その日、カルーティア大公国や他の緩衝国の駐在武官や財務関係者がヴェーグマン子爵領に召集されていた。
「ヴェーグマン子爵に呼ばれるとはな…」
「気を付けたまえ、かの御子息は優秀だと聞いている」
宇宙船の中で彼らは緊張半分、興味半分と言った様子でヴェーグマン家が用意した輸送船や自前の大使館所有の宇宙船に乗ってヴェルケグラードを見つめる。
「ほぉ…」
「復興は進んでいる様ですな」
そこで彼らは多くの宇宙船が出入りしている惑星を見つめて話す。
新たな領地が与えられてからまだ一年ほどしか経過していないが、自分たちの知る惨状とは程遠く見える緑が所々で垣間見えた。
『間も無く、ヴェルケグラードです』
そして宇宙船は管制塔の誘導に従って惑星で復旧されていた宇宙港に到着する。
「ようこそ、ヴェルケグラードへ」
丁寧に清掃がなされた空港の専用口でテオバルトの部下の文官が彼らを出迎えると、ロータリーで停車していたリムジンに乗せて行く。
「随分と丁寧なもてなしだ」
「我々はお客だ。まあ、丁寧な扱いには困る事もあるまい」
彼等はそう言いながらリムジンに乗り込むと、ここで呼ばれた経緯に余りいい顔はしていなかった。
「しかしコロニーの買収を打診とは…」
「新たな領地に存在する資源惑星の再編を目的としているらしい」
「全く、我々に何を買わせるかと思えば…」
彼等は帝国の属国の国民であり、大公は帝国が選んだ人間によって行政が成り立っていた。それ故に今まで何度も帝国の無茶振りに耐えなければならない事情があった。
「コロニー…詳細は聞いていませんが、誰か知らされている者は?」
「私は知りませんな」
「私もです」
そこで彼らは綺麗に清掃が行き届き、住民の多くが出歩いている様を見つめる。
「去年は餓死者が出るほど荒廃していたのではないのか?」
「話では多くの移民が集まったそうだ。人口の問題はそれで解決されているそうだ」
「それにしては治安も良さそうだが?」
「警察官が多く配属されている。見ろ」
そこで役人が指を差すと、そこでは交差点近くの交番で駐在している警察官を見る。
「デリエンベルクから不法就労者も丸ごとこちらに移動したと言うわけだ」
「なかなかやり手の様だ」
駐車違反で切符を切られて揉めている様子を見ながら彼等は市街地の中にある一等地のホテルに案内された。
「ようこそ、皆さま」
そこで出迎えたのはテオバルト本人であった。まさか直々に出迎えられるとは思っていなかった彼らは驚きながらも、用意されたホテルに宿泊して行く。彼らは二週間をかけてこれから販売する資源惑星を直接視察することになっていた。
「ほぅ…」
彼らはそこでもてなしとして豪華な食事を用意されていた。デリエンベルクで作られたワインや魚介類を用いた料理や、このヴェルケグラードの牧場で生産されている牛肉などの食物生成プラントを使っていない食材に、招待された面々は気を良くした。
「一年であの状態から回復しているのか?」
「街も綺麗だ。まあ表だけかも知れんがな」
ホテルの部屋で彼等は街の灯りを見ながらそんなことを話し、街を闊歩する住民を見る。彼等の健康状態は良く、市民がモノを買う余裕があると言う事実が今のこの惑星の経済状況を窺わせた。
「ヴェーグマン子爵は流石の手腕だな」
「優秀な文官が多いと聞く。その様な人材を多く抱えられるのは羨ましい限りだ」
彼らはそう話し、思わず本音を吐露してしまう。わずか一年でここまで復興を果たしたと言う事実は、この星を訪れた者を驚かせていた。
「さて、明日から惑星の視察だ。どうせいつもの売却だろうが…」
「大公閣下からも『なるべく安く済ませること』と仰せつかっております」
彼等はそう言いながらやや肩を落として最高級の安息ポッドで横になった。
そして翌日から始まった資源惑星販売の内覧会。
「何だ…これは…」
早朝にヴェーグマン子爵が派遣した旅客船に乗り込んで案内された彼等は、その場所を見て目を見開いて固まっていた。
「こちらがカタログナンバー一番の商品。今回販売する中では最も小さいコロニーとなります」
そこでヴェーグマン子爵領の警察艦隊が入港してくるその施設を見る。解説を行うのは、テオバルトが派遣した販売担当者のディッカー・マッファイだ。
「こちらの施設は内部に食糧生産区画や娯楽施設。艦艇修繕用のドック、係留設備などを備えたコロニーとなっており…」
彼は元々資源惑星で、改装を終えたコロニーを紹介して行く。
そこでコロニー内部の住居区画に用意されている街を見ながら戦慄していた。
「「「「「(これは軍事転用可能だ…!!)」」」」」
ドックは巡洋艦の修繕が可能で、内部にあることであらゆるミサイル攻撃が分厚い外壁によって阻まれ、宇宙空間にあればそれ自体が砦や要塞として使用可能な設備を内包していた。
「(コイツら、我々が帝国から要塞は有数に制限を受けていることを知っているのか…!?)」
その中の駐在武官は動揺しながら入り口から出港していくスループを見る。
帝国の属国である緩衝国の大公国は、帝国に反旗を翻した場合のことを考慮し、国の面積に合わせて要塞や砦の保有数に制限を与えられていた。無論、全ての緩衝国はその保有数一杯に要塞や砦を運用していた。
そんな状況であるにも関わらず、このヴェーグマン家は保有する資源惑星の再編と評して改装したこのコロニーを売り込みに来ていたのだ。
「失礼ながら、此方は輸出許可は降りているのですか?」
すると施設を視察した一人の官僚が恐る恐る聞くと、ディッカーは笑みを浮かべて頷く。
「はい。お渡ししたカタログにお乗せした惑星は、全て帝国より売却許諾を得たコロニーでございます」
「「「「「っ…!!」」」」」
改装されたこの施設を前に誰もそのことを聞くことはないが、誰もが同じことを感じたに違いない。
ーー要塞や砦を彼らは売ってくれる。
緩衝国として、帝国から初めから捨て駒として考えられている彼らにとってみれば、遅滞戦術や籠城は国が長生きさせられる唯一の道である。艦隊よりも要塞や砦の数を欲する彼らにとってみればまたとないチャンスだった。
「(この規模であれば、二個艦隊は内包可能だな…)」
「(欲しい。是非とも本国に連絡を取って打診するべきだ)」
彼らは自分達でゴミを買わされるかと思っていたが、予想外の収穫であると同時に駐在武官まで呼ばれていた理由を完全に理解していた。
「大佐、この規模であればどれほど扱えますか?」
「食糧生産区画まで備えていますからな。ざっと見て五個は余裕で入ります」
「分かりました…」
そこで施設内を歩いていた彼らは入港設備や酸素循環システムなどの諸々の設備の説明を受けると、また新しいコロニーに向かうために宇宙船に乗り込んでいく。
「彼等のコロニーは入札形式での販売となります」
ディッカーは説明をしながら視察を訪れた面々を見る。
彼らの目は当初の疲れ切った視線とは打って変わり、獲物を狩る様な視線に変わっていたことに満足げに頷く。
「(そうだ。我々が求めているのはその目だ!)」
一介の販売員として、昔の贓物売買から出世したものだと自分をここまで取り立てたテオバルトに敬服をしながら彼は目の前の積極的なコロニー購入に意欲を示す面々を見る。
「(テオバルト様。この商売、必ず成功させてみせますよ)」
そこで公債を用いて改装を施されたこのコロニーを前に意気込むと、宇宙船に乗って新しい惑星に案内していく。
「此度の入札後、改装準備工事を終えた状態でお渡しいたします」
彼は事前に渡されて竣工計画表を確認しながら伝えると、聞いていた面々はよく理解した上で頷く。
「何せ小惑星帯に設置することを想定したコロニーです。小惑星迎撃用にレーザー砲を装備可能にさせます」
ディッカーはそう話すと、思い出したように話す。
「ああそうだ。此度、使用済の惑星をコロニーに改装するプランを発表予定ですので、その際は是非ともヴェルケ建設に御一報を」
彼はそう話すと、聞いていた面々は更に目を輝かせた。
その後、資源惑星改装のコロニーは当初の改装費用の何倍もの金額で売却を終わらせた。
「流石だな」
「ええ、皆目の色を変えて買い漁っていきました」
入札形式で前金として半額が支払われた状況を確認してテオバルトは笑う。他にも大公国が保有していた…帝国の上級貴族に買わされた資源惑星をコロニーに改装する業務も請け負った事を確認し、公債以外での利益に笑う。ディッカーはそんな笑みが止まらないテオバルトに話しかける。
「しかし、よくレオンナード殿下を説き伏せられましたな」
「そうか?まあ半分は黙認と言ったところかな…」
「何故です?」
「大公国が連邦を少しでも食い止められる事を望んでいるから。かな…」
「…」
即答したテオバルトにディッカーは少しだけ顔が強張った。
「別に殿下とて外を見ていないわけではない。大公国に恩を売っておくという意味でも、この取引は利益しかないのさ」
彼はそう話すと、最も改装工事を早く終えたコロニーが受け取りに来た公国船籍の船舶によって出荷されていったという情報を受け取る。
この出荷により、緩衝国は今までは無駄な買い物になっていた資産の有効活用を積極的に支援してくれるテオバルトやレオンナードに最大の敬意と感謝をする様になる。
「今回売るコロニーは自給自足が可能な様に循環型の食糧生産プラントが備え付けられている。向こうで勝手に工事をしようが、それは彼らの自由だよ」
テオバルトはそう言い笑みを浮かべると、市政の様子を確認する。
「ふむ。もう食料生産量は増加気味とはな…」
「弛まぬ領民の努力の証ですな」
「ああ、実に投資のしがいがある場所をもらったものだ」
彼はそう言い、他にもパイのように切り分けられた元公爵領の悲惨な状況を前にため息を漏らす。
「ほかの領地は、あまり芳しくない様だな」
「はい…惑星を捨てて、此方に移民に来る市民も殺到するほどで…」
「ふん、呆れたものだな」
そこで移民となってこの惑星に密航しようとする宇宙船との苛烈な争いになっていることに不満げに鼻を鳴らした。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。