「お前は本当に人見知りなんだな」
レオンナードは非常に呆れた目でテオバルトに言う。年明けに来て早々これである。えぇ、自分はコミュ障でしたが何か?
現在、とある場所に移動する為にテオバルトとレオンナードはコリスの運転する車に乗り込んでいた。
年明け初日に郵便届に階級章と昇進の紙が届いた事には苦笑いを隠せなかったが、マリーダが嬉しそうに笑いながら大佐の階級章を縫い付けてくれた。支給された軍服の改造は基本的に禁止されているが、バレないからと軍服の裏地に式典の予定表などを縫い付ける輩もいるらしい。記憶力が悪いのかと思いつつ、テオバルトはレオンナードから新年明けの式典の話を聞かされた。
「祝賀会じゃあ、お前さん目当てでお前の親父さんに話しかける人が多かったぞ?」
「そうなのですか……」
「見ているこっちからしたら少し大変そうだったぞ」
「……」
それは親父にすまない事をしたな…
テオバルトはレオンナードから聞かされたその時の状況を聞き、思わず気が沈んでしまうと。レオンナードはテオバルトに軽く注意する様に言う。
「なのなぁ、お前が人見知りでああ言う会に出たく無いのも分かるが、同時に犠牲になる人もいるんだから…お前も少しは我慢して出ろよ」
「はい……」
「あんな乗り気じゃねぇな……」
仕方ないだろう。こっちは本来なら田舎でひっそり暮らす運命だったかもしれないんだからさ…と言うか、絶対そうだったって……
テオバルトは内心自分の面倒臭さが滲み出ているのに加えて、よくあんなだだっ広い会場で父を見つけたなと言う驚きがあった。
「そう言えば、自分は詳しい話を聞かせてもらっていないのですが……」
今日の予定はあくまでも工廠に行くだけで有り、そっからの予定は特に聞いていなかった。
するとレオンナードはテオバルトに詳しい予定を伝える。
「あぁ、真っ先に新造艦を見に行く」
「艦名は……」
「その時に言う。あぁ、口外無用で頼むぞ。次の遠征艦隊出発と同時に公表するからな」
「了解しました」
すると、レオンナードは自身ありげにテオバルトに言う。
「きっと驚くだろう。新機軸を幾つか盛り込んでいるものの、堅実な設計だから扱いやすい艦艇だ」
「なるほど……」
「さ、もうすぐ工廠だ」
そう言うと、レオンナード達は工廠の入り口に到着した。
まず初めにテオバルトが降りて念の為周囲の確認を行い、その後にレオンナードが降りる。時々、護衛を付けてはどうなのかと言うこともあるが、レオンナード曰く『下手な護衛よりもテオバルトの方がマシだ』と言われた。自分はそこまで射撃が上手いわけじゃ無いんだけどな……
一応、常に腰には護衛用の帝国製大型レーザー拳銃を予備バッテリー付きで持っているが、正直咄嗟撃ちは苦手だ。
レオンナードを下ろした後は、工廠にいる研究員らが敬礼をし、中をズカズカと歩いていく。
さすがは帝族、誰もが綺麗な整列をしてらっしゃると思いながら、異変がないかも確認していると。地下奥深くに隠された工廠の建造ドックに到着した瞬間。思わず二人は驚きの声が上がってしまった。
「これは……」
思わずレオンナードが声を溢してしまうと、工廠の研究長が目の前に鎮座する一隻の軍艦を見ながらその艦の名を呟く。
「ヘルムート・フォン・モルトケ……我が帝国が、宇宙に誇る最新鋭艦であります」
そこには一隻の軍艦が、堂々と停泊していた。その威圧感には圧倒されるものがある。
まさに『海の覇者 戦艦』。美しい曲線美に、堂々とした無骨なステルス製を意識した艦橋。帝国の主力艦特有の動力分散配置。
そして何より、船体に取り付けられた純赤の砲塔には砲身が取り付けられていた。
するとじっと見ていたおかげか、局長が解説を入れる。
「この艦の最大の特徴である有砲身型の中性子砲は有効射程が延長し、更にテオバルト様がカフス星域にてお見せになられた戦術である砲塔周りのシールドを展開できる様に致しました。
更にレオンナード閣下のご要望に合わせ、艦載機の格納数を幾分か減らした代わりに機関の出力強化を行い、砲撃能力は圧巻の一言です」
話を聞き、思わず目の前の戦艦の威厳に驚きを隠せないレオンナードはただ一言。
「素晴らしい……」
と呟き、その戦艦に半ば魅了されていた。
「此処が艦橋か……」
船内に入り、まだ主電源が付いていない影響で真っ暗であったが、360度の全天モニターを装備した最新鋭の戦艦の艦橋はとても広かった。
「正確に言いますと、此処は第一艦橋にあります。先ほどお見えになられた艦橋は第二艦橋で、指揮などは主にこちらで行なう設計となっております」
解説を聞き、真っ暗の中。レオンナード達は艦橋を眺めていた。もし此処に電源が付けば、それはそれは素晴らしい光景が見えているのだろう。
「二週間後には、処女航海と慣れる訓練の為に。お前には先に乗ってもらう」
「はい、分かっております」
「その時には、是非とも。この艦の詳しい感想を聞かしてくれ」
「はっ!!」
そう言うと、レオンナードはテオバルトに期待する眼差しでその日が来るのを楽しみにしていた。
西暦二〇四七年 帝国暦三三二年
四月一〇日 午前一〇時
帝都上空 帝国宇宙軍基地
その日、そこには多数の艦艇がズラリと一列に並んでいた。帝国艦特有の宇宙に溶け込み、より主君を目立たせる為に塗られたカーボン塗装の軍艦。多数の主力艦に、補助艦艇。補給艦が整列して並ぶ。その様は前の遠征艦隊の時よりも幾分綺麗に整えられていた。
無理もあるまい。今日の遠征艦隊の司令官は帝族の、それも皇位継承権を持った非常に有能な若き天才である。帝族という普段は滅多にお目にかかれない人物が今日の艦隊の指揮官だ。おまけに、この皇子は今いる皇子の中では最も皇帝のお気に入りであるという噂だ。誰もが褒美のおこぼれをもらおうと必死になっていた。
「全く、奴等の考える事は浅はかで寧ろ滑稽な芸だな」
戦艦の中にある司令艦私室で、年代物のワインを片手にレオンナードはそう呟く。
それを聞き、思わずボトルに蓋をするテオバルトは苦笑せざるを得なかった。まぁ、言っている事は否定できないからな……
「だがまぁ、帝国の周辺国からの名誉回復も重要な仕事だ。そもそも帝国が内ゲバで崩壊だなんて目も当てられない……」
レオンナードはこれから艦隊出撃だというのに一杯ワインを飲むと、やや忌々しげに言う。
そもそも、帝国が崩壊すればレオンナードが皇帝になるという夢も崩壊する。おまけにその隙をついて銀河連邦が次々と星域を占領し、再び宇宙の覇者となるだろう。あの国政治が帝国と同様腐り切っているのも知っている。
自由を求めて独立を行なった結果が憎き敵と同じとはどんな皮肉かと思いたいところではあるが、人間なんてそんなもんだと割り切ってテオバルトはレオンナードに注意を入れる。
「閣下、そろそろお時間となりますので、酒はお控えください」
「……生真面目だな」
「部下に酒を飲んで指揮する司令官と思われたいのですか?」
「……」
そう言うと、レオンナードは大人しく二杯目の要望を抑え込むとそのままグラスをテオバルトに渡す。
やや子供が残っているような気がするものの。それ以外は至って立派な頭脳をお持ちだから問題ないかと思いながらテオバルトは空になったグラス二つを片付けると、そのまま部屋を出る。
全長2000mもある巨艦の移動は艦内にモノレールが入るほどである。一個の小さな街を形成しそうではある大きさだが、その大きさに見合う火力も同時に有していた。
「この艦はどうだ?」
「はっ、実に素晴らしいと言えばしょう」
「ほうほう、それは楽しみだ。是非とも、見てみたいものだ」
モノレールの中でテオバルトはヘルムートをベタ褒めしており、あのテオバルトが此処まで褒めるとはと言った様子で、気になっていた。
そしてモノレールが停車すると、そのままテオバルトが先に降車してそのまま横に立つと敬礼し、脇に立っていた衛兵も同時に敬礼する。
一直線に並んだ道をレオンナードは堂々と、皇子らしい堂々とした歩き方でまっすぐ進む。
その後ろを護衛するのはヘルムート艦長であり、レオンナードの幼き頃からの友人であるテオバルト。
二人はそのまま艦橋に入ると、レオンナードは前にも見たあの全天モニターを見て内心その映像の素晴らしさに驚いてしまいそうになるが、押さえ込んでそのまま司令官用に用意された椅子の前に立つ。
見下ろす先に立つはこの艦艇を動かす将兵達。彼らはレオンナードを見て敬礼すると、レオンナードはそのまま指示を出す。
「艦隊と合流する。機関、微速前進」
「機関、微速前進」
横でテオバルトが復唱すると、一斉に乗組員は動き出す。新鋭艦の核融合炉は静かに、船体が揺れる事なく前に動き出し、後ろから青白い光を纏わせて前進する。
艦隊合流と共にこの艦のお披露目と艦名を発表する。艦隊は反対側の宙域で待機しているので、合流した後。レオンナードが訓示を述べて、予定時刻通りに出発する。
少しして、宙域に浮かぶ無数の艦艇群が現れる。《第三八次遠征派遣艦隊》だ……
おそらく、この深紅の艦艇を見て皆驚いている事だろう。
テオバルトにとってはあの公爵が逃げ出して慌てて退路を作ったあの戦闘を彷彿とさせるが、今回は全く異なる役職であった。
この新鋭艦の艦長に就任し、尚且つレオンナードからは意見を求められる立場だ。はっきり言って凄い重役である。今回の人員はベテランを配置しつつも、少しだけ腕の良い若き乗組員を多めにしていた。テオバルトと言う若い軍人が艦長なのもその理由の一つだ。
正直、男爵の子供が此処まで出世するのであれば陞爵もありそうな話だが……レオンナードの事だ。いずれは昇進に限界が来て陞爵する事になるのかもしれない。
なんて思いつつ、テオバルトはレオンナードから一歩引いた所で、今回の艦隊の参謀に混じってレオンナードの力強い訓示を直で聞く。
「我々は前回の雪辱を果たし、奪われた大地の奪還を行う!我に武運あり!全艦、発進せよ!!」
これが、王族の血所以の力強いお言葉か…いや、レオの場合は母のあの性格が映っただけかもしれない……
そんな野暮な事を考えているとも思わずにレオンナードは通信を終え、椅子に座り込むとそのまま一瞬だけテオバルトを見た。
既に艦隊中央部にヘルムートは組み込まれ、ワープ準備に入る。ワープ航法は非常に緻密な計算がいるので、まずコンピュータ無くして動かすのは無理だ。だが、そう言った航路は大体決まっているので、予定の場所を通れば済む話であった。
ワープを何度か行えば、そこは前にお世話になったカルーティア大公国の大地だ。あのクソッタレな公爵さえいなければこんなことにはならなかったのに……と、内心毒吐きながらテオバルトは艦長として指示を出す。
「ワープ準備」
この前まで指示される側だったのが、今度は指示する側だ。運命とはなんと面白いことやら……
テオバルトは内心、この遠征をどう乗り切ろうと思っているのか。レオンナードの腹内を聞いてみたいものだと思いながら、ヘルムートを飛ばす為に自分も艦長席に座り、ベルトを巻いた。
その後、首都上空に多くいた艦艇軍は遠い位置に向かって消えていった。
地上では、誰かの無事を願う人の声が聞こえたような気がした。
第Ⅰ章『帝都の序曲』完
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