レオンナードに忠誠を誓ったテオバルトはその後、蛇宮にて話をしていた。
「ああ、テオが補佐をするなら紹介しておかないとな」
「?」
「コリス」
「はい」
「!?」
すると現れたのは一人の老紳士だった。そして、先程自分をここまで連れて来た老紳士でもあった。するとレオンナードが老紳士を紹介した。
「紹介する。彼はコリス・ツィーラー俺の執事を勤めている」
「ご紹介に預かりました。コリス・ツィーラーで御座います。レオンナード様の執事を務めております。テオバルト様のお話は予々聞いております」
そう言い、コリスは自分を見ると挨拶をする。名前からして家族ではないのかと思いつつ、自分も挨拶をする。
「初めまして、コリス殿。テオバルト・フォン・ヴェーグマンです」
そう言い、挨拶を済ませるとコリスは部屋を後にする。本当に挨拶だけかと思っているとレオンナードが再び聞いて来た。
「テオ、前の戦闘シミュレーションでは大暴れだったな」
「い、いえ・・・暴れたわけでは・・・」
「だが、貴族の鼻をへし折ったことに変わりはない。そこでだ、学園で俺が後ろ盾になってやろうと思っているのだが・・・」
それはつまり、後ろ盾を持たない自分にレオが赴き、他の家族達に圧力をかけると言う事なのだろう。ありがたいと言えば有難いが、それは共にリスクを抱えることにもなる。
第二皇子ともなれば学校に対する影響は大きい。それ故に大きすぎるバックに比例して貴族の噛みつき度合いも増すと言う事。何方にしろ胃が痛くなることは明白。現状を鑑みれば誰かしらバックについてもらった方が良いだろう。今取るべき最善の選択はなんなのか。少し考えた末、テオバルトはこう答える。
「いえ、殿下との関係を大っぴらにするつもりはありません」
「ほぅ?何故だ」
「今の私は男爵家の跡継ぎ。そこに殿下が肩入れするともなれば上級貴族から目をつけられることになります。確かに現状を鑑みれば殿下に後ろ盾になってもらうのは強力な手札となります。ですが、今後のことを考えた場合、貴族に目をつけられるのはごめん被ります」
「その言い方だとテオは権力に興味がなさそうに見えるが・・・」
「権力に『誘惑』は感じます。ですが、今の自分に対応できないほどの権力を抱えるのはそれこそ本末転倒。不適切な場所に、不適切な情報を吹き込んでしまう恐れがあります」
かつて、ヨーロッパに第三帝国を築き上げたヒトラーがそうであった様に・・・
彼の最大の失敗はとにかく全てのことを自分で取り仕切ろうとしたからだろう。まるで自分が全能の神であるかの様に全てのことに口出しをした挙句、戦争に負けた。確かに技術者を驚かせるほどの兵器の知識があったことは事実だ。だが、世の中には適材適所と言うものがあり、そこに首を突っ込むことは一種の冒涜とも言えるだろう。
あくまで持論ではあるが、統治者に必要なのは他人の持つ能力を最大限に活かす手伝いをすること。秀でた能力を見出すことはあくまで個人の努力だが、それを活かすのも殺すのも統治者の能力だ。それができないなら統治者としてその者は失格である。
自分の意見を聞いたレオンナードは少し口角が上がった。
「出世欲がないわけではないと言うことか・・・」
「その様に解釈していただければ・・・」
「テオの言い分は理解した。であれば、俺とお前との関係は公表する必要はないか・・・」
「はい、最低でも自分が士官学校を卒業するまではこのことは秘匿くださった方が殿下にとっても良いかと・・・」
「まぁ、大貴族の馬鹿どもが騒ぎ出すよりかはマシか・・・」
レオンナードは顎に手を当てながら言うと自分に言った。
「では、テオが士官学校を出た後、色々と手引きをしよう」
「感謝いたします」
「なに、テオは忠誠を誓った。ならば俺はテオの能力が発揮できる地位まで持っていってやるだけだ」
そう言うとレオンナードは愉快そうに笑みを浮かべた。八年前と変わらないあの時の笑みを・・・
その奥底に沸る憎悪をひた隠しながら・・・
「所でなんだか・・・テオに見て欲しい物があるんだ」
「?」
さっきとは打って変わり、レオンナードは席を立つ。
「ついて来てくれ」
「はっ」
そう言われ、二人は蛇宮の敷地内の一角にある場所に来た。そこに生えている植物を見て思わず懐かしく思った。レオンナードはやや自慢げにその植物を見せた。
「お前からもらったトマトだ。一昨年からやっと形になったんだ」
レオンナードが育てたと言うトマトはデリエンベルグの物よりやや萎れており、食べれることは食べれるが美味しくないと言ったところだろうか。そう思っているとレオンナードが今までの苦労を言った。
「いや、ここまで大変だった。ここの土壌ではうまく育たなかった様でな。初めは枯れてばかりだった・・・デリエンベルグの様にはうまくいかない物だな」
トマトと言えば比較的簡単に育てることができる植物のはずだ。それなのに何故か・・・そう考えているとレオンナードがふと呟いた。
「まるで、今の帝国だな・・・」
「・・・」
レオンナードの言葉に心当たりがあった。萎れたトマトを帝国に例えるなら地面から養分を吸い続ける幹は上級貴族、地面は常に吸われ続けている下級貴族や平民、と言った所だろう。
思わずそう思ってしまうとレオンナードは言う。
「このトマトがよく育つ様な国にしてみたいものだ」
「・・・そうですな。殿下」
レオンナードはそう言いながら地面に水を掛けていた。
西暦三〇四五年 帝国歴三三〇年 十二月二五日
今年で二十歳となったテオバルトはこの日、帝都に帰還をしていた。卒業後、宇宙軍第三艦隊第23戦隊所属Ζ230駆逐艦の航海士を務めていた。
士官学校で優秀な成績を残した自分は士官学校を出た直後に中尉となり、駆逐艦の乗組員として三ヶ月が経とうとしていた。ここの船の艦長はサービス精神に溢れる人の様で、クリスマスの今日に休暇を下さった。
一部の益荒男達は給料片手に夜の街に繰り出し、家族がいる者は基地を後にする。
自分はどっちなのかと問われると圧倒的に後者である。
「お兄様〜!」
車から飛び降りる様に出て来たのはこの前15になったばかりのマリーダだった。今いるのは基地から遠く離れた帝都のとあるレストラン。集合場所となっていた場所だった。飛び出したマリーダを注意する様に両親が出て来た。
「マリーダ、落ち着きなさい」
「そうだ。せっかくの淑女が台無しだぞ?」
そう言い、両親は車から降りると自分の方を見ながら言った。
「どうだ。船乗りになった感想は」
「まだなって三ヶ月ですよ。父上」
「まぁ、まだヒヨッコか」
そう言いながら四人はレストランに入って行く。今日は久しぶりに家族全員が集う日、例年よりより少し早めに帝都に来た両親。普段は滅多に来ることのない帝都を、士官学校で慣れた自分が案内する事になっていた。そこで自分は帝都でも評判のレストランに自分は家族を招待していた。理由は簡単。初任給を使って家族にプレゼント代わりに料理をと思ったのだ。
「今日はテオのご馳走よ」
「息子も立派になったな…」
「お父様、泣かないでください」
「これで泣くなと言うのが難しいわ」
そう言い、涙する父上に優しくハンカチを差し出す母上、半ば呆れているマリーダ、実に明るい家族だ。典型的な幸せな家族といえよう。改めて目の前で起こっている事が夢ではないかと思ってしまう事があった。だが、こんな幸せを感じるのは夢ではないのだと実感する。
そんな家族にどこか嬉しさを感じていると料理が運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう!」
「今日は僕の奢りだぞ」
「わぁ、兄様ったら太っ腹ですわね。何かいい事でもあったのですか?」
「おや、余計な事を言う奴には奢らないぞ」
「あら、随分とお酷いですわね兄様?」
「おら二人とも」
「喧嘩は良しなさいよ。ここは外なのですから」
母から注意を受け、自分とマリーダはわかっていると言わんばかりに頷くと出てきた料理を食べながら談笑に浸っていた。
積もる話もあったので、時間はあっという間に過ぎてしまった。気づけば三時間が立っていた頃。ウェイターが近づいて自分に耳打ちをした。
「テオバルト様に御用があると…」
そう言われ、そっと窓の外を見るとそこには一台の黒塗りの車が止まっていた。
「(はぁ…)」
折角の会食だと言うのに…と思いつつ、自分は席を立とうとすると母が気にかけてくれた。
「無理をしないでね」
「行ってらっしゃい。兄様」
「…頑張れよ」
家族から温かい声をかけられ、自分は少し緩んだ表情で返す。
「はい、行ってきます」
そう言い残すと自分はレストランを後にし、迎えの車に乗り込んだ。
車に乗り込むと従者の人が申し訳なさそうに言った。
「折角のお食事中におよび立てして申し訳ありません。テオバルト様」
「…いえ、構いません。それよりも、要件を聞かせてください」
「はっ、閣下より至急お話があると」
「分かりました」
やれやれ、レオンナード殿下からまた仕事を押し付けられるのかと内心ため息を吐きつつ、自分は外の景色を眺めていた。
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