レオンナードがヴェーグマン子爵の発行した公債を帝室費用で購入したことで、帝国中央株式市場は大きな変動を見せた。
元々ヴェルケグラードがテラフォーミングによって豊かな緑の大地を持っていたことは資料を読み漁ればわかる話であったので、多くの投機筋はこれを気に復興特需を迎えつつあるヴェーグマン新領地の発行した公債を買い始める。元々貴族の事情なんた知ったことではない彼らは、これを良き投機と見ていた。
あらかじめ用意されていた公債は瞬時に売り切れ、終値が上場時よりも8%も上昇した有力株になっていた。
「流石は殿下…だな」
「公債発行は無事に済んだようですね」
宇宙に上がり、領地の大きな諸問題を片付け終えたテオバルトはホクホク顔であった。その事を副艦長に指摘されると彼は話す。
「ああ、元々デリエンベルクは公債発行を必要としないほど発展していて、あとは公共設備やらの細々とした維持費以外になかったからな。それくらいであったら、領地の経営費用で賄えてしまう」
彼はそう話し、昔に公共設備や一律教育制度を導入するように提案して発行した公債を思い出す。
あの時の金利は2%と低かったが、それでも商会を通して付き合いのあった銀行が購入してくれたことで今のデリエンベルクがあった。
「まあ戦時国際と違って
今まで一度も
「やることは多いし、金もかかるが…その分五年単位で見ればリターンも大きいぞ」
「…小官には、些か大きすぎる話です」
「ふはははっ、貴官らも爵位を受け取ったら毎日こんな仕事ばかりになるぞ」
笑いながらテオバルトは言うと、聞いていた乗組員達はそんな彼の経済の話に耳が痛くなりそうであった。
「「(俺に貴族は無理だな…)」」
どちらかというと、貴族よりも商人のような雰囲気の発言をしたテオバルトにそんな感想を抱いていた。
そもそもヴェーグマン家の生まれを見れば、帝国が銀河連邦から独立をする際に艦隊に補給物資を命懸けで届けた輸送船を持っていた木端の商人だ。
戦争が終わり、独立戦争後に初代皇帝陛下よりその勇敢さを讃えられて分け与えられた領地だ。
「ああ、そういえば…」
そこでヴィッケルは少し前に彼が領地から連れてきた農学者と話していたことを思い出していた。
「司令官が農学にも詳しいとは思いませんでした」
「そうか?元々、実家じゃあ家庭菜園を趣味にしていたんだぞ?」
彼にそう答えると、テオバルトは話す。
「もし士官学校に受からなかったら、俺は大学で農学を学ぶ予定だったしな」
「…本気で農家をなさるおつもりだったのですか?」
ヴィッケルはやや驚いた様子でヴェーグマンを見ると、彼は笑いながら話した。
「そもそも閣下と合わなかったら、俺はずっとあの領地で、田舎男爵の後継でトラクターに乗ってただろうよ」
またトラクターに乗るとは古い趣味だな、とテオバルトの時折発動する懐古趣味に乗組員達は苦笑していた。
するとその時、レーダーに反応を確認した。
「感あり。敵艦隊接近中」
「数は?」
「四、貨物船が宙雷艇にいずれも襲撃を受けているそうです」
報告を受け、テオバルトは頷いた上で指示を出す。
「艦載機発艦せよ!」
「宜候。艦載機発艦用〜意!」
そこで従えている二隻の航宙母艦から航空機が射出されると、戦闘爆撃機は海賊が現れた宙域に急行する。
『オラオラオラ!急がねえと点数稼げねえそ!』
『あ、待て馬鹿!』
編隊を組んで艦載機は現場に向かうと、そこで視界に何もない空間でエンジンノズルに灯りのない輸送船を見た。
「居たぞ!」
『壊していいのは宙雷艇だけだぞ!』
「勿論だ!!」
そこで彼らは血眼になって引き金を引くと、機首の三〇mm電磁加速銃が宙雷艇を破壊していく。
「何だ!?」
「戦闘機だ!逃げろ!!」
そこで帰る場所を破壊された海賊達は絶句しながら攻撃を行ってきた帝国軍の艦隊を見る。
「なっ…!!」
そこで有視界で見えた白銀の船体を見て海賊達は顔を蒼白させた。
「レ、レインボー・フリート…」
海賊達は見ただけで足が震えていた。
ーー
それは全ての海賊が恐る脅威そのもの。
艦隊旗艦の派手なカラーリングからそう評され、渾名で呼ばれ、恐れられている。
国内の治安向上を目的に活動する総監府直属の艦隊であり、今までの警備艦隊とまるで違う性能を有した艦艇を揃えた指折りの艦隊だ。
今までの旧式艦ばかりの警備艦隊とは違う、最新鋭の主力艦で固めた艦隊だ。
「奴らだ…奴らに見つかっちまった!!」
「た、助けてくれ…」
そこで略奪行為を行なっていた彼らは戦闘機に囲まれて次々と破壊されていく母艦に愕然と膝をついた。
彼らは海賊の討伐に合わせてポイント制で競い合っており、情け容赦のない攻撃を仕掛けてくると言う話は海賊の間で有名であった。
「逃げるぞ!」
「逃げるってどこに…!?」
すぐに海賊は輸送船から脱げるように飛び出した。
『『『っ!!?』』』
しかし脱出した直後に、目の前に三七mm機関砲装備の戦闘機が彼らを照射しており、他にも複数の機体が輸送船を囲んでいた。
『こ、降伏する!命だけは…!』
その状況を前にあっさりと海賊は武器を捨てて両手を上げると、コックピットから見ていたパイロットは鼻白んでいた。
「けっ、まあポイントが一番高えから仕方ねえけどよ」
そこで彼は艦隊内で別個にテオバルトが用意してくれた商品を楽しみにしていた。
「やれやれ、すっかり血気盛んになっちまいやがって…」
その様子を見ていたヒュルトナーは苦笑気味に拘束されていく海賊を見ていく。
「でも司令官も葉巻手に入れてるじゃないですか」
「あったりめえよ、こっちは提督用の方に参加してんだ」
彼はそう話し、総監府で大盛り上がりの海賊狩りゲームを振り返っていた。
始めは暴動を鎮圧したヴェルケグラード聖域の沈静化のために、あの場に派遣されていた艦隊の提督達に、テオバルトが公爵の財産から巻き上げた諸々の資産を使って『一番海賊倒して敵を降伏させた奴にこの惑星の余ってるでかい家をやろう』と言って海賊狩りを本気にさせたのが始まりだった。
そこから次々と彼が公開処刑を行った旧貴族の隠し財産を賞品に持ち込んで、ポイント制にして本格的にゲームのようにしてしまった。
敵を降伏させた場合に最もポイントを高く設定し、それぞれ艦艇の撃沈に応じてポイントが加算される仕組みを整えた。そしてカーラがその際は優勝し、ブランデン公爵の元本拠地であった屋敷をテオバルトにプレゼントされると、どこからその話が広がったのか、他の警備艦隊や総監府所属の提督達がきろめきだって抗議して来たのだ。
ーー派遣された連中だけずるいぞ!
そんな状況になり、家をもらったカーラに羨望と嫉妬からテオバルトに言ったのだ。困り果てて相談されたレオンナードは『まあ、やりすぎない程度にするんだな』と軽く諌める程度で終わったのも、この凄まじい状況を作り出していた。
「(まあ、おかげで警備艦隊の連中も躍起になって海賊討伐し始めたんだが…)」
よほど新参者の若い提督が家を与えられた事が羨ましかったらしい。そう思いながらヒュルトナーは『あんなデカい家、管理出来ねえよ』と思っていたので元々欲しいとも思っていなかった。
『やったぞ、旗艦から加点だ!』
無線で連絡を受けてパイロット達は喜びの声をあげていた。公爵や旧貴族から巻き上げた財産であり、今はテオバルトの所有物となっていたワインや煙草などの嗜好品が彼らには与えられることも、また士気を上げる要因となっていた。
「いつまでこれやるんです?」
「巻き上げた賞品がなくなるまでだってよ」
そう言い、海賊対策用に哨戒航路をとって艦隊は再度移動を開始した。
「相変わらず海賊は出ているんだな」
「ええ、元々この星域は事前の情報の通りにほとんど救援物資を送らなかったために、離農や離反した住民や軍人が海賊行為を起こしておりますので…」
「降伏勧告は出しているな?」
「はい。現状で十二件の海賊と強盗の投降を確認しております。何も栄養状態は良くありませんね」
「了解した」
同じ施設に帝国軍と子爵領の職員が出入りをしている事で簡単に情報共有ができるために、ヴィッケルは子爵領の行政担当者からの報告を伝えることができた。
「投降した連中には厳正な裁きを受けて、刑務所だ」
「はっ、話によりますと公共奉仕や建設業務に充てているとか」
「そりゃあな」
そこでテオバルトは頷く。
「これだけ公債を集めることができたんだ。やるなら食糧生産プラントや浄水場、発電所などの公共設備の建設だ。何せ俺たちがビビるくらいの荒廃具合だっただろう?」
「はい…まだ餓死者の遺体が処理できていないですしね」
そこでヴィッケルは交友を持つようになったクルーゲルや戸籍管理を担当する行政職員が発狂気味に照合を行っているのを見ていた。
「しかし、公爵もあろうお方が戸籍謄本すら取っていないとは…」
「副長は幸せだな。戸籍を取られた惑星で生まれているんだから」
「…」
そりゃあそうだ。戸籍がなければそもそも軍に入ることすらできない。
「今、慌てて作らせているが、病院も俺たちが着く前はネギを首に巻くとか言う民間療法が真面目にされていたくらいだからな」
「…正直、私の故郷も酷いとは思っておりましたが、これを前には豊かな惑星であったのだなと」
そう言い、この二ヶ月ほどの大騒ぎを前にそんな感想を漏らす。するとテオバルトは頷いた。
「そう思えるなら、君はまともな感性を持っている。俺が保証してやる」
テオバルトはお墨付きを与えると、艦隊は新たに加えられた新型フリゲート艦隊を隷下に加えて習熟も兼ねた哨戒航海を行っていた。
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