新たに与えられた領地の中心地としてヴェルケグラードに駐留しているテオバルトは、領地から連れてきた有能な面々をこのホテルに集めさせていた。
表向きは動乱後の事後処理という形で艦隊は駐留を行い、この地で地上の降下猟兵師団とともに警戒を重なっていた。
「司令官、第34警備艦隊が到着しました」
「了解した」
ワープアウトしてきた艦隊にテオバルトは頷いた。彼らは格安で手に入れたホテルを改装し、ヴェーグマン子爵領となるこの地に『復興支援委員会』を設置していた、
「到着した警備艦隊は星域内の航路の安全確保を指示。降下猟兵師団は順次兵を引き上げ、ヴェーグマン警察に業務を移管せよ」
「了解しました」
コルベットを旗艦に複数のミサイル艇で構成された警察艦隊は、ヴェーグマン子爵領の惑星デリエンベルクを海賊から守ってきた精鋭部隊であった。
流石にこう言った星間国家ともなると、警察ですらこう言った自前の惑星防衛用の郷土防衛の艦隊を創設する必要に駆られていた。
「ではこれより業務を引き継ぎます」
「よろしくお願いします」
そこで帝国軍の最新式の外骨格装甲服よりもやや型落ち。しかし海賊相手には十分な装備を有した警察官達は敬礼をすると、惑星の治安維持の業務を次々と委託していく。
「最新鋭の装備じゃねえんだな」
「あれでいいくらい平和だってことだろう?羨ましい限りだぜ」
そこで業務を引き継ぎ、支援物資や工作機械を積載した貨物船が背後で着陸をして行く中、迎えに来た上陸用舟艇に乗り込んでいく降下猟兵達。
「俺、あっちに転職しようかな?」
「え、お前もかよ」
そこで旧式装備ながらも健康的で、整然とした様子のヴェーグマン子爵管轄の警察に羨望した彼らはそんな感想を抱きながら上陸用舟艇に乗り込んでいく。
元々、派遣された警察官達の上司は自分たちの艦隊を指揮した司令官の父親。おかげで引き継ぎ業務も難なく終わり、惑星を制圧した降下猟兵師団は宇宙に帰還していく。
そして次々と帝国軍から領地を受け取るヴェーグマン子爵に業務が移管される中、復興支援委員会では惑星を代表したビクトール・アナイはテオバルトと面会を行っていた。
「各都市に食糧の配分は順調に進んでいます」
「了解しました。これより治安維持組織はヴェーグマン子爵領より派遣された警察に移管されることとなります。他の行政・司法・立法はすべて子爵領にて適用される条例が施行されます」
「かりこまりました」
ビクトールは一通り話を聞き終えると、頭を下げてから彼から受け取った情報を市庁舎に持ち帰って新しい体制の指導を受ける。元々領都であるために十分な通信設備が備えられており、ここでの連絡事項は直ちに惑星全域に伝えられる。
そしてテオバルト自身は面会に来たビクトールを見送ると、その直後に立ち上がってホテルの階を一つ下がって部屋に入る。
「これやっぱ便利だな」
「ええ、おかげで軍と領地の双方の連絡も楽で助かります」
そこでホテルを改装して帝国軍の軍人と行政関係の役人が走り回っていた。お互いに共有しなければならない情報もあり、一つ階段を登るだけで情報を共有できるのは双方から有り難がられた。これも究極を辿れば双方の上に立つものが同じで、尚且つ本人が進んで提案したことからできた奇跡だった。
「御子息様」
「おう、事前情報の照合はどうなっている?」
そこは『国土調査委員会』の看板が下され、中でヴェーグマン子爵領から到着した行政職員が彼を見て顔を引き攣らせていた。
「酷いもんです」
そこで測量課の人員は頭を抱えていた。
「事前情報との相違点が多すぎて話になりません。メチャクチャもイイところだ」
「測量したのですが、当初の情報よりも合計で二三%も耕作地が増えています。食料が足りないからと好き勝手開墾をしたそうで…」
農務課からの報告に苦笑する。
「残されている施設も空き家ばかりですし、何より餓死者の死体があらゆる場所に転がっていて…」
「そこは市役所の面々に丸投げでもしておけ、戸籍管理しているはずだ」
「あの…御子息様、その点なのですが…」
「?」
そこで戸籍課から信じられない様子の顔をして報告をしてくる。
「ここの領地はほぼ全員がインプラントチップを埋め込んでおらず。残されていた戸籍情報から生存者の確認を市役所全員で行っていますが、いつまでかかるか…」
「…」
報告を聞いてテオバルトは顔に手をやってため息を漏らす。
「なんとしても生存者の照合を行え。生後二ヶ月以内の乳幼児がいれば、必ずインプラントチップを付けるように」
「畏まりました」
そこで配給所で食糧の配給を受け取りに来た住民に対し、戸籍謄本との照合を行なっていく。
「そもそもどうしてここまで落ちぶれた」
「公爵による愚民化政策と、長年嵩増しされ続けた偽りの繁栄の影響ですね」
そこでクルーゲルはタブレットを持って報告してくる。
「愚民化政策も徹底されています。この元公爵領の住民は一切文字が読めません。読めるのは一部の市役所の役員…まあ、公爵のお家潰しに辛うじて巻き込まれなかった貴族関係者ばっかですね」
「…貴族なら、宇宙船でも使ってさっさと見捨てるんじゃないのか?」
テオバルトはやや怪訝になって聞くと、クルーゲルは淡々と答える。
「ここの維持と管理が最高裁判所の判決ですので」
「…そうか」
連邦に亡命したブランデン公爵。残された彼の系譜を辿る貴族らは徹底した処罰が与えられていた。
この文字が読めるという役員も元々は貴族の一員だったのだろう。逃げ出そうにも最高裁判所の判決で逃亡罪で極刑待ったなしだ。
「政府はこの最後の徴税記録を参考に支援の必要はないと判断し、物資は生産していなかった医薬品や一部の生活用品以外は運んでいなかったようです」
そこでクルーゲルは淡々と話していく。
「また帝室から送られていた医薬品は管理を行っていた貴族が隠し持っていたようです。我々が新たな領主となる際に隠匿していたであろう財宝と共に贈られてきましたよ」
皮肉げにクルーゲルは言うと、テオバルトも明から様で彼らの情報収集能力が伺える話に笑う。
「帝室、それも皇帝陛下からのお恵みの隠匿か…おまけに俺に献上とはな」
彼は鼻で笑ってクルーゲルを見上げると、そこで聞いた。
「宜しい、クルーゲル。我がヴェーグマン子爵領において、公共財の隠匿はどうなるんだったかな?」
「はっ、公開処刑であります」
満面の笑みでクルーゲルは背筋を伸ばして答える。
『法律はその国の歴史を表す』とは、誰かが言った言葉だ。
我がヴェーグマン領は勃興以来、長年の苦難の道筋の末に先代でようやく安定した暮らしを得られるようになった。それ故、領内において公共財を意図的に隠匿することは極めて重罪であった。
公共財とは、ヴェーグマン子爵領においては領民が飢饉の際でも生きて行けるように予め衛星トロンの倉庫に納められた食料や医薬品などの生存に必要な物資や、領主によって整備され、市民に一般開放された施設と定義されていた。
そしてヴェーグマン子爵による統治が正式に始まった今、この領地は帝国の法律の他にヴェーグマン子爵領の条例が有効となっていた。
「では始めたまえ」
「畏まりました」
そこでクルーゲルは心底良い笑みをして頷くと、本音を吐露する。
「まあ彼らは嫌味な連中でしたよ。俺たちが貴族でないと分かった途端に態度を悪くして、ひたすらにテオを呼び出すことに固執していたもので…」
「ふはは、落ちぶれて崖っぷちな証拠だ。実に良い」
テオバルトは笑うと、クルーゲルに言った。
「では俺に会うためにはもっと持ってこいと言っておけ。隠し財産を調査する手間は省きたいだろう?」
「ふふふ…では影武者をご用意いたしましょう。とびきり良いアンドロイドに任せても?」
「好きにしろ。巻き上げたら今度の総監府の賞品に加えてくれるまでだ」
そう答えると二人は実に
その日、ヴェーグマン子爵領にて貴族系列であった大勢の役人の公開処刑が発表された。罪状は公共財隠匿だ。
「ねえママ」
「シッ、静かにしてて」
その様子は街の集会所にあって、しばらく起動していなかったモニターに映し出されていた。
多くが消えてしまった住民たちは、そこで柱に磔にされてトラックの荷台に立たされていた、目隠しをされた役人達を見ていた。
しばらく閉まっていたパン屋や食堂の煙突に煙が上がり、久方ぶりの食事に歓喜に沸いていた状況でのこの公開処刑に住民達は白眼視しながら見ていた。
「はじめろ」
「はっ!」
そこで執行人が言うと、一斉にトラックは前進をして荷台から蹴り落とされた彼らは猿轡をされ、後ろ手に縛られているにも関わらず泣き喚いて命乞いをしていたが、容赦無く絞首刑になった。これでも最初は戦艦の砲撃によって跡形もなく消失させる方法であったため、それを聞いたレオンナードが静止させて絞首刑にさせていた経緯があった。
「宜しい」
その様子を確認したテオバルトは連絡する。
「執行を行った者達には特別給与を与えておけ」
「畏まりました」
クルーゲルは頷くと、そこで同室に報告に来ていたヴィッケルは顔をやや青くさせていた。
「…しかし公開処刑とは」
「皇帝陛下より賜った物資を隠匿し、自らの領民に施さなかった。彼らの施しがあれば、一体何人の赤ん坊が救われたと思う?」
「…」
テオバルトは映像を切りながら言う。
「これは報われなかった者、ここで耐え忍んだ者達に、俺が出来る手向だ」
その言葉は、ヴィッケルには自分を無理やり納得させるための方便のように聞こえた。
その映像は、見られる者は全員が見ていた。
「公開処刑…」
「これも、ある意味で正しい統治の一つだ」
そこでその映像を見つめていたヒュルトナーは、先の海賊狩りの点数で手に入れた高級葉巻に火を付けながら言う。
もしかすると、この葉巻もこの処刑された貴族から巻き上げられたものかも知れない。しかし吸わないと言う選択肢はなかった。
「ふぅ…旧弊を一掃し、与えられた領民にこれからの明るい未来を約束する。彼らの中にある不安や疑念を晴らすには、一番手っ取り早い方法だな。なるほど、死体がない方が住民も安心できるってわけだ」
十分な証拠も突きつけられ、皇子殿下すらも首肯せざるを得なかった。
「アイツは軍政家だよ。そりゃあ軍も辞めたいはずさ」
そこで彼はかつては航海長として、今では次期当主としての手腕を遺憾無く発揮したと思わせる瞬間であった。
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