フィークス・G・リコイル   作:桃玉

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外伝11

<Reisen side>

 

幸せをずっと肌身に感じていられるように何とかしないとという衝動に駆られ銃を手に取り、ゴム弾を放とうとした……そう、しただけだった。

 

銃から弾を放とうとする意識、煩いあの爆発、手に伝わる反動、辺りに噴き出す血潮。

過敏な感覚器官が伝えるそれらが正気に戻り自分がどれだけ亡骸の海を作ったか、その光景がフラッシュバックして、震えと動悸、涙と嗚咽が止まらない。

これがもし実弾だったらと考えただけで青ざめる。

理性では理解していても、深層心理では受け入れられておらず、命尽きるまで付き合っていくしかないこのトラウマが脳裏をよぎる。

 

でも今日は違う。

今日は千束もいるし、フキさんもいる。

銃も使わなければケガもしないような訓練。

もちろん不安はあるけれど、これならきっと千束を支えられるし、死んじゃう人を生かすことだってできると考えると嬉しさがあふれ出る。

私と千束とでフキさんを引き連れて訓練場まで足を運んだ。

 

「で、なんで私までここにいるんだ……?」

「そりゃフキさん、鈴仙の師匠ポジなんだからに決まってんでしょ?」

「私はそんな役職についたつもりはねぇんだが?」

 

強制参加にジト目で千束の方を見るフキさん。

一回も了承はしてないけど、それでも着いてきてくれたのはもはや聖女としか言い様がないんじゃないかな?

本当に我が儘に付き合ってくれるこの優しい先輩には感謝の念がつきない。

 

「今日もお手数をおかけします」

「……おう、頑張れ。後無理だけはすんな。お前が無理してるとアホも無理して心配し出すからな」

「はい! よろしくお願いします師匠!」

「だから師匠じゃねぇよ! とうとうオマエまで悪ふざけが始まったら手に負えんわ!」

 

ちょっとふざけた会話がクスリと口元を緩ませ、千束もその冗談に乗っかってフキさんに追撃を加える。

千束のニヤつき顔をみて、フキさんの額に青筋が見える。

 

「それでぇ鈴仙の師匠さーん? 私は何をすればよろしーのでしょうかぁ?」ニヤニヤ

「……千束、テメェはそこに突っ立ってろ」

「ちょ、ひどくない?」

「鈴仙はこっちに来い。的は離れてた方が練習になんだろ?」

「それってどう言う……」

「あそこにアホみたいに突っ立てるヤツいんだろ? ソレが的だ」

「酷くない!?!?」

 

憤慨している離れたところにいる千束。

まあ5メートル以上離れていて、これだけ離れていれば普通なら千束には当たらない。

そう、普通なら。

 

今日持ってきたのはサンタさんがくれたあのヘンテコな武器もどき、形は銃に近いけどその性能は音を出すだけだと説明書に載ってた。

完全にオモチャみたいな性能だけど、これの凄いところは銃以上の爆音を少しの動きだけで出せる点、拡散ショットや集中ショットなどいろいろなモードに切り替えられる点、なにより反動(リコイル)が一切来ないという点だ。

 

正気に戻ったせいで反動と赤色で気が動転し、指が動かず脳が揺さぶられたような激しい嘔吐感を覚えてしまう私だけど、これならそこまで酷い問題はない。

私は音を拡散させれば千束も避けられないと思い拡散ショットというモードに切り替える。

 

「そ、そんなヒドいことしないよね? というか撃つとしても隣の酷いのを先にした方がいいよ! ……って鈴仙、マジでぇっ!?」

「ごめんね? でも心配しなくても大丈夫! 痛くも痒くもない、ただの音らしいから……ね?」

「なんか勘違いしてないかぁっ!? 「いくよっ!」 ちょ、無視s……」

 

最後まで私のことを心配してくれるなんて、千束はなんて優しいんだろう。

でも私は大丈夫、千束を支えるためにも……

そう言って優しい彼女に容赦なく音をぶちかました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

キィィィィイイイイイーーーンンン…………ッッ!!!

「うがぁああ! 鈴仙の裏切り、も……のぉ……お? …………アレェ?」

 

鈴仙に撃たれたと思ったらなぜか鈴仙の方がポケモ○みたいに目を回して戦闘不能になってる。

確かにメッチャうっさい音は聞こえたし、今でも耳がキーンって鳴ってるけど一体どういうことだってばよ?

 

「……鈴仙の方にまで音がいったみたいだな。惜しかったっ! あと少し距離が近ければ千束も……。そうすればその間にデコに落書きできたんだが……」

「ちょいちょいフキ、何て言ったの? 聞こえなかったんだけど」

「あー……鈴仙が自爆したって言ったんだ。何にせよ検証も必要だし、まだ実戦投入は無理だな」

「ああー、それで鈴仙が倒れて……」

「そういうことだ」

 

ようやく耳鳴りが治まってきてフキの言いたいことも大体理解できた。

だけどフキさん? その私に向けている銃口は何ですかねぇ?

 

「よし、訓練続行だ。次は私が撃ってやるからそのまま動くなよ? 動くと撃つ……間違えた、撃つと動くだ、今すぐ動かしてやる」

「ちょ、タンマタンマっ!? そんなこと言われたって!」

 

一発の銃声とともにフキのペイント弾がこちらに迫ってくる。

でも私の体はもちろん無意識に躱してしまう。

 

「くっそ、当たってから動け!」

「ムチャ言わないでよ!? なんでそんなことする!?」

「日頃の鬱憤晴らすいい機会だと思った」

「ひでぇ理由だな!」「文句あっか?」「文句だらけだわ!」

 

 

****

 

 

そんなこんなで練習をしたり中断したりしつつ、数時間はかかっちゃったけど何とか自分が倒れないで相手は倒れるようにできる音の大きさや距離をつかんでリコリコに帰ってきた。

もちろんこれだけじゃ実践レベルではないのでこれからもお世話になる予定。

 

「せんせーただまー!」

「ただいまで~す!」

「お帰り、二人とも。その様子だと大分上手くいったみたいだな」

「もっちろんバッチしよ! ねー」「ねー」

「それは何よりだ。……とは言ってもまだDAの依頼は取ってないからな、今日明日は街でのお仕事、頼んだ」

「りょーかいりょかーい!! この千束におまかせあれ~!」

「もちろん私も頑張りますよ?」

「ああ、よろしくな。今日はもうお客さんも帰った、一息ついていくといい」

 

先生はそう言って挽き立ての豆のいい匂いがするコーヒーと和菓子の甘い香りが出されたお皿の上から漂ってくる。

コーヒーはいつもの豆だし香りもいつも通り、だけど和菓子のそれはお店で出したことのないお饅頭だった。

 

「あー! これ新作でしょー?」

「まだ試作段階だ。ちょっと意見を聞かせてくれるか?」

「そう言うことなら、しょうがないなー! 乙女を甘いもので誘惑するなんて!」

「モグモグそうだそうだ(ほぉうあほぉうあ)! ……ムグモグゴクン……こんなおいしいもの食べさせて私たちをどうしようっていうんですおかわり!」

「……ゆっくり落ち着いて食べなさい。それはそれとして気に入ってくれたようでよかった。……どうぞ」

「やた! ありがとうございあむあむもぐむぐ……」

「食べるのはやっ!? せんせーこっちにももう一つ! 一つだけじゃ審査できないよ!」

 

先生の作ったお饅頭は中に粒あんとこしあんたっぷりの茶色い物と白あんで白い皮の物がセットでそれぞれ違った味わいで面白い。

こんなおいしい物を作っちゃう先生にも驚きだけど、それ以上に鈴仙の勢いが引くほど凄くて思わず二度見してしまう。

今日の練習が大変だったから糖分を求めているのはわかるけど当然私もおいしいって感じるしもっと食べたいという気持ちは同じ。

鈴仙におかわりを盗られる前にキープしておかねばと先生にもう一セット要求する。

先生は私たちの食いっぷりに嬉しさと清々しさを感じている反面、「そんなに食べて大丈夫か?」と心配や呆れも含む複雑な顔をしながら肩をすくめていた。

太るぞなんて思っているのなら失礼しちゃうわ!

乙女×スイーツ=0キロカロリーだし、この後のお仕事だってしっかりこなしちゃいますからね?

 

 

****

 

 

「さぁ~てさてさてさてぇ! 本日のお仕事は?」

「えっと、今日は街の清掃ボランティアと保育園のお手伝いだね。まずは公園に集合って言ってたよ」

「よし! そうとなればさっそくレッツゴーレディゴー!」

「ゴーゴーレディゴー!」

 

軍手を装着し、大きなゴミ袋数枚とトングを片手に、それからつないた鈴仙の手をもう片手に、腕を大きく振りながら公園まで歩きで行った。

鼻歌を歌いながらそのうちスキップまでしそうな勢いでいるといつの間にか到着してしまっていた。

 

「あっとゆーまにとーちゃくー! ……おっほん! それでは鈴仙隊員、これから我が軍はここにいる数多のゴミと屑を殲滅する訳だが、準備はよろしいかな?」

「……! イエス、マム!!」

「返事はイェッサーだっ!」

「サー、イェッサー!」

「うむっ! よろしい!! それではこれより清掃活動を行うっ! 徹底的にゴミ屑一つ残すな! 全軍、かかれぇええー!!」

「う、ううぉぉおおおおぉぉぉ…………満足した?」

「うむ、余は満足じゃ満足じゃ!」

「いろいろ突っ込むべきところがあったと思うんだけど、突っ込んでおく?」

「……スゥー、戦闘開始じゃああ!!」

「あ、逃げた」

 

こうして、私たちの献身的で精力的な社会奉仕活動によって公園からゴミは消え、今日も綺麗な街が維持されるのだ。

こういうちょっとしたことでも街の犯罪抑止に有効で、リコリスとしての勤めを十分に果たしていると言えるのではないだろうか……なんてね。

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