ヴェーグマン子爵領で発行された公債は、早速順調に利子をつけて返す算段が整いつつあった。
「ありがたいことだ。前までは厄介ごとだった移民がこれほど使えるとは…!」
そこで移民局職員に対して復興支援委員会の役員は興奮気味に叫んで言う。
「移民は安い労働力です。下手にアンドロイド使うより安上がりですよ」
「ああ、お陰で復興作業も順調だ!」
彼はそう言うと新しく建造中の鉱山の採掘状況に喜ぶ。
「前年比…と言ってもそもそも操業再開したばっかりで比べ物になりませんけど、四〇〇〇%増で銅鉱石の採掘が行われています」
「鉱業も工業も順調に開発が進んでいますよ」
「農業はどうだ?」
そこで同じ階層で居を構えている農業課や施設課に聞くと、彼らも好反応を見せる。
「区画整備をさせています。時期に良い結果も得られるでしょう」
「トラクターやハーベスターの教育も順調に進んでいます」
「文字は夜間学校に通わせています。まあ、これでしばらくはなんとかなりそうです」
次々と報告があがり、報告を聞いていたアルブレヒトは気分を良くしていく。
「良い。実に結構だ」
「区画整理を行い、小麦や米を栽培できる環境を整備させています」
「宜しい、農業用水の工事はいつまでに終わる?」
「この調子ですと…」
この司令部とあだ名されている施設で彼らは全てのヴェルケグラードの経済状況の改善に胸を撫で下ろしていた。
「入国管理局から『これ以上の移民は受け入れられない』そうです」
「なら移民受け入れをストップさせておけ」
「宜しいのですか?」
「御子息様の命令だ。治安悪化する程度であれば現状維持をせよとのお達だ」
彼はそう言い、彼らも以前にデリエンベルクで移民による治安悪化を身を持って経験していた為、反論することもなくむしろ両手をあげて喜んでいた。
「はっ、移民局にはその様に通達を行います」
わかっていたやりとりを終えて言質を取ってから彼等は移民受け入れの停止を発表した。周りから総スカンを食らうだろうが、そもそも移民を作り出す様な環境を貴族が作るんじゃねえ。と執務室でテオバルトは机を叩いていた。
そして市井ではとある行政官が舌を巻いていた。
「家禽って、優秀なんですね」
「前々から御子息様の命令で鶏は育てるのが教育に入ってただろう?」
「まあ、我々では祝日になってるくらいですからね」
そこで多数の家禽を育てている養鶏場を見ながら彼等は言う。
「おはようございます」
「ああ、今日も調子が宜しい様だね」
そこでこの大規模な養鶏場を営む様命令された領民が挨拶をしてくる。すると彼女は言う。
「はい。御領主様より下賜された施設です。この命を賭けて生涯お守り致します」
「そ、そうか…」
そこで次々と出荷されていく家禽類を見る。あらゆる場所で鶏の鳴き声が聞こえる中でその行政官は言う。
「まあ特にブロイラーは育成が早い。御子息様もそれを分かっていて家禽を育てる様に命令されたのだ」
最初にこの地にヴェーグマン子爵領から到着した輸送船が運んだのが家禽だ。同地では馬はおろか犬猫や虫に至るまで、ありとあらゆる生物が喰われており、早急に生物を運び入れる必要があった。
早速五〇万羽ほどの家禽を納入し、それを生存していた住民に配布し、育成する様に通達していた。
「家禽のおかげで食糧支援もわずかに量を減らせた」
「トロンの倉庫から運び出しても不足する可能性があったと分かった時は冷や汗ものでしたよ」
「全くだ」
彼等は領地となった惑星やコロニーを視察していき、新しく更新した採掘機械などを視察していく。
「以前より、こうした状況の改善策は打ち出されていた様ですね」
「そうか…」
そこで執務室で一通りの報告を聞いていたテオバルトは、クルーゲルからブランデン公爵の置き去りにしていた資料などの報告を受けていた。
「現在、住民の安否確認とIDカードの発行申請数は三ヶ月連続でゼロ。これ以上増える事もないと思われます」
「良かろう」
多くの餓死者を出したあの惨事であったが、あれから一年ほどの期間を経てようやく領民の把握が完了していた。
「それから、以前よりこの公爵領では不可思議な話もある様で…」
「…聞こうか」
「はっ」
ここに報告を持ってくる時点で、自分たちの知る優秀な部下たちは確実な情報として報告をしてくる。彼等は一々許可など取らずとも、確実な証拠を発見して報告してくる。一歩間違えれば事後承認濫用の捜査権限の暴走に繋がるが、その際はテオバルトが簡単にクビにすることができた。
「住民からの聴取の中で、以前からここでは人狩りが行われていた可能性があります」
「…続けろ」
そこで促すと、クルーゲルは臣下の警察から渡された報告書を読んでいく。
「公爵の郷土防衛隊の一部が村落に押し入り、子女を誘拐していた証拠です。かなり昔から行われてきていた様です」
「…誘拐された者は?」
「はい、古い記録でしたが…公爵が亡命する直前まで行われていたのが不幸中の幸いというべきか…おかげで誘拐された面々の居場所は判明しています」
そう話し、旧弊の役人達を一掃してあの公開処刑まで漕ぎ着けた優秀な捜査官たちは、その人狩りの末路を残酷なまでに丁寧に報告書にまとめていた。
「彼等は軍や民間の研究施設に移送されています。その際、多額の送金が確認されています」
「…人身売買か」
その報告書を絶対に読んで対処をしてくれるという、上司への信頼がこの正確な報告書に繋がっていた。
「…良かろう。この捜査を行った者に特別休暇を。それからメンタルケア受診もさせるように伝えてくれ」
「畏まりました」
クルーゲルも憤りを覚えている様子で頷くと、テオバルトは言う。
「この情報は、総監府に送るが良いかな?」
「勿論です。ここでは貴方が皇帝陛下です。貴方の意見に反論する者などおりませんよ」
「間違っていると思ってくれたら遠慮なく言ってもらいたいものだがな…」
テオバルトはため息混じりに答えると、この情報は駐留していた機動艦隊を通して総監府に送られた。
その情報を受け取り、中身を精査したレオンナードは顔を強張らせた。
「そうか…人身売買とはな」
「如何なさいましょう?殿下」
コリスが聞くと、彼は即決した。
「直ちに警備艦隊を派遣し、施設を抑えろ」
「了解いたしました」
そこで総監府に与えられた捜査権限を用いて所属していた部隊に下命されると、国内航路の警備を理由にあらゆる場所に展開していた警備艦隊や機動艦隊は直ちに施設の家宅捜索のために強襲を開始していく。
「警備艦隊だ!」
「くそっ、混血皇子が何で!!?」
寝床を襲われた様な形で彼等は制圧されていくと、そこでデータの処分をさせる間も無く次々と秘匿されていた情報が赤裸々に公開される。
「反撃してきたぞ!?」
「構わん!砲撃で叩き潰してやれ!」
施設制圧を前に反撃を行ってきた部隊に対しては降下猟兵師団は軍艦の支援砲撃を受けながら制圧を続けていく。
「制圧しろ!」
外骨格装甲服を纏った兵士たちは電磁加速銃を発射しながら制圧を行うと、そこで丸ごと資料を奪って総監府にありのままの情報を送る。
「うっ…」
「これは…」
そして総監府ではそれら降下猟兵が奪取した情報の整理が行われていたが、担当したアンドロイドや情報将校等はその文字に起こすのも差し控えられる惨状に顔色を悪くしていく。
「こんなことが罷り通っていたとは…」
レオンナードはその情報を前に今の帝国の貴族の横暴さに呆れてしまっていた。
「人身売買、詐欺、恐喝。臣民の上に立つ帝国貴族がこれではな…」
「『魚も組織も頭から腐る』と言います。不名誉な事になる前に対処できれば良かったのですが…」
コリスも悔いた様子でそれら調べ上げた情報を読んでため息を漏らす。
「テオが領地経営で忙しい思ったらこれか…」
「テオバルト様は御公務に忙殺されております」
新しい領地を与えられた事で、軍人としての本来の任務である機動艦隊司令長官の仕事と言うのは、暴動後の事後処理として艦隊は当該宙域の哨戒に限られていた。
「アイツに仕事振ったわけでは無いのだがな…」
「星域外の捜査となりますと、やはりどうしても総監府の方が権限があります。それを頼られたと言うわけですな」
「まあな。公爵を叩いたら埃が出るかと思ったが、まさかここまでとはな…」
手早く逮捕に踏み切った事で、実に多くの貴族が集団的に領民の人身売買に加担していたことがわかり、耳揃えてきっちりと提出された証拠は、皇帝陛下に直接渡された事で宰相から処罰を行わなければならなくなった。
彼等は全員が帝国の法律によって裁かれることとなる。
「しかし領民をここまで粗雑に扱とは…」
「所詮は他人の話だ。後方で主戦論を唱える連中と同じことさ」
そこで制圧した研究施設を見下ろしながら拘束した研究者たちを見ていくシャルルは副艦長と話す。
「司令官閣下。全ての聴取と研究資料の奪取を確認しました」
「宜しい。救助した民間人はどうだ?」
「はっ、全員の栄養状態は問題ありません。しかし身体機能に著しい低下が見られます」
「飼い殺しにしていたか…」
そこで彼はその研究施設で行われていた脳のデータ化とそのデータの統合という世にも恐ろしい演算機開発を行っていた彼等に眉を顰める。
「いつの時代になってもこういう連中は現れるのだな…」
「保護をした民間人は如何なされますか?」
そこで解放された民間人を確認しながら聞かれると、シャルルは予め連絡のあった通信を確認する。
「…殿下から、ヴェルケグラード星域に移送するようお達があった。どうやら未開発のコロニーに一まとまりで管理する方針だそうだ」
「副総監にですか?」
「ああ、全く。副総監もお忙しいだろうに…」
彼はそう言い、渡された領地経営に忙殺されていると聞いているテオバルトを偲ぶ。
「元々、事の発端は副総監だとお聞きしております。その代償と考えておられるのではありませんか?」
「そうだな…」
シャルルはそこで士官学校から知っている彼の人となりを思い出して呟く。
「少しはカイルに相談でもしておかねばな…」
ただでさえ忙殺気味の彼を少しでも楽にするべきであるだろうと打算的に彼は思うと、すぐに通信を行った。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。