<惑星ブランデンベルク>で発生した暴動鎮圧のために派遣された機動艦隊。以前の警備艦隊から印象を刷新する目的で新たに編成された機動艦隊は、五〇番以降の艦隊番号は新型艦で編成されており、それ以前の艦隊番号は昔から続く旧式艦艇で編成された艦隊であった。
「司令長官。作戦参加予定の全艦艇の到着を確認しました」
「うむ…」
そこでワープアウトして次々と集結した艦隊を前に頷く。哨戒用のミサイル艇戦隊も到着し、暴動を起こしたブランデンベルクを包囲せんとしていた。
そして報告を聞くと、テオバルトは立ち上がってCICに詰めていた艦隊参謀に下命する。
「各艦艇は所定の位置にて待機せよ。此度の暴動の鎮圧は、私が直接赴いて話し合う」
彼はそう宣言をすると、聞いていた面々は事前に聞かされていたとはいえ、少し意外な様子で彼に話す。
「司令官。相手は暴動を起こした民衆です。歯止めが効かない彼らの前に立たれるのは危険と進言します」
「諸君らの懸念は尤もだ。だがこればかりは譲れない。護衛の兵は無論連れて行くが、彼らに今必要なのは『誠意』だ」
他の艦艇にも同様に一切の先制攻撃を禁ずると告げると、クラウゼヴィッツは包囲していた色とりどりの旗艦級戦艦の中で暴動を起こした民衆に対し、広域通信を行なった。
「かわいそうな事だ。提督は尻に火を付けられてやがるぜ」
その様子を前にディートリヒは憐んでいた。他人の起こした不始末の尻拭いをさせられていることに。核でまとめて焼き払いたくなる気持ちも理解できないわけではなかった。
「やれやれ、自分の御領地になられる場所で直前に暴動とはね」
ジョバンニも同様に広域通信で暴動の鎮静を行なっているクラウゼヴィッツを見て憐れみの視線を向ける。
彼の家が陞爵し、この元公爵の領地を貰ったことは当然彼らも知っていた。そしてその領地が借金まみれであることで、その分の借金すら背負わされていると言うことにも…。
「これから司令長官は暴動を起こした民衆と話し合いを行うらしい」
カーラも数日前まで合同演習を行っていた艦隊を見ながらややため息混じりに見ていた。
「大丈夫でしょうか?」
その様子を前にカーラの副官が呼びかけを行っているクラウゼヴィッツを見ながら聞いてきた。
「さあ?一応定石通りに呼びかけはしているけれど…」
そこで惑星全域で起こった暴動を前にカーラは嫌な予測を立てていた。
「最悪、私たちの艦隊で強襲上陸ね」
「はぁ…公爵も面倒な仕事を任せたものです」
「多分、テオバルト准将が一番激昂していると思うわよ」
彼女はそう言い、今はまだおとなしく惑星に生き残ったすべての通信を使って呼びかけを行っている白銀の戦艦を見つめていた。
クラウゼヴィッツや他に到着した艦隊から発せられる通信は、惑星に残されていたラジオや惑星間通信基地に届いていた。
『現在、ブランデンベルクで起こっている暴動は違法なものである』
その声はテオバルト本人の肉声である。あらかじめ録音したものを使って広域通信に乗せて流していた。
『帝国臣民である諸君らに呼びかける。直ちに武器を手放し、穏便な解決を求める』
彼の肉声は惑星全土に伝わっていた。
『すでにブランデンベルクは我が艦隊の包囲下にあり、諸君らの暴動を鎮圧する準備は整った。我々も臣民も無駄な血を流したくは無い。よって…』
彼の自動音声はそこでラジオは蹴り飛ばされたことで途切れた。
「畜生!んなことがあってたまるか!!」
蹴り飛ばしたのは痩せこけた様子の老夫であった。彼らのそばには同様に頬が窪んでいる様子の女性や腹の出た子供の姿もあった。
「どうせ嘘だ。帝国は俺たちを殺しにくる…!きっと今に皆殺しだ…!!」
「今度来る新しい領主もきっと前と同じさ。どうせ重税をかけてくるに違いない…」
彼らは今時では珍しい火薬式の散弾銃を握りながら言っていた。元の持ち主は干からびて無数の骸の一部になっていた。
惑星の至る所で銃声や砲声が轟き、街は盗賊となった住人たちなどで無法地帯と化していた。
まだラジオを蹴飛ばせる余力がある時点で、この者はまだ何とかなっていた。
広域通信の内容は無論クラウゼヴィッツや他の艦艇も聞いていた。
『至急、諸君らの代表者である者と話し合いの場を設けたい。明日の午前十時までに返答がない場合は、この暴動の鎮圧を開始する』
自動放送で何度も同じことを放送し続けているが、その代表者からの返事が無かった。
「チッ、仕方ない…強襲上陸の準備だ」
「はっ!」
丸一日放送を行ったが、一向に返事が無いまま十二時間ほど経過しており、痺れを切らしてテオバルトは下命した。
「こうも代表者がいないとは…どういうことだ?」
「同時多発的に発生した暴動の可能性が示唆されています。只今、総監府より情報が届きました」
そこで情報参謀が届いた通信文を報告した。
「現在のブランデンベルクの状況は密偵からの直接通信の方が確実性が高いそうです」
「直ちに現地の密偵と通信をとらせろ」
すぐにテオバルトは状況把握のためにその密偵と直接回線を繋ぐ。
「…全く、食糧不足で起こった暴動なら代表者くらい居るはずだろうに」
舌打ちをしながらテオバルトは頭を軽く掻くと、それを見ていた乗組員たちは皆が同じことを思っていた。
「「「「「(うわぁ、荒れてやがる)」」」」」
訓練で地獄のように特訓をさせられた彼らは、一段と機嫌の悪さを漏らしていたテオバルトに震えていた。これでは、到着した直後に彼が話していた『水爆落としてやりたい』という発言が冗談に聞こえなくなってしまった。
「大丈夫か?流石に核兵器は持ち込まないよな?」
「そもそも準備がねえよ。核兵器は要塞にしか装備していねえし…」
彼らは口々にそう話しながら荒むテオバルトに冷や汗をかく。
「強襲揚陸用意!」
「上陸要員は直ちに準備にかかれ!」
そこで艦隊参謀から命令が降ると、惑星に到着した強襲揚陸の為の装備を満載したメアー・カム級が駆逐艦とフリゲート艦の護衛を受けながら惑星に接近していく。
普段は補給艦だが、装備を変えればあっという間に兵員輸送艦として使用できるのがこのメアー・カム級の強いところであった。
『揚陸用〜意!』
『総員、突入用意!』
本来は補給物資を満載しているそこでは、完全武装した一個降下猟兵小隊を満載した兵士が待機していた。
「畜生、司令官の通信に返信が無いだって?」
「面倒なことになりやがって、クソッ」
彼らは
「先行して軍艦が橋頭堡を確保する。局所的な抵抗しか無いだろうが、我々は投降を呼びかけながら制圧しろとお達しだ」
「へいへい」「了解」
そこで上陸用舟艇に乗り込んでいた彼らは、そこで射出されるのを待ちながら注意喚起を受けていた。
「総員、武器の再確認を行え!」
強襲揚陸を前に部隊長が言うと、一斉に兵士たちは持っていた小銃の弾倉や装甲服に映る光景を確認する。
「降伏させながら制圧だと?」
「司令官は今度ここの領主になるって話だぜ」
「ああ、だからかよ」
なるべく血を流したく無い様子の意味に彼らは納得していた。
「まっ、俺だって人を殺したくはねえんだがな」
「襲ってきて危険だと判断した場合は倒しても構わん。ただし狼藉を働いたら銃殺刑だと思え。ここはまだ直轄領だからな」
そこで部隊長の忠告を聞くと、兵士たちは途端に背筋が伸びた。
「おー、怖い怖い」
「全くだぜ」
帝室直轄領と聞いて彼らはそうした狼藉をした後が末恐ろしいと感じながら上陸用修正のハッチが閉じられ、赤と黒の世界の視界を確認する。
「作戦目標は旧領都ブランデンバーデン制圧だ。直ちに制圧をし、損害は出すな!!」
そして準備が整い、強襲揚陸部隊が低軌道に入りかけた時、一本の連絡が入った。
『作戦中止!作戦中止だ!』
そこで慌てた様子の連絡が入り、展開を終えた部隊は停止を余儀なくされる。
「何だ?」
「知らねえよ。まあ、おかげで俺たちは死なずに済みそうだぜ」
いきなりの中止命令に兵士たちは何事かと訝しんでいたが、直後に艦隊司令長官の直々の連絡があった。
『諸君。たった今、暴動の代表者と連絡が付いた。取り越し苦労で済みそうだ』
彼はそう話すと、緊張していた降下猟兵たちは安堵したようにため息を漏らしていた。
「はぁ、やったぜ。運が向いてる」
「全くだ。仕事をしなくて良い」
彼らは口々にそう言い合うと、惑星を離れる進路に付いた。
「やっと返事があったの?」
「らしいわね」
低軌道から進入航路を策定していたカーラ達は驚いていた。
「…ふぅ」
連絡があったと聞き、ディートリヒ達も安堵していた。
クラウゼヴィッツではテオバルトはある男と話していた。
『ブランデンバーデン市長、ビクトール・アナイです。我々は降伏します戦う力を持ってはおりません』
映像の前に立つのは禿頭の痩せこけた顔つきの男。
『現在、この惑星は無政府状態にあります。各地で発生した暴動は、我々では処理できておりません』
「…」
そこで通信を聞きながらテオバルトは情報参謀に視線を向けると、彼は頷いて答えた。彼が頷いたと言うことは、密偵からの連絡があり、尚且つ本当であると言うことだ。
「そちらの状況は承知した。直ちに艦隊を派遣し、惑星全域の治安維持活動を行うと保証しよう」
『誠にありがとうございます』
すでにこのブランデンベルク自体の統治能力が失われたことを目の前の市長が伝えると、テオバルトはそのことに承知した上で無政府状態となっているという惑星の状況を把握する。
「揚陸部隊に下命し、惑星全体の制圧と支援を開始せよ」
「承知しました」
そこで上陸部隊を指揮する参謀は頷いてからCICで揚陸部隊に通信を行う。その傍らで他の参謀達も愕然とした様子で思わず口に漏らす。
「何てこった…」
「ここまで統治能力が落ちているとは…」
「直轄地で補給がされているんじゃ無かったのか?」
彼らはこの同時多発的に起こった暴動のせいで、どこで何が起こっているのかも把握できていない状況に困惑していた。
「まあ、突入で死者が出なかった分だけマシさ」
テオバルトはそう言い、通信を申し出た市長に感謝しながら惑星を見つめた。
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