<Reisen side>
クリスマスの朝、私の枕ものとにおいてあったあのプレゼント、その中身はアランチルドレンの証であるフクロウのペンダントと銃の形をした物の二つが入っていた。
眠さと頭痛とそれから幻による吐き気がこみ上げてあのときは寝ちゃったけどよくよく考えるとこれは私も千束と同じように才能を認められて支援されたってこと。
一体何の才能が私の中に秘められているのかわからず正直なところ千束とお揃いなのは嬉しいけどそれ以上に不気味な何かを感じた。
「ミカさん……アラン機関は何で私にこんなものを。……何を望んで」
「私は何も知らない、とだけ言っておこう」
ミカさんから嘘の音が聞こえる。
でもその心はとても優しくて、私を傷つけるどころか守ろうとするような優しい嘘に聞こえ、その嘘つきな口から今度は本音が紡がれる。
「……私は鈴仙にも千束にも幸せになってほしい。誰かに決めつけられた紛い物の幸せではなく自分自身で探し、見つけ出した幸せで」
その言葉には私のしたいことをやっていいよと、アランやDAに縛られることなく自由に生きてほしいという願いを感じる。
その願いに千束も肯定の頷きを入れる。
「そうだよ鈴仙。私だって人を助けるためにどんな才能があるかなんてわかんないもん。ならやりたいこと、できることを全力でやって、それで私も鈴仙も先生もみんなもみんなみーんな幸せになれれば、それって素敵なことだと思わない?」
「……確かに、それならみんな幸せだね」
千束の笑みに感化されて私自身の顔も温かい笑みになる。
手に握られる銃の形をしたソレを残して私はそっと袋の中にペンダントを戻す。
きっと私はこの武器を使ってアラン機関が望む方へ何かを成すべきなのかもしれない。
でも私は顔も知らない誰かの言いなりになんてなりたくないし、千束のようにアランの救世主さんに対して恩を感じているわけでもないしね。
****
このクリスマスを境に私たちの日常は平穏を取り戻していった。
表面的にも元気に振る舞っているし無理もしてないので肉体的な健康状態は回復して、クマは徐々に薄くなり、肉付きはまだまだだけど栄養状態は改善している。
と言ってもあの日以来銃を持つことが怖いし、独りだと何となくツラく、夜寝るときは千束に手を握ってもらわないと眠れず、起きるときもよく吐きかける。
自覚している傷も自覚のない傷も合わせると相当深刻な状態なんだろうなぁ……
山岸先生の診断でも私の精神状態は劣悪な状態らしく、私には「変な気を起こす前に誰にでもいいから相談するのよ」と、千束には「万が一のことも考えてしばらくは一緒にいなさいよ」と言われた。
そのため私に付きっ切りの千束には申し訳ないと感じる反面、毎日戦いとは無縁の喫茶店業務で千束とミカさんとずっと一緒にいられるのは幸せだ。
そんなある日のこと、千束と一緒に散歩がてらスーパーにお菓子を買おうと立ち寄った。
「コレとぉ、コレとぉ、あとこれとこれぇ……お、コレも!」
「ちょっと多すぎない? 私そんなに持てないよ?」
「私がぜぇんぶ運ぶからだいじょーぶ! むしろ少ないくらい……あ、これは期間限定!」
「あ、じゃあ私もそれほしい!」
そんな感じで夜の映画鑑賞会に向けて着々と準備を進めているととある違和感がやってくる。
「リコリス……?」
「……なんか多いなぁ。もしかして不審者でも出たかぁ?」
思わず千束の服の端をギュッと握る。
リコリス制服を着ていないからここで戦う必要はないけれど、脱兎の如くこの場所から逃げ出したいという欲求が体をこわばらせる。
これから誰かが消されるのか、リコリスがそのありもしない籍から外されるのか、何もわからないのに呼吸が荒くなる体に優しい手がポンとおかれる。
「大丈夫。ここのことはあの子たちに任せて私たちは早く帰ろっか。帰りが遅くなると先生も心配するでしょ」
「うん、そうだね……」
会計を済ませ店の外に出て帰りの道を歩き出す。
他の来店者も外に足を運び出す。
私たちが赤信号で足を止めたとき、また一人、私の中に顔も知らない影が銃声となって現れるようになった。
<Chisato side>
テレビのニュースにはいつも通りエンタメとか事件性のない報道ばかりで今日のスーパーでの一件は何も触れられていない。
つまりは情報操作でもしたのか、それとも一般の人の目に触れる前に処理が終わったのか、いずれにせよ日本の歪な部分だ。
なんて考えていると鈴仙の方から弱気な声が聞こえてきた。
「ねぇ、ちさとぉ……」
「なんじゃい鈴仙?」
「あのね、これからDAに訓練しに行きたいんだk」
「ダメ! ……あっごめん」
さっきの件で何か心が動いたのかわからないけれど、突然今まで無意識にか意識的にか遠ざけてきたトラウマを思い出してしまうその場所に行きたいというその言葉に反射的に否定してしまう。
もちろん、鈴仙のしたいことはさせてあげたい。
けれど私は……鈴仙がまた辛さと向き合って傷ついてしまうのを見るのも、それを私たちからわからないように隠してしまうのも嫌だ。
悲しそうに俯く鈴仙には申し訳ない気持ちでいっぱいだけど鈴仙に嫌な思いをしてほしくないという私の気持ちは譲れない。
「ごめんね……」
「ううん、いいの……千束の思いはわかってるから」
少しの静寂が訪れ、鈴仙が沈黙を破る。
「……でも今日、また誰かが撃たれたんだ。……多分その人は悪い人だけど、それでも人が死ぬのは、耐えられないよ……」
「それってさっきのスーパーで……?」
鈴仙は直接的に言わず、けれどコクリと頷く。
最近の鈴仙は以前にも増して尋常じゃないほど音に敏感だ。
私や先生には気づけないようなことでも鈴仙の耳にはしっかり届いて……今回もそれが災いして嫌な音が聞こえてしまったのか、その顔は青白かった。
「千束も人が死んじゃうのいやでしょ?」
「そりゃあ、そうだけど……鈴仙が辛いのは嫌だよ」
「うん。だからね、これからは少しでも人を殺させないようになりたいなって……。みんな勝手に死んじゃうなら私が助けて、そうすればみんなみーんな幸せになれればでしょ? それなら私も辛くないだろうし、千束を支えられるしね」
すぐに肯くことはできなかった。
今の幸せは儚く脆く、いとも容易く失われてしまうような、そんな不安感と焦燥感が心の内で燻り、でも鈴仙の決意も何とか受け止めてあげたい。
そんな中私が導き出した結論は……
「よし、わかった! 取りあえず演習場に行こう!」
<Fuki side>
「しばらくじゃないか? 元気してたかぁ?」
数ヶ月ぶりか、久しぶりに見る鈴仙の姿を見て私は作り笑いをした。
しかしその心情はマグマ煮えたぎる火山だ。
「しばらく見ないうちに痩せたじゃあないか、鈴仙ちゃん?」
「い、いやぁ、そ、その節は大変お騒がせして申し訳あr…………イデッ!?!?」
音通不振で司令からの情報くらいしかなかった、その久しぶりの可愛がっていた後輩との再会。
暢気な様子で頭を軽く下げての挨拶から始まり、その病的に痩せ細った体と健気な様子にやせ我慢を感じ気づいたときにはどうぞ打ってくださいと言わんばかりに下げられた頭に怒りと悲しみの愛の鉄槌を振り下ろしていた。
「バカがよ……ちゃんと自己管理くらいしろってんだ……。心配かけやがって!」
「ごめん……なさい」
「……もう大丈夫なのか、そんなもやしみたいな体で練習して?」
「まあ、多分?」
「オマエなぁ……」
能天気というか暢気すぎて怒りを通り越して呆れる。
握り拳に入れた力が霧散していった……と思ったのもつかの間、話が一段落したのを察したアホがヤンキー風に絡んできて再び握り拳に力が入った。
「ヘイヘイヘーイッ、ちょっとそこのフキぃ、うちの鈴仙をぶったなぁ!!」
「何だコラァ! オマエも撃たれたいかぁ? 大体なぁ、オマエがちゃんとしてれば良かったんだよ」
「そりゃそうですけどぉ、だからって拳骨はよくないよ拳骨は!」
「……やっぱ気にくわねぇ奴だよ、テメェは……。次目ぇ離したらぶん殴ってやっかんな。覚悟しとけ」
「おう上等じゃあ! この二の舞は演じないぜ!」
「そうかよ」
千束と鈴仙が来るって聞いたからわざわざ顔を出しに来てやったんだ。
千束のアホは相変わらずだったがそれでもそれなりに鈴仙を傍で支えてやる覚悟はあるらしいというその言葉を聞けて安心、というか聞けなきゃマジでコテンパンにしてたから良かった。
「そんで今日は何しに来たんだ」
「ふっふっふ。今日は何と! 鈴仙の秘密兵器を試しに来ましたぁ~!!」
「つまり?」
「つまり! 拳銃以外の方法で、それも誰も傷つけずに制圧するための武器みたいなのをもらったので試運転しにきました」
「ほう、それなら安心か……いやでも戦場に行く準備はまだ早いn」
「ちっちっち。焦っちゃいかんぜよ、フキさんや」
何故か今日はテンションが高い二人を捌ききるのは至難の業。
そんなに訓練が楽しみなのか、それともやる気に火がついてしまったのか、とにかくコイツら、特に千束には流されないようにしないと……流されたら何故か負けな気がする。
「どっちかっつーとオマエらの方が焦ってんだろーが? それに秘密兵器って……」
「まあまあリーサルウェポンでも秘密道具でも何だって、些細なことはどうでもいいんですよ! そんなことより早く練習しに行きましょう!」
「おい、その手は何だ? 私は付き添うとも一緒にやるとも一言も言ってな……」