テオバルトの前世は、地球の東洋の国の人間であった事を薄ぼんやりと覚えている。
この未来の世界に転生したとしても、技術や思想が発展した世界で過去の技術など使える訳もないだろうと当初は思っていた。
そもそもこの世界は本当に未来の世界なのだろうか?
そんな疑問が浮かび、この世界の歴史書を読み返して行った。
両親は歴史が好きなのだろうと解釈をしてくれて腕の良いと評判の歴史学者を紹介してくれた。事実、私は歴史の授業は好きだ。
そこで確認して、まだ人類が地球の重力に囚われていた時代の歴史の中にその戦争があった事を確認した事で、この世界は地続きで紡がれた世界なのだと把握したものだ。
しかし未来の世界に来たところで自分に何ができるだろうかと思っていたが、自分の住まう国が立憲君主国家であるとなればまた話は変わってくるかもしれない。
「現在!我々に必要なものは何であるか!それはすなわち食糧である!」
演説台に立ち、堂々と弁論を繰り広げる一張羅のスーツを纏った若き男。
「全ての家庭の煙突から煙が上がる光景でなければならない!この星で必要な食料はいまだ十分であるとは言えない!」
幟が掛けられ、周辺には彼を応援するようににこやかに話しかけて手を振る民衆がいた。その様子を見ながら取引の為に星を訪れていた商人が意外な顔をしていた。
「領地内での住民投票とは…」
「噂には聞いていたが、これはまるで…」
この光景は星の至る所で見ることができた。
「平等な初等教育も行われている」
「しかも学費は無料だ。申請し、認められれば大学まで奨学金まで出されるという話だ」
「本当に帝国の貴族が行う治世か?」
困惑と驚愕と、訝しみの視線で彼らはヴェルケグラードで行われているヴェーグマン式の治世に驚いていた。
「これだけの改革を行える資金がいったいどこから捻出できたんだ?」
「公債を発行してたにしては金が掛かっている」
「ではヴェーグマン家の貯蓄か?」
取引を終えて帰路に就く商人たちは、宇宙港でそんな疑念を抱きながら宇宙船に乗り込んでいく。彼らはここまでくる道中で市街地の掲示板などに無数に貼られた候補者のポスターを振り返っていた。
「いよいよですね」
そんな活気に溢れる街並みを見下ろしながらクルーゲルが話しかけると、椅子に座ってテオバルトは頷く。
「ああ、議会開設は統治の上で必要だからな」
そこで彼は紅茶を一口。この星で生産された最初の自然由来の紅茶であった。
「ふむ…やはり味が渋いな」
「復興直後ですので、ご容赦ください」
「問題ない。この味が安定する事となれば、それは統治がうまく行った証拠という事だ」
彼はそう言い、その後に市街地で立候補を行なった代議士たちを見る。
「納税者に対して投票権を与える…これで議会開設がうまく行ったら、後は役員たちの仕事ですな」
「これで漸く親父たちに仕事を丸投げできる」
疲れを隠さない様子でテオバルトは椅子に深く座ってからティーカップを卓上に置く。
「議席数は人口単位あたりで用意しました。デリエンベルクと同じ方法でよろしいですね?」
「ああ、基本的に統治は故郷と同じ方法にしてくれて構わない」
テオバルトは言うと、クルーゲルは笑う。
「とは言っても、全て貴方がお一人で作られた統治システムですがね」
「現地の問題は現地の人に聞く。その方が一々こちらから行政官を派遣する必要が無くて済む」
それにかかる費用を無くし、その上問題を報告できる。これほど便利なシステムもない。ヴェーグマン家の家系に親戚がいなさ過ぎて、しっかり報告してくれるような、安心できる行政官がいなかったとも言うが…。
「しかし帝国の仮想敵国である民主主義体制であると批判されません?」
「構わんさ。あくまでも彼らが行うのは意見具申。その問題をどう扱うかの権限はこちらにある」
三権分立であるところの立法権を有しているのはあくまでもヴェーグマン家。開設される予定の議会は行政権のみ与えられていた。
「公共インフラは税金を用いて責任を負う。その管理を行うのはこの星の住民だ」
「これで俺の仕事も少しは減るもんかね」
「どうだかな」
そこで腕を伸ばすクルーゲルにテオバルトは笑う。
この代議士を選ぶ投票は領民であり、かつ納税者に平等に与えられていた。
「納税者は従順な領民の証。その恩赦として参政権付与ですか」
「当たり前だ。真面目な奴が得をする世界でなければ、人はいずれやっていけなくなる」
「で、見える範囲で区別をする訳ですか」
「そう言う事だ」
それは一人の帝国貴族という統治者として、与えられた領地を繁栄させる為に必要な判断だった。
「言われた通りのことをしてくれればこちらとて文句はないからな」
そう言ってから彼はタブレットを手に取る。そこでニュース記事にはヴェルケグラードやその他ヴェーグマン家の管理する領地のことを各記事が地元新聞社から発行されていた。
「見ろ、また面白そうな話題だ」
基本的にヴェーグマン家では法律に則った中での最大限の報道の自由が許されていた。
「よく怒らないな」
「統治者に必要なのは広い器と妥協点を探る能力。これくらいの事で腹を立てる事などあるまい」
そう言いながら彼はヴェーグマン家の統治に対する批判を行った記事に対して低評価のボタンを押す。
「何のためにブン屋の記事に評価ボタンがあるか、このためだろう?」
「ふはは、なるほど…」
そこでクルーゲルは笑って敬愛する上司の顔を見た。
復興途上であるヴェルケグラード星域。ここには以前ここを統治していた公爵が建造途中で放置していたスペースコロニーが存在していた。
「間も無く、三番ヤードに到着します」
「ビーム伸ばせ。接岸準備」
港湾管理局の職員が入港してきた艦船に搭乗橋を伸ばす準備が整えられる。
この場所はとある資源採掘用に開発が行われていた惑星の軌道上に建設されたスペースコロニーであったが、以前の公爵の見栄っ張りが祟ったのか、それは巨大なスペースコロニーを建造しようとしており、その最中で資金がショートした事で建造が止まっていた。
そして資源が眠っているとされたこの惑星は、実は何も無かったことが分かっており、鉱山惑星として使用した痕跡も確認されていた。
その施設を丸々受け取ったヴェーグマン家は、施設の一部機能を復旧させた上で港湾施設として使用していた。
「アレは帝国軍か?」
「ああ、御子息様の軍艦さ」
そこで停泊した白銀の船体を見て一人が聞くと、港湾管理員が答える。
今し方このスペースコロニーに接岸した艦隊は、紹介任務を終えたばかりの機動艦隊であった。
「はぁー、相変わらず貴族様ってのはお忙しいことだね」
「軍務と統治の兼任だ。まあ、俺たちには想像できねえ忙しさがあるだろうな」
搭乗橋を伸ばして錨を接続した艦隊と接続を行う職員。
「こちらビスケット・ポート港湾管理局、機動艦隊の到着を心より歓迎します」
そう言い到着した第53機動艦隊を定型文で歓迎をすると、停泊した艦艇から半舷上陸で乗組員たちが下船を始める。
「はあ、終わった終わった」
「賊狩りも楽じゃねえぜまったく」
そこで艦船か航宙機だかを撃破した雰囲気で乗組員はコロニーに入る。
「取り敢えず、今日の仕事はこれで終わりだ」
「今回は航宙機ばかりでした」
そこで代理で艦隊指揮を任されていたヴィッケルが安堵した雰囲気で接岸したスペースコロニーを見ると、航海長が頷いた。
「取り敢えず、艦隊の補給と乗組員の休息を取らせよう」
「ええ、せっかく司令のご好意も用意されていますしね」
「ああ全くだ。これほど無茶を押し付けてくるのだから、これくらいの褒美がなければ割に合わんよ」
そう言いながら彼は半舷上陸で浮き足立って降りていった乗組員を思い出す。このスペースコロニーは、一部の機能が復旧された事で、中の娯楽施設や生産施設は稼働していた。そのため、この娯楽施設に乗組員たちは給料を握りしめて突撃していくのだ。元々贅沢に作られた施設が乗組員に一般開放をされたので、思う存分楽しめる設備があるのだ。
「ですがヴェルケグラードで選挙が始まったとお聞きしました。もうすぐ司令が本格的に戻ってくるのでは?」
「ああ、帰ってきたらまずは帝都に飛んでいくそうだ」
ヴィッケルは言うと、航海長は少し意外そうな顔をした。
「おや、新たな宙域で賊狩りではないのですね」
「それは他の連中にやらせておけばいい。俺たちはもう疲れた…」
げっそりとした様子で彼は言うと、そこで彼に話しかけたのが一人。
「そいつは苦労をかけたな」
「っ!!司令…」
ギョッとなって顔を上げると、そこでは艦橋に上がったテオバルトが立っていた。
「いつお乗りなられていたのですか?」
「今し方、ちょうどスペースコロニーにうちの艦隊が行くってことになって、同乗させてもらっていた」
そこで彼が目の前に現れた理由を聞き、ヴィッケルはため息を漏らす。
「お越しになられるのなら、事前にお申し付けしてくだされば良いものを…」
「ははは、悪いな。この方が楽だったものでね」
軽くテオバルトは笑って誤魔化しを入れると、停泊したクラウゼヴィッツを見つめる。
「御公務は問題ないのですか?」
「ああ、選挙が始まった時点で俺のやることはもうない。あとは実家から派遣された行政官に一任してきた」
仕事の引き継ぎを終わらせ、クルーゲルに休暇を与えたテオバルトはヴィッケルや航海長に話しかける。
「二人とも、このあと時間はあるか?」
「?ええ、問題ありませんが…」
「何かお話が?」
話しかけられた二人は首を傾げると、テオバルトは言う。
「いや何、今年実家でボトルに詰めた新物があるんだ。試飲も兼ねてどうかと思ってな」
「ほう、それはそれは…」
「…それはどのような物で?」
その提案に航海長は眉が動き、ヴィッケルも目を一瞬大きくさせた。
「赤と白、よりどりみどりだ。この後私室でどうかな?」
「是非」
「お供させていただきます」
そこでテオバルトからのお誘いに、これは半舷上陸で飛び出していった砲雷長が泣いて悔しがりそうな話だと思いながら二人はテオバルトと共に艦長私室に向かった。
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