銀河転生記   作:Aa_おにぎり

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#1-2

「ーー長、艦長?」

 

意識が浮かぶような気分になり、視界が一瞬白くなった後に色を取り戻す。

 

「ああ、副長か。何かあったか?」

 

テオバルトは居眠りしていた事を自覚すると、副長のリュグドマンに聞いた。二十代で最新鋭戦艦の艦長に抜擢された身だが、そんな自分にも嫌悪せずに当たり障りなく接してくれる彼には感謝していた。

 

「はい、まもなくカルーティア大公国に到着いたします」

「そうか…報告ありがとう」

 

今回、珍しい事に艦隊指揮官と艦長は別の人間だ。

今回向かう先はカルーティア大公国首都星ウォン=ヴォーシュデン。そう、第三七次遠征派遣艦隊の指揮官の亡命で星域一つを失った星間国家だ。

 

帝国の肝入りということで今回の第三八次遠征派遣艦隊の指揮を執るのは帝国第二皇子レオンナード、その人だった。

帝族の直系と言うこともあって兵士の士気も高かった。

 

「しかし、まさかまたここに来るとはな」

 

目が覚め、行き先を改めて知ると思わず口にしてしまう。思い出されるのは命からがら式典会場から逃げ出した記憶だ。

あれの後、自分は憲兵隊所属となり。その後にまたこうやって船に乗ることになるとは思っても居なかった。

 

「ははは、艦長はカフス星域で活躍されましたからな」

「おかげで今は大佐だ。飛び級にも程があると思わないか?」

「いえいえ、当選の事かと私は思います」

「はぁ…そうだといいがね……」

 

リュグドマンはそう答えると、テオバルトは軽くため息をついたあとに言った。

 

「殿下は?」

「はっ、私室にてお休みになられております」

「うむ、そろそろ時間だな」

 

時計を見て彼は言うと、席を立つ。まさかの居眠り姿を見られてしまった訳だが、確実に疲れが溜まっていると分かる。

 

「(しかし最近はよく見る夢だ)」

 

子供の頃はほとんど見る事なく忘れかけていた前世の記憶。しかし、ここ最近はその記憶が夢によく出てくるようになっていたのだ。まるで録画された映像を見ているかの如く、自分はその景色を眺めていた。

 

「(これは忘れるなと言う警告なのかな?)」

 

そんな事を妄想しながら彼は艦長室を後にしていた。

 

 

 

 

 

「司令官閣下に、敬礼!」

 

近衛兵の声に合わせるようにえんじ色の裏地のマントを羽織る帝国宇宙軍少将の階級章を持った青年。

同じく居合わせた各艦隊の司令や参謀が彼を見ていると、レオンナードは初めに上座の豪華な椅子に腰を掛けた。

そしてその後に他の参謀長以下全員が座る。

 

「諸君、間も無くカルーティア大公国である」

 

そしてレオンナードが口を開くと、同席する全員の目線が一瞬だけレオンナードの右側の一番近くの席に座るテオバルトに向かった。

 

「諸君も知っての通り、彼の国のオール・カフス星域はブランデン元公爵の裏切りにより、敵フランミダ共和国連邦によって侵略を受けた」

 

その敗北を有耶無耶にするためにテオバルトは救済の英雄扱いを受けたのだ。軍を穏健的に昇格する事を目的としていたが故に甘んじてその事を受けていた。

 

「今回の目的は侵略された星域の奪還、並びに共和国艦隊からの防衛だ」

 

作戦目的を伝えると、作戦参謀が手を挙げて聞く。

 

「殿下、共和国領侵攻ではないのですか?」

「侵攻は断じて認めない。この規律を破ったものには罰が与えられる」

 

レオンナードの決断に参謀たちは一瞬騒然とした。奪われたものを奪い返し、仕返しをする。その方針から外れた行動指針に参謀達は驚いていると、彼は冷静に話し続けた。

 

「その事を艦隊全員に厳命せよ」

「「「「「はっ!!」」」」」

 

帝族の命令は彼らの中では絶対であった。

 

 

 

 

 

「この艦隊の目的は平和を維持する事だ。侵攻のためにあるわけではない」

 

帝族の乗艦を予定して作られた特別な部屋。便宜上を司令官私室と呼ぶ部屋にてレオンナードは言う。

 

「要はマイナスになった物をゼロに戻すだけでいい。そうすれば内外からの評価も上々だ」

「なるほど、あくまでも銀河連邦との戦争を避ける方向という事ですか……」

「何処かしらで止めなければ、まず間違いなく戦争になる。今はまだ戦争の時ではない」

 

今の宇宙を二分しているゲシュタッド帝国と銀河連邦。双方は共に冷戦状態にあり、いつでも戦端は開ける状態だった。

 

「奪った星域に駐留しているのは共和国艦隊だが、初めに進駐したのは連邦軍艦隊だ。これで戦争をしていないとか……何と言えばいいのやら」

「戦争の基準はその当事者が判断する事です。過去の戦争でも、当事国同士の呼び方の違いはありますから」

 

ウクライナ侵攻のロシア軍の呼称が特別軍事作戦と言うのが良い例ではないか。ウクライナや世界ではもっぱら戦争と言っていたし、何ならロシア人すらも戦争と思っているわけだった。あくまでも戦争と呼んでいないのは政府の広報課くらいだろうか。

 

「要は代理戦争です。相手は連邦軍派遣艦隊と共和国艦隊、こちらは義勇艦隊と公国軍艦隊」

「これが代理戦争とは、笑わせるもんだ」

「ですが、帝国の大使は月面の大使館に駐在しています。人の行き来が出来るのですから、冷戦というべき状態なのでしょう」

「何とも奇妙な関係だよ……」

 

人類の歴史上、これほど奇妙な関係があっただろうか。ある場所では直接砲火を交えていると言うのに、国の代表同士は手を繋いでいる。宇宙の広さはこのような奇妙な関係を構築していた。

 

「逆に、宇宙が広すぎて我々の予想もつかない発展をしているのかもしれませんが……」

「そうだな…あまりにも広いよ。この世界は」

 

そう答えるとレオンナードは椅子に座り直していた。

 

 

 

 

 

帝国軍が誇る最新鋭戦艦のヘルムート・フォン・モルトケの革新的技術は有砲身型の中性子砲を備えている事だ。

従来の戦艦の主砲などは砲身があっても臼砲程のものでしかない事から大口径なものが搭載されていた。前回の艦隊旗艦だったオクソールは主砲に一〇口径六〇センチ連装砲を装備していた。大きさ的にいえば臼砲に近い。

しかし今回のヘルムートの主砲は三五口径三八センチ三連装砲を装備していた。

主砲口径が小さくなった代わりに連射力と長射程を手に入れた我が艦は紅蓮の炎の如くその宇宙に飛び立っていた。

 

今回の『第三八次遠征派遣艦隊』の編成はヘルムートを抜くと、グナイゼナウ級戦艦十五隻、エスパーニャ級戦艦十四隻、アドミラル・ヒッパー級巡洋艦二四隻、Z200型駆逐艦一〇二隻、イラストリアス級航宙母艦十隻の総勢一六五隻と言う大艦隊だ、補助艦艇は五百隻を超える。主な艦艇は地味に優秀な設計だと思うメアー・カム級補給艦だ。

レイテ沖海戦と同等の艦艇数がただの派遣艦隊で送られるのだから時代は変わるもんだ。まるで銀○伝の世界だ……違うか、あれはもっと数が桁違いだな。

 

「間も無く、ウォン=ヴォーシュデンに到着いたします」

「最後のワープか?」

「はい、左様で」

「はぁ、軍艦と言うのは面倒だな」

 

最後のワープに入る直前、レオンナードはそう溢す。そんな彼の反応にテオバルトは言った。

 

「仕方ありません。チューブを使うと負荷が掛かってしまいますからね」

 

チューブとは各星域同士を繋ぐワープホールの渾名であり、主に使用するのは民間の船舶などであった。各星域の境界に設置されている直径五〇キロの巨大な円環状の機械であり、船舶側が行き先を指定すると管理局が自動で行き先まで案内してくれる代物だった。

 

この設備は開拓した星域に必ず設置されており、宇宙船もワープ時のエネルギー消費を抑えるために頻繁に使用していたが、流石に派遣軍のような艦隊が一気にワープを行うと、ワープホールの機械自体に負荷がかかってしまう為、艦隊移動は滅多に行われなかった。

ワープホールが壊れると修理が十年単位でかかる上に、巻き込まれた人々が帰って来れなくなる可能性があるので安全策を取っていた。

 

「チューブを使えば公国までひとっ飛びなのにな」

「我慢して下さい」

 

レオンナードをテオバルトが宥めると彼はそのまま最後のワープに入る為にその準備に入っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

西暦三〇四七年 帝国暦三三二年

四月十七日

 

帝都を出航して一週間、カルーティア大公国に帝国からの艦隊が到着する。そこで現れた一隻の真紅の戦艦に誰もが目を張った。

そしてレオンナードは、今度は義勇艦隊総司令官としてウォン=ヴォーシュデンの宇宙港に着陸していた。

 

「(前回は駆逐艦の航海長、今回は艦隊旗艦の艦長とはね……)」

 

式典に映像ではなく、実際に参加する立場まで出世した自分は思わず苦笑したくなる。

 

「(そして胃が痛い……)」

 

キリキリしてくる胃袋に手を当てたくなる気分だが、何とか堪えてレオンナードとカルーティア大公の式典を眺めていた。

駆逐艦の艦橋でコーヒーを飲みながら見ていた頃が懐かしい……あの時は色々と楽で良かった。

 

 

 

式典を終え、新たに帝族を指揮官とした派遣艦隊に公国の民の反応は様々だった。そもそもほぼ全般の国に言えるのだが、検閲の問題があるのでそもそもの出版物が限られており。新聞も売れてはいるものの、艦隊が来たことや帝国のお偉いさんが来た程度にしか思っていなかった。

 

「んで、到着早々艦長は街のパブに飛び入りか」

「ええ、でもなければ胃が持ちません」

 

そう言い、彼はウイスキーのソーダ割りを一杯流すと、その直後に首を傾げた。

 

「……しかし何故閣下がこちらに?」

「ああ、艦長が逃げ出したと副長に言われてな。探しに来た、お前を探すのに情報部では力不足だからな」

「わざわざ動かすほどでも無いでしょうに……」

「いや、普通にお前探すの大変なんだぞ?」

 

そう呆れながら彼は軍服姿のままで街に出ていた事を軽く注意される。

 

「まあいい、これからカフス星域での最後の作戦会議だ。お前の知恵が必要なんだ」

「……左様ですか」

 

訳を知り、すぐさま彼はグラスを置くと代金を払って店を出る。一部ではインプラントを施して、静脈認証で支払うと言うのが多いが、前世の感覚からか。インプラントはしているものの、支払いはカードで済ませることが多かった。

 

「お前って、ちょっと古いところあるよな」

「そうでしょうか?」

 

態々大佐の軍服を着て訪れていたレオンナードに内心ため息を吐きながら返す。

 

「いやぁ、そう言う支払いとかがいまだにカードなのがなぁ……」

「目に見えてわかるほうが安心しませんか?本も電子書籍よりは紙のほうが私は好きです」

「でも嵩張るじゃん」

「それが良いんです」

 

やや胸を張ってテオバルトはレオンナードにそう答えていた。




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