クラウゼヴィッツを与えられ、新しい機動艦隊まで与えられたテオバルトはワープ航行を終わらせると目の前に青い惑星が一望できた。
「おお…」
全天モニターが備え付けられたCICで艦長席に座っていたテオバルトは、目の前の惑星を見て思わず漏らしてしまった。
それは他の乗組員達も同様で、逆にテオバルトが言ってくれた事で彼らは自分たちと同じことを感じた彼に親近感を覚えた。
「訓練指定宙域に到着。先行していた補給部隊より通信が入っています」
「了解した」
そこで彼らは他にもワープを完了させた艦隊を見て行く。
「ちゃんとついて来ているか?」
「はい。全艦艇のワープアウトを確認しました」
レーダーで周辺のIFFを確認したレーダー員が答えると、予定宙域に次々と到着する艦隊を見る。
「やれやれ、通常の宇宙軍の艦隊とは思えないほど小規模な編成ですな」
そこで訓練宙域に到着した僚艦を前にヴィッケルは溢すと、テオバルトは笑った。
「ふはは、まあ総監府は警備艦隊を刷新する目的で作ったんだ。むしろ俺としちゃあ、満額回答だと思っているよ」
憲兵の頃に酒を飲み交わした仲である副艦長にそう答えると、彼はそこで他に艦隊陣形を組んで到着した僚艦を確認する。その時、既に彼の口調は砕けていた。
「宜しい。これより本艦隊は補給の後に訓練を開始する」
テオバルトはそう宣言すると、乗組員達の背筋が自然と伸びる。
「今回の訓練の最後には姉さん方と模擬演習だ。それまでに我々は醜態を晒さないように研鑽していこう」
彼はそう宣言すると、次に全艦艇に向かって通達を行う。
「これより細かい訓練内容を共有する。艦隊所属の全艦長はクラウゼヴィッツに集合せよ」
そう話しで通信を切ると、ヴィッケルはやや驚いた様子を見せた。
「全艦ですか?」
「ああ、全員と顔合わせをしておきたい」
本格的な訓練を行う前に盤石な体制を組みたい。そんなテオバルトの考えにヴィッケルは承知をすると、内火艇を用いて宙域に先行して到着していたメアー・カム級からの補給を受けながら艦隊の全艦艇の艦長をクラウゼヴィッツに召集していた。
「まさか全艦の艦長をお呼びになられるとは…」
「会議室にはまだ余裕があるのか」
「旗艦として十分すぎるな…」
そこで処女航海の最中でもあったクラウゼヴィッツの艦内で艦長達は乗組員に誘導されて一つの会議室に入る。
その中で彼らはそんな話をしていると、会議室の中にテオバルトが副艦長を連れて入ってきた。そこで艦長達はこの若い艦隊司令官を前に背筋を伸ばした。彼が部屋に入った瞬間、彼のその年不相応な落ち着いた雰囲気に全員が『軍功を上げた若造』という印象が払拭された。
「諸君、まずは初めましてと言わせてくれ」
そして会議室の上座でゆっくりと彼は口を開くと、艦長達はレオンナードが手駒に置きたがる理由をよく理解する。
「私はこの第53機動艦隊の艦隊司令官を担うテオバルト・フォン・ヴェーグマンだ。これからはよろしく頼む」
全艦二七隻で構成された艦隊は警備艦隊規模の編成でしかないが、全艦が建造を終えたばかりの最新鋭の艦艇で取り揃えられていた。
他の艦隊の状況も追って知っている話しであるが、どうやら全ての艦艇で新型が取り揃えられ、尚且つ最も数が少ないのがウチの艦隊らしい。
「差し当たって、これより諸君等にはこの宙域にて訓練を行う。ヴィッケル大佐」
「はっ!ここからは私が訓練内容の説明をさせていただきます」
そこで一歩前に出てヴィッケルは艦長達にデータを配布しながら今回の艦隊の訓練内容を伝える。
主な訓練には射撃訓練、回避行動訓練、防空射撃訓練、ダメージコントロール訓練などが盛り込まれていた。
「以上の訓練を三ヶ月間行い、宙母部隊は艦載機発着艦訓練を行います」
細かな訓練内容を確認した各艦長たちは同様のものが既に自艦にも送られていたことを確認すると、頷いて了承していた。
「以上で訓練内容の説明を終えます。何かご質問はございますか?」
そこでヴィッケルが艦長たちに問いかけると、艦長たちは異論も無かったので艦隊の訓練を初めて行くこととなる。
「では明朝〇九〇〇より訓練を開始する。それまでに補給と点検は完了せよ」
「「「「はっ!」」」」
そこで航行中に共通の時間として設定された時刻を伝えると、各艦長たちは敬礼をして答えて解散となった。
「アレが噂のカフスの英雄か…」
「あの年齢でアレほど落ち着いているとは」
「通りで殿下が手放そうとしないわけだ」
そして自分達の内火艇に戻る中、廊下で彼らはテオバルトの評価を下していた。概ね好印象な様子にテオバルトも安心していた。
「随分と大きく出世しましたな」
そこで嘗ての上官であったヒュルトナーに話しかけられると、テオバルトは頷きながら笑って聞いた。
「ええ、どうですか?司令官の椅子の座り心地は」
「ははは、緊張で腰が抜けちまいそうです」
少し苦笑気味に彼は言うと、それが紛れもない本音である事をテオバルトは分かっていた。
戦隊旗艦には元々Z230の乗組員であった面々を多く登用しており、ヒュルトナーは前任の駆逐戦隊司令官から巡洋戦隊司令官に昇格していた。同時に階級も上がり、この抜擢にすっかり萎縮した様子であった。
「約束は果たしました。今日からよろしく頼みますね」
「はっ!全力でお応えさせていただきます」
ヒュルトナーはそう言うと、若き艦隊司令官を前に敬礼をして答えた。
そして艦長達による会議が行われている最中、船外では補給艦から受け取った装備品を前に整備兵達は文句を垂れていた。
『ったく、技術廠の連中も変なこと考えやがって…』
彼らはそう言いながら補給艦のクレーンを用いながらクラウゼヴィッツに装着される装備品を見ていた。
『反重力装置を外装パーツだ?馬鹿かよ』
『我慢しろ。元々こいつは実験艦なんだぜ?』
そこで装備される大口径の連装式電磁加速砲を備えた外装ユニットを見つめる。
『状況に合わせて複数のユニットが準備されているんだ。反重力装置が外付けなのは船体の加速重視らしい』
『そもそも実験艦が艦隊旗艦をいきなり務めるなよ…』
宇宙服を着ながら作業に当たっている整備兵達は、そこでクラウゼヴィッツ最大の特徴である換装可能な武装ユニットを見つめた。
その武装ユニットは他にも強固なシールド展開装置や加速用核ロケットなども用意されており、各戦場に合わせて現場で着脱可能なように設定されていた。
『今回の訓練はクラウゼヴィッツの性能試験もやるんだろう?』
『ああ、じゃなかったら処女航海しながらこんな場所に来ねえよ』
そう言い、整備兵達は装着を終えた外装ユニットを見つめる。
『装着完了した』
『了解。上に報告だけしておけよ』
そこで宇宙服を纏った彼等は仕事を完了させると、次に艦隊が訓練を行う日まで彼等は束の間の休憩をしていた。
そして翌日から艦隊は修練の為の艦隊訓練を開始する。
「砲撃用意!」
「砲撃用〜意!!」
テオバルトが訓練宙域の小惑星帯で射撃目標を捉えると、モルトケと同型の主砲が旋回をして照準を合わせる。
「砲戦用意良し!」
砲術長や砲術員は測距儀を用いて照準を合わせると、テオバルトは指示する。
「撃ち方始め!」
「撃ちぃ方始め!」
そこで戦艦や巡洋艦、駆逐艦による砲撃を始める。光線が宇宙空間を駆け抜けると、小惑星帯に命中して爆発を起こした。
「全艦最大戦速!」
「最大戦速、宜候〜!!」
艦隊の防宙陣形を編成すると加速による敵弾回避運動や之字航行による回避行動。
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘用〜意!対空火器、発射始め!」
艦隊防空のためのミサイル発射訓練など、必要な訓練は着々と消化して行く。
『全機発艦!全機発艦せよ!』
そこで警報が鳴り、ワープ直後に格納庫から航宙機が発艦して行く。
「ワープ直後に鬼か!!…ウプッ!!?」
警報を聞きながら砲術員は叫ぶと、直後に船酔いで顔色を忽ち悪くしてしまう。一部では吐いてしまう兵士もいた。
「正気かよあの司令官!!」
「う、うげぇ…」
艦内の食堂では全員がグッタリとした様子で倒れていた。
「あの人、俺たちを殺す気じゃあないだろうか…」
「やめろ…俺達は…」
そして何よりも彼等を恐れさせたのは…。
『総員起こーし!』
真夜中、夜間当直以外の面々が休息ポッドで休眠をとっている最中に叩き起こされることである。いつ発令されるか分からず、これは遅刻すると誰であろうと上官から鉄拳制裁が飛んでくるので、全員が戦々恐々となっていた。
「畜生〜!!」
叩き起こされたパイロット達は悲鳴を上げながら格納庫に収容されていた航宙機に飛び乗ってスクランブルである。
『総航宙機発動〜!総航宙機発動〜!』
そこでエンジンに点火し、エアブロックが閉鎖されて艦載機は発艦して行く。
『カタパルト接続!』
『艦載機各種点検良し』
『艦載機発艦せよ!発艦始め!』
宙母からカタパルトに接続された航宙機が次々と発艦を始めると、その様子をテオバルトは真っ先に艦橋に上がってその様を眺めていた。
「艦長。各員、配置に着きました」
「…」
そこでヴィッケルから連絡を受けると、腕時計を確認してテオバルトは軽く頷いた。
「良かろう」
無茶無謀のような訓練内容に乗組員達はテオバルトの厳しさに『自分達を痛ぶるのが好きなのか?』と訝しんで見ていたが、彼は訓練がうまくいくと褒めてビールを奢り、彼が真っ先に艦橋に立って言うので誰も文句が言えず、いつしか艦隊内で『鬼』や『人殺し』とあだ名で呼ばれつつあった。
「これなら模擬演習でも十分な能力を引き出せるはずだ」
彼は満足げに頷くと、見ていた乗組員達は内心で心底安堵していた。
「「(良かった、これで殴られずに済む)」」
憲兵隊出身であるからなのかは定かではなかったが、テオバルトは引き抜きで選ぶほどの仲であるはずのヴィッケルや艦隊参謀にすら遅刻した場合は鉄拳が飛んでいたので、その容赦の無さに全員がドン引きしていた。
「これにて訓練を終了する」
彼はそう宣言すると、乗組員達はこの訓練期間に多数行われた抜き打ち訓練で鍛え上げられた誼で強い結束力を生むようになった。
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