかへ運び去っていた。
そして、しばらくすればどこかからか警備ロボットが追加される。
(まさか、回収したのを直して送り込んできてるのか?だとしたら直すのが随分早いが…)
「…っおわっと!?」
ラプラスに向けて口に当たる部分を開いた警備ロボットはそこから銃口を出現させると、弾丸を連射した。
咄嗟に射線から逃れたラプラスだが、他の機体も同様に弾丸を放ち弾幕を作り上げ逃げ場を奪っていく。
(段々こっちの動きを学習してる…時間をかけるほどこっちが不利か?)
警備ロボットの動きは徐々に機敏になり、連携も取れ始め、最初は噛み付いたり体当たりしたり程度しか攻撃手段を持っていなかったのに、壊して復帰してくる度に銃やブレードなどの新たな武装を装備してやって来る。
ラプラス自身の動きの癖等も把握しているのか、少し隙を見せるだけで重い一撃が飛んでくる。
「…はっ、だからどうした!こんなもんで吾輩を止められると思うなよ!まとめてスクラップにしてやる!」
ラプラスの獰猛な笑みに合わせ、槍が紫電を纏い激しく瞬く。
そして横薙ぎに槍が払われれば、広範囲に放出された魔力の弾幕が正確に警備ロボット達を撃ち抜いていく。
復帰してくる度に強度も上げてきていた連中も、その圧倒的な物量に打ちのめされ次々と沈黙し、遂に目に見える範囲の機体は全て大破した。
「全部壊れれば回収できないだろ!」
勝ち誇るラプラス。
しかし、次の瞬間部屋の警報装置が鳴り、どこかで大きな機械が駆動しているかのような音が響いた。
息付く暇もなく現れた新手に再び警戒するラプラスだが、衝撃音と共に目の前に降ってきたのは、人型のロボット。
大きな鎧のような外見のそれの隙間から中を見ることが出来るが、奥に回路や装置の光が見えるだけで人は入っていない。
無人のパワードスーツといったところだろうか。
そんな新たに現れたロボットは、右腕を前に突き出すと手首から銃口が伸び、ラプラスに向けて長い金属の杭が発射された。
咄嗟に回避したラプラスだが、杭が飛んで行った先を見ると射線の直線上にあった資材や装置等の金属製物体をまとめて貫いて奥の壁に突き刺さっている。
「…上等だ、本気で吾輩とやり合おうってんならせっかく作ったロボット全部ガラクタにされる覚悟をしとけよ!」
再び槍が横薙ぎに払われ、今度は鋭い紫電がロボットを穿とうと放たれる。
しかし、ロボットは左腕を前に出すと機体の正面に半透明の六角形がセル状に集まったようなバリアが展開され、紫電を弾き返した。
「っ!?物理的な障壁じゃ防げない筈だから…高密度のエネルギーの結晶体か?」
そんな問に答え合わせをしてくれる訳でも無く、今度はロボットの背中から展開されたアームの先に搭載された砲塔が狙いを定める。
一瞬発光した後、打ち出されたのは不可視のエネルギー弾。
それを勘で回避したラプラスは反撃に魔力の弾幕を放つがそれらもシールドで全て阻まれてしまった。
ロボットは続けて背中の砲塔と右手の杭を放つ銃口、さらに目にあたる部分からレーザーまで放ち、執拗にラプラスをつけ狙って攻撃する。
逆に攻撃を全て防がれてしまうラプラスは、それらの攻撃から逃げ回ることしかできずジリ貧となっていた。
(あのバリアも無敵ではないと思いたいが…それに、さっきの犬っころ共の学習を引き継いでるのか?癖を読まれてる感じがする…)
しかしなんにせよこのままされるがままであるはずも無く、分析と考察を重ね目の前の障害を排除する方法を模索していく。
上ではルイが騎士達の足止めをしている筈だが、それも何時まで持つかは分からない。
ルイは確かに強いが、白銀騎士団に所属する彼の最精鋭を8人も抑え込めるほど圧倒的では無いだろう。
或いはそこにラプラスがいれば突破は可能だが…
「…なんにせよ、時間が無いんでね。その巫山戯た人形遊びもそこまでにしとけよ!」
苛烈な攻撃を仕掛けるロボットに対してラプラスが選んだのは、突貫。
ロボットに搭載されたカタパルトから発射されたミサイルを飛び退いて避け、壁に着地した瞬間にそれを蹴ってロボットに向かって突っ込む。
急激に間合いを詰められたことに動揺するでもなくロボットは淡々と左腕を前に出し、バリアを展開する。
しかしラプラスはバリアに衝突する寸前、槍を地面に叩きつけ、その反動で放物線を描いてロボットの頭上を通過、そのまま背後を取った。
「強度テストでもしてやろうか?」
咄嗟にロボットが振り向こうとするよりも早く、投擲された槍がロボットを貫く。
それだけでは飽き足らず、槍から溢れた激しい紫電が内側をも焼き尽くし、ロボットは黒い煙とバチバチと回路がショートする音を立てながら崩れ落ちた。
残骸から槍を引き抜いたラプラスは、ロボット達が塞いでいた扉を槍からの魔力の奔流で吹き飛ばすと、その奥へ目指して駆けて行った。
「ぐぅっ!」
「詰めろ詰めろ!飛ばせるなぁ!」
「射線に入らないようにしろ!連携を崩すな!」
ラプラスが地下で警備ロボットを突破していた頃、ルイもまた騎士を地下に行かせないよう孤軍奮闘していた。
それなりに戦闘慣れし、獣人特有の身体能力とタフネスを併せ持つルイだったが、それ以上に騎士達の練度が厄介だった。
特にこの小隊の隊長と思われる騎士が司令塔の役割を果たし、特殊な鞭による広い間合いと変則的な攻撃、そして手数を持つルイに対しても彼らの連携で押せ押せの状態だった。
(何より…後方でボウガン構えてる奴が邪魔過ぎる…!そのせいで迂闊に飛べないし常に位置を気にしなくちゃいけない分他への対処が追い付かなくなる!)
騎士の数は8人、その内ボウガンを構えルイを牽制してくる騎士は2人。
どちらも周囲を動き周りながら移動砲台として立ち回り、間合いを詰めて襲いかかってくる5人の騎士も彼らの射線を通すように的確に判断して間合いを管理しながら戦っている。
例えばこれが1人2人なら勝利は難しくないだろうが、この人数で連携を取るこの練度の騎士を相手にすることがどれだけ難しいことかをルイは実感していた。
少しでも油断すれば、そこから一気に切り込まれて瓦解してしまうだろう。
「ふ、ふふっ!黄金国の騎士様は鳥一匹落とせないくらい狩りが下手なんだね!」
「やかましい!騎士は猟友会では無い!国に牙向く害悪を討ち、民が安心して過ごせる日々を守るのが我らの役目だ!害鳥め!」
「なら猟友会でも呼んできな、って!」
(動きが速い、情報の処理能力が桁違いに高い。この人数の、全員に気を配りながらの立ち回り…一体何者だ?)
煽り合い、売り言葉に買い言葉。
粘り続けてくるルイに小隊長は内心毒を吐く。
ギリギリで戦況が成り立っているのは騎士達も同じ。
少しでも戦況の有利を得ようと互いに相手の隙を誘う為に手段を選ばない。
(いや、しかし…手配されている科学者は獣人であると聞いているが、有翼という目立つ特徴が挙げられてない以上一般的な獣人の筈。となるとコイツは科学者の従者か何かか?奴が守るようにしているあの穴…十中八九あそこが科学者の潜伏場所だろうが…)
嵐のようなルイの鞭を捌きながらも冷静に思考を進める小隊長だが、いくら考えたところで答えは出ないだろう。
なんせぽっと出の世界征服を企む謎集団だ。
情報も何も無いのだから考察のしようがない。
「そろそろキツイかな…ラプはまだ…?」
「攻め続けろ!休む暇も逃げる隙も与えるな!」
「クソッ、鬱陶しい!」
騎士達の剣捌きはルイの縦横無尽の鞭をも的確に弾き、人数差もあって着実に間合いを詰めている。
そこに死角からも矢が飛び、その対処に回った瞬間に急接近して斬りかかってくるのをサバイバルナイフで防ぐのもやっとのところ。
また距離を取っても騎士達の連携が着々とルイを追い詰めていく。
(1人くらい倒しておきたいけど…一当てしたら降りるか)
ここで逃亡に思考が移ったルイは再び接近してきた騎士に対して防御ではなく、全身を使った抱擁による拘束という選択肢を取った。
「何っ!?」
「おい何してる!引き剥がせ!」
「逃がさないよ!」
仲間を援護しようとボウガンを構えていた騎士が撃った矢は拘束している騎士を上手く盾にして鎧で弾き、ルイの両手が塞がっているうちに近づいてきた騎士達を見て戦いながら場所を移動し、そして辿り着いていたこの位置。
今ルイの後方には底が遥か深くにある穴が広がっていた。
「追って来れるものなら、追ってみなよ!」
「まさかっ!待て!」
振り払おうともがいていた騎士の首をぐいと引くルイ。
それによって騎士の体勢が崩れて…真後ろの穴に落下した。
騎士と共に落下するルイだったが、途中で抱擁を解き自前の翼で飛行、騎士だけが直下に落ちて地面に激突していた。
「…ふぅ…引き剥がされないようにするだけで疲れる…肩外れそうになった…ただの人間なのに力強すぎでしょ…あれだけの人間が5000?そりゃ黄金国が強いわけだよ」
穴の上から見下ろす騎士達に背中を向け、滑空して底に降りたルイは地面に倒れている騎士を確認する。
そしてそこで見た事実に思わず呆れ顔をした。
「生きてるし…色々骨とかは流石に折れてるけど…あの高さで受け身取れるって正気?」
トドメを刺そうかとも考えたが、放置することに決めたルイはようやく息をついて辺りを確認し、ラプラスのものと思われる戦闘の跡を辿り、彼女の後を追うことにしたのだった。
ドン!と、工業都市の地面が揺れ砂塵が舞う。
ミサイルのように着地し地面を粉砕した人物は、白銀の兜の間から覗く瞳を動かし周囲の様子に目を向ける。
そこに、都市に駐屯していた兵士が恐る恐る出迎えた。
「あ…き、騎士団の団長殿…ですか…?どうしてここに…」
「調査団と騎士団の派遣要請送ってきたよね?あれ、私が間違えてた?」
「ま、間違ってはいないです…いやそうではなくて、王都に常駐してると聞きましたが、一体どうやってこの距離を…600kmは離れている筈ですが…」
「走ってきた。ちょっと数えてみたけど317歩で来れたよ。遅くなってごめんね?あと地面壊しちゃったし。もうちょっと前で降りて普通に走ってこれば良かったよ」
「あ、いえ…そんなことは決して…え?」
「それより私が来るまでに何か掴んだの?報告とかない?」
その発言をにわかには信じられない兵士だったが、彼の困惑も気にせず団長と呼ばれた人物…女性は報告を求めた。
それに慌てて答えた兵士の話を聞き、うんうんと暫く頷いていたが…
「…なるほど?例の科学者の捜索に出てた騎士団からも応援ねぇ…座標は聞いてる?」
「最後に信号が出たのはここから北東に13km程です」
「そう、ありがとう。じゃあ7歩ぐらいで着くかな…っと!」
「うわぁ!?」
目的地の方向と距離を聞くや否や、女性はぐっと屈むとその方向へ向かって凄まじい勢いで跳躍して見せた。
踏ん張った地面は着地の衝撃と合わせて粉々に砕け、彼女が跳んだ軌跡には工業都市の煙がトンネルのように晴れていて、その速度がどれだけのものか窺い知れる。
彼女が去った後、遠目に兵士と彼女のやり取りを見ていた他の兵士が現れて、もう彼方に見えなくなったその背中を見上げる。
「すっげぇ…声綺麗だったのに、なんだよあの脚力…」
「騎士団の団長の事ちょっと甘くみてたけど…俺絶対あの人怒らせないようにしようって心に決めたよ」
「俺も…」
それは、国の事情により立場が低い白銀騎士団の団長。
しかしその力はまさに英雄であり、女性であることと流布される悪評で見下す兵士達をも実力と人格で慕わせる女傑。
世界でも五本の指に入るだろう最強の騎士。
ただの人でありながら無双を誇る”天賦の子”。
「休み取って〜、非番の間に友達のところ遊びに行って〜、牛丼食べて〜…その為に、さっさと片付けちゃおっと!」
例えば、敵対する獣王国はその名を恐れる。
白銀騎士団、団長…白銀ノエルを。
設定資料:天賦の子
種族に関係なくごく稀に突然変異的に現れる超越者。
極めて優秀な才を有し、極めて強力な身体能力を生まれ持つ。
絶対的な力は余人の手に届くところにはあらず、個が国一つを落としうるだけの脅威になり得る。
その力をどう活かすかは、天賦の子次第である。