今回新たに編成された第53機動艦隊、その旗艦に備えられたのは新型巡洋戦艦クラウゼヴィッツ。
この艦隊は、総監府に配属される艦隊では最後の艦隊だ。すでに総監府に招集を受けた他の将校等はファルケンハイン級戦艦を受領の後に艦隊訓練を行ない、一部は訓練を終了して任務についていた。
「艦隊を編成後、艦隊運動を兼ねワープ可能ポイントまで航行する」
「了解しました」
副艦長のヴィッケル・シュナイダー大佐は敬礼をすると、そこで邂逅ポイントで集結した艦隊を見る。
「ほう、全部新艦艇ばかりではないか」
そこでその壮観な眺めを前に思わずそんな感想を呟く。するとヴィッケルは答える。
「しかし編成された艦艇はいずれも最新鋭ではありますが、数が足りておりません」
彼はそう話しながらタブレットを渡してくる。
「ふむ…Z500級駆逐艦が十八隻、ヴィクトリア級巡洋艦六隻…フューリアス級航宙母艦二隻…か」
「戦艦は我がクラウゼヴィッツのみです」
「…なるほど」
最新鋭の艦艇を備えた編成ではあるが、以前の『第三八次遠征派遣艦隊』の時と比べれば笑ってしまいそうなほどに数は少なかった。
しかし彼にとってみればこれくらい小規模な艦隊の方がやりやすいと思っていた。
「これでも殿下に骨を折ってもらった結果だ。無い袖触れないと言うのは昔から言われてきたことだしな」
そこで艦隊編成を確認した彼は、被っていた制帽を被り直してから指令を出す。
「ではこれより艦隊編成を第三警戒航行序列に遷移し、ワープポイントまで移動せよ」
「了解。第三警戒航行序列へ遷移せよ!各艦に通達!」
そこで順次命令を発令していく。外装ユニットによる兵装選択を可能にした本艦は、帝国宇宙軍では必須装備とも言えた反重力装置を外装パーツにしてしまっていた。他のファルケンハイン級では実証されなかったことに苦笑しながら仕様書を見ていた。
「まだ単艦でワープができるだけマシか…」
「いえ、そもそも機動性向上のために反重力装備を外装式にするのはいかがなものかと…」
流石にこの仕様には元々憲兵であったヴィッケルも表情を些か引き攣らせ、今し方のマスドライバーによる打ち上げを経験した乗組員達も同じことを思っていた。それは無論、テオバルトも同じことを思っていた。
「まあ、皇帝陛下より下賜された新しい艦艇だ。うまく使いこなせれば化けるぞ?」
「…元々実験艦であることをどうかお忘れなく」
「ああ」
ヴィッケルの忠告に彼は頷くと、航行中に艦隊運動を行う隷下の艦艇を見た。
その頃、新型のヴィクトリア級巡洋艦の『ブラック・プリンス』のCICで一人の乗組員が話す。
「しかし出世したな。去年は航海長だっただろうに」
「ああ、全くだ」
そこでこれら新艦艇群特有の全天モニターを備えたCICで、習熟訓練を終えたばかりの砲術長が苦笑すると、艦長のヒュルトナー・ハイルヴィヒは大いに頷いた。
「俺なんて少し前まで駆逐艦の艦長だけだったってのによ」
「俺たちも出世したもんだぜ」
「テオバルト様に感謝だぜ」
巡洋艦のCIC要員にまで出世した彼らは、かつて共にコーヒーを飲みあった仲であるこの艦艇の航海長にして、今の艦隊司令官の顔を思い浮かべる。
「そ、そんな気さくなお方なのですか?」
そんな古参兵達に驚いた様子の新しい航海長。そんな彼の反応に彼を知っている乗組員達は大いに頷く。
「ああ、元々テオ…おっと、艦隊司令官はああ言う役職を一番嫌う人間なんだ」
「彼の操艦は気が狂ってると思わせてくれるぜ?」
そう話すと、彼らはその隷下に巡洋艦一隻と駆逐艦を六隻従えて一つの機動戦隊を編成してからクラウゼヴィッツの直掩部隊として輪陣形を組んで宙域を航行する。
「各艦、所定位置に編成完了しました」
「了解。旗艦に打電せよ」
そこで航海長は事前の指示通りに巡洋艦を所定位置に滑り込ませて他艦艇も同様に艦隊運動を行なっていく。
「何とも独特な艦隊編成だ…」
「綺麗に分散しています。警備艦隊としては十分な編成ですよ」
ヒュルトナーはそこで陣形を見てそんな感想を漏らした。
三つの似たような編成の艦隊は、上からみればベン図のように航行し、前方から見れば巡洋戦艦と航宙母艦を中心に三つの円が見えるように編成されていた。
「しっかし目立つ白だ」
「綺麗なもんだぜ、全く」
小規模の複合編成を組んだ艦隊で、クラウゼヴィッツの左舷側を航行していた『ブラック・プリンス』で彼らは口々にやっぱりこのくらい宇宙という環境においてよく目立つような純白の巡洋戦艦を見た。
『これより訓練指定宙域へワープを行う。各艦、安全距離を保った後にワープを開始せよ』
その時、艦隊全体にレオバルトの無線の指示が送られると、彼らはワープを行う準備を始める。警報が鳴り、全員が宇宙服を着用していく。
「さて、出世した同僚に期待するかね」
ヘルメットを被りながらヒュルトナーは、ここまで自分達を持ち上げれくれた艦隊司令官に答えられるように研鑽を心に決めながらワープを開始していった。
そして彼の指揮する艦隊が出航した頃、首都星でマリーダは直筆の手紙を受け取っていた。
『親愛なる我が妹、マリーダへ』
この手紙の送り主は、毎度自分が船に乗り旅に直筆で手紙を書いて送る。
これは彼なりの遺書でもある。彼は軍人としていつどんな理由で死んでもおかしく無いと言う理由で彼は出港をするたびに手紙を家族全員に書いていたのだ。
「ふぅ…兄様もマメですこと」
「何々、お兄さんから?」
そんな彼女の呟きにハルコが反応して聞いてきた。
「ええ、お兄様は今回から艦隊の司令官を拝命したの」
「へえ、凄い…」
マリーダにハルコはその出世スピードに驚きながら以前に出会ったテオバルトの顔を思い出す。
「優しいお兄さんだね」
「ええ、自慢のお兄様ですもの」
そこで初めに感じた妹を愛している雰囲気を思い出す。彼は物静かな雰囲気がありつつも、家族をとても愛しているという雰囲気があった。
マリーダもそんなハルコのテオバルトに対する好印象に誇りを持って頷く。
彼女達は帝立女子院の女子寮で今日も勉学の励む傍らで貴族としての教育を施されていた。
「さて、今日は一体どんなお方がお待ちしているのやら」
「最近は大変だもんね。マリーダ」
「当然!兄様がご活躍されているおかげですわ」
素晴らしい軍功を上げたと持て囃されているテオバルト・フォン・ヴェーグマン。齢二〇にして宇宙軍准将に任ぜられた彼は、新しく創設された国内の警備艦隊を管轄する総監府に所属する艦隊を率いていた。
レオンナードが直々に総監を務めるその部署は全ての国内外を警戒航行する警備艦隊を一括して指揮する部隊として編成が行われていた。
「まあ代わりに兄様は指揮以外は丸でダメなんだけれどね」
「え、そうなの?」
そんなマリーダの言葉にハルコは驚いた様子で聞いた。少なくとも上部で健康そうな雰囲気があるのになあと思っていた。
「ええ、射撃は自前で購入した大型レーザー拳銃でも当たる確率の方が低いですし、決闘に関しては負けたことしかないですもの」
「…逆にどうしてそれで士官学校を卒業できたの?」
「代わりに戦術が上手かったからよ。抜群にね」
彼女はそう話し、寮を出て二人で校内を歩く。
「少なくとも、兄様は学内のシミュレーションで一度も負けたことがなかったわ」
「へえ、そうなんだ」
そこで貴族ではないことや、長い付き合いからハルコと気軽にそんな話をするマリーダ。
「まあどんな相手でもボコボコにしてたから、結構いろんな貴族に泥を塗りたくったことで結構恨まれてるらしいんだけどね」
「へ、へぇ…」
そこでやや引き気味にハルコは『あの優しそうなテオバルトが?』と首を傾げていた。
「結構兄様は誰であっても容赦ないよ?元々自分には人一倍厳しい人だし」
「そうなんだ…」
マリーダの話を聞いて、でもイメージ通りかもしれないとハルコは思っていた。何度かこの学校に訪れていたテオバルトと話したこともある彼女は、彼の纏っている武人としての覚悟を思い出す。
「まあ恋愛もそんな感じで、五本目が全然元気にならないんだけどね」
「…それはそれで貴族として大問題なのでは?」
「だから困り果てて、この前イブラハム辺境伯にお見合いをお願いしたのよ」
「そ、そうなんだ…」
少し意外な様子でハルコはテオバルトの婚約話を思い出す。確かに学内にいても彼の武勲はかなり話題になっており、やや脚色された噂なども彼女は聞いていた。彼は文武両道な完璧な人間というイメージがあるが、実際は全然そうではないというのを知っているために、その乖離が面白おかしくもあった。
「お見合いかあ…」
「この学校はお見合いの場もであるからね。ハルコもいいお相手を探すのよ?」
「え〜、私に見つかるかなあ…」
そこでやや苦笑気味に彼女は答えると、マリーダはため息をもたす。
「はぁ〜、お父様も新しく与えられた領地で大忙しだし、暫くは落ち着かない日々が続きそうなのよね…」
「あ〜、そうなんだ」
この前にテオバルトの功績で陞爵をしたヴェーグマン家。その陞爵により、帝室より新たな領地が与えられたのだ。この新しい領地の大きさが大きさだけにエルンストや、デリエンベルクに住まう住人達はその対応に追われていたのだ。
「新しい領地は実質的に飛地のような形になってしまって…」
「うわぁ、そりゃあ大変だね」
そこでマリーダの苦労にハルコはその忙しさが伝わって思わず首肯してしまう。
「マリーダさん、放課後の十六時に一緒にお茶会でもどうかしら?」
すると彼女はそこで学舎の廊下で同じ制服を纏っていた貴族出身の生徒から話しかけられると、マリーダはお得意の貴族スマイルを見せて口調も他所行きの口調に瞬時に変わって和かに答える。
「ありがとうございます。ご相伴に預からせてもらいますわ」
「ええ、今日はとびきりの品を用意させてもらいましたの」
「あら、楽しみにしておりますわ」
マリーダは嬉しげに頷くと、誘った伯爵家の御令嬢も笑みを見せて去っていった。
基本的にマリーダは誘われた茶会はダブルブッキングしない限りは行くので、他の生徒達からも好印象で見られていた。
「(さ、流石だ…)」
ハルコはそんな対応を淡々とこなす親友に感嘆してみていた。
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