その後、無政府状態であると宣言したブランデンベルクを機動艦隊は全域に渡って通信を行った上で返答のない都市に強襲揚陸を敢行した。
事前に連絡の付いた都市はすべて無防備都市宣言を行った上で上陸をしてきた軍艦を見上げ、上陸した兵士たちを迎え入れていた。
「何だ、これは…」
そしてテオバルトからの突入命令を待っていた降下猟兵達は、そこで信じられない光景を目にしていた。
「…死体だ」
「うっ…」
そこには無数の焼却されることすらなかった骸の山があった。その地獄のような環境に一部の兵は嗚咽を漏らし、吐いてしまう。
「直ちに食糧支援が必要だ!急げ!」
真っ先に揚陸を果たし、橋頭堡を確保したカーラはその惨状に怒鳴って情報参謀を通して食糧支援を要求していた。
「くそっ、何でこんなことになってんのよ…!」
「逃げ出した農民が盗賊になったらしいわよ」
他の乗組員達も生き残っていた住人の保護をして粥を食べさせていた。
「毛布運んで!」
「こっちだ、暖かいスープも用意してある」
そこで全員が飢餓状態にあるのを見て兵士たちも困惑して見ていた。
「こ、降参だ…殺さないでくれ…!!」
そこで上陸をした降下猟兵達は痩せこけた住民を見て銃を突きつけており、突きつけられた方は圧倒的な重装備の兵士を前に早々に大半が降伏していた。
「安心しろ。お前達の新しい領主様が飯を与えてくれるぜ」
彼らはそう話すと、その言葉に警戒をしていた住民であるが、配食されたライ麦パンを前に涙を流して分け合っていた。
「俺の故郷よりひどいぜ…」
「宇宙船も直轄地になって船も滅多に来なかったらしい」
「だからか…」
そこで配給所に並んで食料を受け取っている住民を見つめながら降下猟兵達は焼却処分されていく亡骸を見つめていく。
「こんな場じゃあ狼藉もできねえよ…」
上陸前は背筋を伸ばしていたが、今は耐え難い震えと吐き気に襲われたその兵士はつぶやいた。
そうした地上の悲惨さはすぐに宇宙空間で指揮を執っていたテオバルトの元にも届く。
「…なるほど、ただでさえ不足していた食料事情を前に新しく領主がくると言う噂が流布し、いつの間にか噂は『領主が殺しにくる』に変わっていったと」
そこで情報将校から届けられた報告書を読み上げ、テオバルトは深刻な表情を浮かべる。
「保護した住民の四割が栄養失調です。二割は飢餓状態に陥っています」
「…餓死者は?」
「まだ把握できていません」
すでに惑星全域を制圧し、戒厳令と夜間外出禁令を出したブランデンベルク。今日も多数の食料を積んだ輸送船が惑星の宇宙港に次から次へと到着をして荷下ろしを行なっていた。
「暴動の全容がこれとは…」
「特に食料問題が深刻です。全てにおいてこの惑星は死にかけていると言っても過言ではありません」
そこで悲鳴をあげそうになる補給将校が言ってきた。
「すまんな。兵士には苦労をかける」
テオバルトはこの数日で一気に忙しくなってしまったアンドロイドを労うと、首を横に振られた。
「いえ…上陸した兵士らも、この光景を前に食事が喉を通らないようでして…」
「…だろうな」
その心情もよく理解できると頷きながら彼は惑星の現状を撮影した映像を見た。
「酷い…」
「暴動が起きるわけだ」
集結した他艦艇でも情報共有がされながら海や湖など次々と降りられる場所に艦艇を下ろしていく。その中でその映像を見た兵士達はその惨状に誰もが閉口してしまっていた。
「艦長、我が艦も食料を分けるべきでは?」
「やめろ、そうすれば住民同士が奪い合い初めて収拾がつかなくなる。事前に渡された補給物資を彼らに分け与えるのだ」
ヒュルトナーも先に惑星に降り立って、積めるだけ積み込んだ食料をおろして行く。
「ほら、スープとパンだ」
「ありがとうございます…」
そこで艦艇の炊事員が作った料理を配給していくと、泣きながら受け取った母子は食事を摂って行く。皆が食料を貪っていた。
食事は近くで兵士たちが睨みを聴かせているので、暴れようものなら即座にしょっぴかれていた。まあ、こんな状況で暴れる余力もない人間が大半であったのだが…。
「まともに医療施設も機能していないの?」
「はい…我々は一年前より十分な補給を受けておりませんでしたので…」
そこで疲れ切った様子で看護師や医師が空っぽの薬品棚を見せた。
「ここに居られた患者様はすべて栄養失調でこられました」
「「…」」
聴取を行っていた女性士官達は絶句していた。それはつまり、栄養失調以外の患者は皆死んだわけなのだから…。
そしてそれら全ての報告をあげたテオバルトは、レオンナードと話していた。
『了解した。他に余力のある輸送船も全てこちらで手配する。これ以上餓死者を出さぬよう、最善の努力をせよ』
「畏まりました」
報告書を読んだレオンナードはすぐに理解した様子で頷いた。最善の努力を行うと彼は言うと、生活必需品を詰め込んだ輸送船団が直ちに編成された。
「元々財政状況が良くないとは聞いていたが、まさかここまでとはな…」
「ええ、全くです。まるで古代の時代に巻き戻ったかのような光景です」
星全体で食糧難に喘いでいた事に参謀将校達も冷や汗をかきながら見ていた。
「司令官、ご実家より通信が入っております。至急艦長室へ」
「分かった」
そこでヴィッケルが報告を入れたので、テオバルトは『こんなクソ忙しい時に何だよ』と訝しみながら艦長室で通信を開いた。
『テオバルト様』
すると連絡したのは珍しい顔だった。
「何だ貴様か」
その若者は、故郷でリエンベルクで彼自身が引き抜いた男、エミール・メッサーだ。故郷の街で日銭にすら困窮していたところを、その学力から資金援助をして経理者に仕立てた有能な若者だ。
「何の用だ?こっちは事後処理で大忙しだ」
『ええ、だからこそテオバルト様にお伝えしたいことが』
エミールは深刻げな様子でテオバルトに話しかけた。
『現在、我々は暴動の発生したブランデンベルク以外の惑星を我々は視察しているのですが、何も食料事情に大きな問題を抱えております』
「…他の惑星でもか?」
『はい。コロニー住居は比較的マシですが、それでも昨年の公爵家のお家潰しによりさらに貧困は加速していた様子です』
「…」
そこで他の地域でも問題が起こっている状況にテオバルトはため息を漏らす。
「分かった。親父には伝えたか?」
『はい。御館様も事情を把握し、星域に輸送艦を手配してくださりました』
「分かった…」
彼らはヴェーグマン家が直接運営する商会所有の船舶が星域に向かっている話にため息混じりに何があれば続報で連絡してくれと頼んだ。
「…はぁ、全く」
そこで今の状況を前にテオバルトはため息を漏らす。
『司令官。着陸用意が完了いたしました』
「了解した…着陸後は、俺に連絡を取った市長と暴動の鎮圧処理を行う。降下猟兵は引き続き、治安維持を目的に事前の作戦通りに全土に兵を派遣するように伝達せよ」
『了解しました』
副艦長は敬礼をしてから通信が切れると、その後にやや疲れた様子で彼は椅子の背もたれを倒してから惑星の状況を前に頭を抱えたくなる。
「一体どれだけの食糧を送り込めばいいのやら…」
お家潰しを受け、全ての領土が一時的に帝国の預かりとなったこの一年弱の間で、ここまで惨状を作れるのかと問われたら否である。
もっと前からこの惑星や公爵領と言うのは腐敗していたのだろう。おそらく、他の人が住んでいる場所は同様だろう。
「何故たかが三〇〇年若きでここまで腐敗した…」
今の時代、人間の寿命は簡単に一〇〇歳を超えても健康な者であれば二本足で立てるような時代だ。頑張ればその孫がベッドの上で生きながらえている。
初代が興し、二代目が拡大し、三代目が食い潰す。なんて話はよくあるが、まさか公爵までそこまで行くとは思っていなかった。
「…」
正直、一度リセットの意味合いも込めて出来ることなら焼き払いたかった。しかしここは自分の領地となる場所。無理強いはできない。
「親父には、税金は暫く取れないと言っておかないとな…」
領地や財産を全て割譲されるとはよく言ったものだが、その実は借金塗れで惑星で住民の食糧確保すらできない有様という体たらくである。
「ここから復興か…」
無政府状態となってしまっていた惑星を前に彼は改めてため息を漏らすと、レオンナードから連絡が入った。
『テオ』
彼がそう呼ぶ時は基本的に私的な話がしたい時だ。故に直ぐにテオバルトは座っていた椅子から立ち上がって答える事はなかった。
「想定以上に惑星全体が荒廃している。まだ私も現地に降りたわけではないから分からないが…」
『可笑しい。帝国直轄地になった際には住民が生きていけるほどの食料は生産できていたはずだ』
レオンナードも今回の暴動によって知った当初の話と全く違う状況に困惑している様子だった。
「住民からの聴取によれば、半年以上前から宇宙船の往来が消えたそうだ。医薬品はそこをついて久しいとも」
それが理由でこの惑星には栄養失調とかが以外の患者しかいないという皮肉すら聞かれる始末だった。
『なぜ自前の医薬品製造工場が無いのだ…』
「かなり昔からブランデンベルクに工場は無いそうだ。『環境が悪化する』という理由でな」
『…』
現地に入って知り得た情報にレオンナードは思わず天を仰いでしまう。
「閣下、申し訳ありませんが私は暫く領地経営で軍を離れなければならないかと」
『そうだな…其処もいずれお前の領地の問題となってしまう。既に決定した故にこればかりは仕方ないな…』
流石に彼とて貴族の本職である『領地・領民の運営』を放棄させるような事はさせなかった。いや、この場合はできないという方が正しいだろう。
子爵に陞爵したヴェーグマン家に皇帝陛下より与えられる新たな領地。しかし実態はこの悲惨さで、今は直轄地故に帝国軍からの補給を受けられるが、いずれは自分たちで何とかしなければいなくなる。
「何故ここまで荒廃したのか、その調査も行わせてもよろしいですか?」
『ああ、構わない』
寧ろやってくれ、ただと言いたげな様子にレオンナードは相変わらずお優しいと思いながら、この人生は良き上官に恵まれているなと思いながら直ちに領地の技術者の招集を行なった。
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