予定よりも速い出兵に大慌てでワープ準備に入る自分達。なんとかギリギリで準備を済ませると艦隊前方の哨戒艦隊がワープ特有の円環を発生させ、その中に入ると一瞬でその姿が見えなくなり、その後に前衛艦隊、主力第一艦隊、第二艦隊、後衛艦隊の順にワープが開始される。自分たちは補給艦隊。ワープを行うのは最も最後である。補給艦に付き添う形でZ230駆逐艦はワープを開始する。艦橋の航海士席で椅子にベルトを巻いて座り込むとワープのための舵横のレバーを手に持つ。ワープ装置を起動させるのも航海士の仕事。何度かやってきたが、こればかりはどうしても冷や汗が出る。艦長の指示を聞き、レバーを手前に引くのだが、体に来る衝撃と言い、結構くるものがある。
「ワープ起動!」
「ワープ!」
呼称すると一気にレバーを手前に引く。その直後、艦全体を恐ろしい衝撃が走る。振動が収まると次に見えたのは先ほどワープを行った艦艇達だった。
「予定地点到着。座標に誤差なし」
「機関部も異常なし。航行可能」
「後続の補給艦隊の到着を確認」
報告を聞き、そこで自分は内心ホッとする。今日から半年間、自分はここで過ごす事になっていた。
「ーーー何?予定よりも早い出港?」
帝都ではレオンナードが走らせてたペンを止めるとコリスに聞き返す。
「はっ、ブランデン公爵率いる遠征艦隊は予定より半日早く出航いたしました」
「……」
報告を聞き、レオンナードは顎に手を当てて疑問に思う。現在、あの遠征艦隊にはテオバルトが乗艦する駆逐艦がある。念の為コリスに頼み、テオバルトの乗る駆逐艦は後方の補給艦隊に組み込ませ、戦闘に参加させないように努力していた。流石にあの駆逐艦だけ出撃させない方針だと貴族の探りが入れられる。
彼との関係を秘匿している現在、自分とテオバルトの関係を知られると厄介な事になる。そう本人が言っていたから自分はなるべく。出来る限り彼を普通と変わらない様にしていた。しかし、これには違和感を感じた。
「半日も早く出撃したのか?」
「その様です」
報告を聞き、疑問に思っているとレオンナードは顎に手を当てて考える。
「(半日も早く出航?普段のブランデンなら遅刻ばかりするはずだ……なのに何故だ……?)」
疑問に思うレオンナードは思考を巡らせる。大抵普通じゃ無い行動を取る時。人は何かしら問題があったと言う事だ。
少し間を開けたのち、レオンナードはコリスに命じる。
「コリス。テオバルトに通信を入れておいてくれ。もちろん特一級回線でだ」
「畏まりました」
そう言うとコリスは部屋を出る。残ったレオンナードは部屋のコンソロールを触り、通信を入れた。
「密偵に連絡だ。ブランデン公爵家の動向を探れ。家族も同伴でだ」
遠征艦隊はカルーティア大公国首都星ウォン=ヴォーシュデンに到着する。補給艦隊護衛の自分達はここで降りることも無く、艦内で椅子に座って映像を眺めてた。
ブランデン公爵がカルーティア大公国の代表と会話し、握手する映像を見ていた。
「はぁ、できれば何も無く終わればいいが……」
艦長がそうぼやき、自分達も同じ気持ちだった。すると自分は同じ航海科の人員と交代した。
環境を降りて、士官用の部屋に入る。部屋に入ると持ち込んでいた通信機に連絡が入っていた事を知る。
「これは……」
メールの差出人はレオンナードからの特一級秘匿回線。蛇宮で仕事様に教えて貰っていたものだ。自分はメールを見ると少し考える。
「出航が半日早い……艦長が驚くのも無理はないか……」
そしてそこにはZ230駆逐艦および補給艦隊の帰還命令を出す旨が書かれていた。
「上が握り潰さなければいいが……」
自分はそう呟き、士官室のベットで横になっていた。
いつも通りの式典を終え、遠征艦隊旗艦オクソールに戻った艦隊司令官ボールデン・バルボン・フォン・ブランデン公爵は通信員から報告を受ける。
「司令官閣下!本国より通信であります」
「見せろ」
「はっ!」
そう言い、送られてきた通信を見る。
『現時刻を持って補給艦隊を帰還させよ』
司令部からの命令にブランデン公は少し考えたのち、通信を切った。
「補給艦隊の帰還だと?司令部は何を考えている?」
一人の参謀がそう呟き、それに他の者達も賛同する。しかし、ブランデン公爵は違った。
「(まさか…バレたのか?いやいや、そんな筈はない…)」
腕を組み、考える仕草をしつつ、ブランデン公爵は口を開く。
「司令官に返信。『我、命令を許容できない。よって艦隊の帰還は行わない』と」
「はっ!」
そう言い、旗艦から返信を行った。
「はぁ……」
自分は駆逐艦の士官室で頭を抱えていた。
「まさか、命令を握りつぶすとは……」
あの通信が来てから三日、艦隊指揮官からの命令は何もなかった。今、レオンナードに通信をしている所だ。レオンナードからもらった特一級回線というのは帝室と、帝室が認めた人しか使わない超長距離通信である。これは公爵でも使うことが許されない極めて稀少な通信である……と言っても通常の貴族間の取引などは銀行や直接会って行われることが多いのであまり必要ないと言うことで貴族の間では半ば忘れ去られていた。
それを、レオンナードは自分に渡し、秘匿通信機として重宝していた。自分の所に命令が届いていない事を伝えると同じようの向こうからもメッセージタイプの連絡が届く。帝都からここまでの映像通信はやはり容量が食われ、その容量の大きさが通信傍受の危険がある様で、こうしてメッセージタイプの連絡手段となっていた。前世では当たり前だったが、今世では通信といえば三次元立体映像が主流だと言う。あぁ、やっぱり未来だ…さすが携帯の容量がペタバイト*1になるだけあるわ。
なんて思いつつ、メッセージを送り続けているとレオンナードは即座に艦隊派遣をすると言ってくれた。何でもブランデン公爵を捕縛するらしい。命令違反の為に……
「やれやれ、ブランデン公爵も何を考えていることやら……」
そう思いながら自分は士官室で横になった。今日は近くの宇宙港に停泊し、そこで補給と休暇を兼ねている。そこでついでにマリーダや両親への土産を買おうと思っている。数少ない日数の休暇だ。ここん所ほぼずっと公国国境線を尻尾の様に動き回り、国境を接するフランミダ共和国連邦を威嚇目的で航行していた。自分たち補給艦隊は主力戦闘艦である戦艦や巡洋艦を盾に国境の更に離れたところを航行し、補給の際に接近して補給を行う。
自分達はこの補給艦隊が襲撃を受けても対処できる様にするので、特に船が動かせない補給時に襲われるのを最も警戒していた。
「今日も何事もなければいいが……」
暗雲立ち込める遠征に嫌な予感を感じるテオバルトだった……
数分後……
「敵襲!レーダーに感!敵艦隊を確認!!」
けたたましいアラートと共に乗組員達は走り回っていた。そんな中、自分は航海士席に座り、操艦をする。
「敵、巡洋艦級接近。数三!」
「敵の索敵艦隊と思われます!」
「現在空母グラーフ・ツェッペリンより艦載機発進を確認!」
現在の戦況は劣勢。相手は最初に攻撃機隊を発艦させ、いやらしい事に補給中の艦艇を狙っていた。護衛の駆逐艦には目もくれず、只ひたすらに補給艦や補給中の巡洋艦を狙っていた。巡洋艦も戦闘に参加し、中性子砲を発射してきていた。
「補給艦隊はどうなっている!?」
「現在、損害も激しく…確認出来るのはメアー・カム級四隻、アドミラル・ヒッパー級巡洋艦二隻です…うわっ!!」
船体を大きく振動が襲い、被害報告がされる。
「左舷、第二砲塔に被弾!損害軽微!」
「そのままジグザク航行だ!!対空砲火!主砲も存分に使え!」
混乱する戦場の中、更に驚くべき事が起こる。
「艦長!司令部より打電!」
「なんだ!?」
その後に続いた返信に誰もが驚愕した。
「『これより遠征艦隊は解散する。分散し、各々至急帰還されたし』…であります!」
「何を言っているんだ!?上は!?」
驚愕する艦長や艦橋要員。そんな中、自分は憶測だが何が起こったのかを察した。
「(ブランデン公爵だ…やはり何か考えていたのか……)」
混乱する中。自分は舵を握り、船を動かす。何故だろうか、こう言う時だと言うのに自然と落ち着いていられる。被弾しつつも順調に操艦し、指示を飛ばす。
「砲術長。あの巡洋艦の主砲を狙ってください」
「え?」
「早くして下さい。出なければ…
死にますよ?」
自分が冷たく言うと艦橋内の混乱が嘘の様に静まり返る。そして、少し目線を合わせ、目元を細くして若干睨む様に言うと砲術長は冷や汗を掻きながら照準を合わせ、引き金を引いた。
直後、放たれた二〇三ミリ連装中性子砲が発射され、目の前の巡洋艦の砲塔をほぼ真上から貫通する。直後に砲塔が吹き飛び巡洋艦の船体の所々から火を吹き、砲撃が止まる。
「嘘だろ…?!」
しばらくの沈黙の後、一人がそう呟く。そして次に全員が自分を見た。その本人は涼しい顔で舵を握り、指示を出す。
「レーダー長、観測したデータはこちらに送って下さい」
「は、はいっ!」
「少し船を揺らします。全員捕まっていて下さい。水雷長、砲術長、私が指示を出したらその座標に撃ってもらっていいですか?」
「あ…」
「はいっ!」
いつの間にかテオバルトが指示を出していることに思わず艦長が言う。
「お、おい…ヴェーグマン少尉。勝手に指示を「叱責は後でいくらでも受けます。今は生き残るのが先決と思われます」……」
テオバルトの金属の様に細い視線は見るものを圧倒させた。他のもの時は邪魔させないと言う強い意志を感じた。艦長ならば本来ここで無理にでも指揮権を行使する必要があるが……
「…分かった。しかし…君に出来るのかね?」
根負けした艦長はテオバルトに問う。すると彼は艦長の顔を見ると少しだけら笑かくなった表情で答えた。
「期待を裏切らない程度に邁進します」
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