銀河転生記   作:Aa_おにぎり

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#3-2

イブラハム辺境伯。

帝国宙域のある地方の管理を行う伯爵家である。まあ前世風に言うなら県知事に相当する人物である。

 

前世においては、地方政治がほぼ県知事の独裁政権と化して腐敗し切っていた頃と違い、このイブラハム辺境伯は真面目で高潔な人物であると、周囲からの評価が高かった。

 

「ふう…」

 

着慣れない夜会服。その胸には多種多様な勲章が付けられ、さらには二つの国の星章まで下げられていた。

 

「ふふふっ、ご立派ですわよお兄様?」

「お気遣いどうもマリーダ」

 

そう言い傍で腕をしっかりと回して握るマリーダはこれでもかと良き笑みを見せ、そこにそこはかとなく伝わってくる圧を感じ取る。逃げたら多分、尻をどつき回される未来がミエルミエル。

 

「塩かけられたナメクジになりそう」

「大丈夫ですよ。お兄様は歩くだけで噂されるほどの良株ですのよ?それに元々、精神面はしなしなに萎れているじゃありませんか」

「やめてくれ…今急速に胃潰瘍になった気がする…!!」

 

一瞬で激しくなった胃痛にキリキリと耐えると、そこでマリーダは口元に胃薬を飲ませた。優しいのか雑なのかはっきりしてくれ。

 

「大体、帝国軍人がそんな弱腰でどうするんですか?!」

「世の中ね、餅は餅屋っていう言葉があるのよ?本来自分は領地に引きこもってひっそりと生きていたいの」

 

イブラハム辺境伯に向かう宇宙船の中、テオバルトはこれから向かう晩餐会にひたすらに面倒だと思っていると、マリーダはジト目で聞いた。

 

「…お兄様。そもそも帝国貴族にとって必要不可欠なことは?」

「経営管理と資産を増やすこと」

 

直後、彼のデコに衝撃が走る。マリーダが持っていた扇子を投げ飛ばしたのだ。まあなんてお行儀の悪い子ですこと。

 

「痛い…」

「はぁぁぁあ〜、アホですか?」

 

ぶつけられて赤くなったデコをさするテオバルトに、心底呆れたため息をついてマリーダが言う。

 

「ヴェーグマン家はこの度陞爵をして子爵となったのです。金で買える準男爵や騎士とも違うのですよ?」

「でも元小市民には、この空間はきついっす!!」

「ご安心ください!お兄様に代わって私が対応をいたしますわ」

 

実に頼もしいお言葉をいただき、テオバルトは感謝感謝していた。

ほんと、自分より貴族してて偉いよマリーダ。

 

「大体、お兄様は生まれながら子爵ご子息のはずですわ?どうして私の方が貴族らしいの言われるのですか…!?」

「君の方が女帝っぽいからじゃないのか?ってか、今減ったよ!ゴリゴリと精神耐久力が…」

「それ今までのお兄様の振る舞いによる自爆です。その自覚があるなら、もう少し子爵の子らしくなさったらいかがですか!!」

 

死ぬほど夜会やらパーティーやらから逃げまくっていたツケだと言われてしまった。言葉のパンチが痛いナリ…。

 

「さあ、もう直ぐ辺境伯領都星ですわ。降りる準備をいたしますわよ」

「か、帰りたい…今直ぐにでも進路を反転一八〇したい…」

 

テオバルトの発言にマリーダは『まだほざくかこのダメ兄貴』とジト目を向けると、彼の頭を叩いた後に首根っこ掴んで大気圏内を降下中の船から下船準備をさせた。

 

 

 

イブラハム辺境伯は自分を帝都の士官学校に入学させてくれた、所謂ご恩のあるお方である。

まあ当時は、レオンナード殿下とは知らずに帝都に行きたいと言う憧れと共に旅立った訳だが、何というか…なぜヴェーグマンの当主が帝都にそれほど行かないのか分かった気がした。

 

まだ軍人だから良いものの、これが政治家とか伴ってくると激しい腹の探り合いやら暗躍やらで地獄の様な泥沼とかした見えない戦場にも片足を突っ込むこととなるのだ。

 

少なくとも、イブラハム辺境伯には士官学校推薦の御礼を済ませたらさっさと帰ろうと考えていた。

 

「ようそこお越しくださった。ヴェーグマンご子息」

「これはこれは、イブラハム辺境伯自らのお出迎えとは」

 

宇宙港に到着した後、タラップを伝っておりて来たヴェーグマン兄妹を出迎えたのは現イブラハム辺境伯当主、メイノール・フォン・イブラハムだった。

初老の健康的な偉丈夫の体付きは常に現場を見て回る事の好きな辺境伯らしさを表していた。

 

「いえいえ、カフスの英雄と讃えられたヴェーグマンご子息とお会いできて光栄ですとも」

 

軍人として名を馳せた名将という立ち位置にテオバルトは笑顔を作っている内心、『どうしてこうなった…』と途方に暮れていた。

 

「しかし珍しいこともあったものです。ご子息がお越しになられるとは」

「いやはや、お恥ずかしながら辺境伯に士官学校への推薦の御礼をと思いまして」

「ほぉ、あれの事ですか。やぁ、私としても貴方のような素晴らしい軍人を推薦できたことは光栄でしたとも」

 

仰々しく語る辺境伯。また普通思わないわ。まさか商人上がりの田舎男爵の一人息子が、帝都に出てこんな勲章と陞爵を引っ提げて帰ってくるなんて。

 

「是非、私の息子達にもヴェーグマンご子息の垢を煎じて飲ませてやりたいほど優秀ですよ」

「そんなそんな、私は帝国軍人の様に頑丈な体ではありませんので」

 

宇宙船から降りた段階でつきぬ話題に花を咲かせ、その横で付き添い兼監視のマリーダは、同じく出迎えに来たイブラハム辺境伯夫人と話していた。

 

「この度は息子様のご成婚、誠におめでとうございます」

「ありがとうヴェーグマンご令嬢。態々駆けつけてくれて感謝するわ」

 

夫人は柔らかな笑みを浮かべ、マリーダに会釈を済ませる。

子爵に陞爵をした際は、祝いの使いを出したりとこの宙域の領土の貴族の取りまとめを行っている辺境伯は、伯爵ではあったが、その領土と仕事量から一般の侯爵よりも立場が上となる場合もあった。

 

「ヴェーグマンご子息もお連れになられて、今日は兄妹で参加を?」

「はい、いつも兄上はお仕事でお忙しいのですが、最近ようやく帰って来れることとなりましたので」

「まあ、それは良いことだわ」

 

テオバルトの武勲はこの田舎でも良く知られており、故に田舎出身の天才軍人として彼は有名人だった。

 

「さあさあ、皆で私の家に来なさい。今日は息子の成婚パーティーだ!」

 

イブラハム辺境伯は丁重にもてなすと、二人を迎えの車に案内した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

彼の姿を初めて見たのは、確か彼が十歳かそこらの頃だった。

雪の様な白髪に碧色の瞳、あの白い髪は宇宙に出た人間が罹る特殊な病に侵されたことのある証だった。

当時はヴェーグマン男爵の一人息子として、他の領地の子供達と交流する機会があったのだが、病に侵されたヴェーグマンの子息はその白髪を歳上の、私の息子に言われたのだ。

常に誠実で、高潔で、他人を見下すなと教育をしていた息子に軽く注意をしようとしたのだが、

 

『ご指摘感謝します。イブラハム辺境伯御子息様』

 

何ということか、ヴェーグマン子息は全くその事に狼狽えることもなく平然としており、むしろ堂々としていた。

 

『ですがこの髪色は、私が生きているという証でもあります。私はこの雪の様な髪色は美しいと思っており、私の誇りでもあります』

 

本当に一〇代になったばかりの子供なのか?と思いたくなる様な堂々とした発言だった。今でもそのことはよく覚えている。そのあまりにも堂々とした態度に、逆に息子の方が目を白黒させて狼狽えており、息子の無鉄砲さにも少々呆れていた。

 

優秀な子かと思ってヴェーグマン男爵に聞いてみると、彼はその言葉遣いに恥じぬ優秀な子のようだった。何とあの歳で実父の仕事の手伝いをしているというではないか!おまけに、領地の内外に住まう人間を実力で見ており、階級を無視した人材雇用をしていると言った。

 

何とも逞しい子だと、現場主義であったイブラハムは関心した。それと同時に、その徹底した実利主義思想に、才能が惜しいとも思っていた。

ああ言う現場で輝ける上に立って、尚且つ人を見る目がある人間というのはとてつも無く貴重であるからだ。

 

羨ましい。是非養子として迎え入れ、教育を施したいと思うほどだったが、生憎とヴェーグマン家は彼一人しか息子が居なかった。だから諦めるしかなかった。

 

だからこそ、帝都で腕を磨かせる目的で、彼を帝都の士官学校へ推薦したのだった。

またヴェーグマン家に養子として入った彼の妹もまた、貴族らしい女性として他の女性からのウケがよかった。とても良い印象を持ち、誰もが彼女のことを悪く言う事はなかった。

 

「羨ましいな…」

「ええ、全くですわ」

 

宇宙港からの移動途中、イブラハムは妻と後ろの車に乗る兄妹の事で話す。

 

「是非とも、息子の部下に加えてやりたかったのだが…」

「皇子殿下にも気に入られるとは、思いもよりませんでしたわね」

「ああ、お陰で私の計画もご破産だ」

 

カフス星域をめぐる戦いで武勲を重ね、その際に第二皇子に才能を見染められた彼は、今や総監府副総監兼第二皇子の右腕である。

 

「流石はレオンナード殿下だ。人を見る目をよく分かってらっしゃる」

「あら、貴方は第二皇子を推されるのですか?」

 

夫人が聞くと、イブラハムはその内心をうまく隠す口調で妻に答える。

 

「いや?私は誰が皇帝となろうと、主人と決め方に沿って帝国を繁栄させるのみだ」

「…なるほど」

「まだまだ帝国は発展途上の身だ。内需を拡大させ、国内産業を発展させる事が優先すべき事案ではないだろうか?」

 

イブラハムはそこで両手を軽く広げて話す。

宇宙に進出した事で急激な拡大を行い、未だテラフォーミングが行われている星系も存在する今の時代、彼は今の政府の方針である『外需拡大』の方針には反対寄りの意見であった。

だからこそ、対立する銀河連邦との融和を図り、帝国の内需拡大をしようと試みているレオンナードの考えには賛同していた。

 

「幸いにも、ヴェーグマンの子息は総監府の副総監だ。軍人としての道を歩んだのなら、彼を最初に見出した我々はスポンサーとでもなろうではないか」

「…あくまでもテオバルト・フォン・ヴェーグマンの後ろ盾という事ですか?」

「そう言う事だな」

 

ついでに第二皇子の内心も知りたいであろう友人達のためにも、彼には覗き穴を作ってもらう必要があった。

 

「ああ、可哀想に。まだ二〇になったばかりなのに」

「彼は立派な大人だ。かく言う私も二〇の頃には仕事を初めていたぞ?」

 

イブラハムはそう言い笑みを浮かべた。

なお、本人がこの話を聞いていたのなら『是非雇ってください!お願いしますから!!』と頼み込んでいた可能性が高かったかもしれない。




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