西暦三〇四六年 帝国暦三三一年 九月一〇日
「テオバルト・フォン・ヴェーグマン大尉
貴官はオール・カフス星域において、共和国軍哨戒艦隊を味方艦隊の撤退まで拘束。
奮戦し、巡洋艦三隻、航空機四機を撃沈。補給艦隊並びに遠征艦隊の壊滅を阻止した。
その行動と勇気を讃え、ここに鉄十字章を授与する。
ゲシュタッド帝国皇帝フリードリヒ・アーデルハイト・エルセヴィント・フォン・ゲシュタッド。
代読レオンナード・ヴィットリア・メクレンブルグ・フォン・ゲシュタッド
ーーおめでとう」
そう言われると共に自分はレオンナードから勲章を渡される。数日前に艦長から階級章をもらい、自分は少尉から一気に大尉となった。なんと言う恐ろしい昇進速度だ……
そんな風に思いながら自分は大勢の人がいる前で勲章を受け取るとそのまま会場を出る。拍手喝采の中。自分は羞恥心で頭が一杯になり、式典のことはあまり覚えていなかった…
数日後、帝都にて自分はある場所に来ていた。帝都の別邸から車を走らせ、郊外にある山間の場所まで来ていた。
整備された参道を走り、見えて来たのは欧州のリヒテンシュタイン城を彷彿とさせる様な白い建物だった。そして門の前で車を止めると一人の白いドレスに身を包んだ一人の少女が日傘を指しながら待っていた。車を止め、反対側に回って扉を開けるとその少女は日傘を閉じながら言う。
「随分とご活躍を成されましたわね。お兄様」
「何、運が良かっただけさ」
「はぁ…相変わらず自分の価値をわかっていない様ですわね…低く見過ぎですわ」
そう言うマリーダは自分の手を取ると車に乗り込む。その様子を遠くの校舎から幾人かの生徒が眺め、自分を見るや否や騒ぎ出していた。
「『カフスの英雄』は学校でも有名ですわよ?お兄様のおかげで助かったもの親族も居ましたので…」
「なるほど…」
マリーダを乗せて街に向けて移動する中、自分はマリーダから色々と学校で出来事を聞いていた。
「おかげで私は今まで話した事もなかった人から質問攻めだったわ」
「それは大変だったな」
「別に?私は有名になったお兄様に顔を覚えてもらおうとその場だけの関係とは関わりたくない主義ですので」
「お、おぉ……そうか」
母に似て容赦ない発言に思わず苦笑してしまっていると、マリーダは言う。
「お兄様はいずれは大物になるでしょうね……男爵では収まらないほどの大物に…」
「それはどうだろうな…」
「いえ、必ずお兄様はそうなります」
そう断言するマリーダの目は確信めいていた。なかなか珍しい事もあるものだと自分は思いながらハンドルを握っていた。
その時、マリーダは小さく呟いた。
「あの方がそう仰っていましたから……」
今日はマリーダと帝都で最近話題だと言う菓子店に来ていた。少し前に特別手当をもらって懐はほっかほかだ。今日は好きなだけ買っていいと言うとマリーダは遠慮せずに店の棚の端から端まで。と言い、店員の目を白黒させていた。まるで前世の動画配信者みたいな事をすると思いつつも、会計を済ませて次の店に移動した。
「お兄様、次はこの店です」
そう言い車に買った物を入れ、次の店に入るとそこは宝飾店だった。店に入るとマリーダは中の装飾品を眺めて居た。中にある煌びやかな宝飾品を吟味してマリーダはある商品を見ていた。
「……」
それはダイヤモンドの入ったネックレスで、周りには幾つかの色とりどりの宝石が散りばめられた少し重そうな見た目をしていた。
少し見た後、マリーダは別のイヤリングを選んでいた。
「これをお願い」
「了解」
そう言い、カードで簡単に支払いを終えるとショーケースのガラス部分が消える様に開き、その下から丁寧に包装された箱が出て来た。それを受け取るとマリーダが嬉しそうな表情を浮かべていた。
「父さんや母さんにも何か買わないとな……」
「あ、それなら前に欲しいと言っていたものがありましたわ」
「じゃあ、それを教えて貰おうかな」
そう言い、宝飾店を後にした自分達は街を歩き、両親の為に何か買っていた。こう言う親孝行はできる時にしないと行けないと、艦長から教えられていたからすっかり癖になっていた。
本当、あの艦長は物凄い人格者だと言うのに……駆逐艦の艦長に留めておくのは勿体無いくらいだ。
何でも過去に貴族の意見に反発したらずっと駆逐艦の艦長のままで出世できなくなってしまったと言う。思わず自分たち全員が艦長を哀れみ、艦長を閑職に追いやった貴族を恨んだのは言うまでもなかった。
先の戦功が認められ、駆逐艦の航海長から帝国軍最高司令部の内地に移動する事になった自分はいずれ艦長を閑職から本来あるべき場所に移動させる様に努力する事を内心決意し、駆逐艦を降りた。
内地での勤務という事は、何処に配属されるのだろうかと思いつつ両親は内地勤務となった事に喜んでいる様子だった。
「(あまり両親を心配させるのもいけないか……)」
そんな事を考えながら自分は車に荷物を乗せるといつの間にかトランクが一杯一杯だった事に気づく。
「あら、こんなに貯まったのですね」
「そうみたいだな」
「じゃあ、今日の所はここら辺ですね」
「そうだな。時間もいい頃合いだしな」
そう言い、車に乗り込むと車を走らせる。
「予約した店はどんな所なんだ?」
「今学校で話題の店だって聞いたけど…」
「なるほど…それは楽しみだな……」
車内で話していると自分はバックミラーを見る。そこにはヘッドライトを照らし、先ほどからずっと後をついてくる一台の黒塗りの車を見た。
「(つけて来ているか…)マリーダ」
「はい?」
「後ろを見てみな…そっとだ」
「……」
そう言われ、ミラーガラス越しに後ろを見たマリーダは兄の言った意味を理解し、シートベルトをして扉の取っ手を手で握った。
「少々お相手しますか……」
そう呟くと車は急加速し、街を疾走する。後続も慌てて速度を上げ、追跡を行う。そして車は街中の直線を突っ走り、最後のT字路の場所でテオバルトはサイドブレーキを引き、アクセルを踏み、右90度の反転ドリフトを決める。真後ろを走っていた為にハンドルを切りきれなかった後続車はそのままT字路の端の店に突っ込んで事故を起こした。
「おっと、道間違えたな」
そう言うと事故を起こした車を見て野次馬が集まる中、テオバルト達は涼しい顔でその場を去る。
「お兄様は航海長でしたからそう言った運転もお上手ですのね」
「操艦と操縦は違う気がするがな…」
そう思いつつ、テオバルトはコリスに連絡を入れる。
「ーーコリスさん。帝都の四番通りのT字路で起こった事故を抑えて下さい。自分達を尾行していましたので…」
『畏まりました。後処理はこちらで行います』
「よろしくお願いします」
そう言い、通信を切るとマリーダが心配げに話しかける。
「お兄様。これで分かったでしょう?貴方は付けられるほどなのですよ?特に、第二皇子が背後についたと言う事がどれだけの事なのかを……」
「そうだな……」
ある程度は分かっていた事だが、こうしてマリーダと出かける事すらままならなくなるのかと思うと少し後悔もある。だが…
「(閣下が皇帝となればこうした事もなくなるか……)」
そう思いながら自分はある懸念が浮かぶ。
「(ここから遠い実家だと何かあったらすぐに動けないな……安全の観点から何処かいい場所を探すべきか?)」
田舎といっていい場所にあるデリエンベルクは帝都からとても遠い。よって向こうで何か事があった時にすぐに救援に行く事は難しいと考える。最悪の場合、上級貴族が行動を起こす可能性がある事も考えると自分の近くに来てもらった方が安全だろうか?
しかし、帝都に直接呼んでしまうとそれこそ上級貴族がやりやすいと言う事で何かするかもしれない。
何とも判断しずらいと思っているとマリーダが口を挟む。
「お兄様。お父様とお母様に相談なさってはどうですか?」
「…」
何で分かったのだろうと思い少し驚愕するとマリーダはやや得意げに語る。
「お兄様の考えている事くらいすぐにわかりますよ。私はお兄様の妹ですから……」
「…それもそうか……あとで聞いてみようかな」
そう呟き、とりあえずの悩み事が解決すると二人は店の前に到着する。
「あ、ここです」
「ここか?」
そう言い、車を止めると二人は降りてそのままスタッフに鍵を預けると二人はそのまま店に入るとそこにはすでに両親が席に座って待っていた。思わずポカンとしていると横からマリーダが事情を話した。
「この前は途中で呼び出しを受けていましたからね。休暇中で、内地に移動する今なら途中で中断する事もないかと思いまして…」
「あぁ、なるほど」
そう言うと父が自分を見て愉快そうにしていた。
「いやぁ、遅かったじゃないか」
「ええ、少し寄り道をしていましたので」
そう言い席に座ると母上が楽しみな表情を浮かべて席に座った自分を見た。
「さぁ、あの時のやり直しといきましょうね」
そう言うと料理が運ばれ、今度こそ家族で久しぶりの食事会を開く事になった。そこで自分はまず最初に父上に褒められた。
「聞いたぞ。お前の話は…俺は誇らしいよ」
「有難うございます」
「二階級特進ですって?こっちだとその話でよく盛り上がっているわよ?」
「そうなんですか」
そう言い、真っ先にその話題が上がった。あの話は故郷でも話題になっているらしく、自分の名前は湾曲しながら広がっているそうだ。
そんな直近の話をする中、父上が嬉しそうな表情して食事をしながら自分を見ていた。
「お陰でうちの貿易業も儲かっているよ」
「それは良かったです」
貿易業と観光業で収入を得ている実家は情報が命。自分の名声で実家が儲かっているのならそれでもいいと思ってしまう。
すると父上は今度は目を細くし、真剣な表情を向ける。
「しかし、お前のバックにレオンナード皇子がついた事が上級貴族の間に知れ渡る事になった……それは、常に敵を抱える事にもなったと言う事だ」
「……」
そう言われて思わず申し訳なく思うと自分は思わず口を開いた。
「父上…実はそのことで相談があるのです」
「ほう?それは『上級貴族が俺たちを襲ってくるかも知れない』と言うことかい?」
全てお見通しと言わんばかりの目を向け、そう言う父にテオバルトは頷いた。すると父は母上を見るとはぁ、とため息を吐きながら言う。
「何を言うかと思えば……テオバルト。この際言っておくが…
俺たちの事を心配しなくてもいい」
「…え?」
そう言われ、思わず目が点になってしまう自分。すると母が自分に話してくれた。
「実はお前とレオンナード皇子との関係が公になった時に、レオンナード皇子が信頼できる護衛を送ってくださったの」
「……」
思わぬ告白に呆然としているとマリーダが上手くいって愉快そうな笑みを浮かべた。
「つまりはそう言う事です。お兄様」
「……つまり、自分はやられたと言うわけですか」
「まぁ…そうなるな」
はぁ、と息を出しながら思わず自分の親友に感謝をする。まさか、そこまで手筈を整えていたとは…
すると母上が自分に言った。
「だから、テオバルトはここでやりたい事を精一杯やりなさい」
「そうだ。俺たちの事は大丈夫さ。なに、お前が故郷が恋しくなったらいつでも帰ってくればいい。デリエンベルクは誰にも渡す気はないからな」
「そう…ですか……」
あぁ、良かった。
そう思いながら自分は今までで一番ほっと胸を撫で下ろした気持ちでその後は旧友に最大の敬意と感謝を思いながら再び楽しい食事会をするのだった。
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