銀河転生記   作:Aa_おにぎり

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#3-3

西暦三〇四六年 帝国暦三三一年 一二月八日

帝都郊外 帝立女子院 紅葉寮

 

クリスマスも近くなったこの日、帝都郊外の帝立女学院の寮の一室で一人の少女が窓辺に肘を乗せながら外を眺めていた。

プラチナブロンドの長髪の少女はぼーっと空に浮かんでいる代替月を眺める。

 

「マリーダ、まだ起きているの?」

 

そう言われ、マリーダはクルリと振り向くとそこには黒髪で肩まで伸ばした髪が特徴の少女が立っていた。その少女は片手に瓶入りのジュースを二本持ち、マリーダを見ていた。

 

「なんだ、ハルコも起きていたんだ…」

 

そう言うとマリーダは黒髪の少女からジュースを貰うと蓋を開けて飲み始めた。彼女の名はハルコ・ヘリング。この学校の寮で同室となった同級生だ。兄が活躍する前から何かと馬が合い、必要以上の付き合いをしないマリーダにとって数少ない友人と呼べる人物だった。名前の通り貴族では無く、平民出である。聞くと彼女のルーツは地球のニホンという場所だと言う。かつて、まだ帝国が建国された当初にこの地に移住した者らしく。両親は帝国の企業の勤めている一般的な者らしい。

 

そもそも帝立女学院に来ている時点で一般的では無い気もするが……

そんな感じで順調に暮らしてきた学園生活も二年目に突入した。二十歳から入学し、三年間通うことになっている自分は貴族の中では珍しい事でもなかった。まぁ、帝立女学院の前の帝立幼年女学院に入るのが普通だが……

元々マリーダが行こうとしていた学校に比べれば何倍もマシなのだが……

 

「全く、兄と同じ士官学校に行こうだなんて結構ぶっ飛んでいるけどね」

「そうかしら?」

 

少なくともヒラヒラしたドレスを着るよりはマシじゃ無いかと言うとハルコは爆笑していた。

現在、帝国士官学校は誰でも入れるが、相当訳ありな女性でもない限り士官学校に入ろうとは思わない。それなのに率先して入ろうという女性は珍しかった。

 

「アハハハハ!貴族様がそんなこと言うなんてねぇ」

 

もはや慣れた光景である。初めは貴族という事で萎縮していたが、同じ部屋で生活していくうちにハルコもマリーダに対して遠慮が無くなっていた。そして今ではこうである。二人は部屋でのんびりと過ごしているとハルコはマリーダを見ながら言う。

 

「マリーダも気をつけなよ?お兄さん、結構憲兵隊で頑張っているらしいから」

「そりゃそうよ。あのお兄様よ?活躍しないはずがないわ」

 

そう言い、マリーダは初めて兄と出会った時の事を思い出すと思わず笑みが溺れてしまう。その様子を見てやや引き気味のハルコ。

 

「このブラコンめ……」

「あら?私はそれで良いんだけどね」

「……ダメだこりゃ…」

 

頭に手を当てて呆れと困惑の混ざり合った表情でため息を吐きながらハルコはマリーダを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、私はある夢を見ていた。

それは自分がヴェーグマン家の養子となった時のことだった。デリエンベルクで両親に街に連れて行ってもらった時のことだ。まだここに来たばかりだった自分は兄ともこれと言った関係も無く、一本の糸の様な関係だった。

街に行くとそこで両親は突拍子もない事をしたのだ。兄と自分だけで街を散策してみてはどうかと……

両親は交流のきっかけとして提案したのだろうが、その時の私は不安でいっぱいだった。何せ、ほとんど話した事のない兄と二人きりで街を散策するのだ。その時十五歳だった兄は確かに一人でいても問題なかった。だけど両親といた方が安心できるものがあった。

しかし、半ば強引に両親はその場を離れていった。何かあったときはどうするのかと聞くと両親は『大丈夫、何かあってもテオバルトが守ってくれるさ』と、言い残して二人はどこかに行ってしまった。

残された私と兄はそのまま呆然としていたが、兄が最初に辿々しい言い方で話しかけた。

 

「…何処に行きたい?」

 

その様子に少しだけ面白くなってしまった自分は『何処か可愛いものがある店に行きたい』と言うと兄は私の手を持つとそのまま街を歩き出した。兄はとても街に詳しく、いい店を紹介してくれた。そこは街の少し裏路地にある小さなお店だった。中にはたくさんの人形が置かれていて兄はそこに私を連れて行った。

そしてそこで店のおばさんが出てきて私と兄を見て驚いた様子を出すも、兄が事情を説明すると納得した様子を浮かべた。

 

「とっておきの物をくれ」

「はいよ。ちょっと待っててね」

 

そう言い、店の奥に入ったおばさんを見届け、私は思わず店の中を見て回る。たくさんの動物の人形があり、中には見たこともない動物まであった。なんの動物だろうと思っていると兄が教えてくれた。

 

「それはナマケクマと言う動物だ」

「へぇ〜」

「あれはピグミーシロナガスクジラ。こっちはマカジキだ」

「そうなんですね…」

 

御伽話や、映像でしか見たことのなかった動物の名前を知って詳しいのかな?なんて思っていると店の奥からおばさんが出てきて、片手に木箱を握っていた。

 

「かなり前の物だけど、品質は保証するわ」

 

そう言い、箱を開けると中には真綿で包まれた白いユニコーンがいた。それはとても精巧に作られおり、とても美しかった。

 

「わぁ〜!」

 

思わず声が漏れてしまう。それほどまでにこのユニコーンは美しかった。私がユニコーンを気に入っているのを見ると兄はその横でカードを取り出していた。

 

「これで頼む」

「まいど」

 

そう言い、簡単に支払いを済ませて片手にユニコーンの人形の入った紙袋を持って歩いていた。そして、街を歩いていると兄が突然、私の肩を持って体を引き寄せていた。

 

「ど、どうしたの?」

 

そう問うと兄は周囲を見回した後に、建物の影に向かって低い声で聞いた。

 

「……何者だ?」

 

そう言うと、角から柄の悪そうな大柄の男が出てきた。その手にはナイフまで持っていて明らかにこっちを敵視していた。

 

「……っ!!」

 

思わずギョッとなってしまって脚がすくんでしまった。相手は明らかな悪意を持って兄を見ていた。すると、その男は兄を見ながらナイフ片手にこう言っていた。

 

「よう、貴族の坊主。この前のツケ、まだ払ってねえだろ?」

 

ツケとは何だろうか。後で色々と聞きたいが、取り敢えず逃げないとと思って思わず兄を見てしまう。すると兄は私を後ろに隠すように移動させ、片手に本を持ちながら男に向かって言った。

 

「あれは君達が仕掛けた事だろう?不法に倉庫の物資を盗んだのが悪いんじゃ無いか」

「ふざけんな!あれは正当な取引だ!!」

「成程…デリエンベルクの物資を父の許可なく勝手に横流しした事が正当な取引だと?」

 

十歳の自分でもわかる。それはやってはいけない事だと。兄がそう言うとその男はナイフを持って苛立った様子で兄を突き刺そうとした。

 

「お前のせいで!俺の人生は台無しになったんだよ!!死ねやぁああ!!」

 

明らかな殺意を持って殺しにかかる男に思わず私は叫んでしまった。

 

「兄様!!」

 

そう叫んでしまったが、兄は身の危機だと言うのにいつもの冷静さを欠かず。ナイフを持って突貫してくる男を見る。

 

「……お粗末な殺意だな」

 

そう呟くと胸を狙ってきたナイフを前に突き出した本に刺させた。分厚い本にナイフが突き刺さり、相手の速度を殺した瞬間にナイフの突き刺さった本を後ろに放り投げ、相手からナイフを奪った。そしてガラ空きだった相手の股間に右足で思い切り蹴りを入れた。

その瞬間、相手の顔が真っ青になってそのまま白目を剥き出しにして倒れた。

一瞬の出来事に思わず呆然としてしまったが、兄は倒れた男を見ながら常に耳につけている通信機を使って警察に電話をしていた。

 

「あー、もしもし。僕です。ーーええ、やはり自分を狙いに来ていました。〇〇番地の裏路地に倒れているので回収をお願いします」

 

淡々と敵を倒し、一撃で仕留めてしまう手際はとても綺麗だった。電話を終え、兄は地面に落ちていたナイフの突き刺さった本を手に取りながら呟いた。

 

「しまったな……新品の本を探さなければ……」

 

そう呟きつつ、本を手に取ると兄は私を見てハッとした表情を浮かべながら本を地面に置いてこっちに近寄ってきた。

 

「済まない。怖い思いをさせてしまって……」

 

そう言うとさっさと私を連れて裏路地を後にしていた。その時、私は兄の強さに強い憧れのような物を持った。

見た目は触ったら消えそうなほど薄いのに、いざとなれば隠していた牙を剥く。知識も多く、頭も良い。それがなんだか私は強い安心感が生まれ、それからは兄を慕うようになり積極的に接するようになった。初めて兄に買って貰ったこのユニコーンの人形は今でもカバンの中に入れてある。その時の思い出は消える事はないし、何よりも初めて兄に買ってもらった物だから。今まで手放した事は一度もなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ふと真夜中だと言うのに目覚める。いつもならありえない事だが、何となく胸騒ぎがするのだ。嫌な予感が……

現在の時刻は午前二時。空には綺麗な月が上がったままだった。私は胸騒ぎが偽物ではないと確信し、横で寝ていたハルコを揺する。

 

「……ハルコ、起きて」

 

そう言い、少し揺するとハルコは重たい瞼を目を擦りながら開ける。

 

「んん……何?マリーダ……」

 

そう言い、起き上がった直後だった。

 

ーーカチッ

 

普通なら開けられるはずの無い部屋の扉の鍵が開く音がした。その音を聞き、明らかな異常だと二人は認識する。咄嗟にマリーダはいつも鞄の中に隠しているレーザー・ピストルを片手に持つ。普通ならこんな真夜中に部屋の鍵を、それもノックもなしに開けるのはあり得ないからだ。

鍵の空いた部屋の扉を睨みながらマリーダは部屋に入ってくる相手を待ち構える。

 

「……」

 

少し無音の時間が過ぎ、部屋の扉を開けて誰かが入って来た。結構な人数だと思われる集団は部屋に一気に突入した。そして角からフードを被った状態で顔を覗かせた時。

 

「ぐあぁああ!!」

 

角で待ち構えていたマリーダが持っていたレーザー・ピストルの引き金を弾き、先頭の男の腹を貫いた。レーザーで血が出るまでも無く、焼けた腹部の痛みで倒れた男を見て後方にいた怪しい集団が咄嗟に叫ぶ。

 

「このアマッ!」

「気を付けろ!!」

「ああぁああ……」

 

レーザー・ピストルを両手で構えるマリーダと相対し、警戒する四人組の集団。マリーダの後ろに、ハルコが隠れている形だった。

 

「誰?貴方達は……」

 

ピストルを構えながらマリーダが聞く。すると集団のうちの一人がマリーダを見ながら答えた。

 

「ちょいと依頼を受けた者さ。お前さんを連れていくように……なっ!」

「!?」

 

答えた一人が直後にマリーダの持っていたピストルを蹴り飛ばす。

 

「しまっ…!!」

「おっと、なるべくレディーは傷つけたく無い主義なんでね。暫く寝ていてくれや」

 

蹴り飛ばした直後に、マリーダやハルコは口元に白い布を当てられる。そして染み込まれた強力な睡眠薬によって二人はガックリと気絶したように倒れてしまった。

 

「(お兄…様……)」

 

そんな言葉と共にマリーダは意識が真っ暗になってしまった。




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