銀河転生記   作:Aa_おにぎり

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#2-3

総監府の創設より一ヶ月、テオバルトとマリーダは久しぶりに故郷のデリエンベルクに到着する。

 

「うわぁ…」

 

軽い荷物を抱え、宇宙港から降りた先で二人は一瞬唖然となった。

 

「変わったなぁ」

 

自分が出て行った時よりも増えた輸送船が増えており、明らかに人の出入りも多い気がする。

自分の親が管理している領地なので当然専用のレーンがあり、そこで兄妹は迎えの車を待ちながらラウンジで休憩をしていた。

 

「荷物は…」

「お兄様がお持ちになる必要はありませんわ」

「あぁ、そう…」

 

マリーダの運ぶ荷物は今回は帰省という事もあって大量にあり、全て運ぶと真面目にトラックを呼ぶほどの量になっていた。

兄としてはそんなに土産を買っていたのかという驚きとそれを持たせないという確固たる意志を感じるマリーダの雰囲気にもやや気圧されていた。

 

「せっかく得られた長期休暇です。迎えが来るまで待ちましょう。お兄様?」

「そうだな…」

 

宇宙港に併設されているこの特別施設はヴェーグマンの関係者のみが使える完全隔離された特別な部屋であり、商人のヴェーグマン家が様々な宙域を巡って集めた嗜好品や最高級の調度品を揃えたラウンジには給仕のアンドロイドが待機していた。

 

「お飲み物はいかがなされますか?」

「レディグレイを」

「畏まりました」

 

アンドロイドは自分が想像する完全に人の見た目をしているわけではなく、一目でアンドロイドと分かるようにロボットのようなプラスチックの質感のカバーで体全体を覆っていた。

これはアンドロイドと人の区別をし易くするための措置であり、俗に言うキンバレー条約と呼ばれるアンドロイドの人権に関する条約にも明記された内容である。

アンドロイドにとっての嗜好品は機械油や電子タバコなどであり、食事は電気である。これは間違えて人が飲む酒類などを提供しないようにするためでもあった。

 

「お待たせいたしました」

 

そしてアンドロイドが淹れた紅茶がカップに注がれ、テオバルトはそれを傾けてゆっくりとした時間を過ごす。

今日は休暇であるので軍服ではなく私服姿で椅子に座っており、迎えの車を待っていた。

 

「しかし、こうも忙しいとあれだな…領地経営の方が気になってしまうな」

「あら、お兄様は仕事熱心ですわね」

 

そして休憩している時も、先ほどの貨物船の量や人の往来を思い返す。

 

「何、実家が儲かることに越したことはないさ」

「お兄様の軍功のおかげですわ」

「マリーダの言っていた事が理解できるよ」

 

普段はあの皇子様に振り回されているので分からなかったが、こうして実家の領地の発展具合を見ると確かに。自分の軍功が帝国貴族の間では良いものとなっているのだろう。

 

「だが連邦制製品が入りづらくなってしまうな…」

「それは致し方ありませんわ」

 

軍功を上げた相手は銀河連邦の準構成国。構成国ではない緩衝宙域に存在する国家にしろ、武勲を上げた場所で亡くなった兵士もいるわけだ。

連邦制製品には帝国製製品にはない優秀な部分もあったが故に、それら機材が入らないのは少々痛いところではあった。

 

「本格的に領地経営に手を回してみたいところではあるのだがな…」

「無理でしょう。帝都からの道を考えれば」

「だよなぁ…」

 

そこで軽くため息を吐く。

帝都よりここまでチューブを使った高速宇宙船で五日、普通の旅客船で一週間。帝国領の辺境も辺境な場所に領地を持っているので移動するだけで大忙しだ。

通信では一瞬なのだが、行って帰ってくるだけで最大二週間かかるこの場所では商品の取引を行うだけでも少々大変なのだ。

 

「まぁまず。お兄様は軍務に注力した方がよろしいかと」

「でも親父にこれ以上負担をかけられるか?」

 

そんなテオバルトの漠然とした不安にマリーダはピシャリと言い放つ。

 

「お父様なら大丈夫ですわ。あの人にはまだまだ現役で働いてもらわないとあっという間にボケてしまいますわ」

「おいおい…」

 

老骨に何で事させるんだと言いたかったが、あの人から仕事を抜くと本当にあっという間にボケてしまいそうなのが恐ろしい。

 

「ひ、否定できない…」

「でしょう?特にあの人は」

 

貴族というよりは商人気質が強い我が父。商人として昔からどこかに出掛けては商品を仕入れてくる、その時の土産で本を買ってもらっていた事はよく覚えている。

 

「親父にはまだまだ現役の方が良さそうだな…」

「えぇ、ですのでお兄様はしばらく軍務に注力してください」

 

マリーダによって生涯現役がほぼ確定した父の事を少しかわいそうに思いながらも、やった方がいいと思う自分がいたので申し訳ないが家業を継ぐのはもう少し先の話になりそうだった。

 

 

 

その後、迎えのリムジンを待って乗り込んだ二人は懐かしの街々を眺めながら実家のある邸宅に向かう。

 

「あぁ、やはり良い景色だ」

「本当ですわね」

 

デリエンベルクに存在している都市は摩天楼の建設を禁じており、長閑な景観が広がるこの惑星にかつて皇子が暮らしていたとは誰が思うだろうか。

これに関しては父も知る事はなく、本当に極秘で隠れるように暮らしていたと言うのが伺える。

 

確かにデリエンベルクはこの景色に惚れ込んだ先代当主がコテージを星の幾つもの地域に建築してそれを貸し出す事で中産階級や小旅行などでこの地を訪れた商人や他の貴族に楽しんでもらいながらついでに下層階級に金を落としてもらう算段であった。

 

「あの頃が懐かしい」

「あら、休暇中に向かわれてはいかがです?」

「…それもそうだな」

 

特に領地経営を手伝っていた少し昔の頃に通っていた食堂はまだあるだろうか。

宇宙港近くで販売されていた蜂蜜入りのパンなんかも食べれたらなどと思っていると、車は見知った門を潜った。

 

中庭を通り、簡易的な石畳のロータリーの前で停車すると従者が扉を開けて先にテオバルトが、そして次に降りるマリーダの手を取ると二人はそのまま家に入った。

 

「お帰りなさい」

「お母様!」

 

そして出迎えたエデリナにマリーダは飛び込むように駆け寄ると、後ろからやや呆れた表情をしながらテオバルトは少し後ろに立って母を見る。

 

「テオも、よく帰ってきてくれたわ」

「…」

 

テオバルトを見ながら母は柔らかく笑みを浮かべると、テオバルトもそんな母に最初に帰ってきて正解だっなと思いながら母に近づいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

雪が降り、心身ともに凍えるほど冷えた大地。

 

場所は中国東北部。

 

かつてその地は満州と呼ばれた地域である。

 

その地をゆっくりと胡麻や米粒が移動していた。

 

大きな米粒を先頭に胡麻が少し散らばって前進している姿は次第にエンジンの音と人の喧騒によって大きく変わっていった。

 

「派遣軍第三師団が到着か…」

「そうですね」

「やっとだな…」

 

そんな景色を時の上官と共に眺める自分。

今回は中国東北部を進軍中の日本軍派遣部隊と合流するためだった。

 

その時偵察部隊に所属していた自分は次々とやってくる派遣軍部隊を眺めていると指揮車が自分たちの目の前に停車し、中からお偉いさんが降りてきて部隊長と何やら情報交換をしていた。

 

朝鮮国境線から進軍する日本軍は快進撃を続けており、あらゆる場所で敵部隊を撃破していた。

日本の参戦より三ヶ月、先行して義勇部隊として派遣されていた自分の部隊から情報既に送ってはいたが改めて確認というのも兼ねてのこの合流であった。

この戦争は既にアメリカ、インド、日本を中心に連合軍によって多方面より進軍が始まり。南ではインド軍の物量作戦により、戦線は北上しつつあった。

きっかけは台湾海峡を横断中であった米太平洋艦隊が中国海軍潜水艦の魚雷攻撃を受けた台湾海峡事件が原因と言われていた。

 

「(暇だな…)」

 

元々退役軍人のステータスを期待して入隊していた自分だが、まさか入隊直後に英語が話せるからという理由で最前線に送られるとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

その後自分の徴兵期間を終え、実家に帰る時。ついでにその師団のいる場所に寄り道する事になった。

その時に知り合いになった奴もいたその師団に訪れた時、そこで自分は目を疑った。

 

「なんだ、あれは…」

 

なぜなら、その師団の歩兵戦闘車に括り付けられている追加装甲の正体は…

 

「死体…」

 

雪が薄く降り積もり、車体の側面や前面にずらりと吊り下がった死体の数々、着ている服は中国軍の軍服。

そう、この極寒の地を行く師団は死んだ人間を吊るして進軍していたのだ。

 

「どう言う事だ…?」

 

その事実に自分は震えていた。

曲がりなりにも軍人として働くために戦時条約を学んでいた身として、一通り考えた時にすぐさま三四条が脳裏に浮かんだ。

 

「おい、」

 

思わず自分は近くにいた兵士に話しかけた。

その時自分は内地帰りの途中だったので、話しかけた兵士はそんな自分の事情を知って羨望しながらも連合軍の装甲車の外に括り付けられた中国兵の死体を見ながら答えた。

 

「いいだろう?ありゃいい宣伝なのさ」

「しかしあれは…戦時条約違反じゃないのか?」

 

しかしその兵士は煙草を片手に得意げに言った。

 

「馬鹿だなぁ、ありゃ霊柩車だよ」

「霊柩車だと?」

「そうさ、あれで中国人の遺体を運んでいる。他の国の連中もやっている事さ」

「…」

 

その兵士曰く、各地で大量に戦死した中国兵の遺体を装甲車の外側に懸架して巨大なスピーカーと共に全身していると言う。

 

「お陰で俺たちが戦う前に降参してくれる」

「…」

 

それを聞き、途端に自分は吐き気がした。確かに敵は憎い、今までだって捕虜の中国兵にリンチをしている米兵や日本兵をこれでもかと見ていた。

 

しかしこの状況はそれ以上だった。平気で中国兵の死体を装甲車に括り付け、冬の寒さで凍結した中国兵の遺体を使って敵の戦意を削ぐ。

効果は絶大だろうが、同時に怨嗟も増大するだろう。死ねばあんな風に肉壁に吊るされ、そんな吊し上げをしている連合軍に屈するなどあり得ないと。

 

自分はそろそろ内地に向かう。

久しぶりの帰国である。

 

自分は逃げるように戦場を後にしていた。戦局は我が方の圧倒的優勢に有り。

 

 

 

 

 

その後、泥沼の戦争となった後に第三次世界大戦と呼ばれたそれは八年の歳月を要し。過去最大の戦死者を出して集結することとなった。




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