ホロライブ・オルタナティブ〜holox of the eden〜   作:天翼project

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猛き侍のSpirit

 

魔族、ラプラス・ダークネスの世界征服をする為の仲間探しの旅。

夜襲を掛けてきた有翼の獣人、鷹嶺ルイ。

地下の巨大ラボに引きこもっていたコヨーテの獣人、博衣こより。

現状二人の仲間を集め次なる仲間探しに向けて王都を目指していた一行は、遠い道のりということもあって休息のため進路付近にあった都市に立ち寄っていた。

 

 

 

「…ラプちゃんそれ逆に目立たない?」

 

「誰も彼もしつこいぞ〜。吾輩が良いって言ってるんだから良いの!」

 

「取り外しとか出来ないわけ?」

 

「出来るかい!」

 

 

黄金国の中では比較的小さく人口も少ない都市に潜入した一行。

こよりとルイはフードやらマントやらで獣人の特徴を上手く隠しているが、ラプラスは前回同様巨大な帽子を被って立派な魔族の角を隠し、それを見たこよりが爆笑する。

相も変わらず人里に立ち入る度に問題になるラプラスの角事情をこよりが揶揄うと、ラプラスは見た目相応に子供らしく抗議した。

それを横目に見守りながら街中にあった掲示板を眺めていたルイは、目的のものを見つけて掲示板から引っぺがした。

 

 

「あったよ、直近のやつ。例の”夜叉”はまだ捕まってないみたいだね」

 

「お、そうか。大分時間経っちまったから吾輩達が行く前に捕まってないか心配だったからな」

 

「でもこの人凄いよね。王都なんて白銀騎士団が多く常駐してる筈だし、あの忌々しい騎士団長だっているのに…」

 

「お前まだ根に持ってたのか…?」

 

「そりゃそうだよ!ボクの最愛の機体と時間をかけて広げたラボをゴミみたいに消し飛ばしてくれたんだよ!次会ったら絶対痛い目見せてやるんだから!」

 

「良い気概だけど、天賦の子とまともにやり合っても瞬殺されて終わりでしょう?恨みが先走って無理に仕掛けないようにね」

 

「そういうこった。心配しなくても吾輩達が世界征服を進めようとしたらどうせいつかぶつかるんだ。鬱憤晴らすならその時にな」

 

「うぅ〜…分かってるけど…」

 

 

言葉では取り繕って居るが、やはり納得が行かなそうな態度で声のトーンを落とすこより。

見かねてラプラスも機嫌を取るために早めに設備や資材を揃えられることを努めようとは思ったが、そもそもどこに行けばそんなものを拾えるのか。

工業都市等の工場から強奪することも考えたが、有用なものは流石に白銀騎士団が警備していると思われるのでリスクも相応に高いのである。

 

 

「…そういや、工場とかの廃材とか直せないくらい壊れた機械とかってどこに処分してんだろうな?」

 

「うん?そういうのってリサイクルするのが普通じゃないの?」

 

「黄金国は鉱産資源は豊富だけど別に無駄にしたりはしてないからね。使えるものは普通に有効活用して…いや、待って。獣王国はとにかく大量に鉱産資源を必要としてるからそれが基本だけど、ボクが国にいた時に聞いた話だと黄金国は確かに剣とか鎧、あと一部の工業製品に金属を使うけど、材料によってはそれらに適さないって事で掘ったはいいものの使わずに取り敢えず溜め込んでるものもあるって聞いたことがあるよ」

 

「ふむ…?大切な資源とはいえあくまで不用品ならそこまで警備も厳重じゃないか…?」

 

「保管してる場所も主要都市から離れてる小さめの街だった筈だし、強奪行けるかも!」

 

「でもそれをこよりが上手く使えるの?」

 

「ふふふ、甘くみてもらっちゃあ困るよ!ボクの手にかかれば、ある程度資材を別の資材に置き換えて代用することだって出来るんだから!まあ最低限絶対必要な資源とか設備とかはあるけれど…」

 

「曲りなりにも鉱産資源を保管してる街だ。小さな工場くらいならあるだろうし、そこから幾つか拝借すりゃあ良いだろ」

 

「そう…じゃあ今度詳細詰めて立ち寄ってみようか」

 

「やったー!」

 

 

ルイが話をまとめ、掲示板から有用そうな情報が乗った張り紙を幾つかくすねて一行はその場を後にした。

 

その後は食料や調味料、ある程度の日用品を買い込んで特に目新しいものが無いのを確かめると、騎士団に補足される前に都市を離れた。

 

この都市から王都まではそこまで距離は離れておらず、何事も無ければ4日程で辿り着く目処を立て、ルイが先導して街路脇の生い茂った森を進む。

街路を直接通ると不意に白銀騎士団と遭遇する可能性もあるので敢えて避けていた。

 

 

「さて、今回の目標の夜叉とやら、どうやってスカウトするかな」

 

「って、何も考えてなかったの?」

 

「博士は家無くなったから着いてきた感じだったけど、元々力づくで連れてくつもりだったからな。交渉はあんまりするつもりじゃなかったんだ。ルイの時もそれで済んだしな」

 

「うっわ〜…だいぶ暴力的な出会いだってのは聞いてたけどルイ姉ラプちゃんにやられてたんだ〜…」

 

「当時は盗賊紛いの生き方してたから。狙った相手が悪かったし、返り討ちに会うのもさもありなん。まあ後悔はしてないし、今の生活もそれなりに楽しんでるけどね」

 

「でもまあ、吾輩も思いっきり背中やられたからな。骨が逝かなかったのは奇跡だぞ」

 

「あれ耐えれるの怖いわよ」

 

「そ、想像出来ないなぁ〜…ボクなんて生身だとそんなに動けないし…やっぱり二人おかしいよ!」

 

「…ルイ」

 

「ええ、分かってる」

 

「…え?何?何?」

 

「吾輩達は確かにそんじょそこらの連中からしてみればおかしいかもしれんが…」

 

「世の中には、もっとおかしい奴がいるって事だよ」

 

 

談笑の最中、急に足を止めたラプラスとルイにこよりが困惑する。

そんなこよりを尻目にラプラスは空間から槍を引き抜き、ルイは腰に差したサバイバルナイフに手をかけた。

緊迫した空気感の中、森の奥から聞こえて来る、ガサッ、パキッ、と草や枯れ枝を踏む音がそれを後押しする。

こよりも状況を飲み込んだのか、懐から『こよブラスター』を取り出し物音のする方に銃口を向けた。

 

一行が油断なく構える中、やがてその人物が姿を現した。

 

着物に袴といったこの辺りでは見かけない珍しい装いをした人物。

編笠を被り顔はよく見えないが、背丈や口元、その他人外種に見られる特徴もないことから若い人間の少女だとラプラスは結論付ける。

 

 

「…お前、噂に聞く”夜叉”か?王都にいるって聞いたが」

 

「…」

 

 

ラプラスからの質問への返答はなく、編笠に手をかける少女。

ゆっくりとそれを脱ぎ足元に置くと、端正な顔立ちが顕になる。

しかし、綺麗な目は確かに鋭くラプラス達を捉えていて、下手に踏み込んではいけないと勘が警鐘を鳴らす。

そして、品定めするようにラプラス達を見回した少女はようやくその口を開いた。

 

 

「ふっふっふっ…相手に取って不足なし!」

 

「「「…は?」」」

 

「騎士団にも見ない手練れ、それに魔族とやりあうのは初めてでござる!」

 

「おい、お前…」

 

「不肖、風間いろは!推して参る、でごさる!」

 

「いや話聞け…ってうお!?」

 

「ラプラス!?」

「ラプちゃん!?」

 

 

ラプラスの制止も無視して口上を述べたいろはと名乗る少女は、腰に差す刀───これもこの辺りでは見かけない珍しい武器───を引き抜くと、一瞬でラプラスと間合いを詰め切り上げた。

咄嗟に槍で受け流したラプラスだったが、衝撃で槍がかち上げられ、続く連撃を防げない。

ラプラスの喉元に迫る刀を───割り込んだルイがサバイバルナイフで受け止める。

 

 

「む!そちらの獣人もやるでござるなぁ!」

 

「うぐっ!?このっ…!」

 

「ルイ!退け!」

 

 

受け止められた瞬間いろはは体を捻り、翻った袴から覗く華奢な脚から放たれた回し蹴りが、ルイの胴体を打ち捉えてよろけさせる。

接近戦の不利を感じ取ったラプラスはルイの襟を引き後ろに引っ張ると、いろはへ槍を向け先端から紫色の魔力の奔流を放つ。

が───

 

 

「ふんっ!」

 

「はぁ!?なんだそれ!?」

 

「魔法ってヤツでござるか?これも初見、盛り上がってきたでござるな!」

 

「盛り上がんねぇよこっちの気持ちになってみろ!」

 

 

どういう原理か刀の一振で魔力の奔流が切り裂かれ、破壊がいろはを避けるようにその真横を抜けていった。

 

これは有り得ない事態だった。

如何に達人であろうと、物理的な手段で魔法のようなエネルギー的な力に干渉出来るはずがなく、刀も傷一つ付かず無傷でその形を保っているわけが無いのだ。

しかしラプラスが考察する暇もなくいろはは再び間合いを詰める。

ラプラスも負けじと繰り出される剣戟の数々を槍で捌くが、その速度と一撃毎の圧に押されかすり傷が増えていく。

 

 

「こっち見なさい!」

 

「うん?っとと!おっと!やるでござる、な!」

 

「ぐおっ!?」

 

 

ラプラスを攻め立てるいろはだったが、飛び上がったルイからの呼びかけにそちらに意識が向き、同時にルイが鞭で引っ張り投げつけた太い木の枝を切り飛ばし、そこを狙ったラプラスの槍も弾き、ラプラスに足をかけて転倒させる。

そこにトドメを刺そうと両手で握りこんだ刀をラプラスの顔面に突き立てようとして───虚空に刀を振る。

 

 

「嘘!?」

 

「ふむ?珍しい武器でござるな?」

 

 

直後、いろはの背後で爆発が起きる。

いろはが切り裂いた攻撃の正体はこよりが放った『こよブラスター』の不可視のエネルギー砲。

それすらも捌いて見せたいろはは今度こそ足元に転がるラプラスにトドメを刺そうとするが、その前に間に合ったルイがラプラスを回収し間合いから逃れる。

 

 

「仕留め損なったでござる…」

 

「クッソ〜…強ぇ…」

 

「大丈夫?」

 

「何とか…だがなるほど、分かってきたぞ。人間なのに微弱な魔力をそこまで緻密に操れるたぁ恐れ入った」

 

 

この僅かな交戦で、ラプラスはいろはの強さの仕組みを見抜いていた。

人間は、天賦の子のような例外を除いて魔力を殆ど持たず、故に魔族等のように魔法を扱うことが出来ない。

だが一切無い訳ではなく、微弱ながらも確かに魔力自体は保有している。

このいろはという少女は、そのほんの僅かな魔力を正確に操り、効率的に体を循環させ身体の動きを精確にし、そして刀に流すことでラプラスの魔法やこよブラスターのエネルギー砲に干渉できるようにしていたのだ。

そして、それを見抜いたからといってどうにもならないという事実にラプラスは冷や汗を流す。

 

少なくともある程度は真正面から打ち合える以上白銀騎士団の団長…天賦の子ほど圧倒的では無いと思われるが、三対一ですら手玉に取られる強さ。

そして戦いを楽しみながらも、不意打ちにも対応してくる隙の無さ。

 

 

「君達、凄く面白いでござるな!もっと色々見せて欲しいでござる!」

 

「ござるござるうるせぇぞ妖怪ござる」

 

「妖怪ござる!?花の国の侍の由緒正しき言葉遣いでごさるよ!」

 

「やっと話聞く気になったか。いきなり襲ってきてなんのつもりだお前」

 

「む、不快にさせてしまったのなら申し訳ないでござるが…拙者、武者修行中の身で、旅の最中強者を見つけるといても立っても居られなくなるでござる」

 

「自慢気に言うことじゃねーだろ!あとやってる事ただの通り魔じゃねーか!」

 

「お陰でお尋ね者になってしまったでござるが…そのぶん騎士団のような手練が日夜挑んでくるでござるからいい修行になっているでござ…っと。仕掛けてきたという事は、再開して良いということ…でござるな?」

 

「あぁん、もう!なんで分かるのさ!」

 

 

話の最中木の上に登り悟られないように位置を変えていたこよりだったが、完全に不意を突いた筈のこよブラスターによる砲撃も切り裂かれ、虚しく後方で爆発が起きるだけで終わる。

そしてこよブラスターの充電満タン時の使用可能な回数である2発を撃ち尽くしてしまったこよりに、最早攻撃手段は残っていない。

そこに無情にも一度の跳躍で木の上のこよりの位置まで飛び上がってきたいろはの刀が迫る。

 

死を悟りギュッと目を瞑るこより。

 

 

「っ…!…!?」

 

「ボサっとしてないで!弓貸してあげるからそれで適当に援護して!」

 

「おっとっと、よくそんな扱いづらそうなことこの上ないものを操れるでござるな?重畳重畳、それもまた良し、でござる!」

 

 

それをカバーするルイ。

巧みな操作で縦横無尽に空間をうねる鞭が、いろはを弾き飛ばした。

その隙にルイは担いでいた弓と矢をこよりに放るが、原始的な武器を扱ったことがないこよりは戸惑うことしか出来なかった。

 

地面に降りたいろはに鞭で追撃を仕掛けるルイだが、それらは全て刀によって弾かれ、絡め取ろうとしても身軽な動きで尽く回避されている。

さらにアウトレンジからラプラスも槍を一振りして魔力の弾幕を放つが、それらも全て弾き返された。

 

 

「矢の雨も鉄砲の雨もなんのその!侍はこのくらいじゃあやられないでござる!」

 

「おかしいだろ!ルイみたいに避けてくるならともかく…いやあれもおかしかったけど、全部叩き落とせんのはおかしい!」

 

「全部?いやいや、当たるものだけ弾いてるだけでござるよ」

 

「チッ!ダメだこいつまともにやり合ってたらキリがねぇ!ルイ!」

 

「分かってる!」

 

 

遠距離では埒が明かないと判断し、ラプラスは巧みに三叉槍を操り、ルイはヒットアンドアウェイを徹底してのサバイバルナイフによる迫撃を仕掛けた。

しかし、それでもなお崩せない。

超人的な反射で縦横無尽な高速の連撃を尽く受け切り、反撃を行う余裕すら見せている。

ここまでいろはに対してかすり傷一つ与えることは出来ておらず、逆にラプラス達は戦闘に影響するものこそ無いが、浅い切り傷が着実に積み重なり始めていた。

 

 

「…ラプ、今回は引いた方が良いんじゃない?」

 

「おっと、せっかく見つけた手練、逃がすつもりはないでござるよ?やるなら最後まで付き合って貰うでござる」

 

(…いや、逃げようと思えば流石に逃げられる。ルイの飛行能力はそう簡単に追いつかれない。ルイに抱えてもらって魔法を打ち下ろしながら博士を回収して離脱すれば良いだけだ。それに、このまま戦いを進めれば多分勝てる。このペースの消耗でこれなら、人間である以上持久戦に持ち込めば先にあっちに限界が来る。が…そんな終わりじゃ味気ない)

 

「なあ、侍!」

 

「むむ?」

 

 

激しい交戦が繰り広げられる中、ラプラスが急に動きを止め、それに合わせてルイといろはも戦闘を中断した。

木の上からでは慣れない手つきで弓を構えていたこよりも状況に戸惑い弓を下ろす。

 

 

「お前、武者修行中って言ってたよな?どんな理由があってそんな事してんだ?」

 

「ふむ…そこまで複雑な話じゃないでござるよ?単に自分磨き、立派な侍になる為に己を高めているだけでござる」

 

「ほう?じゃあ王都にいたのはもしかして白銀騎士団の団長でも狙ってたのか?」

 

「勿論!彼の団長殿は大陸でも最強と聞いたでござる!そんな猛者と手合わせできるのならば、これ以上の修行はないでござる!それに、騎士団は末端ですらそれなりに手応えがあって、複数で挑まれればかなり神経が研ぎ澄まされるでござるよ」

 

「なるほどねぇ〜…」

 

「なんでござるか?さっきから馬鹿にしてるでござるか?」

 

「いや、別に。ただお前があの団長に挑んだところで瞬殺されるだけだから修行にもならねぇって話だ」

 

「…拙者、己が未熟だとは感じてるでござるが、それでもこの剣には誇りを持っているでござる」

 

「…つまり?」

 

「赤の他人に、とやかく言われる筋合いは無い!でござる!」

 

 

ラプラスの露骨な挑発にも乗ってきたいろはは、一度刀を鞘に納め、次の瞬間圧倒的な踏み込みによる居合がラプラスの喉元へと襲い掛かる。

その神速とも思える絶技を、しかしラプラスは首に刃が触れるか触れないかのところでピタリと止めて見せた。

 

 

「む…」

 

「はっ、はは…反応できなかったら終わってたな。それよか、良いのか?吾輩の槍に触れたままで」

 

「何を───うぐぅっ!?」

 

 

ギリギリと競り合ういろはの刀とラプラスの槍だったが、ラプラスがニヤリと笑うと槍から紫色の電撃が走り、触れる刀を通じていろはへと通電する。

魔法をも切り裂くいろはの剣技でも、ゼロ距離から放たれたそれは防ぎようがない。

苦悶の声を上げたいろはだったが、痺れる体に鞭打ち後ろに飛んでラプラスから距離を取る。

 

そこに、木の上から隙を伺っていたこよりが弓矢を射掛けた。

引き絞り方かそれ以外の技量故かルイが放った時程の威力も速度も無く、当たったとして刺さるとも思えないヘロヘロとした軌道の一射だが、それでも確かにいろはへと向かって飛んだ矢は───当然のように弾かれる。

だが、そんな些細な攻撃にもつい反応して防いでしまういろはは、失敗を悟った。

 

今の痺れた体では、もう体勢を立て直せないと。

 

飛び退きながら空中で無理に矢を防いでしまったがために着地は上手くいかず、その足は大きくよろめく。

そこを狙うのは、木々の合間の死角から飛び出したルイ。

飛行能力と身軽さにものを言わせた高速の機動により繰り出されたサバイバルナイフによる一撃は、惜しくもまたもや刀によって弾かれる。

 

だが、その攻撃によって弾かれたのはいろはの刀も同じ。

衝撃により真上にかち上げられ、もはやまともに振れる体勢では無い。

 

そして、トドメを刺すのは、やはりリーダーだ。

 

 

「魔法って便利だろ?次はその幅広さを知って、知識を蓄えて───吾輩の役に立て」

 

「くっ…油断した…で、ござる…」

 

 

ラプラスが槍の振り下ろし、柄で頭頂部を叩かれようやくいろはの意識が刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!何奴!…うん?」

 

「お、起きたか。腹減ってるか〜?」

 

「このノリ私の時を思い出す…」

 

「ルイ姉もラプちゃんに気絶させられたんだっけ?」

 

 

目を覚ましたいろはは、直ぐに付近に留まる複数の気配に反応して意識を切り替え臨戦態勢を取ろうとするが、優れた判断力が瞬時に状況を把握、刀は取り上げられていること、相手の方は警戒こそあるが戦う意思は無いこと、それらを確かめ一旦戦意を収めた。

 

いつの間に移動したのか、見知らぬ川辺で先程いろはが襲った一行が鍋を囲んでいる。

 

 

「…どういうこと…でござるか?」

 

「お前吾輩達に負けたろ?つまり今からお前は吾輩の部下、仲間だ。よろしくな侍」

 

「…そう…いや、いやいや。えぇ?」

 

「分かる、分かるよ。私も最初そんな感じだったし」

 

「ボクの時ってまだ穏便に済んだ方だったんだね…」

 

「なんでそんな呑気なんでござるか…?拙者先程思いっ切り命を狙ったでござるよ?」

 

「死合も終わればノーサイド。互いに死者ゼロ、つまり遺恨なし。そして敗者の処遇を決めるのは勝者の特権だ。納得できないならさっきのでお前は死んで、今新しく生まれ変わったお前の命を吾輩に預けると思え。侍ってそんなんだろ」

 

「なんか凄く侮辱された気がするでござる。言わんとしている意味は分からないことはないでござるが…えぇ…拙者君達の仲間になるより競い合って己を高めたいでござる」

 

「…じゃあ何時でも勝負を申し込んで来ていいぞ。それに、吾輩達に着いてきてくれるなら天賦の子とも戦う機会があるだろうしな」

 

「…!それは…どういう…」

 

 

ここぞとばかりに切り出したラプラスの提案に、いろはは目を細めた。

それは先程までのどこか抜けた雰囲気ではなく、高い壁を見据えるような真剣な眼差しだ。

その意思を本物と確かめたラプラスは、老獪に笑うと立ち上がり、鍋を飛び越えていろはの前に立つ。

 

 

「吾輩に着いてこいよ。吾輩達…『holox』の最終目標は、世界征服!勿論、それをする過程で色んな邪魔が入る…逆に言えば、計画を進めりゃ、世界中の強者と戦えるって事だ。吾輩がお前に求めることは、『吾輩を信じて従うこと』、見返りは強者と戦える環境、そして世界!…ついでに、衣食住もだな」

 

「…妄言も甚だしいでござる」

 

 

身振り手振りで語り、手を伸ばしてきたラプラスの話に、いろはは目を閉じた。

そして一息着くと、背伸びするラプラスと目を合わせる。

 

 

「でも、それを本気で、やり遂げるつもりで言ってるのはとても面白い事だと思うでござる。拙者は『風真 いろは』、よろしくでござる」

 

 

そんなラプラスから伸ばされた手を、いろはは握り返した。

鍋を続きながら話を聞いていたこよひとルイも警戒を解き、いろはの分の椀を用意して鍋を分け始める。

 

 

「吾輩が作った鍋だ。美味いから食ってけ」

 

「ん…実の所、拙者もここ長いこと腹持ちの良いものを食べれてないでござる。だから、ここは善意に甘えさせてもらうでござるよ」

 

「…そうだ、侍。お前に最初の命令がある」

 

「…?なんでござるか?」

 

 

 

 

「…その語尾に『ござる』って付けるの、やめろとは言わんが減らせ。話しにくい」

 

「…えぇぇぇぇ!?」

 

 

仲間が増える度に一悶着起こさなければ気が済まないのか、森にはショックを受けたようないろはの叫びとそれを面白がるラプラス達の笑い声が木霊するのであった。

 




設定資料:種族特性
この世界には様々な種族がいることは以前解説したが、その種族の一部や、それらが有する色々な特性や特徴をここに語る。

人間…最も全体として個体数が多く、かつスタンダードな種族。ハッキリ言って種族としては他のあらゆる種族の中でも貧弱だが、個体数の多さ故に統計的に特異な変異をするものが現れやすく、『天賦の子』がその主な例である。魔法への適性はかなり低く、基本生まれ持つ魔力は微量。鍛錬次第でそれを活かせる者もいる。寿命は短い。

獣人…2番目に個体数の多い種族。全体的に高い肉体能力と体力が特徴的だが、獣人という括りの中でも更に細かい分類があり、飛行能力を持つ有翼、つまり鳥類の獣人。聴覚や嗅覚に優れるイヌ科の獣人、器用さとしなやかさに優れたネコ科の獣人などがいる。魔法への適性はかなり低く、基本生まれ持つ魔力は微量。寿命はそこそこ長い。

エルフ…主に森などで生活する尖った耳が特徴的な種族。魔法への適性はそこそこ高く、肉体能力もそこそこ高い。他の種族よりも器用さで優れ、使おうと思えばあらゆる武器や道具を使いこなせる。その他聴覚に優れ薬等の開発も得意とする。生まれ持つ魔力はそこそこ。個体数は多くもなく少なくもない。寿命はかなり長い。

魔法使い…基本は人間と同じだが、確かに分類上は別種として扱われ、魔法への適性という面で優れる種族。生まれ持つ魔力も多く、人間と比べて記憶領域が広かったり、人間が発音できない言語を喋ることも出来る。個体数はかなり少ない。寿命はそこそこ長い。

魔族…かつて魔界に追いやられた種族。魔法への適性が高く、また肉体能力もそこそこ高い。生まれ持つ魔力量も多め。また、魔法への耐性と生命力も高く、種族として死ににくいという特徴もある。魔界に限れば個体数は多め。たまに翼を生やし自前で飛行能力を持つ個体も生まれる。寿命はほぼ無限。

天使…天界と呼ばれる浮遊都市に暮らす有翼の種族。魔法への適性はそこそこ高く、肉体能力もそこそこ高い。生まれ持つ魔力は他の種族と比べて圧倒的に多い。また魔法への耐性が極めて高く、天使のみが持つ『加護』と呼ばれる特性により殆どのの病気や毒、環境変化による影響を無効化できる。個体数は少なめ。寿命はほぼ無限。

神族…一括りにはまとめきれないが、多種多様な分別があり、個々が唯一無二の権能を持つ無敵に近い種族。個体数は非常に少ないが、死という概念は存在せず個で太刀打ちできる者はほとんどいない。例として、死神が振るう鎌は無条件で触れた生き物の命を奪い、時の神は時間の停止も逆行も好き放題に行える。

神秘種…特異な種族。他のあらゆる種族の規格から外れた突然変異的に現れる生き物。その由来は神族に似ているが、基本的に上記のような絶対性がある訳では無いので別種とする。例として、魔力とは異なる『霊力』なるものを扱う白狐と黒狼。或いは完全な意志を持つ自動人形。また或いは再生と死を繰り返す緋翼の鳥など。個体数は極めて少ない。
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