銀河転生記   作:Aa_おにぎり

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Ⅲ章
#36


総監府は今まで帝国軍参謀本部の隷下にあった国境警備や航路警戒を行う警備艦隊を丸々委託した組織であると定義された。

帝国の領宙を警護するために編成された帝国軍の組織だが、本来であればその警備(パトロール)艦隊といえば、一線級から払い下げられた旧式艦が割り当てられるのが普通だ。

 

だが総監府は違う。

 

国内の治安維持向上を目的に全ての警備艦隊を手中に収め、今まで二線級の装備品ばかりを与えられ、時には貴族が名誉のために艦隊司令官などに割り当てられていたその艦隊は、レオンナードが国内の治安維持向上と、彼の根本的思想である『内需拡大』を内外に知らしめるための組織として抜根的改革を推し進めた。

 

第二皇子レオンナードを長に据え、副総監にテオバルトを収めたその組織は、各線域に点在していた多数の有能な将校を引き抜き、昇進させ、艦艇と艦隊を与えていた。

元よりその朗らかな性格や若く聡明な頭脳より、帝国臣民より人気のあった皇子だ。彼の内需拡大の方針は長年の銀河連邦との冷戦状態に疲弊しつつあった地方貴族や下級貴族にとっても『期待を寄せたい』と思わせる逸材であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、とある宙域に艦隊は派遣された。

 

「ワープ終了」

 

ワープ航行を終了させ、船体に分散配置式で反重力装置を装備したユニットを装着したクラウゼヴィッツ率いる第53機動艦隊は、その宙域に集結した他艦艇を見ていた。

最初に紫とクリーム色で塗装された艦艇が到着すると、その後ろを白銀色の船体を有した艦隊が到着していた。

 

「見ろよ。長女(ファルケンハイン)末女(クラウゼヴィッツ)を引き連れてきたぜ」

 

そんな様子を見て呟くのは鮮やかなマルーン色に塗装された『アドミラル・トウゴウ』に乗艦していたディートリヒ・オーレリアン・アルトー准将である。

総監府に所属した艦隊は艦隊編成が決まった時点で艦隊番号が与えられ、それ故に最も就役の遅くなったクラウゼヴィッツが四番目に編成が決定された艦隊という少し歪な状況が出来上がっていた。

 

そしてファルケンハインとクラウゼヴィッツを見て他の平民出身が多く編成された艦隊の乗組員達は大笑いしていた。

 

『仕方あるまい。元々両艦隊は演習中に呼び出されたんだぞ?』

 

そこで通信越しで話しかけてくるのは姉妹艦『アドミラル・ネルソン』に乗艦しているジョヴァンニ・メッツェーナ准将。艦艇塗装色はガーター・ブルー。

 

「なんだ、集まったのはこれだけか?」

「いえ、もう少しで…」

 

ディートリヒの怪訝な様子に副艦長が答えると、その直後に視界にワープアウトしてきた艦隊を見た。

 

「艦隊総員、到着しました」

「ふん、これで全部か」

 

そこで到着したすべての機動艦隊を確認し、次にディートリヒは目の前の惑星を見つめた。

 

「ったく、新しい領主様を前に錯乱しやがって…」

 

目の前の惑星は太陽の灯りが消え去っているが、一部で明るい光景が見えた。そして同時に細く煙が上がっているのさえ見えた。

 

「ブランデン公爵が亡命した時は大騒ぎでしたからね」

「全くだ。旧弊の阿呆は先祖代々の土地すらこの有様らしい」

 

彼らはそう言い、民衆による暴動が発生した<惑星ブランデンベルク>を見つめていた。名前の通り、この惑星はかつてブランデン公爵の納めていた領地の領都星であった場所だ。

 

「…なぜ実家が領地になる場所で暴動が起こるんだ」

「それは差し詰め、ブランデン公爵による失政が原因かと」

「ああ、あの馬鹿の所為で俺はドサ周りだよ」

 

そこで艦長席に座って苛立ちながら毒を吐くのはテオバルトである。彼は(やや遠回り気味ではあるが)ブランデン公爵に迷惑をかけられた側の人間である。一度目はカフス星域、二度目は此度皇帝陛下より恩賜として与えられる新たな領地。

 

「代わりに陞爵と湧き出る尊敬と名誉を得られました」

「ああそうさ、お陰で俺は仕事が二条倍で増える始末さ」

「司令官、余り毒を吐きますな…」

 

その一報を受けてからずっとこの有様であり、顰めっ面になってテオバルトは惑星を見上げていた。

 

「全く。俺の領地にならなかったら水爆でも持ち込んでいたというのに…」

「…艦長、冗談に聞こえません」

「…」

 

彼の呟きに聞いていた乗組員はギョッとなってテオバルトを見ていた。

 

「分かってるさ。核兵器は流石に最終手段だ」

「そもそも使用してはなりません。臣民の心象が悪くなります」

 

ヴィッケルは絶妙に殺意の高いテオバルトを宥めながら諌めるのに苦労していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その暴動が当然ながら、そうした暴動鎮圧などを担当するための総監府にも届いていた。

 

「そうか、テオは流石に荒むよな…」

 

報告を聞いていたレオンナードはため息混じりに溢す。

 

「特に准将に割譲される元公爵領。水爆も用いたいと叫んでいるご様子で…」

「だろうな。アイツ、ああ見えて恐ろしいやつだからな」

 

そこでレオンナードは少し目元を鋭くさせて報告と状況をまとめた書類を見ていた。そこでテオバルトがクラウゼヴィッツに乗艦したことでレオンナードが上官となったリュグドマンはその報告に信じられないと言った様子であった。

 

「意外そうな顔をしているな?」

「はっ…失礼しました」

「ふふっ、まあ分かっているさ。アイツが害する者に容赦がないと言うことはな」

「…」

 

そこでリュグドマンは圧倒的な証拠を叩きつけられ皇帝陛下の激昂を買うこととなったコーデルハイト公爵を思い出す。

あの激昂を受けて以降、コーデルハイト公爵家はすっかり没落した貴族に成り下がった。テオバルトが裏で手引きしたと言うことはリュグドマンも知るところであった。

 

「テオは、俺の忠実な部下でありながら強い愛国者でもある。暴動鎮圧は彼にとって造作もないことだ」

「…臣民に核の雨を降らせることでもですか?」

「そうだ。テオならば核のボタンを押す事を躊躇しないだろう。もしこれがヴェーグマン子爵に割譲される領地でなければ、本気で実行に移していた可能性がある」

 

レオンナードの確信した様子にリュグドマンは末恐ろしくなる。

 

「核を落とせば『帝国に刃向かう連中に容赦しない』と言うメッセージになり、旧弊の貴族や臣民の良い眠気覚ましになるだろう。そしてそれを必要とした場合、彼は間違いなく実行する」

「…」

 

第二皇子は、幼少期から大人びていると常々思っている幼馴染の性格をよく理解していた。

 

「殿下…そのような人物をなぜ副総監に?」

 

リュグドマンはそこで恐る恐るレオンナードに聞いた。すると彼は笑って答えた。

 

「優秀だからさ。彼は剣術も射撃も下手クソで、護衛にもなりにくい、毎日胃痛に悩む男だ」

 

レオンナードはそう言い、士官学校での彼の評価を振り返る。少なくとも旧弊の貴族からすれば『なんでコイツ士官学校に来たんだ?』と思わせるような偏屈ぶりである。まあこれに関してはシミュレーションで常勝無敗を飾ったテオバルト個人への恨みも混ざっていることだろう。しかし彼の活躍に目を奪われた生徒も多くいたのは言うまでもない。

 

「だがな、彼は害する者に容赦がない反面、敵対しなければどうだっていい。友や家族は大切にするし、頻繁に贈り物もしている。だろ?」

「…はい」

 

彼はそう話すと、リュグドマンは今までテオバルトに感じていた印象を振り返る。彼の贈り物は故郷で生産された食料品ばかりであるが、それが他の提督達からすれば面白くも有り難いものだった。かく言うリュグドマンも彼から贈り物で電子グローブを貰い重宝していた。

彼の贈呈品のセンスというのは前世で磨き上げられており、最も使ってくれるであろう物を送り、また贈られた側も感謝の印として彼に贈呈品を送り返す文化が総監府の将校の間で流行り始めていた。

 

「まあ、アイツには貴族の社交界よりも、市民食堂で車座を組んで酒を飲む方が好きなのさ」

 

仲間を誰よりも愛するテオバルトにレオンナードは『剪定人』として彼を部下に引き入れたのかとリュグドマンは納得していた。

 

「今回の暴動ですが、現地の密偵によりますと食糧不足が原因だそうです」

「食料か…なるほど」

 

ブランデン公爵の連邦への亡命以降、宙ぶらりんになって帝室のものとなっていた領土であったが、先の遠征による軍功を上げた者などに対して領土の割譲・再編が行われた。特に軍功を上げ、陞爵もしたヴェーグマン家には多くの領地が与えられた。

 

「彼らにも行動をする為の事情がある。今回の鎮圧部隊の総司令官としてアイツを選んだのはその為だ」

 

彼はそう話すと、テオバルトを信頼して訓練途中であったところを艦隊を派遣していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

テオバルト・フォン・ヴェーグマンの軍功というのは、帝都から遠く離れたこの田舎のでリエンベルクにも届いていた。

彼のおかげで家は男爵から子爵に陞爵し、皇帝陛下からの覚えも良い軍人となっていた。その為、今回の領地再編の際に多くの星域を任せられていた。

 

「…はぁ」

 

そのデリエンベルクに設置された宇宙港にて、一人のスーツを纏った若者がため息をついていた。

 

「出港前に足止めかよ〜」

「文句言うな。出先の星で暴動があって、御子息様が鎮圧に向かってるんだ」

「それは分かっているんだがよ…」

 

宇宙港で乗り込む前に他にも複数のスーツやつなぎ服を纏っていた面々が港で足止めをされていた。

この宇宙港は以前にも増して多くの宇宙船が出入りを行っており、この宇宙港もこの前完成したばかりの第二ターミナルであった。

 

「これから向かう先ってどんな惑星なんだ?」

「亡命した公爵の領地だったが、噂じゃあ借金まみれで帝室もどうもできなくって手放したらしい」

「やれやれ、そんな領地を押し付けられるとはね」

 

口々に彼らはこれから向かう先である惑星を前にそんな話をして眉を顰める者もいた。

 

「おーい、御当主様から命令だ」

 

すると宇宙港のロビーで片手にタブレットを持って一人の男が近づいて話しかけた。

 

「先に船に乗って迎えとのことだ」

「正気か?」

「直前の港で一旦状況を確認しろとさ」

 

軽く肩をすくめてその男は言うと、入ってきた暴動の情報を読んでいく。

 

「幸い、暴動はブランデンベルクでしか起こっちゃいない。それ以外の惑星の現地調査をしていくことになりそうだ」

 

そう話すと、彼らは事情を把握した上であらかじめ用意されていたヴェーグマン家の運営する商会の所有する宇宙船に乗り込んで星を後にした。




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